連載
posted:2015.8.6 from:栃木県宇都宮市 genre:ものづくり / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。
editor profile
Tomohiro Okusa
大草朋宏
おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。
credit
撮影:田中雅也
1960年創業、宇都宮にある〈吉田工務店〉。
大工だった父親を引き継ぎ、現在は2代目の吉田悦夫さんが代表取締役を務めている。
かつて日本のほとんどの家がそうであったように、
吉田工務店も、普通に自然素材を使用していた。
時代の流れで新建材を使ったこともあったが、
現在では再び自然素材での家づくりに取り組んでいる。
特にこだわっているのが、木材だ。
父親の代から〈吉田材木店〉を併設することで、木材を見る目も鍛えられている。
より専門的な視点で木材を選び、自ら乾燥も行っている。
宇都宮にあるモデルハウスは、すべてそれらの県産材を使用している。
「栃木の県産材である八溝杉を使っています。
地域の木材を使えば、その地域になじむので、風土に合うと思います」という吉田さん。
モデルハウスには〈宇都宮現代町家〉と名づけられている。
宇都宮のことを熟知した地元の工務店が建てることに大きな意味がある。
「季節ごとの風向きや強さ、陽射しの向きなどを考えて設計します。
例えば夏は、新鮮な空気を家のなかに呼び込めば、熱を持ち去ってくれるのです。
風や光を、どのように暮らしにとり入れていくか。それを考えます」
たしかに開放感のある大きな窓は光をたっぷりとり込み、
風が通っていくのが感じられて気持ちいい。
風や光などの気候条件を知り尽くした設計デザインになっているのだ。
自然素材を使うということは、家の材料だけでなく、
こういった自然環境もうまくとり入れることともいえる。
地元工務店がその地域に一番詳しいというのは当たり前のこと。
地元に根づく工務店だからこそ、より良い提案ができるのだろう。
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おもな材料として使用している栃木県の八溝杉の特長は、もちろん熟知している。
木材として名高い秋田杉や吉野杉は「いい木材」だというが、それは森が健康だからだ。
「吉野などは、間伐がしっかりしているので、木を伐ったら道から搬出できます。
このあたりは密集しているので、下手するとヘリで搬出しないといけないことも。
山の手入れもまだまだ進んでいません。
しかしそれでも山の木を伐って健康な森にしていかないと、
水がきれいにならないし、川もきれいにならない。
日が入らないと山も参ってしまいます」
木を使うことで山に手が入り、それでいい木材ができると工務店側も使いやすい。
こうした循環をつくっていくためには、
ユーザーによる木への理解を高めることも重要だろう。
「木は山から伐られてここへやってきます。
そんな状態になってもまだ木は呼吸し、湿気や有害物質を吸ってくれるのです。
だから私たちも敬意を払って使わないといけません」
木材以外にも、自然・環境意識へのこだわりは強い。
吉田工務店では、30年近く前からOMソーラーを積極的にとり入れている。
後づけで機械をつけるのではなく、
太陽熱と新鮮な空気を利用する〈パッシブ・ソーラーシステム〉である。
屋根面の集熱パネルが空気を温め、その空気が床暖房やお湯採りに使われる。
また断熱材には、木質繊維のセルローズファイバーを使っている。
焼却しても有害物質を出さない自然素材だ。
吸放出性があるので、木材と木材の間に入れたとき、
柱や土台、梁との相性がとてもいい。
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吉田工務店では、7年前から長期優良住宅の認定を受けた住宅を数多く手がけている。
長期優良住宅は、100年住める家という認定。
これに認定されるには、耐震等級、劣化等級、温熱等級、維持管理等級などの条件を
クリアしなければならない。
また、長く住むためには、間取りも工夫しなくてはならない。
部屋がたくさんあって、仕切られていたのがかつての日本の家屋だ。
しかしライフスタイルや家族構成も時代とともに変わってきた。
「いまは大きなリビングがあることが求められます。
子どもの数も少ないので、たくさん部屋をつくる必要もない。
だから成長に応じて、仕切れるようにすればいいんです。
そういったアレンジも、木造なら簡単にできることです」
木造は、修理もリフォームもしやすい。
100年3世代にわたって長く住むためには、木の家は最適なのだ。
メンテナンスしたり、住まい方を意識していけば、家は育てていけるから。
経年変化だって美しい。
「木を慈しみながら使わないといけません。
京都の町家など、かなり古いけど、落ち着きますよね。
残っているからこそ雰囲気がよくなるのは、木造の特長ですね」
「ただいい家をつくってもダメだ」という吉田さん。
地域において家を建てる意味を、そこに求める。
「住宅密集エリアで、窓を開けて隣の家の壁を見ていても
おもしろくないですよね(笑)。
確かに50~60坪くらいの分譲地を購入される人が多い。
だからなかなか栃木の風土を感じるのは難しいかもしれない。
でもなるべく景観を保ったり、風や光をとり入れられるように、
敷地のなかで建物を斜めに建てて、調整するのです。
『吉田さんの家は行儀が悪い』なんて笑われますよ」
長期優良住宅や自然素材を使っているからといって、
建物自体はいいかもしれないが、それ以上にはならない。
「本当は、自分だけがかっこつけた家を建ててもダメなんです。
お互いが意識しないといいまちはできません」
家という生活のベースとなるものが、ライフスタイルを生み、
それが隣近所へ、まちへとつながっていくのかもしれない。
それには地元の素材をよく知る地域工務店の力が不可欠なのだ。
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吉田工務店
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