連載
posted:2015.6.2 from:東京都 genre:ものづくり
sponsored by 貝印
〈 この連載・企画は… 〉
歴史と伝統のあるものづくり企業こそ、革新=イノベーションが必要な時代。
日本各地で行われている「ものづくり」もそうした変革期を迎えています。
そこで、今シーズンのテーマは、さまざまなイノベーションと出合い、コラボを追求する「つくる」Journal!
writer's profile
Tetra Tanizaki
谷崎テトラ
たにざき・てとら●アースラジオ構成作家。音楽プロデューサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の 発信者&コーディネーターとして活動中。リオ+20など国際会議のNGO参加・運営・社会提言に関わるなど、持続可能な社会システムに関して深い知見を持つ。
credit
メイン写真:吉澤健太
前編【ワルリ族の伝統的な家を建てることで見えてくる「懐かしい未来」ウォールアートプロジェクト前編】はこちら
インド先住民ワルリ族の伝統的な家を再生するノコプロジェクトは、
インドの学校をアートで支援してきた
NPO法人ウォールアートプロジェクトの活動から生まれた。
今回はその母体となった国際的芸術祭「ウォールアートフェスティバル(WAF)」と
ユニークな参加アーティストについて紹介したい。
芸術祭開催の目的は、現地の人々にアートの力を伝えること、
そして学校で開催することで教育の整備につなげていくことだという。
NPOウォールアートプロジェクト代表のおおくにあきこさんにお話を伺った。
「インドでは、識字率は50%前後という地域もあるんです。
教育の機会が保障されていないのが実状です。
アートを通じて、学校に通っていない子どもたちとその保護者に
学校に足を運んでもらうきっかけづくりをしてきました」とおおくにさん。
ウォールアートフェスティバルは2010年、
インドの最貧困地域のひとつと言われる北東部ビハール州で始まった。
発展途上地域の学校の壁をキャンバスに、壁画を描く芸術祭だ。
これは日本とインドのアーティストが10~20日間滞在し、
現地での交流を通じてアートをつくり上げるというもの。
最初の3年間北東部ビハール州にて開催したのち、
2013年、2014年は、ワルリ族の人々が暮らす
インド西部、マハラーシュトラ州、ターネー近郊のガンジャード村で開催された。
インドの貧困地区とウォールアート。そもそもの接点はなんだったのだろうか。
「きっかけは東京学芸大学で教育を学んでいた学生たちが、インドの現地を訪れたことでした。
満足な校舎のないインドの私設の学校に学ぶ場をプレゼントしたいと
お金を集めて学校を寄付したことから始まります。
学校を建てたあと、そこに子どもたちが集まってきた。でも、運営費はまったく足りない。
学校は建てて終わりではなく、運営していくために、
広く存在を知らせて、公的な整備を働きかけるために発信していく必要があると考えました。
校舎の白い壁を利用して、ウォールアートフェスティバルを開催すれば、
いつか現地の人々に開催をバトンタッチすることもできるのでは、と考えたんです」
日本人現地コーディネーターの浜尾和徳さんが、村に住み込み、
村の有志たちと実行委員会を組織した。
インド人と日本人、そしてアーティストと村人たちが一体となって芸術祭をつくっていく。
アーティストが学校の壁をキャンバスに壁画を制作する様子は公開され、
子どもたちは制作に打ち込むアーティストの姿を目の当たりにする。
その結果、開催した学校で通常より50人〜100人入学者が増える実績を残しているという。
前回伝えたノコプロジェクトもここから生まれたプロジェクトだ。
WAFに参加のワルリ画家との出会いをきっかけにワルリの村とのつながりができた。
そこから壁の絵だけでなく実際に伝統的な家を建ててしまうというプロジェクトが生まれた。
プロジェクト自体がプロセスも含めた社会彫刻作品である。
ワルリの村で行われたWAFに参加したアーティストのひとり、遠藤一郎さんは言う。
「ワルリの村には無駄な物がない。生活のなかでゴミが出ない。
そういう循環のなかに生きている」
現地の人々にアートの力を伝えると同時に、
ワルリの伝統的な生き方を参加アーティストも学んでいくと言う。
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未来芸術家・遠藤一郎さんは、これまで4回のWAFに参加してきている。
遠藤さんは「未来へ」をテーマに市民参加型の作品をつくっている“未来芸術家”。
子どもたち、村人たちを巻き込んで、
彼らといっしょに「希望」と「未来」の祭りをつくろうと考え、
「バヴィッシュメ(未来へ)」という名の祭りを企画した。
「日本の戦隊もののような5人のキャラをたてて、小学校で“祭り”をやったんです。
これは神様にお願いするのではなくて、自分が決意する“祭り”と考えました。
いまを生きるということ、未来を信じるということは自分を信じるということ。
“希望と未来”の祭りです。子どもたちも喜んで、学校中が大騒ぎでした(笑)」
遠藤一郎さん自身もお祭りの「ボスキャラ」として登場。
遠藤さんは「バカなことを本気でやると、神聖さが伴ってくる」と言う。
遠藤一郎さんの作品でもっとも有名なもののひとつに「夢」を描いた連凧がある。
子どもたちにそれぞれの「夢」を描いてもらい、
それを連凧にしてあげるというワークショップ作品だ。
インドのWAFのほか、日本の各地でも開催してきた。
「ひとり一枚ずつ“夢”」を描くんです。しかし凧は一枚ではあがらないんです。
みんなで“夢”を描いて、その個人の“夢”が連なっていって、連なることであがるんです」
そのことを実感してもらいたい、と遠藤さんは言う。
「インドってまだカーストが根強いんです。
親の仕事をやることが自分の未来だと考えている子どもが多い。
夢はなんでもいいんだよ。好きに描いてくださいって、授業ではっきり言う。
自由なのは心だと思っているんですよ。身体は滅びるし、不自由な人もいる。
でも心は自由なはず」
その「きっかけ」をつくることで、おのずとつながっていく、と遠藤さんは言う。
「呼応」「共鳴」「共振」。それを実感してもらうためにアートがある、という。
5月に遠藤一郎さんが吉祥寺で個展をするというので会場を訪ねた。
吉祥寺のギャラリーArt Center Ongoingの2Fに「カッパ師匠の部屋」があった。
そこに遠藤さんが扮するカッパがいた。未来芸術家が、なぜカッパなのか。
「カッパって、昔から野山にいて、じっと日本人を見ていたんじゃないかって思うんですよ。
大昔、鎌倉幕府ができたころから。農耕を続けてきた日本や、太平洋戦争も全部見てきていて、
負けてGHQに骨抜きにされた日本も、
ずっと見てきたのはカッパなんじゃないかなと思ったんです。
カッパはずっと隠れて向こう側から人間世界を見てきたんだけど、
ついにがまんできなくなって、出たらやばいと思いつつも、
見るに見かねてひとり現代日本に現れた。
それが『カッパ師匠』なんです。そういうテイです。
ひとがひとに言うより、カッパからのメッセージのほうが
大事なことを言えるんじゃないかな……」
カッパ師匠はそこに訪れるひとと対話し、未来を考えるきっかけをつくるアート作品。
「違う世界観があることを教えたい」と遠藤さん。
しばらくカッパをやり続けてみようと思っているという。
遠藤さんの作品は「ソーシャルアート」と言われる。
参加者を巻き込み、社会や価値観を少しずつ変化させるアクションである。
現代美術の世界でもユニークな作風だ。
「もともと美術家になりたかったわけでも、美大を出たわけでもないんです」
そう答える遠藤さん。
未来芸術家になるきっかけは中学〜高校時代にあったという。
「高校生のときにいろいろ絶望的な気分になっていて。
学校にも行かず、高校生になってすぐに自転車で旅に出たりしていました。
いまの社会や経済のこと、戦争のこと、常識のなかに飼われているという現状。
地球全体のことに絶望していたんです。
そういう枠組みがすべて真っ黒な世界に見えていたんです」
遠藤さんにとって変化のきっかけは高校生のときの姉の死だという。
「姉の死は、死んだものと、生きているものの違いを考えさせられるきっかけになりました。
生きているものにしかできないことは、生きているものがやらなきゃなと思って。
ひとは授かった生命を豊かに生きていって、次に受け継いでいくんです。
“未来へ”としか言いようがないなと思った。
“未来へ”ということは“いまを生きる”ということなんです」
遠藤さんは「いまを生きる」ために
「本当にやりたい」と思ったことをやってみるぞと決意する。
「それで学校に行かず、静岡から広島の原爆ドームに自転車で向かいました。
そのときにいろんなひとと出会い、初めて“ひとの心”を実感したんです」
そのときの体験が旅をしながら出会ったひとと作品をつくるという
今のスタイルにつながったのだという。
遠藤さんは「未来へ」と、黄色地に青で書かれた「未来へ号(未来へGO)」というバスで
日本中をまわりながら創作活動をしている。
「未来へ号」は遠藤一郎の愛車であり住居。そのまわりには、出会ったひとの夢が描かれている。
2006年から現在で4台目。4台目の今は、マイクロバスになり、
最大で20名ほど乗せることができるようになった。
そうして出会う人々と「呼応しながら作品をつくる」と言う。
「ずっとバスでまちをまわってきたんですが、リアルなドラクエなんですよ。
まちを巡るとそこでひとと出会ったり、パーティができたり、ひとが入れ替わったり。
情報もらったり、変なアイテム手に入れてたり、そのアイテムが別なまちで役に立ったり。
いま船が手に入りそうなんです。
船が手に入るといっきに世界が広がるんですよ。無人島とかにも行けるじゃないですか。
ドラクエでも船を手に入れると世界が広がるように」
真っ暗闇と感じた世界を旅することで、少しずつ光が生まれていく、と言う。
この先はどこに向かっていくのだろうか、遠藤さんに聞いてみた。
「楽園をつくりたいですね。全国をまわっていると地域に空き屋だらけなんです。
そこに住まうひとを見つけてネットワーク化していきたい。農業をする場所つくったり。
あと基本的なところで自給自足はやっておきたいですね。これは急務だと思います。
首都崩壊する前にね」
最後に遠藤さんが考える「ソーシャルアート」とは何か聞いてみた。
「ソーシャルアートはまず自分の大好きなことをやること。
それをとことんやることによってつながるんです。
いろんなひとがいろんな好きなことを真剣にやると、情熱とかパワーが連鎖するんですね。
だから、全国に“バカウイルス”を撒いています(笑)」
遠藤さんの今後の予定は7月の「別府現代芸術フェスティバル 混浴温泉世界」の
コーディネートのほか、
インド、ビハール州のカガリアで行われるWAF2015にも参加予定である。
WAFのあとは、ワルリの村へ寄って、ノコプロジェクトの家づくりに参加したいという。
Information
NPO法人ウォールアートプロジェクト
http://wallartproject.net
遠藤一郎ホームページ
http://www.goforfuture.com
NPO法人ウォールアートプロジェクトのおおくにあきこさんが、Kai presents EARTH RADIOのに出演します。
6月23日(火)21:00~22:00 インターFM76.1でオンエア!
ぜひお聴きください。
★オンタイムでWEBで聴く場合→ http://radiko.jp
★PODCASTで過去放送を聴く→ https://itunes.apple.com/jp/podcast/yi-shi-gu-you-jie-kai-presents/id720041363?mt=2
※貝印株式会社はNPO法人ウォールアートプロジェクトの活動を支援しています。
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