連載
posted:2018.8.22 from:東京都渋谷区 genre:暮らしと移住 / 活性化と創生
PR 兵庫県神戸市・芦屋市・淡路市・洲本市
〈 この連載・企画は… 〉
ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。
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Colocal編集部
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撮影:黒川ひろみ
都市と郊外の2か所に、仕事や生活の拠点を持ち、
双方を行来するライフスタイルのことを、“デュアルライフ”といいます。
兵庫県の神戸市、芦屋市、淡路市、洲本市は、明石海峡大橋を挟んで
“都会の文化”と“島の自然”の両方のいいとこどりができる
デュアルライフの先進エリアとして知られており、
現在「島&都市デュアル」と称して地域の魅力を発信しています。
去る2018年7月6日、島&都市デュアルを体感するイベント
「DUAL LIFE FES by島&都市デュアル」が行われました。
実際に、各地でデュアルライフを実践する人たちの生の声を聞くトークセッションには、
彼らの生の声を聞きたい! と多くの移住検討&希望者が
東京都渋谷区のSHIBUYA CASTに集結。
さて、デュアルライフって実際のところ、どうなんですか?
登壇したのは、左から『Discover Japan』誌編集長の高橋俊宏さん、秋田の武田昌大さん、淡路島の富田祐介さん、神戸の鶴巻耕介さん。
先陣を切って自己紹介したのは、秋田県からやってきた武田昌大さん。
武田さんは地元秋田、そして香川にある茅葺の古民家を活用した
〈シェアビレッジ〉の村長をしています。
「人口減少率が高く、100年以内には人口ゼロになってしまうといわれている地元を、
なんとかしたいと思ってシェアビレッジというプロジェクトを始めました。
村というと人が住んでいる行政村を思い浮かべると思いますが、
シェアビレッジはどこに住んでいても村人になれるシステムです」
2015年に立ち上がったユニークなプロジェクトには、
現在、2100人ほどの村民(会員)がいます。3000円の年貢(年会費)を納め、
村に来ることができない人のために都市部で寄合(飲み会)を定期的に開いています。
「シェアビレッジをつくって1年目に、なんと20組も移住してきたんですよ」と
うれしそうに話す武田さん。
自身は、秋田に住みながら東京日本橋小伝馬町におむすび屋〈ANDON〉をオープン。
さらにはシェアビレッジの2軒目を香川県三豊市につくり、
デュアルライフ先駆者としてあちこちを飛び回っています。
まずは秋田県に行ったことがある人に挙手を促す武田昌大さん。ちょっぴり自虐的に「行ったことない県ランキング1位と言われているんです」と発言。何人かの挙手に驚き、にっこりと頬が緩みました。
次は、兵庫県洲本市から〈シマトワークス〉代表の富田祐介さんがマイクを手にします。
富田さんは7年前に東京から淡路島に移住。企画の仕事をしています。ちなみに東京にいたときは建築の仕事をしていたそう。
「淡路島では、食に関するプロジェクトやそれにまつわる研修などの企画をしています。
僕の場合は、地域を良くしようとか活性化だという思いはなく、
もっと自分がワクワクしたいと思って移住しました」
食が豊かな淡路島暮らしが気に入っているという富田さん。
30歳のときに、学生時代の知り合いから淡路島で一緒に事業を立ち上げようと誘われ、
移住を決断しました。見知らぬ土地での不安もあるなか、
結果、最後に決めたのはワクワクしたからだといいます。
「ここでは、仕事はイチからつくっていかなくてはいけません。
でも、自分のワクワクに素直にいこう! と決めました」
しばらくして島内にネットワークができ、
自分でも独立してできるかなというタイミングで結婚もした富田さんは、
今年は海外にも短期滞在をしてみたのだとか。
「夫婦で話し合い、実験的にベトナムに1か月住んでみました。
でも、バケーションしたいわけではないので、
今の仕事を維持しながらひたすら働いていましたよ」
海外でも変わらず多忙なままですが、住環境が異なることで気分も変わります。
「暮らしに刺激が欲しいので、
1年に1か月くらいは日本を出て海外に住んでもいいかなと思っています」
〈つるまき農園〉園長の鶴巻耕介さんは、東京都品川区出身の都会っ子。高校を卒業後、関西の大学へ進学しました。
兵庫県の神戸市北区淡河町を拠点にして活動する、
〈つるまき農園〉の鶴巻耕介さんの登場です。
「神戸って港町のイメージがありますが、
山のほうへ行くとびっくりするくらいの農村地帯が広がっているんですよ」
2014年に移住をした彼は、100の知恵と技を持つ人=現代版の百姓になることを
目指しています。
「以前はコミュニケーションとかメールのやりとりで成立する仕事が多かったので、
野菜づくりや家の修理など自分の手でできるといいなと思いました。
周囲で移住している人は専門性の高い職人系が多く、
総合職で働いていた自分に移住できるのかという不安はありました。
けれども、小さな仕事であちこちから仕事をもらえるようになれば可能なのでは、
と現在実践しています」
鶴巻さんは、サツマイモの観光農園で働くほか、
茅葺き屋根の葺き替え手伝いや淡河宿本陣跡保存会の理事、
学生のインターンシップのコーディネーターなどを生業にしています。
学生時代に子どもをとりまく環境や教育問題に興味を持ったことから、
暮らしのあり方を変えることを望んでいました。
「里山とか農村の自然に興味があるのかといえばそうでもないんですよね。
地域に残っている相互互助の精神などが、
果たして合理的なのか確認したいと思って移り住んだんです」
結果、地域全体で子どもを見てもらっていることなどから、
仕事がなくなってもどうにかなるかなと安心感を得たと鶴巻さんは言います。
ファシリテーターは『Discover Japan』誌編集長の高橋俊宏さん。個性豊かなデュアルライフ実践者の暮らしのリアルを引き出します。
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デュアルライフを始めるにあたり、最初のハードルは移住だったとのこと。
淡路島の富田さんは新天地への移住ということで、
すべてを捨てていくような覚悟で移住をしたと話します。
「でも、住んでみたら意外とそうでもありませんでしたね。
淡路島は、都会に住んでいる人にはキャッチーに聞こえるらしく、
いろんな場所から声をかけてもらえるのでいいですね。
結果、以前勤めていた会社から仕事をもらっていますし」(富田さん)
「シェアビレッジにも、20代後半から30代くらいの年代の人たちが来ます。
関東からが最も多く、観光とは違う、地域で何かやりたいという人が多いです。
実践しているうちにおもしろくなって
秋田のほか新潟や島根に移住しましたと報告を受けるようになりました。
地域とよその人との関わりを“関係人口”といいますが、
そういうところが都会のニーズとしてあるのかなと思います」(武田さん)
武田さんはUターン移住者。
帰るきっかけは、一時帰省の際に地元商店街の閑散とした様子を目の当たりにしたこと。
そのとき、もしかすると自分の故郷が
なくなってしまうかもしれないという危機感を抱いたそうです。
その後、築135年の立派な茅葺の古民家と運命的な出会いをした武田さん。
ひと目ぼれした古民家を、3か月後に壊すつもりと持ち主が言ったことで
自分に何ができるかと考え始めたとか。
「観光地じゃない秋田では宿やカフェはできないから、
まずは会員制の宿にしてみようと思いつきました」
“年貢の納めどき”というキーワードを思いついたときに
「キター!」と思ったと言う武田さん。
その後は「寄り合い(飲み会)」「里帰り(村民同士で現地へ遊びに行く)」「一揆(祭り)」
など、次々にキャッチーな言葉のアイデアが生まれました。
気軽に村に関わってもらって、気に入ったら将来的に住んでもらおうという
新しい村のかたちは全国的に話題となり、
その年の9月にはグッドデザイン賞を受賞しています。
「地元のために何ができるだろうと考え、秋田といえばお米だ! と
2010年にネットでお米を販売し始めました。
ですが、お金を得ることはできても人口が減るのは変わらないんですよね」(武田さん)
フリートークでは、三者三様のデュアルライフへの向き合い方が見えてきます。
神戸の鶴巻さんは、20代から地方での地域活性やまちづくりに興味があり、
30代になったときに実践を始めたといいます。
「移住先が奥さんの実家だったので、問題なかったですね。
消防団など地域の組織にすぐ入ったことで地域になじめたと思います」(鶴巻さん)
スムーズに移住が始まっても、移住後の生活はすぐに収入が必要。
移住者なら誰もが不安に感じるお金の問題は、皆さんはどう考えていたのでしょうか。
「田舎で暮らすのはローコストです。
貯金が少なくなったときも、家に帰ると玄関に野菜が置いてあって、
冷蔵庫はいっぱいだったし。
暮らすぶんには問題はありませんでした」と富田さん。
島内と島外、仕事への考え方を上手に分けるようにしています。
「島の仕事は自分たちの生活を豊かにする仕事なので、
単価は安いけど物々交換のつもりで受けています。
人と人とのつながりというところもありますけど、
実験的なことができるという面でもいいですよね。
そうすると、野菜とか果物とか冷蔵庫がいっぱいになっていきます。
食卓にのぼる全部の食材が、知り合いの生産者さんのものばかりになります。
誰がつくったのかわからないものがほとんどない。
すごく豊かで、それだけで幸せを感じます」
島外の仕事で“外貨”を稼ぐ富田さんは、
仕事の報酬はちゃんとした額を設定しているといいます。
収入先のバランスをわきまえながら暮らしているのでとても充実しているそう。
「ちょっとずつ収入が増えて今は東京で設計をやっていた頃より収入はいいですね。
収入はしっかり必要なので、年に2回は夫婦でお互いをヒアリングし、
収入倍増計画という戦略会議を行っているからかも」
地域にどっぷりいては稼げないから外に出る、という武田さんも
バランスを大切にしています。
「ふたりは都市が近く、稼げるところにいると思うんですけど、
秋田だけでお金を稼ぐのは難しいですね。
まず、人口が減っていくなかでお客さん自体がいなくなります。
今後は都市と連携をしていくことが田舎の生き残る道だと思いますね」
武田さんは、独立してからは資金繰りが大変だったと話しました。
東京のおむすび屋〈ANDON〉は秋田のお米のPRもありますが、
稼ぐところとして考えています。
反対に、暮らしのあり方を変えた鶴巻さんは……。
「収入は、以前は勤め人だったので当然年々右肩下がりですが、なんとかなっています。
額が減ったからどうというのではなく、
週末は自分たちで企画をして里山に遊びに来ませんかと誘います。
自分でイベントをつくりながら自分の子どもをその中に入れてやっていれば
お金もかからず、かえってちょっともらえるくらいになります。
お金の入りは少なくても、出る分を少なくするってところで
楽しくできるかなということはありますよ」
と安心の答えが返ってきました。現在は、収入と幸福度が反比例している状態と言います。
富田さん(左)も鶴巻さん(右)も、デュアルライフを選んだことで、現在の暮らしに充足感があるといいます。
最後は、都市と地域を往来する生活の魅力を実感している先輩移住者から、
デュアルライフを志す人へのアドバイス。
「移住はハードルが高いと思いますが、興味のあるまちに行って
ひとりでも知り合いをつくると、そこから一気に広がります。
誰かひとり捕まえて仲良くなり、地域に通うなどの
関係性をつくってみてはいかがでしょうか。
神戸三宮から車で30分のところなので、
ぜひ(神戸市北区淡河町に)遊びにきてくれたらうれしいです」(鶴巻さん)
「秋田にいるときは農作業したり、茅葺きを葺き替えたり。
肉体的な面でも精神的な面でも(デュアルライフは)バランスがいいのかなと思います。
東京と秋田は遠いんですけど、バランスを保ちながら生きていけることに
やりがいと生きがいを感じています。
今の僕の家は家の中にエレベーターがあって風呂がふたつにトイレが3つ、大会議室、
中会議室、畳の部屋とあって、家賃は4万です。
空港まで8分のところに住んでいて、東京までは飛行機で1時間半。
逆にそういう暮らしができるのが田舎の良さだと思います。
ひとつの選択肢として、東京を捨てなくても、
田舎との行き来をするのもよいかと思いますよ」(武田さん)
「DUAL LIFE FES by島&都市デュアル」イベントはキッチンカーのほか、写古事記体験や竹箸、竹リングの手づくりワークショップも出店。20時まで続き、島系マーケットと都市系マーケットに分かれて地域からの物品も販売。SHIBUYA CAST前の歩行者が足を止めるほか将来的にデュアルライフを求める人たちが集まり、遅くまで盛り上がっていました。
information
この秋〈DUAL LIFE SCHOOL〉開催!
兵庫県の神戸市、芦屋市、淡路市、洲本市に暮らす市民がプロデュースしたデュアルな暮らしを実際に体験できるツアーに申し込むことができます。また、秋からは東京などの都市部でデュアルライフを学ぶことができる〈DUAL LIFE SCHOOL〉を開催します。詳細は島&都市デュアル暮らしツアーズのWEBサイトをご覧ください。
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