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住まい手が自ら進める家づくり。
建築家集団〈HandiHouse project〉は
「家づくりを楽しむ文化」をつくる

Local Action
vol.175

posted:2021.10.1   from:神奈川県横浜市鶴見区  genre:暮らしと移住 / 活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。

writer profile

Ai Yamashita

山下あい

やました・あい●ライター。群馬県生まれ、東京都在住。企業広報、リノベーション企業PRを経て、フリーライターに。ライフスタイル全般において、インタビューや取材記事を執筆。なかでも暮らしにまつわる取材が多く、メディアを通じて、日本の住まいをより良くしたいと考えている。

photographer profile

KAZUO YOSHIOKA

吉岡教雄

千葉県出身。写真のきっかけ、高校一年の春休みにバイトで貯めた資金をもとに単身ネパールへ。『地球の歩き方』とインスタントカメラを手にカトマンズ〜ポカラを徘徊。スタジオ経て2006年フリーランス。東京を拠点として広告、web、雑誌、などコマーシャル分野で活動中。BURONICA

ローカルでの暮らしを考えるうえで、一番の懸念事項とも言えるのが「住まい選び」だ。
賃貸にするのか、思い切って戸建てを購入するのか、選択肢はさまざまだが
空き家を活用するなど、セルフリノベーションをして
自分の思い描く理想の家と暮らしを手に入れようと考えている人も多いだろう。

では、自らの力だけで、リノベがうまくいくのだろうか。
リノベのやり方を教えてくれるところなんて聞いたことがないし、
大工や建築家の知り合いもいない。

そんなときに、住まい手のサポートをしてくれるのが、
〈HandiHouse project(ハンディハウスプロジェクト)〉だ。
専門家たちとともに、住まい手が中心となった「家づくり」を
広めようとしている21人の若手建築集団で、
日本全国を舞台にさまざまなプロジェクトを推進している。
そんな彼らが掲げているビジョンが「家づくりを楽しむ文化」を醸成することだ。

〈HandiHouse project〉の事務所。〈Handi Labo〉もプロジェクトのひとつで、参加者で家づくりを実践したり、工作を行うコミュニティをつくっている。

〈HandiHouse project〉の事務所。〈Handi Labo〉もプロジェクトのひとつで、参加者で家づくりを実践したり、工作を行うコミュニティをつくっている。

“家づくり”をすることで、家への理解が深まる

神奈川県・鶴見市。東急東横線の綱島駅から車で10分ほどの
「駒岡」という地区にある大きな倉庫が〈HandiHouse project〉の事務所だ。といっても、
21人のメンバーの多くは個人事業主でもあり、
プロジェクトごとにチームを組んで活動しているので、
ここは〈HandiHouse project〉という活動母体のコアと
言ったほうが正しいのかもしれない。

事務所の倉庫部。さまざまなプロジェクトを実践した形跡が残されている。

事務所の倉庫部。さまざまなプロジェクトを実践した形跡が残されている。

彼らは、それぞれ別々の下積み時代を送っていたのだが、
建築家としてのキャリアを積む過程で生まれた日本の住宅事情に対する疑問が、
〈HandiHouse project〉として団結し、同じ方向に向かって歩むこととなった。

「家づくりって、営業、設計、施工、大工さんと、登場人物が多すぎる。
だから住まい手は、誰に思いを託したらいいのかわからなくなっちゃうんですよね。
まずはそこを取っ払って、設計の段階から施主さんを徹底的に巻き込む。
ここがほかとはまったく違うところだと思います」

発起人である中田裕一さん(左)と加藤渓一さん(右)。

発起人である中田裕一さん(左)と加藤渓一さん(右)。

と語るのは、発起人のひとりである加藤渓一さん。
人は、お金を出して買った瞬間、それを「モノ」として扱ってしまう。
特に家においては、誰がどうつくっているか、何でできているのかというところは
一切わからないまま、完成した家に何の疑問も持たずに住むことになる。
それでいて、住み始めてから初めて気がつくちょっとした傷や汚れには敏感だ。
家を「モノ」にしないために、〈HandiHouse project〉では、
家づくりを通して施主の意識を変えていくということをひとつのゴールにしている。

「家って完成したらそこで終わりで、
なんとなくもう触っちゃいけないというイメージがありませんか?
僕たちとしては完成がゴールではなくて、住み始めがスタート。
施工の過程で 『家をつくる』ということに対して理解が深まっていくと、
住み始めてからも能動的に手を加え続けるようになるんです。
自分たちでつけてしまった傷や汚れも、思い出として受容するようになる。
そうすると、家の価値って下がらずに、どんどんと魅力が増していく。
僕たちはそこを目指しています」(加藤さん) 

結成当時の様子。家づくりを楽しんでいるこの写真はHPに掲載されている印象的なカット。

結成当時の様子。家づくりを楽しんでいるこの写真はHPに掲載されている印象的なカット。

彼らの出会いは2009年。

初期メンバー4人のうちの中田裕一さんと坂田裕貴さんが、ちょうど独立を考えていた時期。
渋谷のハロウィンパーティーで偶然知り合い、意気投合。
「設計・施工という過程のなかに施主を
完全に組み込んでしまうって、おもしろくない!?」と、
その場でチームの基盤ができた。
それから、それぞれの友人を誘ったのが〈HandiHouse project〉のはじまりだ。

「お互い仮装していたんで、素顔は全然見えない状況でした(笑)。
でも、考えは同じでした。家づくりに施主が参加するということが、
日本人の住宅に対するリテラシーを向上させていくと、
あのときから本気で考えていましたね」(中田さん)

「多くの人は、家がどんな手順で、どんな材からできているかを知らないんです。
もちろん学校でも教えてもらえないですし、社会に出ても知るきっかけがない。
家を買うタイミングで初めて調べ始める。それじゃ遅いんです。
あれよあれよという間に完成してしまう。
僕らの仕事は、家づくりに対して興味を持ってもらうきっかけをつくってあげること。
その本質は、『住まいに対するリテラシーの醸成』なんです」(加藤さん)

DIYできる賃貸〈アパートキタノ〉。住まい手が自由にカスタムできる工夫が詰まっている。

DIYできる賃貸〈アパートキタノ〉。住まい手が自由にカスタムできる工夫が詰まっている。

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退去する人が次の入居者を募集するアパート

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アパートの価値が上がるDIY賃貸

いつか家を購入する前に、もっと家づくりへの知識は深められるはず。

そんな想いから始まったプロジェクトのひとつが、DIYできる賃貸〈アパートキタノ〉。
東京都八王子市の北野で、地元の不動産業者と、アパートのオーナー、
そして〈HandiHouse project〉の3者が合同会社をつくるかたちでスタートした。

6畳ひと間のワンルームという間取りはありふれているけれど、
〈アパートキタノ〉は、入居の際に壁や床などを自由にカスタマイズでき、
それらを施工するときは、建築のプロ集団である〈HandiHouse project〉が
アドバイスをしてくれるという仕組みだ。

引き渡し時の〈アパートキタノ〉。壁と床は合板のみとシンプルなつくり。

引き渡し時の〈アパートキタノ〉。壁と床は合板のみとシンプルなつくり。

そのため、内装は原状回復がしやすい合板を壁や床にビスで打ちつけているだけ。
合板の上では何をしてもいいというルールにした。
また、入居者がDIYに行き詰まったときには、
チャットツール「Slack(スラック)」で、道具の使い方や、
材料の選び方を相談することができる。

「DIYのやり方って、YouTubeで調べればいくらでも出てくるんです。
でも、自分のやりたいDIYは、どの動画を見たらいいのか、
どの道具を使うのがベストか、みんなそこがわからない。
だから、そのあたりの情報を整理してわかりやすく伝えてあげるのが、
ここでの僕たちの仕事なんです。
入居者の方の多くは、一度ハマると住みながらどんどんカスタマイズを繰り返していく。
だから、質問のレベルもぐんと上がる。
最終的には、こちらの想像をはるかに超える部屋が
できていたりするんですよね」(加藤さん)

また、こんなエピソードも。

「ある方が退去するタイミングで『DIYがすごくうまくいったので、
次に大切に住んでくださる人を募集します』と、Twitterに投稿したんです。
つまり、退去予定の人が自ら次の入居者を募集するということです。
そしたら、その投稿がバズっちゃって。450リツイート、3200いいねくらいいったのかな? 
そのあと、問い合わせも激増。僕たちの知らないところで、
アパートの価値が勝手に上がり始めた瞬間でした」(加藤さん)

自分が暮らしていたアパートを、
次の人に住み継いでほしいという発想はなかなか生まれない。
ましてや、普通のアパートの壁と床に合板を1枚張った、
ただそれだけでこんなにも住まいに対する思いが変化するなんて……。

家づくりの経過を発信した〈アパートメント :D〉。完成前から入居希望者が集まった。

家づくりの経過を発信した〈アパートメント :D〉。完成前から入居希望者が集まった。

現在は、逗子に新たなアパート〈アパートメント :D〉を建設中。

工事中の様子から、プロジェクトに関わる人の顔、
そして実際にDIYしている模様をSNSで発信することで、
一般的な不動産ポータルサイトよりも安心感を感じられる仕組みをつくっている。

「住まいをポータルサイトで探す時代から、SNSで探す時代へと変化してきています。
どういう人がつくっていて、どういう人が住んでいるか、
イメージしやすいということは重要ですから。
逆に言えば、全部を見せることで、
オーナー側も安心できるような入居者だけが集まってくるんです」(中田さん) 

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村民自らが村の家をつくる〈丹波山ビレッジハウス〉

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イエづくりからムラづくりへ

〈HandiHouse project〉が昨年から
新たに取り組んでいるプロジェクトが、〈丹波山(たばやま)ビレッジハウス〉。
これは中田さんが自ら受注して〈HandiHouse project〉内でチームを編成している。

「丹波山村は東京と山梨の境にあるのですが、標高が高いのが特徴です。
村のどこからも、まちへ出るのに1時間はかかります。
スーパーもコンビニもない、いわば陸の孤島。
距離的には東京も近いのにポツンと山あいにたたずむ集落で、
“大きな自然のポケット”と呼ばれているのもうなずけます」(中田さん)

このプロジェクトは、お年寄りばかりになってしまった村を守っていくために、
村民を増やしていきたいとオーダーを受けたのがはじまりだった。

中田さん肝いりのプロジェクトが〈丹波山ビレッジハウス〉。

中田さん肝いりのプロジェクトが〈丹波山ビレッジハウス〉。

丹波山村は、約500人が暮らす小さな村。行き会う人みんなに挨拶するような、
村民の誰もが知り合いのようなコミュニティだ。
学校も生徒より先生の人数が多いため、
ひとりひとりにじっくり向き合ってもらえると
都心から山村留学にやってくる家族もいるほど。

〈HandiHouse project〉はこの村で、リノベーションではなく、新築住戸をつくりはじめた。

「村には多くの空き家がありましたが、とても住める状態ではありませんでした。
せっかく都心に近いというメリットも、さすがにここには住めないよね、
ということで諦めてしまう人たちもいたんです。
だから、ここでの暮らしに合った
循環が生まれる住宅をつくろうと決意しました」(中田さん)

これまでも村では、年に1〜2棟は新築が建てられていたが、
どれもハウスメーカーが建てた、とってつけたような新建材の家だった。
そうではなく、丹波山村の景観に合って、
なおかつ村の木を使った木造住宅をつくり、
森林資源を循環させるということをベースにプロジェクトを進めた。
2か月間現地に滞在して、1棟の平家が完成した。

単身や2人暮らし、親子山村留学など移住ニーズに応えたコンパクトな住宅を設計

単身や2人暮らし、親子山村留学など移住ニーズに応えたコンパクトな住宅を設計。

「次の1棟は、来年建てる予定です。そのときには村の人も呼んで、
一緒に家づくりに参加していただこうと思っています。
これを続けていくことで、
最終的には僕らはサポートだけで終われるようにしていきたいんです。
そうなると、村に『家をつくる』という仕事も生まれ、移住者の誘致にもつながります。
村の資源である木材も使われるいい循環が生まれていくはず」と、中田さんは言う。

現在、村に移住してきた木こりがすでに暮らし始めているという。
ゴールまでの道のりこそ長いが、家をつくることが持続可能な村をつくっていく。
彼らのプロジェクトは、徹底的に周りの人を巻き込むから、
しっかりとその地に根づいていくのだ。

住まい手たちが自ら家づくりを実践。自分たちで取り組んだ分、家への愛着も湧いてくる。

住まい手たちが自ら家づくりを実践。自分たちで取り組んだ分、家への愛着も湧いてくる。

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家づくりは、住まい手が住み始めたときから始まる

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一度家をつくると、住み始めてからもつくり続ける

家があるところに人が移動するのではなく、
暮らしたい場所に合わせてデザインされていく。
家は、本来そうであるべきだ。
それを〈HandiHouse project〉は、
リノベーションという言葉が一般的になる前から続けてきて、
いまやっと時代が彼らに追いついてきたように感じる。

〈HandiHouse project〉の取り組みは、彼らが用意したゼロの状態から、
施主の手によって住まいがプラスの方向へと歩み出している。
そして気がつけば、彼らが想像もしていなかったうれしいハプニングが次々と生まれている。

子どもたちを巻き込んで家づくりを教えるのも〈HandiHouse project〉ならでは。いわば「家づくりの学校」。

子どもたちを巻き込んで家づくりを教えるのも〈HandiHouse project〉ならでは。いわば「家づくりの学校」。

「〈HandiHouse project〉っていうのは、
ひとりひとりが屋号を持ちながらチームとして集まることで、
ひとりではできないことを実現させている集合体なんです。
それぞれバックグラウンドが違うからこそ、互いに学ぶことも多い。
それがプロジェクトの幅を広げているのかもしれません」(加藤さん)

ひとりひとりが得意分野でプレーしていくことで、
あらゆるかたちで家への理解が深まっていく。
そして彼らと一緒に作業することで、家って自分でつくれるんだ!と
気がついた人たちは、そこからの変化も早い。

「完成して一緒に打ち上げまでしたあとに『この工具が買いたいんだけど、
どこのメーカーかで悩んでいる』と連絡がくるんです。
これは、リテラシーが上がった状態ですよね(笑)」(加藤さん)

住まい手の家づくりは、住み始めたときから始まっている。
そして、〈HandiHouse project〉との関係もずっと続いていく。

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