連載
posted:2018.3.29 from:徳島県三好市 genre:暮らしと移住 / 活性化と創生
sponsored by 徳島県三好市
〈 この連載・企画は… 〉
ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。
writer profile
Chizuru Asahina
朝比奈千鶴
あさひな・ちづる●トラベルライター。“暮らしの延長線の旅”をテーマに、食の生産地、ハーブ、おいしい民宿、エコツーリズム、コミュニティなどを多角的に取材。ふだんの暮らしに新しい扉が開くような、わくわくする場所や事柄に出会う旅のかたちに興味があります。 Holistic Travel
photographer profile
Yayoi Arimoto
在本彌生
ありもと・やよい●フォトグラファー。東京生まれ。知らない土地で、その土地特有の文化に触れるのがとても好きです。衣食住、工芸には特に興味津々で、撮影の度に刺激を受けています。近著は写真集『わたしの獣たち』(2015年、青幻舎)。
http://yayoiarimoto.jp
観光、移住検討などを目的に年々訪問者が増えてくる。
そんなとき、まちはどんな風に対応したらいいのだろう。
あるいは、訪れた訪問者とどのように触れ合えば、
末長くお付き合いしていけるような関係性が育まれるのだろうか。
現在、移住促進に力を入れている徳島県三好市では、
新しくまちを訪れた人と住民をつなぐ、
地域交流拠点施設をリノベーション中だ。
これまで、〈まちかど資料館〉として機能していた建物は、
池田町にある本町通り、通称うだつ通りの名家、真鍋家が市に無償提供したもの。
屋号を名付けた地域交流拠点〈真鍋屋〉として6月1日にオープンする。
真鍋屋のあたりは、夏冬に行われる〈うだつマルシェ〉の中心付近となり、
多くの人で賑わう。近くには飲食店も多く、非常に便利な立地だ。
何よりも、ここは三好らしい歴史の風景が、古民家のうだつとともに残っている。
「土地の文化と歴史の交差点となる、旧真鍋家を活用しようという話から始まりました。
市のミッションとしては、移住促進もしたい。
となると、三好に来た人に土地を知ってもらい、
仕事もできるような空間が必要なんです」
新しく建物をつくるのではなく、既存のものを使って、
移住者と地域の人たちが交流する場をつくりたかったというのは
三好市生涯活躍のまちづくり推進室の藤原 晃さん。
「移住者の方は、ずっと住まなきゃいけないとなると、プレッシャーも感じることでしょう。
こちらとしては、ずっと住まなくてもいいから、関係性を持つ人たちが増え、
頻繁に足を運ぶようになってほしいと思っています。
そんな場をつくれたら、将来的に外と中の人たちによる
仕事の創出にもつながるのではないかと」(藤原さん)
交通の要衝であり、四国でも有数の宿場町だった歴史を
今に伝える真鍋屋に、以下の3点の機能を持たせることにした。
1、コンシェルジュ機能
移住支援のサービス窓口を設置。
仕事や住まいの紹介や、移住希望者の希望に応じて住民との交流会も行う。
2、インキュベーション機能
三好市においての起業、開業など新規事業の立ち上げを支援。
敷地内にある中・短期滞在のお試し住宅とオフィスを貸し出す。
3、交流協働機能
交流スペースやミーティングスペース、チャレンジショップなどの場を設置。
地元で起業する先輩の移住者や地元キーマンとの交流をサポート。
定期的なワークショップも開催。
「池田は、かつては大手企業があったこともあり、
徳島の西側の拠点として栄えていたんです。
でも、現在はこちらから外に働きに行くケースが多いので、
ここをきっかけに移住者と地域住民が一緒になって事業をおこして、
ずっと住めるような土地になれば」
藤原さんがまとめた未来設計図はそのまま、
建物全体の設計にも継がれていく。
生まれも育ちも三好市の藤原さん。お子さんもいるが、現状では、進学や就職などでいずれは出さなくてはいけないので、「子どもたちが戻ってきてもイキイキと働いて暮らしていけるまち」をつくりたいと話す。
昭和8年に描かれた吉田初三郎作の阿波池田の鳥瞰図。山と川に囲まれた土地の中に建物がひしめき合っている。
江戸時代から続く阿波池田の名家、真鍋家の敷地の一部を改修。幕末から明治にかけて木材やたばこ産業で栄えた〈うだつ通り〉に建っている。
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真鍋屋の敷地面積は、約728平方メートル。
都内などでは店舗の入る商業ビル規模の広さのなかに
大きな松や築山、井戸のある中庭をぐるり囲むように
築100年以上の古民家の母屋と蔵、別棟などが建っている。
現在は建物に囲まれているので、外から中庭が見えないが、
6月1日以降は24時間中庭を通り抜けられるようにするという。
「設計するにあたって建物が5つもあるので
それをどう結びつけるかというところが難しかったですね」
神戸市にある設計事務所〈y+M design office〉の吉本英正さんは
まずは中庭をキーポイントに考えた。
外から人を引き込むという課題をクリアするために、
エントランスから建物に入るのではなく屋外空間のまま、
つまり道路から靴を脱がずにそのまま中庭に入れるように設計をした。
「土地のすべてを使ってほしかったので、
敷居をまたがなくても建物の中に入り、
外に出られるような設計にしたかったんです」
コミュニケーションの場として、
滞在する人と道ゆく人の接触を目指したという中庭は、
1階のカフェスペースやショップは中に向けて開いて設計している。
真ん中の屋外スペースには高さをつけてステージも設けた。
これによって同窓会や結婚式の2次会でも使えるようにも。
「ただ通り抜けるだけでは場に滞在してもらえないので
地面に段差をつけることによって、腰かけられるようにしました」(吉本さん)
リノベーションの全体図を設計した〈y+M design office〉の吉本さんは、徳島県出身。「三好市から提示されていた構想や背景がとても細やかなところまで書かれていたので、そちらを見てやりたいと思い、コンペに応募しました」。吉本さんは、若い人たちを呼んでまちを活性化させようとしている三好市の考え方に興味を持った。
古い建物のいいところはなるべく生かすようにした。例えば、通りに面した大きな木の格子はケヤキの一枚板をくりぬいたもので職人の高度な技によるもの。大きな梁や柱も残したが、構造上抜きたい場所もあり、リノベーションのための設計はかなり苦労だったそうだ。
吉本さんが「キーポイント」と話す中庭も大きくリノベーション中。24時間解放する予定だ。
施設内は、蔵や母屋の居住スペースなど、
もともとあった古民家の機能を生かした用途を割り当てていったという。
では、いったいどのような施設が入るのだろう?
特徴的なものを下記に挙げてみる。
ちなみに、すべての場所はフリーWi-Fiとなっている。
1階
移住希望者向けのお試し店舗、オフィススペースを含むお試し居住スペース
地域住民も使えるキッチン付きシェアスペース
地域住民も使える半年間以内のみ利用可能なチャレンジショップ
36人収容可能、テーブルと椅子、ハイビジョンモニターのある自由なマルチスペース
2階
畳席もあるマルチスペース
有料のレンタルオフィス
共用キッチン利用可のお試し店舗
ミーティングルーム
コピー機などもあるコワーキングプレイス
半年近く地域住民の人たちと話し合い、
ワークショップなどで思いを汲み取ったうえで
用途を組み込み、設計プランに組み込んだという。
そういった意味では、建物の箱づくり以前に、
ソフトを重視し、リノベーションが行われた。
そのほか、1階には日本酒バーが入ることが決まっている。
店主の星野清さんは、4年前に東京から三好市に移住してきた。
東京での飲食店での経験を生かして
ゲストハウスの立ち上げなどに関わり、
いつか自分で飲食店を開きたいと思っていたという。
「池田は酒飲みの多いまち。
造り酒屋もあり、日本酒のまちともいえます。
酒の席でのコミュニケーションで、土地の人たちと触れ合うことも多く、
自分もそれでまちになじむことができました。
だから、今度は自分が移住を検討している人のために
役立ちたいんです」(星野さん)
現在は〈三芳菊〉の蔵人として働く星野さん。四国の日本酒を中心に、全国のものを置いて地元の人にも楽しんでもらいたいと意気込む。
建物の指定管理者に決まった地元出身の丸浦世造さんが
こんなことを言っていた。
「このまちは高校生の居場所がないんですよ。
いろんな世代の人たちが集まれる場所がない。
それは寂しいじゃないですか。
移住者のためだけではなく、地域の人にとっても
ランドマークとなるようなそんな場所にしたいんです。
同窓会ができる場所になるといいですよね」
みんなが集える場所があれば、きっと何かが生まれるはず。
地域交流拠点施設〈真鍋屋〉のオープンは、
地域住民と移住希望者の交流と協働の可能性を広げるものとなりそうだ。
日本酒バーのカウンターとなる場所で打ち合わせているのは、左から市役所の藤原さん、日本酒バーを開く予定の移住者の星野さん、指定管理者の丸浦さん。
夜は、近くの飲食店でチャレンジショップの相談会が行われていた。利用者になり得る市内在住の女性経営者たちがおのおのどんなことができるだろうかと活発な話し合いがなされていた。
information
地域交流拠点 真鍋屋(まなべや)
住所:徳島県三好市池田町マチ2226番地3-1
TEL:0883-72-7607(三好市地方創生推進課)
オープン日::平成30年6月1日
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