連載
posted:2022.3.23 from:東京都大島町 genre:旅行
PR 東京都
〈 この連載・企画は… 〉
ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。
writer profile
Takashi Sakurai
櫻井卓
さくらい・たかし●ライター。おもに旅やアウトドアのジャンルで執筆中。趣味は国立公園めぐり。日本国内はもちろん、アメリカを中心に、ネパール、ニュージーランド、オーストラリアなどさまざまな国立公園を訪れている。国立公園では、バックパックに生活道具一式を詰め込んで、テント泊ハイキングをすることが多い。
TAKASHI SAKURAI
photographer profile
Hiro Tamura
田村 寛
たむら・ひろ●1977年 東京生まれ。CDジャケット撮影や舞台やライブ撮影を中心に活動。活火山のエネルギッシュな自然に感銘を受け2003年から伊豆大島に移住。
大島、ひいては東京諸島全体を盛り上げるために東京都のバックアップのもと、
“あなたらしい大島の物語”をつくっていくことを目指し、
さまざまな活動を行っていく「東京都離島区大島プロジェクト」。
この企画では3回に分けて、プロジェクトの6人のキーパーソンを紹介していく。
3回目となる今回登場してもらうのは、
ダイビングショップ〈オレンジフィッシュ〉の粕谷浩之さんと
〈BookTeaBed〉の村上悠さん。
かたや自然を相手にする粕谷さんと、かたや都会的な感覚を大島に持ち込む村上さん。
古くからあるものを大切に守りつつ、新しいチャレンジを模索する。
そんな動きの両輪となるふたりだ。
元町で〈オレンジフィッシュ〉というダイビングショップを営む粕谷浩之さんは、
もともと伊豆大島には縁もゆかりもなく、知り合いすらいなかった。
だから1年目は、ダイビングショップとは名ばかりの、
スズメの涙程度の収入しかなかったそうだ。
「新規のお客さんはほとんどおらず、
前職の渋谷のダイビングショップ時代のお客さんがご祝儀感覚で来てくれたくらいです」
そういう苦労はおそらく始めからわかっていたはず。それでもなぜ大島を選んだのか。
「2006年に開業する前にも何度か大島の海は潜っていたんですが、
いつ来ても透明度は高いし、魚も多い。
もちろん、都心からジェット船で1時間45分で来ることができるアクセスの良さも、
商売を始めるには大きなメリットです。
渋谷時代のお客さんも来やすいだろうなという考えもありました」
粕谷さんはインストラクターとして、日本各地はもちろん、モルディブ、パラオなど、
ダイビングを知らなくても“聖地”だとわかるような世界中の海に潜っている。
そんな経験を持つ粕谷さんからしても、大島の海は“特別”なのだという。
「最初の頃は、都心からも近くていいね、くらいの感覚だったんですが、
潜れば潜るほど特別であると感じました」
それは、関東エリアにあるダイビングポイントの目玉が、
大島ならすべて見ることができるという凝縮感。
通常だったら、長距離を移動しないと見られない各ポイントのアイドル級の魚たちを、
大島だったら一挙に見ることができるのだ。
「移動時間を考えても、例えば東京から西伊豆に行くよりも早い。
コスパがめちゃくちゃいいんですよ」
それ以外にも、ウミガメはほぼ100%見ることができるし、
憧れのハンマーヘッドシャークでさえ、大島なら高確率で狙える。
「ほかの場所でハンマーヘッドのような大物が見たかったら、
沖合のポイントまでボートで行く必要があります。
でも大島なら磯場からエントリーできちゃうんです。
世界的に見てもそんな場所はここだけじゃないでしょうか」
そんな希有な大島のダイビングの魅力が世間に広まってきたのは8年ほど前。
思ったよりも最近の出来事なのだ。
それはハンマーヘッドシャークが現れる時間帯にも関係があった。
「日の出から1時間くらいが高確率なんです。普通はそんな時間に潜る人はいません。
でも磯からエントリーできる大島だったから、たまたまその時間に潜ってみた人がいた。
そうしたらハンマーヘッドシャークがいたんです」
その後、地元のダイバーたちがこぞって早朝に潜り始め、その結果、
毎日、決まった場所をハンマーヘッドシャークの群れが通ることがわかった。
しかも、初心者でも潜れるような浅い場所を通る。
それもあって、ハンマーヘッドシャーク目当てのダイビング客も増え、
粕谷さんのオレンジフィッシュも盛況となった。いまではリピーターも数多くいるという。
「大島の海はいくら潜っても飽きないんです。
沖縄でダイビングショップをやっている人が『なに、この海!』と驚くくらい、
多くの種類の魚が一年中いるんですよ。それと、黒潮に乗ってたまにレアな魚も現れる。
毎日潜っていても、そのつど新しい発見があります」
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粕谷さんは、大島の自然を丸ごと伝えたいと考え、ダイビングだけではなく、
山や星空、ジオパークのガイドも積極的に行っている。
最近、力を入れているのはスノーケリングツアー。
「多くの人が大島の海のきれいさに驚いてくれますが、なかなか触れる機会がない。
例えば家族連れには、いきなりダイビングは敷居が高いですよね。
でも大島の場合、実は潜らなくても
顔をつけただけで驚くほど多くの魚を見ることができる。
大島の海をもっとたくさんの人に体感してもらいたくて、
スノーケリングツアーを始めたんです」
特に子どもに楽しんでほしいという想いから始めたこのスノーケリングツアー。
リピーターも多く、なかにはこれがきっかけで
ダイビングに挑戦するようになった家族もいるという。
今後は、こうした子どもたちとの触れ合いの経験を生かして、
学びの要素を多く含んだツアーも開催していきたいという。
「自然教育の場としての大島は、ものすごくポテンシャルを秘めています。
火山があって、森になる前の植物層がある。
それがだんだんと森になっていって、豊かな自然が育まれていく。
地球が成長していく過程を見ることができる希有な場所だと思います」
大島が誕生したのは約4〜5万年前。日本のほかの土地と比べると、
圧倒的に若い場所だからこそ、ダイナミズムが残っているのだ。
「地層なんかも剥き出しですし、大自然を肌で感じやすい場所です。
大島での経験をきっかけにして、子どもたちに自然というものに興味を持ってもらって、
自分ごととして捉える手助けができればと考えています」
浅い海から深い海、さらには星空や山ガイドまで。
ジオパークまである大島の自然を案内するだけでなく、
次世代に向けて、そのすばらしさをきちんと伝えていくこと。
それが大島、ひいては日本の自然を守る一番の近道なのだ。
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以前、大島で馬車事業を始めるにあたって、大島に連れてこられた馬の椿ちゃん。
一時期、粕谷さんを含めた動物好きの有志で2年ほど世話をしていた時期もあり、
粕谷さんにとっても愛着はひとしお。
今は、柳瀬農園の敷地内でのんびりと暮らしている。
「ほとんど知られていないんですけど、
馬主の柳瀬さん曰く“触れ合いに来てもらうのはウエルカムだし、
事前に希望をうかがえれば敷地内で体験乗馬もできます。
元町からもそんなに離れていません。
だから観光客に、もっと椿ちゃんに会いに行ってあげてほしいんですよね」
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島屈指のおしゃれな宿泊施設が、元町にある〈BookTeaBed IZUOSHIMA〉。
新宿御苑などにも展開するチェーンホテルで、大島にできたのは2018年のこと。
廃業していた旅館をリノベーションして、
これまで大島にはなかったスタイリッシュな空間に仕上がっている。
運営をしているのは村上悠さんだ。
その名の通り“本・カフェ・宿泊”というコンセプトを持つBookTeaBed。
施設内には本がズラリと並び、それを自由に手に取ってくつろぐことができる場所だが、
大島で始めるにあたって独自の工夫もしている。
「それまではドミトリーが中心だったんですが、大島では個室も増やしました。
都心と違って若いカップルが多く訪れるという予想があったんですが、
お陰様で大島に若い人が来るきっかけづくりにもなっているのかなと。
インスタ映えを狙えるような場所も用意していますしね」
裏砂漠をバギーで走れるというツアーも始めていて、
文字通り“映える”、まるで海外に来たかのような写真が撮れる。
「ハワイが好きなんですけど、あっちに行くとそういうサービスが当たり前のようにある。
地形的にも大島は似ていますし、これは行けるぞと」
島の高校生も積極的に採用していて、若い人が働く場所を提供することにも貢献している。
それが、都会から来る人が地元の人と触れ合える場所としても機能しているのだ。
「島の常識と都会の常識のギャップを楽しんでいくお客さんもいて、
お互いにいい刺激になっているんじゃないかと勝手に思っています(笑)」
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東京都心部で生まれ育った村上さんから見ると、
大島はチャンスがまだまだ眠っている場所だという。
「新しい試みを取り入れれば、オンリーワンになりやすいと感じます。
しかも南国の島なんかとは違って、都心からも近いので繁忙期が夏と冬の2回ある。
観光業としてはかなりのアドバンテージです」
村上さんには、保守性などはみじんもない。
BookTeaBedの成功を受けて、新しいチャレンジのためのアイデアも続々と考案中だ。
「サンドバスという砂風呂が大島に向くんじゃないかと思っているんです。
たまたま知り合いの紹介で、熱海のほうのサンドバスの施設に行ったら、
若い女性を中心に大人気。大島に若い人を呼ぶためにも効果的だと思います。
東京からわざわざ熱海まで来ていると考えると、
大島だってロケーションもいいし、アクセスも悪くない」
気になる新しいことがあったら、すぐに行ってみる。
足で稼ぐのが村上さんのネタの仕入れ方だ。
これも、都心まで1時間45分で行き来できる大島だからこそ。
島に住みながらにして、最新の情報にもすぐに直接リーチできる。
「月の半分くらいは、都心にいる感じです。
いろんな人と異業種交流をしたり、まちを歩いて新しいネタを探したりしています」
都会的なセンスを持つ村上さんのもとには、島の人から相談が来ることもしばしば。
例えば、仮想通貨の運用、補助金の申請方法など、
島の人がなかなか馴染みのない事柄に関しては、
知識のある村上さんは頼りになる存在なのだ。
「頼まれごとは積極的に受けるようにしています。
僕が都心に突っ込んでいって持ち帰った新しいものを、島の人と共有していく。
そうやって新しいものと古いもののバランスを上手にとっていけたら最高ですね」
まさにアイデアマン。そしてそれを実行する行動力も備えている。
いろいろな面で島のほっこり感を裏切ってくる村上さん。
ただ、こういういい意味での“異物感”というものが、なにごとも進歩させてきたはず。
大島にも、いい影響を与えていくに違いない。
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三原山の中腹に位置する大島町メモリアル公園には、
3×3のバスケットコートや、スケートパーク、フットサルコートなど
最新の施設が揃っている。遊歩道も整備されていて散歩にも最適な場所。
「よく朝とか夜に散歩するんです。元町が見渡せる場所があって、そこが好きですね。
まるで元町が自分の庭かのような錯覚を楽しめます(笑)」
information
BookTeaBed IZUOSHIMA
住所:東京都大島元町2-3-4
TEL:04992-7-5972
宿泊料金:(個室)1室1名10000円(税込)〜、(ドミトリー)1名4000円(税込)〜
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