連載
posted:2013.6.4 from:東京都港区南青山 genre:ものづくり
sponsored by 貝印
〈 この連載・企画は… 〉
「貝印 × colocal ものづくりビジネスの未来モデルを訪ねて。」は、
日本国内、あるいはときに海外の、ものづくりに関わる未来型ビジネスモデルを展開する現場を訪ねていきます。
editor profile
Tetra Tanizaki
谷崎テトラ
たにざき・てとら●アースラジオ構成作家。音楽プロデューサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の 発信者&コーディネーターとして活動中。リオ+20など国際会議のNGO参加・運営・社会提言に関わるなど、持続可能な社会システムに関して深い知見を持つ。http://www.kanatamusic.com/tetra/
credit
撮影:上原朋也
いまビジネスやものづくりの現場で「エシカル」という言葉が注目されている。
エシカル(ethical)という言葉は「道徳上の」とか「倫理的な」などを意味する。
環境(エコロジー)に配慮するだけでなく、公正な取引(フェアトレード)、
人権にも配慮した商品を生み出そうという世界的な潮流だ。
白木夏子さんは、ビジネスや社会貢献で活躍する女性リーダーのひとり。
「HASUNA」代表取締役兼チーフデザイナー。
エシカルジュエリーを通じて途上国支援をする、
新しいビジネスモデルを立ち上げ成功に導いた。
華やかで美しいジュエリーの世界。
しかし、そこには世界の貧困や児童労働の問題、
そして紛争地と深くかかわる鉱物資源の現実があった。
「もともと英国の大学で国際協力を勉強してたんです」と白木さん。
「開発学の授業でどうして先進国と途上国に分かれたのかとか、
貧困問題が起きたのかとかを学ぶんです。理由はわかった。
でも実際にわたしに何ができるのかというと、授業だけだとわからない。
そこで現場に行ってみたいと思いました」
白木さんは貧困の現場を知るために、貧困のなかでも最貧である
インドのアウトカーストの村に行ってみることにした。
アウトカーストとは、カースト制度の最下層よりももっと下にいる人々のことを指す。
不可触賎民とも翻訳され、差別と貧困のなかに暮らしている。
「2か月かけて30か所くらいの村をまわりました。
そこでは娼婦として売られてきた人もいれば、
農奴として家畜のように使われている人もいる。
そして最後に鉱山で働いている村に行き着きました。
大理石とか雲母が採掘されている村で、
数日間いっしょに暮らしたんです」
そこで見たものは、最も過酷な社会の暗部だった。
「5、6歳の子どもも働いていて、10キロもある大きな石の塊を運んで、
背骨が曲がってしまった子もいる。
大人も希望のない暗い顔をしていました」
「でもよく考えてみたら、そこで採れる雲母はカメラのレンズとか化粧品とか、大理石もお金持ちの人たちのお家とかに使われる。
私たちの豊かな生活を、こういう貧しい人たち、
差別を受けて毎日苦しい生活をしている人たちが支えているのだと実感しました」
このギャップはおかしい。
それが白木さんの起業の原点となった。
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「母親がファッションデザイナーだったので、
小さい頃からアクセサリーとかジュエリーとか自分でつくっていたのですが、
私の大好きなジュエリーの裏にそういうことがあると知って心が痛かった。
なんとかしなきゃいけないと思いました」
そこからいろいろ考えはじめた。
鉱山労働について調べていくと、インドだけではなくて、
アフリカ、中南米、アジアでもカンボジアやフィリピンなど、
世界各国で鉱山労働の問題がおきていることがわかった。
「鉱山労働している子どもたちって世界中に居て、
ILO(国際労働機関)の調査だと100万人いるといわれています。
大人たちも1300万人から2000万人いるといわれているんです。
すごい数ですけど、そもそもそれに気づいている人って
実はすごく少ないんじゃないかなと思いました」
海外の新聞で児童労働(child labor)金鉱山(gold mine)で
検索するとたくさんの記事がでてくる。
しかし日本語で検索してもほとんど出てこなかった。
「きっと鉱山労働のひどい状況って、みんな知らないんだろうなと。
誰かがやらなければならないなと思って」
2009年、白木さんはHASUNAを起業する。
水底の泥の中からしっかりと花を咲かせる
蓮の花が社名の由来である。
「ショーウインドーから見えるジュエリーの世界は
とてもきらびやかで、人を幸せにしたり愛の象徴だったり、
親から子、子から孫へ受け継がれるとても尊いものだったりするのに、
その裏側では貧困や差別、インドの村のようなことが起きています」
白木さんは鉱山現地から消費者までの間が
ブラックボックス化していることに問題の本質があると考えた。
「問題は誰が採掘していて、誰が運んでいて、誰が研磨していて、
どこの国にわたっていってというのが全く見えなくなっていること。
これをなんとかしなければいけないですよね。
誰がどこでつくっているかトラッキングできることが大切」
白木さんがHASUNAをたちあげて最初にしたことは
現地と直接取引できるルートの開拓だった。
それは職人さんや鉱山労働者をさがして会いにいくこと。
「ひとつひとつ自力で開拓していったんですけど、
安心できる素材をちゃんと仕入れられるルートが必要なんです」
これまで世界の50か国以上をまわってきたという。
いまではルワンダ、ボツワナ、パキスタン、ミクロネシア、カナダ、
ベリーズ、コロンビア、ペルーの8か国で取引きをし、
商品を開発・販売に成功している。
次回は白木さんにHASUNAの現場での商品開発や
「ものづくりのこだわり」についてお送りする。
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HASUNA
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