連載
posted:2015.8.11 from:宮城県 genre:食・グルメ / 活性化と創生
sponsored by 貝印
〈 この連載・企画は… 〉
歴史と伝統のあるものづくり企業こそ、革新=イノベーションが必要な時代。
日本各地で行われている「ものづくり」もそうした変革期を迎えています。
そこで、今シーズンのテーマは、さまざまなイノベーションと出合い、コラボを追求する「つくる」Journal!
writer's profile
Tetra Tanizaki
谷崎テトラ
たにざき・てとら●アースラジオ構成作家。音楽プロデューサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の 発信者&コーディネーターとして活動中。リオ+20など国際会議のNGO参加・運営・社会提言に関わるなど、持続可能な社会システムに関して深い知見を持つ。
http://www.kanatamusic.com/tetra/
メイン写真
Suzu(Fresco)
スズ●フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。
http://fresco-style.com/blog/
前編【“依存型”から“循環型”へ 食や農を通して感じる命のつながり小林武史の「つくる」前編】はこちら
音楽プロデューサー小林武史さん。
小林さんはいま新しいプロジェクトに着手した。
その名も〈リボーンアートフェスティバル〉。
“アート”で“東北支援”する音楽&地域再生のイベントである。
いったい何を“つくる”のか。小林さんにその概要を聞いてみた。
「東北でアートフェスティバルをやろうというのは、構想からいうと3年になるんですよ。
アーティストはいろんな循環のなかで、宇宙でも何にでも、
つながりでつくれる自由を持っているわけじゃないですか。
その場所に来て、祭りの中のひとつの作品として、
そこにメッセージを込める役割を担える自由がある。
僕はそういうことを取り戻す場所、取り戻すきっかけになる祭りにしたいと思ったんですよね」
その背景には東北の“復興”とはなにか? という問いかけがあった。
3年の沈黙のなかで、小林武史さんは着々とその構想を膨らませていく。
「震災後、僕ら〈ap bank〉としても東北でボランティア活動を続けていたのですが、
アベノミクス以降、特に復興需要によって
仙台市とかめちゃくちゃ景気のいいまちに変貌するわけです。
日本で一番景気がいい、土地もどんどん上がっていくし……。
だけど、ちょっと離れて石巻とかでは、人口流出が止まらない。
人口流出というのはもちろん過疎のまちはどこも世界的な問題です。
都市に集まろうとして地域が疲弊していくっていうことがあるにしても、
それでもやっぱり10年くらい早回ししたって言われるくらい
カーブが急上昇していっているんですよ。
いまもそうなんですよ。福島のことを言い出したら、
これはまた全然違う話になるレベルで人口流出が起こっているわけですが」
そういうなかで“復興”ということを声高に言ってみて、
何が“復興”なのか? ということになるでしょう。
だから僕らは新潟の〈大地の芸術祭〉という北川フラムさんたちが行う
地域づくりの芸術祭の因子を僕らはもらって、
地域を足下から支えていく芸術祭をしたいと思ったのです」
〈大地の芸術祭〉は越後妻有の里山を舞台に開催される芸術祭。
その総合プロデューサーの北川フラムさんも今回、
〈リボーンアートフェスティバル〉の顧問として参加されている。
地域とアーティストが協働してこの地域の魅力をあらためて発見し、広く発信することで、
多くの人々がこの地域のことを知り、そして訪れる、そんな芸術祭を目指すという。
「“太陽の光と循環”ということが僕らのテーマになっています。
そもそも地球の自転だって何だって、太陽のおかげでしょう」と小林さん。
「ピカピカ光る都市があるけれども、その影みたいな場所にも命は宿っているし、
むしろ本質がそこで失われていないと言えることがたくさんあるんですよね。
太陽生物としての営みが、都市のピカピカでない影の部分に宿っている。
それが現代アートとか世界のいろんな感性とつながっていったり、
音楽とつながっていくことによって、人の思いや人のつながり、
感性のつながりができるんじゃないか。そういうことをやろうとしているわけです」
〈Reborn-Art Fes〉は「人の生きる術を蘇らせ取り戻すことにある」という。
それを〈Reborn-Art〉と名づけ、食や住や経済などの生活の技、アートや音楽やデザインの美の技、
地域の伝統と生活の叡智の技などとして、
さまざまな領域における〈Reborn-Art〉を発見—再発見しようという試みである。
そもそもの東北とのつながりはどんなところからだろうか。
「2009年の新潟の震災で〈ap bank〉が炊き出しに行きました。
その時のチームやノウハウが〈ap bank〉や〈kurkku〉にあったから、
2011年の311の直後、1週間も経ってないうちにとにかく石巻に入ったんです。
最初は南三陸の気仙沼・石巻に入ったんですよ。でも石巻が一番複雑に傷んでいて。
石巻専修大学がグラウンドを開放してくれたので、ピースボートと組んで支援をしました。
僕らはそこで100人くらいでテントを張って、何か月間か東京からバスを出して、
ボランティア活動を支えていたりしていたんですよね。それが縁です。
若い人たちを中心にいろんな新しい復興のトライアルがあったんですよね。
なかでも〈ISHINOMAKI 2.0〉というチームがには地元の人もいますし、
東京に住んでいる人たちも絡んでいたりします。
松村豪太くんという代表理事がわれわれのフェスティバルを地域で支えるリーダーになったんです。
自分たちが主体となってやっていくという思いに、まずに火が点いた。
つながりをつくりながら、僕らの思いを相談していった。それは行政でも同じですけど、
復興して、仮設住宅からちゃんと住めるようになっても、
そのあとどのように暮らしていくのかという問題があります。
あとは外とどのようにつながっていくのかということが、絶対に問われてくるから、
そこに対して僕らがいま考えている構想が、
すごく有効なのではないかということを言っていたわけです」
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Reborn-ArtにはInterface=異質なものをつなぐ、Circulation=ものごとを循環させる、
Negotiation=調整折衝する、という3つの原則があるという。
制作委員のひとり、思想家・人類学者の中沢新一さんによるコンセプトだ。
その三原則が生きている未知の空間を、東北のこの地につくりだそうという試みだという。
気になるのはその内容だが、まだ現段階では出演者や参加アーティストなどは公表されていない。
具体的な内容を聞いてみた。
「まだまだ具体的なことが進行中なので、実はこれはまだ発表できる段階ではなかったんです。
ただ、この発表をなぜ今年の7月7日にやったかと言うと、
行政含めて、〈リボーンアートフェスティバル〉という実行委員会を立ち上げ、
その事務局を運営する会社をつくったんです。お金の管理を含めて。
そこに〈ap bank〉が復興支援金というかたちでまとまったお金を入れているんです。
そしてさらにスポンサーを集めることをいまちょうどやっている最中なんです」
まずシードマネーとして〈ap bank〉がお金を出し、行政や地域の企業からの出資を募る。
プラットホームをつくり、さまざまな人や団体をまきこんでいくためのリリースということだ。
具体的な内容はそのプロセスのなかで決まっていくという参加型の芸術祭のかたちが見えてくる。
フェスティバルの完成イメージは〈大地の芸術祭〉だろうか?
「まあ、それに近いですかね。ただそこに〈リボーンアートフェスティバル〉は
現代アートだけではなく、音楽も入ってきます。そして“食”ということも重要になってくる。
そして地域の農業、漁業とか。そういう生きていくというための“技を、
お祭りにしていこうよっていうことになるんですよね。
だから来年はまず、夏に音楽を中心としたプレイベントをやります。
それは大きな会場があるんです。まだ場所はちょっと言えないんですけど」
〈ap bank fes〉のような音楽ステージと
〈大地の芸術祭〉的な里山をフィールドとした芸術祭が合体したようなイメージだろうか。
そこに農業・漁業のひとたちもかかわる“お祭り”が行われる。
地域の潜在力が目覚め、この地域の10年後、20年後の未来をかたちづくるきっかけになることを、
目指しているという。
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〈YEN TOWN BAND〉は、1996年に公開された
岩井俊二監督の映画『スワロウテイル』の劇中に登場する架空のバンド。
映画音楽を手がけた小林武史がプロデュースを担当している。
過去一度ライブを行っているが、本格的な活動は今回が初めてとなる。
「いま僕は何を考えているのかというと、これまでこつこつとやってきたことの中で、
今年いろんなことが僕の中で決起しているということ。
久々に沈黙じゃなくて、ターニングポイントの年になっています。
その一番わかりやすいきっかけが、今年〈YEN TOWN BAND〉を
〈大地の芸術祭〉で復活させるということ。
〈大地の芸術祭〉と僕らの芸術祭をつないでいくという役割にもなる。
僕と岩井俊二の間に20年前にあった思いが、20年経ってそれがどういうことだったか?
どういうことを経てそこに至ったのか? というのがわかってきた。
それである種の入れ物としての〈YEN TOWN BAND〉というのを、
いまやっぱりやるべきだなということになったんですよ」
「そして、はからずも〈YEN TOWN BAND〉ってYEN TOWN という
お金に着眼したバンドだったり場所だったりするんです。
思えば僕は〈ap bank〉もつくっていたので、お金っていうものがすごく力を持っていて、
そことどういうようなかたちで生き物が対峙していくのかっていうことを、
ひとつの主題にしてきているんです。世界経済ということと軍事みたいなことが、
つながって、連合していく中で、日本も世界の列強国のひとつだよという、
威風堂々な感じが大丈夫なのか? ということも考えます」
再起動して動き出すということで、
今後について、いまはどんな思いを持っているのだろうか。
「自分はミュージシャンだから、
もちろん社会変革のためだけに自分の音楽があるというわけではないです。
そういうためだけに音楽を使うというわけではない自分の生き方があるわけです。
だけどいま僕は、農業とか、アートフェスティバルという、
生きる全般、生きる技を広げるために祭りをやる。かなり自分の領域から離れたこともやる。
それがやはり僕がどういう風に音楽をやりたいか、
こうありたいという自分の役割として全部つながっているんですよね。
だから、音楽の使い手として自分がちゃんと感性や感覚を維持していくためにも、
この生きている世界とつながっていなきゃダメなんですよ。
生きていなきゃだめなんだけど、どうやって生きていくのかという時に、
僕がいまやろうとしている事柄は関わってくることなんですよね。
趣味でやっているのではなくて、しかもこの生きているって、今この瞬間だけではないから、
過去もあって、未来もあって、すべての「つながり」の中に僕はあると思っていて、
自分の命がどこまで持つのか、それはわからないけれどもね」
そういう未来のことを考えながら、思いを馳せながら、
小林武史さんは音楽を「つくる」のだという。
Information
Reborn-Art Festival 2017
主催:Reborn-Art Festival実行委員会
日程:2017年春
期間:約50日間
会場:牡鹿半島・石巻市内中心部・松島湾(石巻市、塩竈市、東松島市、松島町、女川町)
大地の芸術祭 2015 YEN TOWN BAND @NO×BUTAI produced by Takeshi Kobayashi
2015年9月12日(土)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:新潟県 十日町 まつだい「農舞台」
料金:前売5,000円 当日5,500円(ともに『大地の芸術祭』作品鑑賞パスポートチケット付)
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