〈 この連載・企画は… 〉
ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。
editor's profile
Kanako Tsukahara
塚原加奈子
つかはら・かなこ●エディター/ライター。茨城県鹿嶋市、北浦のほとりでのんびり育つ。幼少のころ嗜んだ「鹿島かるた」はメダル級の強さです。
credit
撮影:嶋本麻利沙(THYMON)
岡山県倉敷市。風情あるまち並みが残る美観地区を通り抜け、
歩いて15分ほどのところにある、倉敷鉱泉。
昔ながらのラムネを製造してきた創業103年の老舗だ。
なまこ壁が凛々しい蔵を改装したという工場の事務所には、
グリーンのラムネ瓶がたくさん並んでいた。
その隣にあったのは、数種類の調味料の瓶。
ポン酢やウスターソース、デミグラスソースなど商品が並ぶ。
実は、こちらの会社のもうひとつの顔が、
こだわりのソースやたれをつくる倉敷味工房という調味料メーカー。
数年前に爆発的ヒットとなった「塩ぽんず(630円)」の生みの親だ。
高知産のゆずと塩がベースのシンプルな味わいに今もリピーターは絶えない。
倉敷の美観地区に店を構える、食のセレクトショップ・平翠軒でも
倉敷味工房の商品を複数取り扱っている。
平翠軒は、全国から取り寄せたおいしいもの、ストーリー深い食品を扱う名店。
ちなみに、店主の森田昭一郎さん(メイン写真左端)は、
この倉敷味工房がこだわりのソースやたれをつくることになったきっかけの人。
「おいしい焼き肉のたれがほしいと言われたんですよ」
と言う倉敷味工房の石原信義さんに対して、
「うまい焼き肉を食べるには、うまいタレが必要です。
平翠軒で扱いたいと思っても、なかなかこれっ! というものが無かったんです」
と森田さん。ふたりは、同じ大学の先輩と後輩。
商品の相談は、いつも共通の趣味である海釣りへ向かう車中だったという。
「あーでもない、こーでもないと話していましたね」(信義さん)
「でもそんなときこそポッとヒントが浮かぶんだよ」(森田さん)
もともと信義さんは、ジュースを瓶詰めする設備を生かして、
業務用のソースをつくったりしていたが、
「たいていのメーカーは、○○エキスっていうのを入れるんです。
成分表示にもよく書いてありますが、それが一体何かわからないですよね。
自分がつくるものは、ちゃんと説明できるものをつくりたかった」
そこで最初につくったのが、ウスターソースそして、焼肉のたれ。
それが売れたので、
ドレッシング、デミグラスソースなどをつくり始めたのだという。
料理人ではないから、商品開発は、いたってシンプル。
試作は家庭のお母さんがするのと同じように料理本を見ながら。
実際の商品でも大型の釜で1度に大量につくると、
味に深みがなくなってしまうから小さい72Lサイズの釜で、複数回くりかえす。
大量の野菜を刻み、手間を惜しまず、手順に忠実に手づくりする。
ときにはフライパンでつくることもあるという。
「例えば、ウスターソースの場合、新鮮な野菜に徹底してこだわります。
仕入れは、近くの市場でそのとき一番おいしいものを選ぶ。
その何十キロという量の野菜をひたすら刻み、
その野菜の煮汁に、香辛料を入れて炊く。
材料は野菜と香辛料の他にはくだもの、
砂糖、塩、酢、それに、色付けのためのカラメルだけです。
野菜本来のうまみをきちんと出せれば、旨味エキスはなくても大丈夫なんです」
と、息子の信太郎さんがつくり方を説明してくれた。
しかし、そのためには、手間と時間がかかる。
寝かせる期間も含め、
2週間くらいかけて倉敷味工房のウスターソースはでき上がるという。
「それがうまいんです。おれはあんたのところのウスターしか使わんからね。
ありとあらゆるウスターソースを使っても、結局これに戻ってくるんだよ」
と森田さんが話すように、倉敷味工房の調味料は、リピーターが多い。
毎日食べたい家庭料理のようなやさしい味わいがそうさせるのかもしれない。
どれだけ商品が爆発的に売れようとも、素材を厳選し、
数を限定し、手づくりにこだわってきた信義さんと信太郎さん。
「原材料の仕入れを増やせられなかったということがひとつあげられるんです。
果樹であるゆず等は、年に一度の収穫ですから
年間のうちの仕入れる量を取り決めているんです。
特に塩ぽんずは、『高知のゆず』とラベルに産地を書いてしまいましたから、
足りないからといって他の産地のものを混ぜるようなインチキはしたくなかったですね。
それに、たくさんつくって、その販売経路を考えていくよりは、
うちの商品を好きなお客さんに届ける回数を増やしていくほうが、
全体的にはプラスになるんだろうなって思うんです。
たくさんつくってたくさん売ることを目的とするのではなく、
本当によいものだけをつくりながら、細々と続けていくほうが、
自分たちには合っているんですね」(信太郎さん)
とくに倉敷鉱泉は、従業員の半分が家族。
家業にとっては、「続ける」ことのほうが大切なときがある。
「だから、今後の目標はと聞かれれば、
家族、社員みんなが健康であることですね」と信太郎さんは微笑む。
「それが、家業と企業の違いかもしれませんね」と森田さんも言葉を続けた。
森田さんもまた、平翠軒という店を切り盛りする一方で、
代々続く、森田酒造3代目という家業を担う立場のひとりでもあるのだ。
地元に根付いてきた家業を担うからこそ、理解できる関係。
そしてそれに甘えることなく、ふたりが目指したのは、「誠実なものづくり」。
いま、その思いは息子の信太郎さんにも受け継がれている。
倉敷という土地で、ゆるやかに、そして誠実に、
これからも倉敷味工房は続いていくのだろう。
information
倉敷味工房/倉敷鉱泉株式会社
住所 岡山県倉敷市美和2-7-17
電話 0120-21-6020
http://www.kurashikikousen.com
>>この記事に登場した「平翠軒」にもコロカルは訪ねました!
その様子は別冊コロカルでくわしくどうぞ!
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