連載
posted:2014.11.14 from:山形県山形市 genre:ものづくり
〈 この連載・企画は… 〉
日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。
writer profile
Kanako Tsukahara
塚原加奈子
つかはら・かなこ●エディター/ライター。茨城県鹿嶋市、北浦のほとりでのんびり育つ。幼少のころ嗜んだ「鹿島かるた」はメダル級の強さです。
credit
撮影:ただ(ゆかい)
家具工房モクからつながる森のはなし
山形県の総面積の約7割は、森林が占めており、
水、木材、食料、信仰など昔から山の恵みと人々は密接に関わってきた。
出羽三山、奥羽山脈などの高峰を有する山地は、
ブナやナラなど広葉樹が多い天然林で、
なかでも日本の山の原風景と言われるブナの天然林面積は日本一だ。
人里に近い雑木林では薪や整炭の材料としてコナラやミズナラが
かつては、人々の暮らしの燃料源として多く活用されていた。
一方、人工林のなかで8割以上を占めるのがスギ。
まっすぐ生長するので寺社、家などの建材に向く。金山町の「金山杉」、
西村山地域(大江町、朝日町、西川町)の「西山杉」などの産地をはじめ、
多く植林されているがどこでも木材需要が減少しているのが現状だ。
森林組合、工務店、建築家、職人が連携し、
地域材を使った住宅づくりが推進されている。
木と向き合い続けた日々
家具づくりを始めて、26年。
渡邊英木さんは、山形県山形市で「家具工房モク」を立ち上げ、
これまでダイニングテーブルやイス、つくり付けの家具など
オーダーメイドを中心に無垢の家具を手がけてきた。
さくらんぼの果樹園を有する実家の敷地で、鶏小屋だった建物を工房に、
築100年という蔵は、ギャラリースペースに改装したという。
渡邊さんが工房を始めてからずっとこだわっているのは無垢材。
工房の中にも、外にも乾燥中の木材が多数並んでいる。
「ここ数年、無垢材を希望する方は多くなった気がします。
本来の木に近いような天然オイル仕上げだと、
以前は傷つきやすいことがクレーム対象になることもありましたが、
それが、味わいだと思う人が増えています。
僕が木の家具づくりを始めた当初はバブル絶頂の大量生産の時代。
1点ものの無垢の家具をつくるなんて、ほとんど変わりもの扱いでした(笑)」
と渡邊さんは振り返る。
世界的な木工家具デザイナー、ジョージ・ナカシマの家具に感銘を受け、
渡邊さんは、22歳のときに大学を中退して家具作家を志す。
山梨の工房で3年ほど経験を積んだあと、実家の山形に戻り工房を開いた。
「でも最初は食っていけないんで、大工さんの内装工事の
手伝いなんかをやらせてもらいながら、自分で家具をつくっていました。
当時はインターネットもないですから、宣伝活動もままならない。
とにかく展示会に出品して、自分の家具を知ってもらう。
私自身も有名デザイナーの家具の展示会にはよく足を運び、勉強しました」
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技術や展示会の情報のソースはほとんどが雑誌や書籍。
渡邊さんの本棚にはそれらの本がたくさん詰まっていた。
目で見て、雑誌で読み、実際に手を動かしながら、
もくもくと木と向き合う日々。
途中で辞めようなどとは思わなかったのか伺うと、
「大学を中退していますからね、
やっぱり親にひけめもあったし、意地もあったのかもしれません。
でも途中で辞めてしまったら、何も意味がないですから。
特に木を知るというのは、とても時間がかかることだと思います」
渡邊さんが使う材料は、すべて山形県内で育った木。
現在は、クルミ、クリ、ケヤキ、ライジンボク、ホウノキ、イタヤカエデ、
ケンポナシなど、強度や特性を考え適材適所に使い分けている。
「最初は資金、知識もないので、手に入りやすい木材を使いました。
だから身近な木材を使うのが私にとっては当たり前。
そのうち家具をつくりながら、木の特性がわかって、自分の好みも出てくる。
クリは脂分が多いので、時間が経つと色が濃くなり、経年変化が楽しめる。
クルミも特有の色があり、割れにくい材料なので、
乾燥もケヤキから比べると半分で済むんです」
しかしいま渡邊さんが困っていることがこの大切な「材料の確保」。
豊富な森林資源を有する山形県でも、
市場に出回るのは植林されているスギかマツが多く、広葉樹はほとんどない。
スギなどの植林された山にときどき見つかる広葉樹の原木を仕入れ、
自ら伐採に赴き、製材まで立ち会うが、そんな機会も少なくなっている。
さらに林業関係者が高齢化し、目利きが少なくなることも危惧する。
「例えば、この山の斜面に立っていた木だったら
どのくらい目の積み方がしっかりしているかなど教えてほしいけれど、
若い人ではまだまだわからないことも。
つくるほうもそうですが、木材を見るにも年季が必要なんですね」
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素材の良さを一番に感じられる無垢の家具だからこそ、
材料となる木材も厳選していく。
シンプルな機能を追求して削られた渡邊さんの家具からは、
素材である木への深い愛情が伝わってくる。
お客さんに一生使い続けてもらえるよう、
ひとつひとつを丁寧に手仕事で仕上げていく。
イスの座面を削るだけでも、大小さまざまな鉋で削り分ける。
それぞれ作業は並行して行うというが、
イス1脚を仕上げるのに平均1週間以上はかかるという。
そうやって手間ひまかけるのも、
時を重ねて深まる木の味わいを楽しんでほしいから。
「無垢の家具って、完成したときがいいんじゃなくて、数年後がいいんですよね」
それが、無垢の家具の面白さだと渡邊さんは語る。
無垢の家具というと、メンテナンスが大変……という声も聞く。
しかし、汚れが気になるときはオイルで拭くだけで、目立たなくなるという。
思ったよりも簡単なことにびっくりするが、
そうしてメンテナンスしていけば、愛着もいっそう増していく。
「最近、木が人みたいに性格を持っているなと思うんです」と渡邊さん。
同じ樹種でも、固さや滑らかさがちがうこともある。
さらに、節があったり割れたり曲がった木材もある。
工場だと、弱点だと思われる木の性格を、
生かすも殺すも職人の腕の見せどころというわけだ。
「原木が曲がっているなら、そのカーブをそのまま残した家具を考えるんです。
そうすると、最近は曲がっているものばかりが好きになってしまって(笑)。
でも、自然に育ったままをどうやって家具にするかを考えるのが面白い。
そこが、無垢の家具であり、量産と違うところかなと思っています」
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木のある暮らし 山形・家具工房モクのいいもの
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家具工房モク・木の家具ギャラリー
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