連載
posted:2013.11.26 from:徳島県板野郡藍住町 genre:ものづくり
sponsored by 貝印
〈 この連載・企画は… 〉
「貝印 × colocal ものづくりビジネスの未来モデルを訪ねて。」は、
日本国内、あるいはときに海外の、ものづくりに関わる未来型ビジネスモデルを展開する現場を訪ねていきます。
editor profile
Tetra Tanizaki
谷崎テトラ
たにざき・てとら●アースラジオ構成作家。音楽プロデューサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の 発信者&コーディネーターとして活動中。リオ+20など国際会議のNGO参加・運営・社会提言に関わるなど、持続可能な社会システムに関して深い知見を持つ。http://www.kanatamusic.com/tetra/
photographer
Suzu(Fresco)
スズ
フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。https://fresco-style.com/blog/
青は藍より出でて藍より青し。
藍からうまれる青はその工程の複雑さをへて、
もとの植物の藍をしのぐ鮮やかな青へと深化する
鎌倉時代には、武士が一番濃い藍染を「かちいろ(勝色)」と称した。
究極の「勝負パンツ」を作りたいという
ログイン株式会社の野木社長に連れられ、
コロカル取材班は、藍染めの本場、板野郡藍住町へとむかった。
佐藤阿波藍製造所 十九代目藍師 佐藤昭人さんが
製造する「藍づくり」の作業場を訪れた。
佐藤さんは徳島県特産の染料、藍づくりの伝統を守り続けている藍師。
阿波徳島で十八代続く藍師の家に生まれ、
10歳の頃から祖父に藍づくりの手ほどきを受け、
江戸時代から続く「すくも」の製法と天然灰汁醗酵建てという
日本古来の染色技法を継承した人物だ。
現在、「阿波藍遺産と製造技術」の無形文化財の指定を受け、
600年続く伝統の製法で藍染めの原料を作っている。
国が指定する卓越技術者「現代の名工」のひとりだ。
取材に伺った11月初旬、夏の間に刈り取った藍葉を、
寝床と呼ばれる倉庫で発酵させていた。
藍の染料である「すくも」をつくるため、
天日で乾燥させた藍の葉に水をかけて発酵させる作業である。
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日本の藍は太平洋戦争中に国策により、禁止作物とされた。
戦時中の食料増産に田畑を使用するためである。
蓼藍は1年草のため、藍の栽培が途絶えると阿波藍の歴史が終わる
「それでは600年を超える阿波藍の歴史がとだえることになる。
わたしの祖父、十七代目佐藤平助が、戦時中、藍の種を持って密かに山へと入り、隠し畑をつくったんや」
もちろん当時の憲兵に見つかれば、重罪は免れない。
里離れた山奥、密かに命がけで毎年種を取り続けてきたという。
「うちのは白い花が咲く。普通は赤い。
白い花咲く藍はうちだけじゃ。その藍が一番じゃけ。6年間守っとった」
戦後は外国からの化学染料が普及して、藍の農家は激減した。
阿波藍も昭和60年ごろには生産農家が佐藤家だけとなった時期もある。
「3月になるとツバメが来る。
そうすると藍の種蒔けと教えられた」と佐藤さん。
藍は3月に種をまき、夏に刈り取り、9月上旬の大安の日、
「寝せ込み」が始まる。
醗酵させることを「寝さす」という。
「毎年10月の15、16日くらいに吉野川に鴨がおりてくるんよ。
そうするともう一枚、ふとんをかけるんや。
鴨が降りたら10日以内やな」
ふとんとは藍にかける藁のこと。
寝せ込み後、5日目毎に汲み上げた地下水を打ち、切り返し作業をする。
温度計も湿度計もない現場である。
においと手触りで、その日の水の量を決めていく。
「そのころの銀杏の葉の色はこんなやって頭に入っとる。
それを見ながら、ふとんを2枚、4枚と重ねるんや。
6枚になったらもう銀杏の葉ではないんよ。
木枯らしの寒さやな。これは職人じゃないとわからんな」
藍のにおいと銀杏の葉と吉野川の鴨。
「すくも」づくりは、自然の観察と長年の経験に培われている。
手をいれると火傷するほど熱い。
作業場の室温は65度になる。
返しの作業は2時間以内で行わないと冷えてしまう。
体力勝負の男の現場だ。
こうして蓼藍の葉を醗酵させた染料の元「藍・すくも」ができる。
日本のすくもの6割が佐藤さんの手によるものだ。
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「現在、日本国内での藍染めはその殆どが化学的なものとなってしまっている。
藍でまちおこしをしている徳島でさえ“偽物”が氾濫している状況です」
本藍染矢野工場の矢野藍秀さんは語気を強めた。
矢野さんは、「天然灰汁発酵建てによる本藍染」という江戸時代から伝わる伝統技法を用いて、全ての製品を染めている。
化学薬品を一切使用しない。
藍師 佐藤昭人氏が製造する「藍・すくも」を使い、そこから「藍」の色を引き出し染める職人だ。
伝統的な蓼藍の葉を発酵させた「すくも法」、
自然物のみを使用した「天然灰汁発酵建て」の技術で染められた藍染法は
わずか1%程度だという。
色だけ藍染めに似せた「藍染め風」のものが、
本物の藍と同じように並べられている。
「他の地域はともかく、徳島は阿波藍の故郷なんだから。
せめて県内だけでもしっかりしてほしい」
偽物とはどんなものだろう。矢野さんはこう説明する。
「最悪なのは化学染料で染めているのを藍染めと言っている。
あと原料として“すくも”は使うんだけど、
灰汁のかわりに苛性ソーダを使っているもの。
そうすると色は出るけど、堅牢度がないものになる」
藍は色が移るという人がいるけれど、それは化学染料を使っているからだという。
取材班は矢野さんにお願いして、
本物の藍染め「天然灰汁発酵建てによる本藍染」を見せてもらうことにした。
水に溶けない藍を発酵という過程で液体化し、
染色出来る状態にすることを「藍を建てる」という。
本物の本藍はすくもを灰汁に溶かし、日本酒、石灰、ふすまを段階を追って加えていく。
立ち上げまでに十日かかる。この技法を「発酵建」という。
藍の状態にあわせて工程をふんでいく。
藍は生きている。
日々変化する発酵状態を見ながら藍を建て、染めを行う。
染めは一瞬にして決まる。
本物の本藍は色移りもしない。
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いよいよ今回の取材のクライマックス。
佐藤さんのつくる阿波藍のすくもを使った究極の包帯パンツ。
天然灰汁発酵建てによる矢野さんの手による本藍染にとりかかった。
藍華を丁寧にすくいあげ、包帯パンツを藍へと浸す。
瞬時に変わる色を見ながら、矢野さんは染め上げていく。
「勝ち色を出すためには20回以上染めます」
染めたパンツを水にさらす。
さらにこの工程を何日も繰り返していく。
残念ながら次期オリンピック向けの商品が完成するのはしばらく先になりそうだが、
「天然灰汁発酵建て」による本藍染の包帯パンツは
まずニューヨークに進出を考えている。
「グランドセントラルに若手のクリエーターがチャレンジするスペースがあるんや。
まずはそこに持っていったろかと」
ログイン株式会社の野木社長は意欲的だ。
日本の伝統の染めとこだわりのパンツ職人のコラボレーション。
本当に良いものを理解している本当のセレブに売っていこうと考えている。
マーケットはある。日本の文化を発信したい。
「安いんやったら、中国製のものを買うやろ。
日本が世界で勝負をかけるなら、目ん玉飛び出るクオリティだ」
日本発、ジャパンブルーで世界を染める。
2020年にむけて、本物を目指す野木社長は熱い志を持つ。
information
佐藤阿波藍製造所
住所:徳島県板野郡上板町下六条字中西87−2
TEL:088-694-2828
FAX:088-694-6454
information
本藍染矢野工場
information
ログイン株式会社
住所:東京都渋谷区渋谷3-8-12 渋谷第一生命ビル3F
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