連載
posted:2014.11.21 from:岩手県陸前高田市・気仙郡住田町 genre:ものづくり
〈 この連載・企画は… 〉
日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。
text & photograph
Emiko Hida
飛田恵美子
ひだ・えみこ●茨城出身、神奈川在住。「地域」「自然」「生きかた・働きかた」をテーマに、書くことや企画することを生業としている。虹を見つけて指さすように、この世界の素敵なものを紹介したい。「東北マニュファクチュール・ストーリー」の記事も担当。
KUMIKI プロジェクトからつながる森のはなし
岩手県は、森林面積1,174,000haを誇る本州一の森林大国だ。
林業生産高は全国6位。県では木材製品の生産促進や木質バイオマスエネルギーの
利用促進など、木材産業の育成強化に努めている。
今回は、そんな岩手県の中でも、森林面積が90%を超え、
「森林・林業日本一のまち」を目指す住田町から生まれたものづくりを紹介したい。
完成させるのは、キットを手にしたあなた! スギを使ったDIY木材キット
日本人にとって馴染みの深い木であるスギ。その学名をご存知だろうか。
Cryptomeria japonica(クリプトメリア・ジャポニカ)。
意味は「隠された日本の財産」。実は、スギは日本の固有種なのだ。
加工のしやすさから用材として使われ、室町時代から植林が始まったといわれる。
長い間、スギと人はお互いに支え合ってきた。
それがいま、建材としての需要低下や輸入材の増加から、
全国で放置されたスギ林が増え問題となっている。
全国の宮大工の源流といわれる気仙大工たちの故郷・岩手県気仙郡住田町でも、
それは他人ごとではない。
地域材を活用し、美しい森を取り戻したいーー。
そんな想いから生まれたのが、「KUMIKI プロジェクト」だ。
その看板商品がこちらの「KUMIKI LIVING」。
パーツを組み合わせ、ボルトレンジで留め、木のねじで蓋をする。
この3ステップだけで簡単に家具がつくれるDIY木材キットだ。
板材は岩手県と秋田県のスギを、ジョイントは岩手県の山桜を使用している。
スギ材は軽いので、女性でも難なくつくることができると好評だ。
組み立てると、こんなおしゃれなスツールに。
ちょっと腰掛けたり、読みかけの本を置いたり、いろんな用途に使えて便利。
将来的には天板と入れ替えてローテーブルになるなど、
変化する家具を目指していくという。
こちらは、気仙杉の木目や色味を生かした「ピクニックマット」。
公園でお弁当を食べたり、ベランダで本を読んだりと、
ぱっと広げればいつでもどこでもピクニック気分を味わえると評判だ。
KUMIKI プロジェクトでは、ピクニックマットをつくる
DIYワークショップを各地で開催し、
たくさんの人に“間伐材を活用する必要性”を伝えている。
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つくり手と使い手。生産地と消費地。製品を通して、あらゆるものの分断をつなぎ直す。
KUMIKI プロジェクトを主宰するのは、TSUMUGI inc.の桑原憂貴さん。
桑原さんは震災後、勤めていた仕事の関係で陸前高田市や住田町と関わりができ、
森が荒れている現状を知ってこのプロジェクトを始めた。
完成品ではなく、購入した人が自分で完成させるDIYキットにしたのには理由がある。
「震災を経験して、いままで便利だと思っていた暮らしが、
一瞬で人の命すら危うくするものに変化する怖さを感じました。
その原因はなんだろうと考えたときに、
暮らしを自分たちの手でつくれていないからだと気づいたんです。
食べものも着るものも住むところも、何ひとつつくれていない。
誰かが完成させたものを買うだけ。だからこんなに危険で不安なんだ、と。
もう少し、“手でつくる暮らし”を取り戻したいと思いました」
ただ、商品の構想は思いついたものの、
地元で一緒に取り組むパートナー探しには苦労したという。
スギは柔らかくて加工しづらいため、いままであまり家具に使われてこなかった。
何軒も家具屋を回ったが返事は渋いものばかり。
唯一、「やってみっか」と言ってくれたのが、
住田町で何十年も営業してきた森谷材木店だ。
森谷潤社長はこう話す。
「このあたりも、手入れされてないぼうぼうのスギ林が増えました。
土がむき出しになって土砂災害が起きやすくなるし、
スギも生き残るために花粉の飛散をまき散らす。これはよくない状態です。
本当はちゃんと間伐して製材して、木を使わなくちゃいけない。
それに、ここ10年20年で材木店の数はぐんと減りました。
うちが生き残ることができたのは、新しいことに取り組んできたから。
だから今回も、桑原くんと一緒に挑戦してみようと思ったんです」
試行錯誤を重ねて完成し、今年から販売を開始した
KUMIKI LIVINGやピクニックマットは、購入者から
「木の質感が心地良い」「みんなでつくるのって楽しい」と好評だ。
桑原さんはそうした声をもとに、商品やコンセプトの改良を重ねている。
「いま、あらゆるものが効率化のために分断されていると思うんです。
つくり手と使い手、生産地と消費地とはっきり分かれてしまったために、
お互いへの想像力が失われています。
でも、使い手がつくり手の立場を経験することで、
気づくことがあるんじゃないかと思います。
樹種や産地による手触りや硬さ、木目の違い。
そういうところから、生産地への関心や、
環境への意識が高まるかもしれない。KUMIKIの商品を通して、
分断されてしまったものをもう一度つなぎ直したいと考えています」
現在、復興住宅建築のため、木材需要は一時的に高まっている。
地域の材は入りにくいし、材木屋や製材所は大忙しで
ほかのことをする余裕がないところも多い。
しかし、それは長く続くものではない。
「数年後の未来を見据えた動きをする必要がある」と桑原さんは話す。
「数年経って復興需要が落ち着いたころ、
山に残った切り株や間伐材の活用が再び問われることになると思います。
僕らは、そのときにそれらを有効活用できるよう、
いまは売れる商品と売れる市場を築きあげ、事業の地盤を固めたいと考えています」
大規模な設備を持たない材木店や製材所が、
地域の材のうち、使いづらいものを有効活用して
新しい仕事と収入源をつくっていけるようにサポートする。
それが桑原さんの目標だ。
林業のまちの片隅ではじまった、未来のためのものづくり。
KUMIKIのこれからに注目したい。
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木のある暮らし 岩手・KUMIKI プロジェクトのいいもの
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TSUMUGI inc.
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