連載
posted:2018.3.23 from:岩手県一関市 genre:ものづくり / 活性化と創生
PR 一関市
〈 この連載・企画は… 〉
岩手県南の岩手県一関市と平泉町は、豊かな田園のまち。
東北有数の穀倉地帯で、ユニークな「もち食」文化も根づいてきた。
そんなまちの新しいガイドブックとなるような、コンテンツづくりが始まった。
photographer profile
Kohei Shikama
志鎌康平
山形県生まれ。写真家小林紀晴氏のアシスタントを経て、山形へ帰郷。東京と山形に拠点を設けながら、日本全国の人、土地、食、文化を撮影することをライフワークとしています。山を駆け、湖でカヌーをし、4歳の娘と遊ぶのが楽しみ。山形ビエンナーレ公式フォトグラファー。
http://www.shikamakohei.com/
writer profile
Kei Sato
佐藤 啓(射的)
ライフスタイル誌『ecocolo』などの編集長を務めた後、心身ともに疲れ果てフリーランスの編集者/ライターに。田舎で昼寝すること、スキップすることで心癒される、初老の小さなおっさんです。現在は世界スキップ連盟会長として場所を選ばずスキップ中。
https://m.facebook.com/InternatinalSkipFederation/
国内外に広く知られる伝統工芸の工房が集まる岩手県南地域。
全国的に継承者が減り続ける中、ここに拠点を構える若き職人たちが集い、
これからの伝統工芸や職人のあり方を模索し、
チャレンジする過程で生まれた〈平泉五感市〉。
2016年、2017年と開催されたこのイベントは工芸体験ができ、
郷土料理や各社の美しい工芸品も販売された。(vol.10参照)
今回は、現場さながらの体験ができるこのイベントの運営に携わる
職人たちの工房を訪ねました。
vol.10の記事で紹介した平泉の〈翁知屋〉(おうちや)と共に、
平泉に伝わる漆器〈秀衡塗〉(ひでひらぬり)の工房〈丸三漆器〉。
明治37年、一関市大東町を拠点に御膳造りを主とした
「丸三漆器工場」として創業して以来、木地、下地、塗り、絵付けと
一貫した生産工程を持つ数少ない工房として知られている。
「今はうち1軒だけになってしまいましたが、
大東町はかつて何軒か工房が建ち並ぶ秀衡塗の産地だったんですよ。
その名残りもあり、うちはお碗のセットや重箱など平安時代から伝えられてきた
伝統的な商品を大切に継承しつつ、先代の時代からガラスの漆器づくりなど、
現代の生活様式にフィットする新商品の開発にも力を入れています」
そう話すのは、5代目の青柳 真さん。
塗師として工房を支える弟の匠郎さんと二人三脚で、
100年以上続く〈丸三漆器〉のこれから100年のあり方を日々模索し続けている。
現在いちばんの課題は、販路開拓と職人の確保。
「地元百貨店の売り場や全国の百貨店の催事での販売が中心でしたが、
百貨店自体の売り上げの低下などとあいまって、
売り上げは減り続けているのが現状なんです。
インテリアショップやエキナカなど新規販路の開拓、ホテルや飲食店への納入など、
僕を中心に販路の見直しに取り組んでいます。
それから、今はほぼ家族経営になってしまっているのですが、
若い職人希望の人にきてもらえるように、環境を整えていきたいですね。
秀衡塗は工房ごとにしか教える場所がないので、
平泉の〈翁知屋〉さんとも連携しながら、
職人になりやすい環境をつくっていければと思っています」
〈秀衡塗〉と並び、もともと〈いわて県南エリア伝統工芸協議会〉の
主要メンバーだった〈岩谷堂箪笥〉。
一関市や平泉町の北に隣接する奥州市に工房を構える
〈岩谷堂タンス製作所〉の13代目三品綾一郎さんは
現在、副会長として同イベントの運営に関わると共に、
自身の工房でも積極的に新しい取り組みを始めている。
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木地の風合いを残した漆塗りと装飾を施した黒い金具が特徴の〈岩谷堂箪笥〉。
「岩谷堂タンス製作所は江戸時代後期から代々箪笥を制作してきました。
『暮しの手帖』の編集者だった大橋鎮子さんに
よく取り上げていただいたこともあって全国的にも知名度は高いのですが、
高額で存在感のある箪笥は若い世代にはやはりどうしても遠い存在。
そこで、より多くの人に岩谷堂箪笥に触れてもらいたくて立ち上げたのが、
〈Iwayado Craft〉です。
箪笥をつくるときに出る端材を利用して蝶ネクタイやブローチのアクセサリーなど、
今はまだ日常に『箪笥』のない人にとっても
暮らしの一部となるようなものをつくっています」
本業の箪笥製作においても、脚付きのテレビ台や小ぶりなチェスト、
大手照明器具メーカーの〈オーデリック〉とコラボした照明など、
現在のライフスタイルにも合うような商品も多く見られる。
「もちろん、昔ながらの車箪笥やカラクリ箪笥など、
変わらないよさも大事にしています。
せっかく江戸時代から続いている伝統なので、大切にしたいじゃないですか。
続けること、伝えること、変化すること。
それがこれからの伝統工芸にとって大切なことなんだと信じて、
がんばっていこうと思います」
〈岩谷堂箪笥〉に欠かせない手打ちの金具を製造している唯一の工房、
〈彫金工芸 菊広〉の2代目及川 洋さん。
もともと工業デザインを学んでいた及川さんは、
地元の伝統工芸であった箪笥づくりに興味を持ち、職人として働き始めた。
当初は木工を担当していたが、
紫綬褒章を受賞した名工として知られる先代のもとに弟子入りし、
彫金師としてのキャリアをスタートさせた。
「豪華絢爛な金具は〈岩谷堂箪笥〉のひとつの特徴で、
補強だけでなく、箪笥に美しさを出すために付けられているもの。
江戸時代から受け継いでいる龍や唐獅子、牡丹など伝統的な図案を中心に、
昔ながらの技法でひとつひとつ手打ちで仕上げています。
繊細な線彫で構成されながら、全体で見るとダイナミックな美しさがある。
機械ではできない、手作業ならではの技に惚れてこの仕事に就いたので、
居心地がいい。先代は引退してしまいましたが、
過去の作品から学ぶことがたくさんあって、楽しいですよ」
ストイックな職人気質漂う及川さんが危惧しているのが、
彼のほかに継ぎ手がひとりもいないこと。
「三品さんの〈Iwayado Craft〉に自分も参加して、
伝統工芸品だけでなく彫金の技術を生かしたモノづくりに取り組むことで、
少しでも多くの人に興味を持ってもらい、
自分と一緒に技術を継ぐ人が出てくればよいなと思っています。
工房はいつでも見学可能なので、まずは気軽に見に来てもらいたいですね」
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一関市で100年続く〈京屋染物店〉の蜂谷さん兄弟は、
新しい〈いわて県南エリア伝統工芸協議会〉の中心メンバーとして、
前会長で〈翁知屋〉の佐々木優弥さんと共に
〈平泉五感市〉の立ち上げに携わってきた。
「うちは祭りと共にある染物屋です。〈平泉五感市〉は、職人のお祭りだと思う。
楽しいからみんなが集まる。後の世にも残したいから集まって協力する。
そうやって続けていきたいですね」
そう話すのは、現在同協議会の副会長を務める蜂谷淳平さん。
技術方トップの専務取締役として4代目で兄の蜂谷悠介さんと共に
京屋染物店を切り盛りしている。
同工房は、半纏や衣装など、お祭り用の商品をはじめ、手ぬぐいや藍染の洋服など、
オリジナルの商品も展開している。
全国的に染物屋は跡継ぎ不足で廃業が続くなか、
〈京屋染物店〉には若い社員が多く集まり、全国から注文も集まるようになった。
「僕らはずっと祭りや芸能にこだわって仕事をしてきたので、
ただ物をつくるだけでなく、
その先にある発表の場での笑顔や感動までをつくるのが仕事だと思っています。
だから、自社内にデザインから縫製ラインまで揃えて、
普通の染物屋以上のことをやっているという自負がある。
その分苦労も多いけど、やりがいと楽しみも大きい。
そんな社風に共感を持つ若い仲間がたくさんいることが、
僕たちの強みだと思います」
そんな〈京屋染物店〉の蜂谷さんに刺激を受けて新たに仲間に加わったのが、
〈小山太鼓店〉の3代目・小山健治さんだ。
同工房は、鹿踊りや神楽が盛んな一関市で、
地元鹿踊りや盛岡のさんさ踊りなどの郷土芸能には欠かせない
太鼓を100年近くつくり続けている。
満州で桶太鼓の技術を学び、戦後抑留されたシベリアでの強制労働時代に
革の鞣し技術を身につけた初代が、地元の一関市室根地区に工房を開いた。
「室根山には太鼓の素材となるケヤキやスギ、竹が多く自生しているので、
太鼓づくりに向いた環境が揃っていたんだと思います。
岩手県内には郷土芸能団体が1000以上もあり需要も多かったので、
うちのほかにも数軒工房ができて、盛岡とともに太鼓の産地になったそうなんです」
小山さんは、父親が家で納期に追われながら
太鼓づくりをしているのを見ながら育ち、
ずっと「絶対に継ぐのは嫌だ」と思っていたそう。
高校卒業後、ミュージシャンとして活動していた彼が
なんとなく家業を手伝うようになったのは、25歳のときのこと。
「真剣にやってみたら、結構ハマってしまって。
山に篭って材料を切り出したり、工房で制作にのめり込んだりする合間に、
お客さんが出演するお祭りやイベントを回るんです。
そこで音の好みを確かめたり、修理や新調の相談に乗ったり。
一年中そうやって音に携われる仕事、なかなかほかにないですよ」
〈いわて県南エリア伝統工芸協議会〉のメンバーになってからは、
創作の広がりも生まれてきたそうだ。
「〈京屋染物店〉さんと鹿踊りやさんさ踊りの装具を一緒につくったり、
〈彫金工房 菊広〉さんには太鼓の金具をお願いしようと思っています。
他ジャンルの職人さんと交わると、全然違った視点やお客さまに出会うことができる。
ライブじゃないですけど、そういうジャム的な感覚を大事にしていきたいですね」
今回紹介したいわて県南エリア伝統工芸協議会に参加する工芸の工房は、
勉強会や研修を重ねながら、工芸の未来を考え、自らの可能性も広げてきた。
そして、今また新たな取り組みにチャレンジしようとしている。
5工房を含めた、一関・平泉・奥州市地域のさまざまな職種の工房で、
オープンファクトリーを開催できないかと模索しているというのだ。
もし実現すれば、普段は公開されていない場所を訪ねる貴重な機会となるだろう。
伝統工芸に興味のある方はもちろん、地方に興味のある人にとっても
きっと有意義な時間になるはずだ。今後の動向が見逃せない。
information
丸三漆器
infomariton
岩谷堂タンス製作所 ショールーム
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彫金工芸 菊広
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京屋染物店
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小山太鼓店
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翁知屋
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