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〈カマルクジャパン〉が切り込むのは
日本人が持っている家具への価値転換。
家具のサブスクリプションとは?

KAI 先端研究所
vol.003(Season7)

posted:2018.10.9  from:東京都  genre:ものづくり

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  創業110周年を迎えた貝印。歴史ある企業こそ革新を怠らぬことが肝心。
7シーズン目となるKAI×colocalは、未来的な思考、仕組み、技術(ソリューション)を持つ
新進スタートアップ事業者を訪ねます。

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Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影:岩本良介

音楽や映画のように、家具も定額で

音楽や映画などを、定額で観ることができるサービスを利用している人も多いだろう。
このように月額などの定額サービスを受けられる仕組みをサブスクリプションという。
近年話題の用語だ。
新しいサービスの仕組みゆえ、まだまだその文化は一般に浸透しきってはいないだろう。

ここで、到底サブスクリプションに向いていなそうな商材を
“サブスク”モデルで扱うサービスに挑戦している企業がある。
家具ベンチャーの〈カマルクジャパン〉だ。

シンガポールでOEMの家具製造を担う工場の代表であった和田直希さんは、
OEMだけでなく自社ブランドを立ち上げて表に出たいと思っていた。
そんなとき町野 健さんと出会い、2015年に〈KAMARQ〉を立ち上げた。

〈カマルクジャパン〉代表取締役社長の町野 健さん。

〈カマルクジャパン〉代表取締役社長の町野 健さん。

「家具業界では新しいことに挑戦している企業はかなり少ない。
だからこそ、逆にやれることがたくさんあります」と言うのは、
〈カマルクジャパン〉代表取締役社長の町野 健さんだ。

「私は以前、キュレーションメディア〈antenna〉にいました。
〈antenna〉を立ち上げた当初、メディアの経験はありませんでした。
今回も同様に家具業界のプロではありません。
しかし、わからないからこそ新しいことができるというのが私の信条です」

立ち上げ当時から大きなビジョンを持っていたわけではない。
家具×インターネット、つまりIoTでおもしろいことをやりたいという
漠然としたものだった。
しかし「自社工場を持っているということは最大の強みになると思った」という。

〈カマルクジャパン〉のオフィス内は、さながらオリジナル家具のショーケースのよう。

〈カマルクジャパン〉のオフィス内は、さながらオリジナル家具のショーケースのよう。

まず取り組んだ商品は〈SOUND TABLE〉。
テーブルの天板全体がスピーカーになっているもので、
音源再生などのコントロールはスマートフォンで行う。
IoTをわかりやすく具現化したのだ。
とにかく何かをカタチにしないとわかりにくいということで、
急ピッチでつくり上げたが、これが特に海外で受けた。

最初に商品化したスピーカー内蔵型テーブル〈SOUND TABLE〉。音楽好きの和田さんと町野さんらしいアイデア。(写真提供:カマルクジャパン)

最初に商品化したスピーカー内蔵型テーブル〈SOUND TABLE〉。音楽好きの和田さんと町野さんらしいアイデア。(写真提供:カマルクジャパン)

「普通の家具で音が出るというものは意外と少なくて、海外でバズりました。
それでアメリカで行われた大きなスタートアップイベントに、
この〈SOUND TABLE〉をプレゼンしに行ったんです。
そこで出合ったのが、サブスクリプションの波でした」

2016年、当時のアメリカはサブスクリプションブーム。
日本ではまだあまり語られていなかったそのビジネスモデルだったが、
アメリカではこれから多くのサービスがサブスクリプションになっていくという。
そこで家具とサブスクリプションを組み合わせたらどうなるのか。
イノベーション好きの町野さんがそう考えたのは必然かもしれない。
そこから事業計画を練り始め、
今年2018年の3月にベータ版、5月には正式にローンチを果たした。

〈QM weather.(クムウェザー)〉はインターネットの天気情報に合わせて変化するIoTサイネージ。

〈QM weather.(クムウェザー)〉はインターネットの天気情報に合わせて変化するIoTサイネージ。

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早く気軽に家具を買う仕組みにも

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家具のサブスクリプションって?

〈カマルクジャパン〉が手がける家具のサブスクリプションサービスは
〈subsclife(サブスクライフ)〉という。
3か月から24か月までの利用期間のうち、月ごとに設定価格があり、
安いもので月500円から家具を借りることができる。
利用期間が終われば、終了してもいいし、購入してもいい。もちろん継続や交換もありだ。

家庭であれば家族構成が変わるタイミング、
会社であれば社員が増えたり減ったりするタイミングなどで使いやすいだろう。
〈subsclife〉を利用すると、オフィス移転の家具購入費が
約20分の1になるという試算も出ている。

短期間の使用以外にも、特に個人などでは購入へ向けて動きやすくなるメリットも高い。
たとえば10万円の家具に最初から10万円を支払うのもいいが、
月3000円を払っていって、2年後に差額を追加して買い取ってもいい。
もし不要になったら解約して回収してもらえばいい。

ほしい家具があったならば、絶対にサブスクリプションのほうがお得だろう。
10万円の家具の例とすると、1年間や2年間利用して終了したとしても
支払う合計は80000円程度。10万円より安く済む。購入して売ったと考えればいい。
もちろん最終的に購入したならば、初期費用が抑えられるので、
早く気軽に家具を買えるようになる。

オリジナルブランド〈KAMARQ〉の家具。

オリジナルブランド〈KAMARQ〉の家具。

最近の家具業界は、高級メーカーは苦戦し、
手軽な商品を展開するメーカーが強い傾向だという。
しかし「一般ユーザーが高級メーカーやデザイン要素の高いものに
興味がないわけではない」という。

「家の中を快適にしたい思いはあるはずなんです。
だから手軽なものを買っている人は、値段以外の部分では満足していないと思います。
家具を変えると、部屋の景色が変わります。
〈subsclife〉のサブスクリプションを使って、
初期投資を抑えつつ良いものを買いたい、という需要は増えると思います。
それは新しい市場だと感じています」

たしかに新しい「市場」であり、新しい「買い方」だ。
きっとユーザーは今ある商品と比べて迷うだろう。
お手軽な商品に対しても、高級商品に対しても、質・デザイン・値段の面から比較して、
自分にとってのメリットを探っていく。
そのなかで〈カマルクジャパン〉の〈subsclife〉はどこに位置するべきか。

「たとえば、みんなが〈ユニクロ〉だけで生きているかというと、
そんなことはありません。僕も今日はユニクロのパンツですが、時計はいいものがほしい。
大金持ちの人だってユニクロを着ていたりします。つまり組み合わせとバランス。
だからサブスクリプションというかたちでリーチしていけば、
可能性があるのではないかと思っています」

オフィスの会議室には木材を使ったオリジナルの〈SIMPLES〉シリーズが使われている。

オフィスの会議室には木材を使ったオリジナルの〈SIMPLES〉シリーズが使われている。

家具は大きいし、高い。一度買ったら、大きな問題がない限りそうそう買い替えない。
〈カマルクジャパン〉は、その価値転換を図ろうとしている。
しかし引っ越しのたびに家財道具一式を持って移動する日本においては、
この価値観を変えていくのは容易ではないだろう。

「10年前は、インターネットで洋服を買っていませんでしたよね。
でもそれは普通のことになりました。
今はかつてより行動の変革は素早く起こるので、
これから数年でかなり変わってくるのではないでしょうか。
最近はバッグのサブスクリプションが人気なんです。
かつてバッグや時計などは、“所有してナンボ”の代表的なものでした。
しかし今は、そうしたものですら所有することに意味がないという価値観に
変容してきている。家具もそうならない理由はありません」

〈SIMPLES〉は鄭秀和さん率いる〈インテンショナリーズ〉によるデザインだ。

〈SIMPLES〉は鄭秀和さん率いる〈インテンショナリーズ〉によるデザインだ。

サブスクリプション、つまり所有しないということは、捨てることもないということ。
その観点からこのスタイルを支持している人もいる。
〈カマルクジャパン〉では回収した家具はインドネシアの自社工場で
すべてリビルドしている。
モノを無駄にせず、無闇に生産しなくて済むというのも、サブスクリプションなのだ。

家具は固定化、硬直化の象徴といえるかもしれない。そこに果敢に切り込んでいく。
町野さんは「面倒くさいところにソリューションはありますから」と意気込む。

「家具は一度買ったら、しょうがなく使っているケースが多い。
その発想から逸脱できることが価値観の転換だと思っています。
よく例えるのが家です。現金一括では買いませんよね。家具もそれでいいのでは?」

この価値転換が起こると、家の中の楽しさがアップするだろう。
1年に1回どころか春夏秋冬、季節ごとに。
家の中でのライフスタイルそのものを変えていくのかもしれない。

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何も所有しない時代になるかも……

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サブスクリプションの本丸はコミュニケーションの継続性

家具は頻繁に購入するものではないので、
ユーザーの多くはショップや家具メーカーとの関係性は希薄だと思う。
しかしサブスクリプションならば、そのつながりを強固にすることができる。
継続的にユーザーとコミュニケーションをとることができるのだ。

「実はそこが本丸です。毎月、課金しているという関係性はとても強固なもの。
会員に対して、例えば限定イベントに招待することもできますし、
化粧品のサンプルを配ることも、雑誌を配ることもできます。
新しいビジネスを展開することができるので、夢が広がりますよね」

サブスクリプションの波は、日本でもどんどん広がりをみせている。
それをビジネスの中心に据えた町野さんは、
サブスクリプションというものの現状と未来をどう考えているのだろう。

「すでに物質的に満たされて久しい世の中。
もう大きな意味では機能=ファンクションに差はありません。
そうなると営業努力か、値下げしか道はない。
その中間ともいえるサブスクリプションが新しいスタイルとなる流れは当然です」

そうなると、何も所有しなくてもいい世の中になっていくのではないか。

「おっしゃる通り。仕事はどこでもできる時代になり、“場所”の概念も変わってくる。
どこでも泊まれるようなサブスクリプションのホテルもでてきています。
車もどんどんなくなっていくと思いますよ。自動運転化が進むと運転の必要がない。
車体の価値がゼロになり、マイカーでなくすべてがタクシーのようになる。
そうすると利用料がすべてになるので、“月3万円でタクシー乗り放題”というような
サブスクリプションサービスになっていくのではないかと」

イメージカットからも、ライフスタイルへの提案が伝わってくる。(写真提供:カマルクジャパン)

イメージカットからも、ライフスタイルへの提案が伝わってくる。(写真提供:カマルクジャパン)

町野さんはこれからの目標を
「家具をサブスクリプションで買うことを一般化していくこと」に尽きるという。
新しい買い方なので、文化をつくっていかなくてはならないのだ。

〈subsclife〉ではこれまでのオリジナル家具以外にも、
〈journal standard Furniture〉や〈ACME Furniture〉など、
他社ブランド家具の扱いもスタートした。
その先には「部屋の中を楽しめる状況をつくりたい」という思いがある。
“サブスクライフ”は、現代の多様で自由なライフスタイルに適しているのだろう。

会議室の片隅にも、サブスクリプション。

会議室の片隅にも、サブスクリプション。

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カマルクジャパン

住所:東京都渋谷区神宮前4-3-15 東京セントラル表参道218

https://kamarq.net/

subsclife

https://subsclife.com/

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貝印株式会社

1908年、刀鍛冶の町・岐阜県関市で生まれた貝印は、刃物を中心に、調理器具、化粧小物、生活用品、医療器具まで、生活のさまざまなシーンに密着した多彩なアイテムを製造・販売。現在は、日本だけでなく、欧米やアジア諸国など世界中に製造・販売拠点を持つグローバル企業に発展しています。
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