連載
posted:2015.5.19 from:東京都新宿区 genre:ものづくり
sponsored by 貝印
〈 この連載・企画は… 〉
歴史と伝統のあるものづくり企業こそ、革新=イノベーションが必要な時代。
日本各地で行われている「ものづくり」もそうした変革期を迎えています。
そこで、今シーズンのテーマは、さまざまなイノベーションと出合い、コラボを追求する「つくる」Journal!
writer's profile
Tomohiro Okusa
大草朋宏
おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。
photographer
Suzu(Fresco)
スズ●フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。
http://fresco-style.com/blog//
前編【ロボットを使ったコミュニケーションが家族団らんを取り戻す。ユカイ工学 前編】はこちら
ユカイ工学は、ロボットと暮らす未来を目指している。
最新の製品は〈BOCCO〉というロボット。
センサーとセットで販売され、センサーはドアなどに取り付ける。
すると子どもが帰ってきたときにセンサーが感知し、
自分が持っているスマートフォンなどに通知がくる設定になっている。
子どもが帰ってきたことがわかると、リビングなどに置いておいたBOCCO本体に、
スマホからメッセージを送ることができる。
スマホでテキストを打って送ると、BOCCOでは音声となって流れる。
もちろんスマホに直接音声を吹き込んで、ボイスメールを送ることも可能だ。
BOCCOのスイッチを押すと音声が流れてくる。
自分で声を吹き込んだ場合は、人間のあたたかい声が流れてくる。
子どもが学校から帰ってきたら、「おかえり〜、おやつは冷蔵庫にあるよ」と送り、
それを聞いた子どもはおやつを食べながら、
「ただいま〜、友だちの家に遊びに行ってくるね」と報告できる。
通話ではないが、リアルタイムなやりとりだ。
ユカイ工学のCEOである青木俊介さんが、
BOCCOをつくろうと思ったきっかけを教えてくれた。
「うちもそうですが、共働きの家庭が多いと思います。
そうすると、家で子どもが何をやっているか、知りたいですよね。
携帯電話はあまり持たせたくないし、カメラを設置するということはできますが、
それでは管理しすぎてしまいます。
ネットワークがこれだけ普及しているのに、
その部分がスポッと抜け落ちてしまっていると思うんです。
大人同士をつなぐツールはSNSなどたくさんあります。
でも、友だちがどこでランチしているかより、
自分の子どもがいつ帰ってきたかのほうが知りたいですよね」
モノのインターネットと呼ばれるIOT(Internet of Things)技術が発達して、
センサーをネットワークにつなげることが簡単になった。
「最近はスマートハウス化が進んで、
たくさんのコントロールパネルが家の壁に付いています。
これからもどんどん増えていく方向だと思いますが、
しかしメーカーはバラバラでデザイン的な統一感もない。
これ以上、家のなかに液晶パネルを増やしたくないし、
ルータのような機械的なものもなるべく増やしたくないですよね」
テレビやエアコンにオーディオ、すでにリモコンがたくさんある。
それに加えて壁の操作パネルも増えていったら、
便利になっているようで、それらに振り回される日常になってしまいそうだ。
「スマホのアプリでまとめて操作ということもできます。
しかし数百万という数のアプリがあるなかで、
ひとりが使うアプリは平均10個以下という統計もあります。
そんななかで、さらにスマホに集約させるようなことはしたくない。
そのような時代ではなくなってくると思います。
その代わりにロボットを使うことができないかなと思ったんです」
無機質なボックスやルータとは異なるロボットであれば、
デザインの幅も広がり、親しみやすい筐体にすることも可能だ。
「僕からは『首がゆれるようにしてほしい』、『鼻をボリュームにしたい』、
『ロボットに見えるように』などの指示をしています。
ロボット技術は寄せ集めといえます。
自動改札機もロボットといえばロボット。
子どもを認識して、子ども料金で通す判断を自分でしているわけですから。
しかしあれはロボットとして認識されてはいませんよね。
ぼくたちはロボットというからには、キャラクター性が重要だと思っています」
機能性の高さを目指すと、ムダを排除して無機質になりがちだが、
ユカイ工学では、あくまで人間の生活に馴染むような
やさしいデザインや設計を心がけているのだ。
それこそユカイ工学の考えるロボットの役割かもしれない。
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BOCCOは発売されることになったが、ほかにもユカイ工学が開発した製品はたくさんある。
しかしまだ発売されていないプロトタイプも多い。
だからオーダーをもらって開発をする“仕事”と、
“つくりたいものをまずつくってみる”が同時に走っている。
そんなことができるのも、ユカイ工学が現場からのものづくりをしているからだ。
「技術の移り変わりが早いので、企画だけするということが難しくなってきています。
どんな技術があって、どんなことができそうか。
それをわかっていないとつくれなくなってきていますね。
今やつくり手とアイデアマンの境界線はかなり曖昧です」
それはデザインでも同様だ。
「パンをつくれば売れるという時代ではありません。
“つくる”と“デザイン”の境界線も曖昧になってきていると思います。
たとえば家電は、ボタンがなくなってきて、デザインの余地が少なくなってきています。
すると操作画面をデザインすることになります。
動きのなめらかさとか、設定画面の出方とかがデザインの重要な要素です。
するとデザイナーという肩書きであっても、
プログラミングをしていくことになります。
こういう指示は、絵や企画書では説明が難しいものです。
その動きを自分でつくれないと、デザイン自体ができなくなっているのです」
ユカイ工学が純粋につくりたいと思ったBOCCOのようなプロダクト以外にも、
外部企業からの依頼で開発することもある。
そのようなときに求められるのも、ものづくりの現場であるユカイ工学のノウハウだ。
「外部のアイデアを使いながら、自分たちの製品を新しく展開していく
オープンイノベーションという考え方を取り入れる企業が増えています。
今までの延長線上ではこれ以上の飛躍は難しいと考えているのでしょう」
そこでこれからのものづくりに必要となってくるのが、
現場からのアクションということだ。
「アイデアをかたちにし、それを実際にテストしてみるという工程を、
スピーディにやることが重要です。
たとえば、消費電力が10%下がった扇風機をつくるのであれば、
ある程度、売り上げやコストなども計算できます。
しかし、扇風機ではなくいきなりドローンをつくろうとなったら、
まったく予測できないし、いくらかかるかもわからない。
だから誰も決裁できなくて当然なんです。
そのようなときに、プロトタイプを重ねて、
つくりながら考えていけるような企業のほうが、アイデアの検証には向いているんです」
つくりながら考えるには、スピード感が必要になってくる。
それを持っている人たちがいる現場なのだ。
これからはアイデアでも、ものづくりでも、
すぐれた製品は現場から生まれてくるのだろう。
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