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木綿街道プロジェクト

Local Action
vol.024

posted:2013.6.11  from:島根県出雲市  genre:食・グルメ / 活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。

editor's profile

Kanako Tsukahara

塚原加奈子

つかはら・かなこ●エディター/ライター。茨城県鹿嶋市、北浦のほとりでのんびり育つ。幼少のころ嗜んだ「鹿島かるた」はメダル級の強さです。

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撮影:山口徹花

開発を逃れ、残されたのは古きよきまちの姿。

島根県の東部に位置する出雲市平田町に、
「木綿街道」と親しまれる、風情あるまち並みが残っている。
代々受け継がれてきた製法を守ってつくられる「生姜糖」の店や、
醤油の醸造所が3軒、そして造り酒屋など、いまも現役の老舗が軒を連ねる。

明治10年創業「酒持田本店」。熟練の出雲杜氏が銘酒「ヤマサン正宗」を生み出している。

宍道湖と日本海に挟まれているこの地域は、
江戸時代、綿の栽培がさかんになったのと同時に舟運も活発になり、
「雲州平田」と呼ばれる賑やかな市場町として栄え、立派な商家が建ち並んだ。
その後、水上から鉄道や車へと交通手段が代わりゆく昭和以降、
まちに繁栄のかげりが見え始めた。
昭和50年代には、平田のなかでも繁栄の中心だった本町エリアが、
開発区域に組み込まれ、昔の面影を残す多くの商家が消えてしまったという。
しかし、その開発を逃れ、江戸中期の佇まいが今も残っている地域が
現在、「木綿街道」の愛称を持つ、新町・片原町・宮の町エリアだ。

「僕が育ったころ、周辺は取り残され『寂れたまち』という印象でした。
観光客なんて来ることもなく、用事がある人のみが出入りする。
かと言って、当事者のわたしたちも、江戸中期のころの建物と言われても、
それに価値が見いだせていなかったんです」
と話すのは、來間 久さん。
片原町で300年続く、生姜糖を製造する老舗・「來間屋生姜糖本舗」の店主だ。

改修をしながら当時の佇まいを残す來間さんのお店。看板商品の「生姜糖」はさっぱりとしていて美味。

來間さんは、大学を卒業後、東京で10年ほど会社員として勤め、
父親が亡くなったのを機に帰郷し、店の跡を継いだ。
同じ頃、新町・片原町・宮の町のまち並みを保存しようと外部から働きかけがあり、
そのメンバーに参加することになったという。2001年頃のことだ。
誰もが初めての試み。
地元の人からなかなか理解を得られないこともあったというが、
イベント「おちらと木綿街道」や「もち街木綿街道」を企画したり、
木綿街道地域の存在を広く周囲に知ってもらえるよう、
まち並みを活かす活動を年々展開していった。
さらに、観光の拠点として、「木綿街道交流館」が整備され、
徐々にたくさんの人に、訪れてもらえるようになったという。
現在は、街道内の事業者を中心として結成された、
「木綿街道振興会」が主体となり、年1回の「おちらと木綿街道」だけでなく、
大小さまざまなイベントが企画されている。
その拠点となっているのが、「旧石橋酒造」だ。

「おちらと木綿街道」は、街道内の空店舗、空家を利用して地元のものづくり作家を中心に、多ジャンルの出展者が集う毎年恒例のイベント。今年も5月26日に開催され、6000人以上の人が訪れ、賑わいをみせた(撮影:木綿街道振興会)。

学生や若い世代が参加し、新たな活動へ。

江戸期から続く造り酒屋である石橋酒造が廃業したのは、2007年のこと。
木綿街道の認知度が少しずつあがってきた矢先だった。
800坪もの敷地を持つ建物であり、観光の核にもなりうる建物が、
心ない人の手に渡っては、木綿街道の美しい景観が壊れてしまう。
そこで、平田商工会議所などの働きかけにより、
出雲市が買い取り、活用する方向へ走り出した。
木綿街道振興会のメンバーが中心になり、活用に向けて、広大な敷地を大掃除。
「あれは、もう本当に大変でしたね……」と來間さん。
「でも、大変だった分、みんなにも愛着がわいたのも事実です」
どんな活用方法がよいか、この場所にみんなが可能性を感じたきっかけになった。

みんなで大掃除してつくられた旧石橋酒造奥にあるホール。音の反響もよい広々としたスペースゆえ利用できるようになる日が待ち遠しい(撮影:木綿街道振興会)。

左から、來間さん、木綿街道事務局の平井さん、高橋さん、渡部さん。旧石橋酒造の前で。

そんな生まれ変わった旧石橋酒造で活動を展開している団体のひとつが、
「City Switch」だ。
City Switchは、グローバルに都市デザインの知識やアイデアを交換し、
都市の再生を考えていくプロジェクト。
現在は、東京、出雲、オーストラリアに拠点を持つ。
出雲では、建築事務所「江角アトリエ」が主体となり、
毎年、日本中から大学生の参加を募り、ワークショップを開いている。
学生たちは、1週間ほど出雲の各宿泊施設に滞在しながらグループ制作を行う。
そのワークショップのひとつに、「旧石橋酒造の活用」が取り入れられた。
学生たちは思い思いに、地元の人と交流しながら、
2010年にはこの場所の記憶をとどめる「memory2010」という
インスタレーションを発表したり、
さらに、2011年には日常的な活用方法のひとつとして、
ブックマーケットの仕組みを考え、スタートさせた。

インスタレーション「memory2010」の様子(撮影:江角アトリエ)。

ブックマーケットの様子(撮影:木綿街道振興会)。

「そこで何ができるか、何をするかは、学生たちが決める。
それが、このプロジェクトの面白いところなんです」
と、江角アトリエの江角俊則さんも話し、
木綿街道振興会と共に、学生たちの制作をフォローしている。
学生たちの自由な発想で、面白い活用法のアイデアが生まれる。
なかには、海外から参加する学生もいるようで、
出雲で建築に携わる若いスタッフにもよい刺激になっているようだ。

そんなCity Switchがきっかけで今年4月に木綿街道にやってきた女性がいる。
井上季実子さん、24歳だ。
「ワークショップがきっかけで、
大学生のときに初めて木綿街道にきました。島根の豊かな自然や、
深い歴史を物語るまち並み、そこで出会った人々に魅了されてしまって。
そのとき、こうやって地域やここにいる人たちと関わりながら、
いつかはこっちにきたいな……と思っていたんです。
そうしたら、木綿街道振興会の方から“一緒にカフェをやらない?”と誘われて。
もちろん、即OKの返事をしました!」

実は、これまでイベントや外部団体が活動の拠点としてきた旧石橋酒造は、
今後2〜3年をかけて、建物の防災設備を整えるため修繕に取りかかる。
その間、多目的活用スペースとして、
また木綿街道内で製造されている商品の総合ショップとして、
木綿街道の空き店舗を改修し、カフェを開くことになったのだ。
井上さんは、木綿街道振興会事務局の平井敦子さんと一緒に
振興会を盛り上げながら、今年度中のオープンに向けて準備を進めている。

ちなみに、井上さんは、横浜市出身。なれない土地での生活、不安は無かったかと伺うと、
「初めてのひとり暮らしであたふたしていますが(笑)、
まわりの人がみなさん助けてくれるんです。
一緒にお茶をしたり、食事したり……。とても楽しい毎日を送っています!」
と井上さん。そんな充実した生活から、ここでの目標も見えてきたよう。
「私の勝手な目標ですが、若い人を木綿街道に呼んで、
この地に住んでもらえるような、何か新しい生活スタイルを提案したいですね」

長い年月をかけて、少しずつ、少しずつ、かつてあったような、
人々の息吹や活気を取り戻してきている、木綿街道。
それは、訪れた誰もが魅了されてしまう、歴史的財産が残っているから。
「私たちの一番の目的は、
この木綿街道の美しいまち並みを後世へ残していくことなんです。
しかし、古い木造の建物の価値や魅力を残しつつ維持していくには、
個人では到底まかなえないような多額な費用が発生する場合もあります。
だから、行政の保存制度に頼るしかない。
行政による保存に向けての取り組みを活発化させるために、
文化財的価値を持つ建造物として認知してもらいながら、
この木綿街道を好きになってくれる人をもっと増やすような、
そんな活動を行っていけたらいいですね」(平井さん)

今年の「おちらと木綿街道」前夜祭では木綿街道近くにある「宇美神社」でフードや飲み物が振る舞われた。このような神社内での風情ある夕涼みに想像以上の参加者が集まった。

Information


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木綿街道振興会

住所 島根県出雲市平田町831-1
電話 080-3025-6901
http://momen-kaidou.jp

Information

City Switch

2007年に設立され、これまでに島根県出雲地域やオーストラリア・ニューカッスル、中国・大連において国際デザインワークショップをコアアクティビティとして活動を展開してきた。建築家・大野秀敏の指導のもと、ジョアン・ジャコビッチと山代悟のパートナーシップにより運営され、それぞれの活動地域の地元グループとのコラボレーションによって活動中。
https://www.facebook.com/CitySwitchJP

Information

江角アトリエ

住所 島根県出雲市古志町2571
電話 0853-31-8211
http://www.esumi-atelier.com

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