連載
posted:2014.11.12 from:福島県二本松市 genre:ものづくり
〈 この連載・企画は… 〉
日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。
writer profile
Emiko Hida
飛田恵美子
ひだ・えみこ●茨城出身、神奈川在住。「地域」「自然」「生きかた・働きかた」をテーマに、書くことや企画することを生業としている。虹を見つけて指さすように、この世界の素敵なものを紹介したい。「東北マニュファクチュール・ストーリー」の記事も担当。
credit
撮影:山本恵太
北風木工所からつながる福島の森のはなし
北海道、岩手に次いで広い面積を持つ福島県。そのうちの71%、
実に9,754㎢は森林で覆われている。これは全国で4番目の広さだ。
針葉樹よりも広葉樹の占める割合が高く、特に桐の生産量は日本一。
桐は軽くて湿気を通さないため、家具に使われることが多い。
二本松ではこの桐を使って、美しい民芸箪笥を300年もの間つくり続けている。
福島県を代表する城下町・二本松で、
脈々と受け継がれてきた建築大工たちの技。
子どもの頃、冬が近づくと母が箪笥から手袋を出してくれた。
母が父のもとへ嫁いできたときに持ってきた和箪笥。
飾り金具を引いて抽斗から衣類や裁縫道具を取り出す母の動作は美しく、
不思議と記憶に残っている。
その光景を思い出すと、洋室に合うチェストもいいけれど、
ひとつくらいは質のいい和箪笥を部屋に置きたい、と思う。
今回は、そうしたどこか懐かしく趣のある和箪笥のひとつ、
二本松民芸箪笥の魅力を紹介したい。
二本松の箪笥づくりの起源は、
二本松藩の初代藩主・丹羽光重による二本松城の大改修にあるといわれる。
建物だけでなく城内の調度品も手がけた建築大工たちが、
その技を生かして箪笥づくりを始めたのだ。
表面には丈夫で耐久性のあるケヤキ、抽斗には吸湿性の高い会津桐を使うことが多く、
機能的なつくりをしていることが特徴。仕上げは丁寧で、職人の心意気が感じられる。
その心を脈々と受け継ぎいまに伝えるのが、
国道4号線沿いに店舗を構える「北風木工所」だ。
企画部長の北風哲夫さんは、子どもの頃から工場で職人たちの背中を見ながら育った。
「工場が遊び場のようなもので、隅っこで船なんかをつくっていました。
職人たちの姿を見ているうちに、自然と覚えちゃうんですね。
“習うより慣れろ”というけど、あれは本当にそうだと思います」
会津で育った桐は冬の厳しい寒さに鍛えられ、木目が緻密で堅牢になる。
吸湿性に優れているため、抽斗の材としては最適だ。
ただ桐材はアクを含むため、そのままにしておくとやがて黒く変色していく。
これを防ぐため、製材したら一度雨風にさらして“渋抜き”をする必要がある。
いまは分業が進んで製材所から木材を買うようになったが、
昔は二本松のあちこちで建物に桐材を立てかける光景が見られたという。
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数人でひとつの箪笥を制作するのではなく、
二本松ではひとりの職人がひとつの箪笥をすべて制作する。
そのため覚えることが多く、一人前になるのに10年はかかるという。
北風木工所で箪笥職人を務める松原吉文さんも、
何年もかけて先輩たちから技を盗んでいった。
「木材をカットするときは機械を使うけど、細部の仕上げはカンナを使います。
カンナで削ると、滑らかな質感が出ますから。
よく切れるようにしっかり刃を研いでおかなくちゃいけません。
先輩からは、“いい道具をつくらないといい家具はつくれないんだぞ”と教わりました」
伝統の技法を受け継ぎ仕事に誇りを持って取り組んでいる。
しかし、二本松の箪笥職人の数は年々減る一方だ。
昔はたくさんあった工場も、いまは両手に数えるほど。
日本の住宅の洋風化が進んだためだ。
和箪笥が現代のライフスタイルに合わなくなりつつある現状を打破しようと、
二本松木工家具組合は平成4年に「二本松城家箪笥」という統一ブランドを発表した。
伝統の和家具の良さを踏襲しつつも、金具、寸法、色、素材を
現代の生活様式に合うようリデザインしたもので、
福島県伝統工芸品の指定も受けている。
こうした努力の甲斐あってか、最近は若い人の間でも民芸箪笥の魅力が見直されている。
店長を務める田之上幸一さんは、店を訪れた人に地域材の特徴や細部へのこだわり、
民芸箪笥のある暮らしの良さを伝える。
「洋風の家が増えたといっても、一室は疂の和室にするというケースが多いでしょう。
疂の上にちゃぶ台があって、木製の和箪笥があって……という部屋は、
どこかほっとする。日本人のDNAなんでしょうかね。
民芸箪笥を目の前にすると、やっぱり“あぁ、いいな”と感じると思うんです。
古き良き日本の魅力というのかな、そういうのを伝えられたら、と思っています」
堂々とした佇まいながらどこか懐かしくてほっとする、二本松民芸箪笥。
あなたの暮らしにも、取り入れてみてはいかが?
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木のある暮らし 福島・北風木工所のいいもの
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北風木工所 (株)家具会館
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