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連載

ワルリ族の伝統的な家を
建てることで見えてくる
「懐かしい未来」
ウォールアートプロジェクト前編

貝印 × colocal
「つくる」Journal!
vol.005

posted:2015.5.26  from:東京都  genre:ものづくり

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  歴史と伝統のあるものづくり企業こそ、革新=イノベーションが必要な時代。
日本各地で行われている「ものづくり」もそうした変革期を迎えています。
そこで、今シーズンのテーマは、さまざまなイノベーションと出合い、コラボを追求する「つくる」Journal!
ものづくり・しくみづくり・ひとづくり・食づくり、場づくりetc、
貝印 × コロカル × earthradioチームが、フレキシブルにテーマを取り上げていきます。

writer's profile

Tetra Tanizaki
谷崎テトラ

たにざき・てとら●アースラジオ構成作家。音楽プロデューサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の 発信者&コーディネーターとして活動中。リオ+20など国際会議のNGO参加・運営・社会提言に関わるなど、持続可能な社会システムに関して深い知見を持つ。

photographer

Suzu(Fresco)

スズ●フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。
http://fresco-style.com/blog//

木と石と牛糞でつくられた家!?

2015年インドの先住民ワルリ族の村に、インド人棟梁のもと23人の日本人が集結。
木と石と牛糞でつくられた伝統的なワルリの家を建てた。
5年にわたりインドの学校で芸術祭を開催してきた
NPO法人ウォールアートプロジェクトの新しい取り組みだ。
現代人の多くが忘れている「何か」を取り戻す試み、それが「ノコプロジェクト」。

ノコプロジェクトを主宰するのが、おおくにあきこさん。
フリーランスライターとして、女性雑誌を中心に、インタビュー、旅行、ブックレビュー、
アートレポートなどを執筆してきた。
海外派遣やアートの記事執筆の経験を生かして、アート×学校×支援をキャッチフレーズに
2009年、NPO法人ウォールアートプロジェクトを設立。
インドの農村地帯で芸術祭を開催してきた。

おおくにあきこさんに「ノコプロジェクト」についてお話を伺った。

「ノコとは現地の言葉で『もう十分です』という意味なんです。
日本人23人、インド人15人が総力を結集し17日間で家を建てました。
インドの先住民ワルリの家は、木と土と石とゴーバル(牛糞)でできています。
ワルリ族はみな自分たちで家を建ててきたので
誰もが家の建て方を知っているんです」

そんな彼らとともにワルリの伝統的な家を建て、
そうすることで、ワルリの伝統的な暮らしを学び、
その体験からさまざまな智恵を学ぶ試みがノコプロジェクト。
現代の日本人が学ぶべきことがたくさんある、とおおくにさんは言う。

みなで建てた家を拠点に学び合いの場をつくっていこうとしている。

インド・マハラシュトラ州・ターネ−(パルガル)県に住む少数先住民族ワルリの家。セルフビルドで建てられる。材料は木と土と牛糞と瓦。

インドでは牛は聖なる動物。ワルリの伝統的な家はゴーバル(牛糞)が欠かせない。家の壁やアースオーブン、燃料にも使われる。

先住民ワルリの暮らしのすばらしさ

おおくにさんは先住民ワルリの暮らしのすばらしさをこう語る。

「清らかで穢れのない美しさがあるんです。
まるで日本の禅寺のような静かな美しさです。
そこにはひとが手でつくったものが使い込まれていて、今も使われている美しさもあります。
そういう昔ながらの暮らしが生きているんです」

そんなワルリの村もどんどんコンクリートとレンガの家に変わってきている。
レンガを焼くために木が切られ、自然が破壊されているという。
もともと自然のリズムのなかに生きてきた彼らの暮らしが崩壊しつつあるのだ。

そんななかでおおくにさんたちは、彼らの伝統的な家を再生し、
そこを拠点にした新たな学び合いの場をつくっていこうとしている。

「家づくりや伝統的な農業や養蜂などを通じて、失われつつある彼らの文化を学び、
いっしょに身体を動かし、細胞レベルで私たちの未来を考えていきたい」のだという。

ノコプロジェクトでは「循環」を学ぶ。土と藁と牛糞でアースオーブンをつくる。アースオーブンで食事をつくり、排泄物や残飯をモバイルコンポストトイレで肥料とし、農業に使う。
料理をするときに出た排水もバイオジオフィルターを通じて畑に循環する。

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世界を「森」にするエコプロジェクト

いま地球人の暮らしは地球一個分では足りない消費生活を送っている。
ノコプロジェクトはエコロジカルな暮らしを取り戻す、エコプロジェクトでもある。
NPO法人ウォールアートプロジェクトの現地のコーディネーターを務める、
浜尾和徳さんがその循環のしくみを解説してくれた。

「彼らの家を中心に食の一角としてオーブンがあって、
食べたら排泄があるのでモバイルコンポストトイレで堆肥化し、それを農業に使う。
料理をするときに出た排水もバイオジオフィルターで浄化する、そんな家をつくりました」

ノコプロジェクトは「世界を森にする試み」というエコなプロジェクトでもある。
家を建てるための木を植林も行う予定だ。
そしてコンクリートの文化から、木や土の文化への転換。
動物や植物や土や森、生命の有機的なつながりのなかでの暮らしである。
食と農の循環やエコな学びができる。

「レンガの家をつくると政府から補助が出る。
レンガを焼くためにはたくさんの木が使われるので、現在、たくさんの森が破壊されている」
とおおくにさん。

ノコプロジェクトは、伝統的な家を復活させることで、環境負荷の低い暮らしを提起しているのだ。

完成した家の内部。美しい。

ワルリのアート

ワルリ族はインドの伝統的なアートでも有名だ。
自然との調和を保って生きるワルリ族の世界観や 自然界のサイクルが描き出されている。
もともと結婚した夫婦の家の、入って最初に目にする壁に婚姻の印として描かれていたという。
それが発展して生活の様子や儀式、生死観、世界観を表す絵なども描かれるようになった。

おおくにさんとワルリ族との出会いは、
アートを通じて学校や地域を支援するウォールアートフェスティバルがきっかけだ。

「私たちは最初の5年間、ウォールアートフェスティバルを各地で開催してきました。
最初はインドのなかでも最も貧しいといわれるビハール州。識字率も低い地域です。
そこに支援としてプレゼントされた学校の壁に絵を描くところから始まりました。
2013年にワルリの村でも行われました」

おおくにさんはウォールアートフェスティバルのなかでワルリ絵画のアーティストと出会う。

「ワルリのアーティストは農業も行っていて、
農業なしにはワルリのアートはない、と彼らは言います。
ワルリの絵画は彼らの暮らしに深く関わっているんです」

伝統的な暮らしや農業が失われるとそのアートも失われてしまう、と言う。

ワルリ族のアート。 photo by 吉澤健太

学校の壁に描かれたワルリ族のアート。 photo by 三村健二

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懐かしい未来へ。アースアートプロジェクト

インド北部ラダック。
ヒマラヤ山脈とカラコルム山脈に挟まれた一帯を指し、カシミールの東側半分以上を占める。
遊牧民が暮らし、チベット文化圏でもある。
かつて文化人類学者のヘレナ・ノーバーグ・ホッジが「懐かしい未来」と呼んだ場所だ。
2014年におおくにさんたちはインド北部のラダックの遊牧民たちと
標高5000メートルでアースアートプロジェクトという芸術祭を開催した。

「遊牧民の子どもたちは、雨が増えて雪の量が減ったと言うんです。
雪解け水は地下水となり動物が食べる草や農産物を育てます。
しかし、温暖化の影響で降った雨が岩盤上を流れ去り、ときに洪水を起こします」

温暖化の影響が明らかに出ている。

「彼らの暮らす標高5000メートルでは環境破壊が深刻な状況になっています。
最近は代々続いてきた小規模農家が農業の大規模化におびやかされるなど、
経済効率の中に飲み込まれようとしています」

おおくにさんはアースアートプロジェクトを通じて、現地の問題を伝え、
地域を支えることができないかと考えた。
ここでの出会いが「ツォモリリ」というフェアトレードブランドにつながっていく。

ラダック。

ラダックにある標高4000メートルのツォモリリ湖。 Photo by 藤井龍

ラダックにある標高4000メートルのツォモリリ湖。
おおくにさんは、そこで遊牧民たちが育てているパシュミナという山羊に出会った。

「パシュミナ山羊の毛はふわふわなんです。
その毛をすいて織って、プロダクトにしている人たちと出会いました。
古くはカシミール地方の職人が織っていたものです。
それを手で紡いでいる人たちがいて、これはなくなりつつある文化だと思った。
その手仕事を日本に紹介してみたいなと思ったんです」

アースアートプロジェクトのラダックの子どもたち。

おおくにさんは「ツォモリリ」というブランドをたちあげた。
現地の雇用をつくるフェアトレードであり、地域の文化を伝える商品として。
そしてなによりウォールアートフェスティバルを支える資金づくりのためだ。

ほかにもガンジーがインドの自立のために広めたカディーコットン(手紡ぎ手織りの布)や
西インドのラジャスタンでつくられる藍染めのプロダクトを扱っている。

TSOMORIRI(ツォモリリ) from Azusa Nakai on Vimeo.

パシュミナ山羊の毛をつかったツォモリリの商品。

ガンジーがインドの自立のために、広めた手紡ぎ手織りの糸車チャルカ。

体内のGPSをオンにしてみる

アートと学校と支援を結ぶウォールアートプロジェクトは
各地で開催する「ウォールアートフェスティバル」「アースアートプロジェクト」、
そしてワルリの村で始まった
「ノコプロジェクト」というかたちで発展してきた。
おおくにさんにこのプロジェクトの意義を聞いてみた。

「未来を築くための社会彫刻としてのプロジェクト。
地球一個のなかで私たちは生きていかなければならないんです」とおおくにさん。

そしてノコプロジェクトを通じて伝えたい学びをこう考えている。

「私たちは学問として環境学を学んできたわけではないけれど、
伝統的な暮らしの家を一軒建ててみて、いろんなことがわかった。
都会に生きていると生き物としての自覚がなくなってしまうけど、
実は人も大地や森、牛や植物や昆虫とも繋がっている。
家を建てたことで気づいたのです」

「種のことや、森のことを先生に教えてもらうんじゃなくて、
自分たちで試行錯誤していくからこそ理解する力が生まれてくる」

自分がつくったり、そこに居てみることで、ある時点で人間の感覚が変わってくる、と言う。
おおくにさんはそのことを、
「自分の意志と自分の思考で、体内のGPSをオンにしてみる」と考えている。

おおくにあきこさん。NPO法人ウォールアートプロジェクト代表。

「おかずくん」こと、浜尾和徳さん。現在、インド、ワルリの村在住。ウォールアートプロジェクトのコーディネーターを務める。

今後のノコプロジェクト

今後のノコプロジェクトは、9月に雨期の村の視察をし、
11月にはウォールアートフェスティバル in カガリア(ビハール州)が予定されている。
「フェスティバルのあと、みんなで母屋をつくるボランティアも募集しています」
「母屋」建築のための資金を現在クラウドファンディングで集めているとのこと。
次回はウォールアートフェスティバルと参加アーティストのレポートをお伝えします。

後編【ウォールアートの力で持続可能な国際支援 インド×アート×学校 ウォールアートプロジェクト後編】はこちら

information

ウォールアートプロジェクト

NPO法人ウォールアートプロジェクト
http://wallartproject.net

「母屋」建築のためのモーションギャラリー
https://motion-gallery.net/projects/nocoproject

ツォモリリ
http://www.blue-bear.co.jp/shop/

*貝印株式会社はNPO法人ウォールアートプロジェクトの活動を支援しています。

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