連載
posted:2014.12.10 from:高知県安芸市 genre:ものづくり
〈 この連載・企画は… 〉
日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。
writer profile
Sayo Takahashi
高橋さよ
たかはし・さよ●高知生まれ、高知育ち、高知在住のフリーライター。高知のことなら何でもどこへでも取材にいく。尊敬する人物は土佐清水市の英雄・ジョン万次郎。「鰹のたたき」はタレとタマネギたっぷりが好み。
credit
撮影:井戸宙烈(studio.ZONE V)
straw farmからつながる高知の森のはなし
太平洋に面した高知県だが、すぐそばには雄大な山々が迫る。
県土の84%を森林が占め、森林率は全国1位。
清流・四万十川や仁淀川、豊富な資源を有する海も、
この大きな森林によって守られてきた。
だからこそ、人と森林の関わりも密接。
人工林率は65%とこちらも全国2位の高い割合だ。
しかし、木材価格の低迷によって森林環境は荒廃。
森はもちろん、川や海にも悪影響を与え始めていた。
そこで、全国に先駆けて平成15年に「森林環境税」を導入。
森の保全だけでなく、子どもたちの森林環境教育や、
県産材の利用支援などにも活用されている。
また、県産材にこだわったプロダクトも数多く誕生。
安芸郡馬路村を中心に自生する「魚梁瀬杉」や
鮮やかな色と香りが特長の「土佐ヒノキ」など良木の生産地である誇りと、
高知らしい自然環境を守るため、今日もだれかが森を思い、木と向き合っている。
「ものづくりをしたい」。その思いに帰る
高知県東部、安芸市の長閑な住宅地に豊かな木の香りが漂っている。
昔懐かしい佇まいの工房で乳幼児向けのおもちゃをつくる
「straw farm(ストローファーム)」。
オーナーの萩野和徳さんは大阪出身で、以前は新聞制作の仕事に携わっていた。
「高校生の時に宮大工になりたいと悩みながら、別の道に進んだんです。
でも、やっぱり『ものづくり』が好きで、その仕事がしたかった」
退職し、職業訓練学校へ通いながら大工の技術を取得。
「田舎も好きだった」ことから、両親のふるさとである安芸市にIターン。
親戚が暮らしていた建物を工房にし、平成12年に創業した。
「木を使ったものづくり」とひと口に言っても選択肢はいろいろある。
工房や自宅の修繕を自らの手で行った萩野さんだけに
大工か? 家具づくりか? と生き方に悩んだ。
そして、最終的に選んだのは「木のおもちゃ」。
その選択には「ものづくりで生きていく」という萩野さんの覚悟が垣間みられる。
「いまの日本において国産木で家をつくることは、本当に少なくなっている。
それに、家具づくりにはすでにたくさんの匠がいるから
自分が新しく参入したところで勝負はできない。
でも、木のおもちゃはライバルが少なかった。それがスタートの理由です」
取材だからといってキレイごとでごまかさない正直で真摯な萩野さん。
その性格は製品にも表れている。
自身にもかわいい子どもがいるから、
子どもに安全なものを持たせたい親の気持ちがよくわかる。
だからこそ、製品の安全性には絶対の自信を持つ。
使う木材は高知県産のヒノキ、桜、ケヤキなど。
研磨をしっかりかけて、子どもの柔肌を傷つけないなめらかさに。
着色はせずに、亜麻仁オイル(クリア)でコーティング。
赤ちゃんが舐めても、少しの不安も抱かなくてすむ。
「お子さんがこんなふうに遊んでいたとか、
親御さんから『安心して遊ばせられる』とか、
感想の電話やはがき、製品レビューをいただけるのが嬉しい。
自分が楽しいし人にも喜んでもらえることが、ものづくりの魅力ですね」
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おもちゃの可能性は、子どもの可能性
straw farmでデザインを担当しているのは妻の陽子さん。
両親が教職だったことから、自身も大学で幼児教育を学んだ。
しかし、湧いてくる感情は「教職に就きたい」ではなかった。
「大学時代、特に好きだったのが図工の授業。
でも、それは『人に教える』という意味ではなく、
『自分が好きで、自分がやりたい』だったんです。
卒業論文も嫌で、おもちゃを制作しました」
卒業後はやはり教職には就かなかった。
そして、ご主人と結婚し、自然な流れでものづくりの道に進んだ。
おもちゃをデザインする時には、いくつかのポイントがある。
軽くて手触りもいい「ヒノキ」が多く使われるが、細くしすぎると
木目に沿って割れやすくなる。デザインにおいても安全性は重要だ。
また、遊び方を強制しない「ゆるさ」も欠かせない。
straw farmの看板商品である「おふろでちゃぷちゃぷ」は、
ヒノキでつくった魚たちをお風呂に浮かべ、網ですくうというおもちゃ。
でも、それだけではない。崩れないよう魚を積み上げれば、バランス遊びになる。
収納箱に魚を入れるときは、パズル遊びになる。
さらに香り豊かな高知県産ヒノキだから、
お風呂に浮かべればヒノキ風呂気分が楽しめる。
いま、この製品を持っている家庭へ行けば
もっとたくさんの遊び方に出会えるかもしれない。
「ひとつのおもちゃでも、いろいろな遊びができるようにしたいと思っています。
例え定番のおもちゃでも、どこか個性が光るように……」
陽子さんがstraw farmのおもちゃに込める思いは、我が子を思う母の思いにも似ている。
「同じ鍋のみそ汁」でひとつになる
straw farmの工房には、現在10名のスタッフが働いている。
木工品製造は「男性の職場」のイメージが強いが、ここは全員が「女性」。
労働時間など雇用条件が家庭を持つ女性に最適だったこともあるが、
「女性でもものづくりの仕事ができる」ということが魅力になり、
ものづくりが好きな地元の女性がぞくぞくと集まってきた。
「製造工程は自動ではなく、機械を使った手づくり。
大企業にはできない『つくり』になっているので、
細かい作業も根気よくやってくれる女性スタッフは大きな支えですね」
各工程を分担してひとつの商品をつくり上げるので一体感も大事。
最近では萩野さん自ら工房の台所に立ってみそ汁をつくり、
お昼は全員が「同じ釜の飯」ならぬ「同じ鍋のみそ汁」をすする。
スタッフの間に流れるおだやかな雰囲気が、そのまま製品に表れているようにも感じる。
「日本全体でものづくり自体が難しくなって、
ものづくりがどんどん消えていっているのは事実。
そのなかで木のおもちゃは、まだまだやっていけると信じています。
厳しい状況こそが、僕たちにとってはチャンスなんです。
ものづくりが好きだからこそ、いつまでも続けていきたい」
ここは、ものづくりを愛する人々が築いた場所。
そこから生まれる製品には嘘がないから、純粋な子どもたちにも愛されるのだろう。
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木のある暮らし 高知・straw farmのいいもの
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straw farm
ストローファーム
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