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「さつまもの」鹿児島 × 益子〈前編〉

Local Action
vol.021

posted:2013.5.15  from:栃木県芳賀郡益子町  genre:暮らしと移住 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。

profile

ヤノミノ

写真:矢野津々美
やの・つつみ●栃木県出身。
文:簑田理香
みのだ・りか●熊本県出身。
益子町を拠点に活動する写真と文の企画編集ユニット。
地域コミュニティ「ヒジノワCAFÉ&SPACE」の企画運営メンバーとしても活動中。

ふたつの地域をつなぐ展示。

山桜の季節も終わり、田には水が張られて田植えも終わったというのに、
花冷えの戻りのような冷たい風の日が続いていた栃木県益子町。
一転して朝から気温が上がり始めた5月9日、夏日に近い陽ざしを連れて、
1500キロ離れた鹿児島から「さつまもの」の作家たちがやって来た。

「さつまもの」は、さまざまな分野でデザイン活動を展開している
「ランドスケーププロダクツ」の代表・中原慎一郎さんが
故郷の鹿児島で出会った魅力的なプロダクトや食のアイテムを
薩摩の「よかもん」として紹介しているプロジェクト。
展示イベントとしては、2009年から、
旭川、神戸、高松、ロサンゼルスなど国内外各地で開催され、
今回の益子開催は、中原さんとスターネット主宰の
馬場浩史さんとの繋がりから企画がスタートした。
5月11日から19日まで、スターネットをメイン会場に、
益子のつくり手たちが共同で運営している「ヒジノワCAFÉ&SPACE」と
仁平古家具店益子店の3会場で開催されることになった。

中原さん(右)と同郷の坂口修一郎さん。ふたりは、益子と笠間(茨城県)の作家や工房が80以上も参加した2011年秋の「KASAMA∞MASHIKO」展(伊勢丹新宿店)も手がけ、益子のつくり手たちとの親交も厚く、「ホームのような土地(坂口)」。

つくったものを携えて知らない土地へ旅をしよう。

「さつまもの」では、作品や商品だけをアウェイの地に送り込むのではなく、
作家も「旅」をする。
作家が現地に行き在廊することは、もちろん他の展覧会でも行われているが、
中原さんは「さつまもの」への参加を誘う時、「旅をしよう」と作家に声をかける。
今回、ヒジノワに出展した「Lanka」の大山愛子さんも、
鹿児島のイベント会場で、中原さんに誘われた時の言葉は
「栃木の益子に行ってみない?」だったそう。

旅をしよう。その言葉の意味を中原さんにうかがった。
「作家活動って基本は個人的なものだけど、集まることも単純だけど大切なこと。
集まることは、知り合うこと。
新しい土地と知り合う、今まで出会えなかった人と知り合う。
それは自分が動いて地元から出て行かないと体験できないものだし、
もともと、僕自身、まず動きながら考えるタイプで、
動くことで得られたものはプラスになっていることばかり。
そんな感覚や体験を若い作家たちにも感じてほしいと思って声をかけています。
旅って、その場ですぐに結果が出なくても、その後、じんわりと何かに繋がっていったり、
新しいことが始まるきっかけになったりします。
みんなも、そう信じてついて来てくれているみたいです。
旅をしていくなかで何かを感じて、そこからはそれぞれが何かに繋げていく。
そして自分のまわりの若い作家にも、動いて知り合うということを伝えてほしい。
そんな展開がどんどん繋がっていったら、もっと面白くなります」

薩摩の作家たちが栃木の益子に旅をして出合ったもの、知り合った人。
これからの自分へ、お土産として持ち帰る、何か。
迎え入れた益子の土地から2回にわたってレポートします。

さつましこ 1
イラストレーター江夏ジュンイチ(さつま)meets
濱田庄司記念益子参考館(ましこ)

江夏さんは、鹿児島を拠点に都内からも仕事を受け活躍するイラストレーター。
今回は、ヒジノワCAFÉ&SPACEで、
アクリル画やペンで描いたイラスト作品を中心に展示を行い、
来場者の「ちょっと似ている似顔絵」を描くワークショップも。
似顔絵は、以前出展していたイベントで、手持ち無沙汰な時に、
何かできないかな? と、さらりと描き始めたとのこと。そんな話を聞くうち、
「陶芸の文様も好きなんですよ。だから益子に来るのを楽しみにしていました」
と江夏さん。
「それでは、益子の陶芸と民藝の聖地、益子参考館に行きましょう!」
益子チームの提案に顔をほころばせる江夏さんに
「濱田庄司のお孫さんで陶芸家の友緒さんがいらっしゃるかもしれません。
せっかくですから似顔絵でもさらりといかがですか?」と続けると、
「ちょっと緊張しますね」
「展示してある写真をたよりに濱田庄司の似顔絵もどうでしょう?」
「人間国宝ですよね。僕の絵のせいで、鹿児島県民が
さんぽうかんに出入り禁止にならないようにしないと……」
緊張が高まったのか、「さんぽうかん」と言い間違えてしまい、
周囲にネタにされてしまう江夏さん。

スターネット recodeで展示をしている陶芸家の竹之内琢さんも一緒に参考館を訪ねると、
鹿児島からのお客さまということで、濱田友緒さんが案内してくださることに。
参考館は、全国から寄せられた寄付をもとに、
この3月に震災で被災した石蔵などの修復工事が終了し、
リニューアルオープンしたばかり。
大正時代に作られた2号館と3号館の石蔵は、震災で大きく亀裂が入り、
古い手掘りの大谷石の中に新しく修復した色味が違う石が混じる。

「鹿児島には、こんなに古く立派なまま残っている建物は少ないです。台風の被害が大きいからですかね」と竹之内さん(左)。「益子に来てから、立派な堂々とした古い建物がたくさん目につきますよね」と江夏さん(右)。中央が濱田友緒さん。

1号館では、濱田庄司の大皿作品や、富本憲吉、バーナード・リーチ、河井寛次郎など、
庄司と親交があった作家たちの作品を見る。
庄司の晩年の作であるという、釉薬を流し掛けした大皿もある。
「庄司は筆も早いし轆轤も早い。釉薬をかけて指でさっと掻き落とすなど、
一瞬で決める即興的な仕事が特徴でもありました」という友緒さんの説明に、
江夏さんは感慨深げに頷いている。
庄司の釉薬の流し掛けは、柄杓ですくって、一瞬でさっと掛ける。
「飛び散る釉薬がもったいない、という声もあったようです」
という友緒さんの話に江夏さんの目が輝く。
「皿から地面に飛び散った釉薬って、下に紙を敷いておいたら
アートとして成立したかもしれませんね。見たかったなあ! 
ものづくりの人が作業しているところや、
作業した痕跡みたいなものにとても興味があります」

長期滞在した沖縄で見た、どこまでも続くさとうきび畑に心を動かされた濱田庄司。濱田作品で代表的な文様になった「唐黍紋」に見入る江夏さん。

「ほんの数秒」を大切にした濱田庄司の気持ち、わかります。

2号館、3号館を見学した後、
庄司が暮らしていた頃から「上ん台」と呼ばれていた4号館へ。
1942年に隣町から移築した庄屋作りの大きな民家で、
国内外に交友関係が広かった庄司のゲストハウスとして使用されていた。
益子の陶芸仲間や後進たちだけでなく、庄司を慕ってくる旅人を迎え、
ともに食卓を囲んでいた空間で、江夏さんは友緒さんと向き合い、
「ちょっと似ている似顔絵」を描くことに。

似顔絵を描く江夏さんを友緒さんがスマホのカメラで撮影する。

友緒さんからは、「実物よりいいですね」と嬉しいひと言。

江夏さんは、「ちょっと」似ていることにこだわり、
ほんの2〜3分、ペンを無心に動かして似顔絵を仕上げる。
時間をかけて人の顔を書くと、雑念が入って「余計なこと」をしてしまうから。
「今日、濱田庄司が釉薬を流し掛けする時の話を聞いて、
おこがましいかもしれないけど、一瞬で決めようとする気持ちは
僕にもわかると思いました」

「15 SECONDS + 60 YEARS」
震災で被災した益子参考館再建のために地元の窯元や陶芸家、販売店などが
チャリティで制作販売したTシャツに描かれたキャッチコピーだ。
15秒プラス60年。
これは、濱田庄司の流し掛けにまつわるエピソード。
15秒ほどで決めてしまう流し掛けに、
「15秒では物足りないのでは?」と訊ねた客に
「プラス60年と考えてはどうでしょう」と庄司は答えている。
一瞬で決める仕事の背景にある長い年月の研鑽の積み重ねは、
多くの出会いの積み重ねでもあった。
庄司は、神奈川に生まれ、京都、沖縄、益子、そしてイギリスなど海外での滞在も長く、
その60年は、旅先で知りあう人々や心惹かれる風景や造形との出会いの繰り返し。
そのすべての上に立ち、雑念を除き無心に釉薬を汲んだ柄杓を動かした。
江夏さんが気持ちを重ねようとした、濱田庄司が作品を生み出した手の軌跡。
益子で江夏さんが出会った、庄司が遺した軌跡や言葉は、
ひとつの旅を終えた江夏さんの表現活動のなかで、
小さな芽吹きを繰り返していくのだろう。

展示写真を手がかりに描いた、ちょっと似ている濱田庄司。

さつましこ 2
サカキマンゴー(鹿児島出身)× 高山源樹(益子在住)

初日11日にはレセプションイベントとして、
アフリカの民族楽器「親指ピアノ」奏者・サカキマンゴーのライブも開催された。
さつまものの作家も益子側のスタッフや作家も、
それに益子のお隣の陶芸のまち笠間(茨城県)の作家も集まり、
さつまものの食と音楽を楽しみながら、またとない交流の場となった。
マンゴーさんは、アフリカツアーから帰国してすぐの益子入り。
長旅の疲れも見せず、軽妙な鹿児島弁も駆使するマンゴーさんの演奏とMCに
会場の観客は湧き、時にじっくりと耳を傾ける。
もっとも盛り上がったのが下の写真のシーン。
ミュージシャンとしてのキャリアも長い、ランドスケーププロダクツの坂口修一郎さんが、
益子の高校生ジャンベ奏者、高山源樹くんに声をかけ、
さつま × ましこのセッションが実現した。
高山くんは、小学校2年生の頃から
自宅にあったジャンベを自己流でたたき始め、かなりの腕前。
小さいころから両親と国内外の旅を重ねていることもあり、感度が高い。
坂口さんもトランペットで参加し、3人で「茶わんむしのうた」を演奏。
この歌は、大正時代に鹿児島の田舎町で小学校の学芸会の劇中歌としてつくられ、
歌い継がれているもので、マンゴーさんがラテンのリズムにアレンジしている。
マンゴーさんと高山くんは、この日が初の出会い。
それにもかかわらず、リハーサルなしで息の合った演奏となったのは、
旅や新しい出会いを求めるお互いの波長が、ぴったりと合ったからなのかもしれない。

サカキマンゴーさん(左)、坂口修一郎さん(中央)、高山源樹(右)さん。スターネット recodeにて。

サブ会場 ヒジノワCAFÉ&SPACEでの展示風景。

ヒジノワのスペースでは、個人作家と工房あわせて7つの展示が行われた。
江夏さんは、アクリル画やイラスト作品などのほかに、
鹿児島の奄美地方の菓子、ピーナッツに黒糖をからめた
「がじゃ豆の作り方」という部数限定の手づくり本も販売している。
失敗した時のための本物のがじゃ豆(黒糖ピーナッツ)付き。
手づくりのがじゃ豆をプレゼントする時に使えるという、
イラスト入り袋も用意してある。
自分自身も楽しみながら、さつまのよかもんを益子で伝えたい。
そんなぬくもりを感じる表現のカタチだ。

江夏さんの「がじゃ豆のつくり方」ブック。

白い壁のスペースでは、江夏さんの他に、やまさき薫(イラストレーター)、ぺーパークラフトの「サルビア工房」上原かなえ、就労支援のNPO法人「Lanka」の天然素材石けんなどのプロダクツを展示。

黒い壁のスペースでは、木工の「AkihiroWoodworks アキギロジン」、秋廣琢、アクセサリーの「YUKO HODATE」の作品を展示。

後編では、木工作家、陶芸家たちの交流をレポートします。

information

map

さつまもの

2013年5月11日(土)~5月19日(日)
スターネット 栃木県芳賀郡益子町益子3278-1 TEL 0285-72-9661
ヒジノワCAFÉ&SPACE 栃木県芳賀郡益子町益子1665 TEL 0285-81-7380
仁平古家具店益子店 栃木県芳賀郡益子町益子3435 TEL 0285-70-6007
http://www.satsumamono.com/

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