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〈ジャパン・ハウス〉
ローカルから世界へ。
未知なる日本を伝える
いくつかのヒント

Local Action
vol.129

posted:2018.3.30  from:東京都渋谷区  genre:ものづくり / 活性化と創生

PR 外務省

〈 この連載・企画は… 〉  ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。

editor's profile

Yu Miyakoshi

宮越裕生

みやこし・ゆう●神奈川県出身。大学で絵を学んだ後、ギャラリーや事務の仕事をへて2011年よりライターに。アートや旅、食などについて書いています。音楽好きだけど音痴。リリカルに生きるべく精進するまいにちです。

credit

撮影:ただ(ゆかい)
メインカット:ジャパン・ハウス サンパウロ事務局 / Rogerio Cassimiro

日本の魅力をどんな目線で発信していくべきか?

外国の人と話したときに、日本のことをうまく説明できなくて
どぎまぎしたという経験がある人は少なくないのではないだろうか。

2014年からロンドン、ロサンゼルス、サンパウロの3都市で
外務省による〈ジャパン・ハウス〉という事業が動き始めた。

そのアウトラインは3都市に日本の魅力の発信拠点〈ジャパン・ハウス〉を開設し、
日本の魅力の諸相を「世界を豊かにする日本」として発信していくというもの。

総合プロデューサーは無印良品や蔦屋書店のアートディレクションなどを手がけた、
デザイナー/武蔵野美術大学教授の原研哉さん。

建物の設計には片山正通さん、名和晃平さん、隈研吾さん、
企画展やイベントには音楽家の坂本龍一さんや建築家の藤本壮介さんなど、
そうそうたるメンバーが関わっている。
さらに今年からは、日本の地域の魅力を発信していく
〈ジャパン・ハウス地域活性化プロジェクト〉もスタートするという。

2018年3月2日(金)、東京・渋谷で開催された〈JAPAN BRAND FESTIVAL 2018〉にて
同プロジェクトの事業発表会が開かれ、原研哉さんと國定勇人さん(新潟県三条市長)、
モーリー・ロバートソンさん(国際ジャーナリスト)によるパネルディスカッションが行われた。

この日のトークから、いま日本は海外へ向けて
どんなことをどんなふうに発信していくべきなのか、考えてみたい。

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パネルディスカッションがスタート

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僕らも日本のことがわかっていない

ジャパン・ハウス総合プロデューサー/グラフィックデザイナー/日本デザインセンター代表の原研哉さん。

はじめに司会の三雲孝江さんが登壇者の皆さんを紹介し、
原さんからジャパン・ハウスのプレゼンテーションが行われた。

「ジャパン・ハウスは世界へ向けて“日本を知る衝撃”を発信していこうというプロジェクトです。
まず2017年5月にジャパン・ハウス サンパウロが開館し、
12月にジャパン・ハウス ロサンゼルスの一部が先行オープン(※1)。
そして2018年には、ロンドンにオープンする予定です」
そういってスクリーンに映し出したのは、ジャパン・ハウスのコンセプトムービー。

「こういうふうに日本というのは千数百年ひとつの国であり続けた非常に稀な国でして、
ジャパン・ハウスでは日本のサブカルチャーからハイカルチャー、
テクノロジーから伝統文化まで、
いろんなものをカバーして伝えていきたいと考えています。

そのときに大事なことがあります。日本という国を表現することは非常に難しいので、
どうしても浮世絵を見せたりハッピを着て太鼓を叩いたり、お寿司を出したりと、
典型的な表現をしてしまうんですね。
もちろんそれらもすばらしいのですが、
それだけでは“ワーオ”みたいな初見の驚きだけで終わっていってしまう。

ところが、僕ら自身も日本についてわかってないことが多いわけですが、
もう一歩踏み込んだ中身やエッセンスが理解できると、
日本人ですら、“なるほどそういうことだったんだ”とわかる衝撃がありますよね。
このプロジェクトでは、そういった“わかりにくいもの”を
“わかる衝撃”にまでつなげていきたいと考えています」(原さん)

※1 ジャパン・ハウス ロサンゼルスは2017年12月にギャラリーとショップのみオープン。全館オープンは2018年を予定している。

ジャパン・ハウスの実践とこれから

それでは、具体的にどんな方法で日本のことを伝えていくか。
原さんはこれまでの歩みをたどり、ジャパン・ハウスの事業内容と活動骨子を紹介した。

「各都市のジャパン・ハウスは、基本的には展示スペース、
トークやワークショップ/パフォーマンスなどを見せるシアター、ショップ、
レストラン、ライブラリー、カフェ、ネットワーキングといった機能を備え、
それらをホスピタリティとデザインで運営していこうと考えています」

写真提供:ジャパン・ハウス サンパウロ事務局 / Rogerio Cassimiro

「これはジャパン・ハウス サンパウロがオープンしたときの写真ですが、
開館後初の週末には7,000人以上もの人が並んでくれました」(原さん)

開館式にはブラジルのミシェル・テメル大統領や麻生太郎副総理らが駆けつけ開館を祝した。Fotos: Marcos Corrêa/PR

「建築家は隈研吾さんです。元銀行の建物を改築し、日本から連れていった職人とともに
非常におもしろいファサードをつくってくれました」(原さん)

ジャパン・ハウス サンパウロのファサード。日本の職人が「地獄組み」という方法でヒノキを組んでつくった。

内部空間は和紙の職人が金属メッシュに和紙を漉きかけるという特殊な方法で仕上げた。

「開館の前には、フラワーアーティストの東信さんが、
自転車に乗った30人のフラワーメッセンジャーが
花を積んで配るというプロモーションを行い、大きな効果を生み出しました。

それからオープニングウィークには
音楽家の坂本龍一さんと三宅純さんがコンサートを開いてくれました。
サンパウロのジャパン・ハウスにはすでに70万人ほどの人が来場し、
ひとつの名所になっています」(原さん)

フラワーアーティストの東信さんによるプロモーション。自転車に花束を乗せた30人のフラワーメッセンジャーが、30日間にわたり市内の有名スポットに出没した。

イビラプエラ劇場にて坂本龍一さんと三宅純さん、ブラジル人音楽家のモレレンバウム夫妻による無料コンサートを開催。15000人の観客とともにオープニングウィークを締め括った。写真提供:ジャパン・ハウス サンパウロ事務局 / Rogerio Cassimiro

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日本の竹文化を紹介

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ジャパン・ハウスは開かれた場所

次に原さんは、これから3都市を巡回していく展覧会を紹介。

「ジャパン・ハウスで大事にしていきたいと思っているのが展示です。
各館には広大な展示スペースを設け、現地のキュレーターによる企画展と、
日本人クリエイター/企業による企画展を行っていく予定です。
サンパウロのオープン時には、現地キュレーターの企画第1弾として、
竹をテーマにした展覧会を行いました」(原さん)

企画展『BAMBU』(2017)

サンパウロのキュレーターによる企画展『BAMBU』では、伝統的な竹細工や
竹を用いたインスタレーション作品、スタジオジブリの映画『かぐや姫の物語』など、
日本のさまざまな竹文化が展示された。

これまでの海外発信事業と大きく異なる点は、こうした機会を設け、
現地事務局の方たちの目線と感性で、その土地に合うように日本の魅力を発信していることだ。
そうすることにより、日本のものの魅力がたしかに伝わり、
世界の市場で生きる価値を生み出すことにつながっていく。
また、日本人による企画は、公募により1年に3つの企画を選抜するという。

「日本から選ばれた展示は3都市を巡回していきます。
2017年7月には〈株式会社竹尾〉の企画による展覧会、
11月には建築家の藤本壮介さんによる展覧会を行いました。
また、ジャパン・ハウス ロサンゼルスでは1月に〈ANREALAGE(アンリアレイジ)〉という
ファッションブランドの展覧会を行っています。
いまは、インダストリアルデザイナーの山中俊治さんによるロボティクスの展覧会を準備中です」

宮崎県西臼杵郡日之影町の竹細工職人、廣島一夫さん(1915〜2013)による精緻な竹細工。

「私がこの場で言いたいのは、皆さんに“この場所は使える”と
思っていただきたいということです。
ジャパン・ハウスは閉じられた場所ではなく、意欲のある人には門が開いていく場所なんです。
ANREALAGEや藤本壮介氏のような、いろんな若い才能がこの空間を使い倒していく。
そういったことが、ジャパン・ハウスの未来をつくっていくと考えています」

驚きは言葉を超える〈燕三条 工場の祭典〉

三条市長の國定勇人さん。

続いて原さんと國定勇人さん、モーリー・ロバートソンさんによる
パネルディスカッションが行われた。

最初に語ったのは、ものづくりの現場を体感できるイベント
〈燕三条 工場の祭典〉を始め、地域に人を呼び込んできた國定さん。
燕市と三条市は、2018年秋にジャパン・ハウス ロンドンで
同イベントの要素をとり入れた金属加工文化を紹介する予定だ。

「私たちが子どもの頃は教科書に“洋食器の燕、刃物の三条”と
載っていた記憶がありますが、自負心を込めて
“燕三条では金偏のつくものは何でもつくることができる”と申し上げられます。
ところがその“技術の高さ”を伝えるのは非常に難しいんですね。

そこで〈燕三条 工場の祭典〉というイベントを始め、お客さんに
ものづくりの現場を体感していただくという取り組みを行ってきました。
その結果、今では国内外の皆さんから“燕三条といえばものづくりのまちなんだね”と
言っていただけるところまできたかなと思っております」(國定さん)

ものづくりの現場を体感できるイベント〈燕三条 工場の祭典〉。年に1度、世界有数の金属加工の産地、燕三条(新潟県の燕市と三条市にまたがる地域)の企業がいっせいに工場を開き、デモンストレーションやワークショップ、レセプションパーティなどを開催する。クリエイティブ・ディレクターの山田遊さん率いる〈method〉がイベントの監修を手がけ、燕三条の名を一躍世に広めた。

2013年にスタートした燕三条 工場の祭典では、ものがつくられる現場ならではの強みを生かし、
見事な成功を収めた。
國定さんはジャパン・ハウス ロンドンでは
より直感に訴えるような仕掛けが必要だと考えている。

「燕三条 工場の祭典に来られた方が一番びっくりするのが、
ガシャン、ガシャンと機械でつくられていると思っていた美しいシェイプの爪切りが、
すべて手づくりでつくられていた、ということなんです。

そこでロンドンでの課題は、ジャパン・ハウスで展示を見た現地の方たちに
いかに“燕三条に行こう”というモチベーションをもっていただくところまで
驚きを演出できるかということです。
そのためには、ワークショップで音や匂いを体験していただけるような演出など、
何か新しい工夫が必要なのかなと感じています」(國定さん)

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ローカルな価値を世界水準の価値に変えていく

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価値を伝えなければ、地域活性は起こりえない

次の話題は地域活性化について。原さんは日本の
「地域に潜在する価値」を「世界に通じる価値」に仕立てていく必要があると語った。

「日本の人たちはいいものをつくれば売れると思っているのですが、
いくらいいものをつくっても、それを皆が“欲しい、買いたい”と思うバリューにまで
仕立て上げていかないと、地方創生など起こりえないんです。

海外に向けても、その製品がなぜすばらしいのかということを、
世界の文脈の上で説明できて、初めて世界に働きかけ、機能していける。
ジャパン・ハウスで何かをしたいという地域の方にも、
ローカルな価値を世界水準の価値に変えていく手法とビジョンを
明確にしてきていただきたいと思っています」

国際ジャーナリストのモーリー・ロバートソンさん。

ジャーナリスト、ミュージシャン、DJなど
多岐にわたる活動を展開しているモーリーさんは、DJの立場からユニークな見解を披露した。

「DJの世界選手権を行うと、決まって日本人が2位か3位に
入るのですが、なかなか1位になれないんですよ。
私はそこにお金儲けをする人としない人の分かれ目を感じました。

日本のDJは、皆お金はいらない、音楽への愛でやっているというのですが、
それは日本の若手アーティストに、スポーツ根性や清貧を良しとするような
意識が染みついているということだと思うんですね。
もっと若い人たちがお金儲けに目覚めて、お金をとりにいくぐらいの
プロ意識が必要だと思います」

それを聞いて、國定さんは海外でものを売る現実を知る立場から、次のように発言した。

「いまヨーロッパでは燕三条の商品を随分取り扱っていただいているのですが、
通関コストや輸送コストがかかるので、日本で売っている金額の
2.5倍ほどの値段をつけないと商売が成り立たないんです。
そういった意味でもジャパン・ハウスでは、2.5倍の価値を当然のこととして
受けとめてもらえるようにしていきたいと思っています。

一方で、ハイエンドなお客様が燕三条へ来たときに満足していただける
料理やサービスを提供できる施設もつくっていけたら、
さらにおもしろくなっていくのかな、と」

原さんはひたすら謙虚なだけではなく、
そこから一歩前に出ていくことが必要だという。

「じつは世界のなかで、日本ほど緻密・丁寧・繊細・簡潔という美意識が浸透し、
すばらしいものづくりを行っている国はありません。
ですから、これからはカンヌで賞をとったとかアカデミー賞にノミネートされたとか
評価を待つ、受け身な姿勢ではなくて、もう一歩世界へ踏み出し、
“機能していく”——そういうことが未来につながっていくんじゃないかと思うんです。
ぜひ皆さんにもそういった意味での大志やしたたかさを
もって関わっていただけたらうれしいです」(原さん)

未知なる日本を発見していく

最後に、ロンドンへ行き使命感を新たにしたと語ったのは國定さん。

「日本には燕三条ぐらいの規模の都市がたくさんありますから、
僕たちが成功していいスタートを切ることができ、次にバトンタッチできれば、
本当の意味での地域活性ができるのかな、と。頑張ります!」(國定さん)

サンパウロで行われた東信さんによるプロモーションにて。

日本の「日常」も売りになると語ったのはモーリーさん。

「日本のいいところを点ではなく山のようにとらえて見ていくと、
意外な魅力を発見できるのではないかと思います。
たとえば日本の居酒屋のような“日常”も
売りになるような気がしてならないんです。

日本には世界に誇る巧みな技術や音楽や映画があり、
その末端はぱっとしない日常とつながっている。
そういったなだらかな山のようになっているすべてのポイントに
価値があると思いますし、世界の人たちが日本に来て
何を発見するかはまったく予想がつかない。

ですから我々はその山の上にある価値を発掘したり
見出していくことにエネルギーを注いでいきたいと思いますね。
そしてそこにある商機を見出す目ざとさも必要なのかなと思います」(モーリーさん)

原さんも日本の魅力を発掘していくことの大切さについて言及した。

「今は情報過多な時代なので、日本人も世界の人も日本のことを知ったつもりになっている。
しかし、そういう反応が起きるままにしておいてはいけないと思うんですね。
“知られる”ということは、ある意味では“消費される”ということなんです。
それでは、なんとなく消費されて終わってしまう。

ところが“あなたはいかに日本を知らなかったか”ということに気づかされると、
よっぽど衝撃を受けるわけです。
それは日本人にとっても同じことで、おそらく僕らは
日本のことをほとんど知らないまま現代を生きてしまっている。
ですから、僕らにとっても未知なる日本を引っ張り出し、
そこからさらに未知なることが起きるようなことを
仕掛けていけたらおもしろいかな、と思います。

日本の魅力は大きな都市や観光地だけではなく、
サードプレイス、フォースプレイスの奥深いところにあって、
そういったところに隠された、絶滅危惧種かもしれないけれど、
すばらしいものや技を見つけ出していくことが大事ではないかと思います」(原さん)

「いかに知らないか」ということは、やがてわかる衝撃につながっていくのかもしれない。
日本の未知と3つの都市の未知が出会ったときに、何が起きるのだろう?
地方創生はいまや世界中の地方都市で課題になっているテーマだ。
ジャパン・ハウスの地域活性化プロジェクトが展開し、
海外からどんなフィードバックがあるのか、とても興味深い。

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ジャパン・ハウス

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