連載
posted:2017.10.31 from:岩手県一関市 genre:旅行 / 食・グルメ
PR 一関市
〈 この連載・企画は… 〉
岩手県南の岩手県一関市と平泉町は、豊かな田園のまち。
東北有数の穀倉地帯で、ユニークな「もち食」文化も根づいてきた。
そんなまちの新しいガイドブックとなるような、コンテンツづくりが始まった。
photographer profile
Kohei Shikama
志鎌康平
山形県生まれ。写真家小林紀晴氏のアシスタントを経て、山形へ帰郷。東京と山形に拠点を設けながら、日本全国の人、土地、食、文化を撮影することをライフワークとしています。山を駆け、湖でカヌーをし、4歳の娘と遊ぶのが楽しみ。山形ビエンナーレ公式フォトグラファー。
http://www.shikamakohei.com/
writer profile
Hiroko Mizuno
水野ひろ子
フリーライター。岩手県滝沢市在住。おもに地元・岩手の食や暮らし、人にまつわる取材や原稿執筆を行っている。また、「まちの編集室」メンバーとして、『てくり』および別冊の編集発行などに携わる。
一関市街から東へ車を走らせ、
のどかな里山の風景をいくつか越えていく――。
懐かしい農村地帯のなかに見えてくる産直カフェ
〈HIRASAWA F MARKET〉は、2017年秋でオープンから2年目。
高台から眺める田園が美しい空間であり、
地域と人とモノを結ぶ、心地よい時間が流れている。
〈HIRASAWA F MARKET〉があるのは、一関市弥栄(やさかえ)の平沢地区。
国道沿いに見かけた小さな看板に従ってゆるやかに進み、
「果たして、本当にカフェがあるのか?」と不安を感じ始める頃、
古民家を改修した同店が見えてくる。
広々としたウッドデッキ、昔ながらの瓦屋根を生かしつつも、
しゃれた佇まいに仕上げた外観の建物は、
風景に違和感なく溶け込み、訪れる人を大らかに迎え入れる。
築200年を超える古民家を改装したカフェは
地元食材でつくるランチメニューやデザートなどを提供するとともに、
採れたての野菜、パンや菓子などの加工食品、
さらには器や洋服なども販売している。
時には地域の人を巻き込んで、ライブやイベントなども行い、
カフェの枠を超えた「人が集う場」になりつつあるようだ。
HIRASAWA F MARKETには、近郊だけでなく、遠方からもお客さんが訪れるという。
しかし、なぜこの農村風景広がる場所にカフェを開いたのか?
店主の熊谷志江(ゆきえ)さんに、その理由をうかがった。
「このあたりは農家が多くて、おいしい野菜がたくさん採れるんです。
お互いに採れたものを近所で配り合ったりしますが、
残ったものは廃棄せざるをえないことも。
味も質もまったく問題ない野菜たちを捨ててしまうのはもったいないと思って。
私も子育てが落ち着いた頃だったので、
じゃあ、ちょっとおしゃれな八百屋さんができないかと、
地域の新年会で提案してみたのがきっかけです」
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埼玉県出身の熊谷さんが、
ご主人の実家であるこの地へ移り住んだのは12年前のことだ。
最初は、首都圏での暮らしとまったく違う環境に戸惑いもあったそうだが、
子育てをするなかで地域とのつながりに助けられ、徐々に土地になじんでいった。
自身が野菜好きだということ、地域が育む野菜への愛着から思い立ったのが
産直とカフェを合わせたスタイル。
自分がイメージする写真を雑誌から切り取って地域の人々に見せたところ、
周囲も賛同し、一気にカフェ開店に向け動き出したという。
新年会でお店の提案をし、2015年1月のことだが、そこからの展開が早い。
実際に店を立ち上げるため、商工会議所に相談して事業計画をつくり、
同年6月には改修工事をスタート。内装作業は地域の人々と一緒に作業し、
9月には開店に至ったのだから、驚きだ。
「これって起業なの?という感覚でした。
周りの皆さんがいろいろ手伝ってくれたおかげ、
本当に人に恵まれています」と、当時を振り返る熊谷さん。
子育て中は地元で会社勤めをしてきたが、服飾関係の学校を経て
首都圏で過ごした独身時代は、企業の広報宣伝に携わり、
デザイン会社に勤めた経験もある。
好きなモノや場への思いは、暮らしのなかで関わってきた地域の人や知人に
自ずと伝わっていたのかもしれない。
さて、そんなカフェで人気なのが、地元野菜をたっぷり使ったランチメニューだ。
ご飯とパンのいずれかに合わせ、その日に仕入れた野菜によって献立は変わる。
運ばれてきたパンメニューの皿は、見ているだけで元気になるような鮮やかさ。
野菜のボリュームサンドイッチをはじめ、
プレートに乗った主菜副菜に使う野菜たちは、
どれも地元生産者から仕入れたものだ。
食材の仕入れ先のひとつ〈街なか産直・新鮮館おおまち〉は、
一ノ関駅そばにある産直施設。野菜を仕入れる一方、
HIRASAWA F MARKETのお弁当を販売している。
12年前、地元の野菜農家を応援しようという思いでスタートした
〈街なか産直・新鮮館おおまち〉は、
大量出荷する野菜だけでなく品質的に問題はない規格外の野菜なども
積極的に取り扱ってきた。
とはいえ、産直ブームが終息に向かう時代となり、
ここ数年は、産直そのものの在り方が問われるようになってきた。
そんななか、同店の梁川真一さんは、自ら生産者を巡り、
「個性ある産直」づくりに励んできたひとりである。
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「生産者の意志で商品を出すのが、従来の産直の考え方。
しかし、それでは棚に空きができるし、お客さんも減っていきます。
うちの店舗も以前はそうでした。でも、地元の人に商品を知ってもらう場、
伝える機会を持つのが産直です。魅力ある産直になるためには、
待っていては始まらない。
農家さんが『何もない』といっても、いや、誰か何かをつくってるだろうと(笑)、
自分から生産者のもとをまわり始めました」
実際に農家をまわってみると、季節ごとにそれぞれ育てている野菜がある。
そこにある食材を納品可能な分を仕入れて、うまく売り場に野菜を揃えていく。
定番野菜に加えて、若い農家がチャレンジする西洋野菜も積極的に並べていった。
「一関市内の若手農家でつくる〈両磐4Hクラブ〉というのがあり、
新規就農者や若手生産者が集まって技術向上や勉強会をしているんです。
その農家たちは新しい野菜づくりにも取り組んでいます。
産直にそういう商品が並ぶのを見て、ベテラン農家の方々も
翌年からやってみようか、という気持ちになるようです」
いろいろな野菜を取り揃え、お客さんからの声は生産者にフィードバックする。
一方で、梁川さんは野菜のマッチング先を見つけようと
飲食店にも足を運び、地元野菜の情報提供に努めている。
いわば、生産者と飲食店のつなぎ役。
「前職は現場の問題解決をする生産技術でしたが、
分野は変わってもスキルが生かされています」と笑う。
そんな新鮮館おおまちの野菜は、熊谷さんのメニューにも生かされているが、
梁川さんは、仕事で関わる以前からお客として
HIRASAWA F MARKETに足を運んでいたそうだ。
地元野菜を共通ワードにする熊谷さんと梁川さんがつながるのは
時間に任せても当然の流れだが、きっかけは、やはり地域の人だった。
「産直で扱っているパン屋さんが、熊谷さんを紹介してくれました」と梁川さん。
そのパン屋さんとは、双方につきあいがある地元パン工房の店主。
周りの人たちが動いた結果として人が集い、つながっていく。
「以前、店内で開かれた音楽イベントでは、60代の人たちがごはんをつくり、
若い人たちがお客さんとしてやってきました。
そして地元の人が駐車場係をやってくれて。
スタイルは違っても、地域の公民館で豚汁をつくって、
皆と交流した昔ながらの関わり方と変わらないですよね」
どこかあっけらかんとした熊谷さんの佇まいこそが、
世代を問わず人を呼び込む“風”になっているのだろうか。
そして、来る人を魅了するのは、カフェから見渡す田園風景。
春の田おこし、水鏡に映る山々、夏から秋の稲刈りまで、季節ごとに色を変える様、
収穫を終えたあとの冬景色もまた、どこか懐かしく心和むもの。
雲がゆっくり流れていく時間をひとり占めできるこの空間に
人が集うのは、当然のことかもしれない。
information
■HIRASAWA F MARKET
住所:岩手県一関市弥栄字膳棚57
TEL:090-7522-2103
営業時間:11:00~16:00
定休日:水曜日(祝日の場合は営業、翌日休み)
information
街なか産直 新鮮館おおまち
住所:岩手県一関市大町4-29
TEL:0191-31-2201
営業時間:8:30~18:00
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