colocal コロカル マガジンハウス Local Network Magazine

連載の一覧 記事の検索・都道府県ごとの一覧
記事のカテゴリー

連載

映画監督・松本花奈の旅コラム
「出会いを大切に。
友人との絆が深まった宮城夏旅」

旅からひとつかみ
vol.040

posted:2024.7.16   from:宮城県  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  さまざまなクリエイターがローカルを旅したときの「ある断片」を綴ってもらうリレー連載。
自由に、縛られることなく旅をしているクリエイターが持っている旅の視点は、どんなものなのでしょうか?
独特の角度で見つめているかもしれないし、ちいさなものにギュッとフォーカスしているかもしれません。
そんなローカル旅のカタチもあるのです。

text

Hana Matsumoto

松本花奈

さまざまなクリエイターによる旅のリレーコラム連載。
第40回は、映画監督の松本花奈さん。
東日本大震災の復興支援にまつわるツアーへ。
仙台〜南三陸町〜亘理町〜塩釜市へと、
知っていたようで知らないことを目の当たりにし
風化させないように心に留めておく体験になった。

ツアーへは、中学校の同級生たちと一緒に行った。
このメンバーとは“小さなすれ違い”があったというが、
はたして旅はどうなったのだろうか?

中学時代の親友と行く、復興支援ツアー

2年前の夏、友人と宮城県へ旅に出た。
友人の名前は、“きなり”と“かめあり”。
中学の同級生で、中3のときにクラスが同じになり、仲良くなった。
きなりは面倒見が良く、姉御肌。それでいてとても繊細で、唯一無二の感性を持っている。
ちなみに、きなりは漢字で“生也”と書く。生きる也。なんていい名前なのだろう。

かめありは飄々としていて、とても知的。
穏やかなように見えて、たまに斜め上の角度から毒を吐いてくるところがまたおもしろい。
私は、きなりとかめありのことが大好きだ。
10年前から変わらずずっと、会うたびにお腹がよじれるほど大爆笑できるのは
このふたりしかいない。
ふたりに出会えたことで、 私の人生はとても豊かになっている。

“きなり”と“かめあり”と自分。

“きなり”と“かめあり”と3人で。

次のページ
南三陸の海産物とは?

Page 2

きなりの知り合いが仙台で復興支援にまつわるツアーをされているということで、
我々一行は北へと向かった。

初日。仙台駅前でツアーの案内をして下さる方と合流し、南三陸町へ。
旧防災対策庁舎、五十鈴神社を目の当たりにする。
旧防災対策庁舎は原型が想像できないほどボロボロで骨組みだけの状態になっていて、
五十鈴神社には多くの千羽鶴が飾られていた。

旧防災対策庁舎。

旧防災対策庁舎。

五十鈴神社。

五十鈴神社。

東日本大震災当時、私は東京にいて、
連日のニュースやネットの記事を通して、
大変なことが起こっていると理解しているつもりだったが、
本当は何もわかっていなかったんだな、と思い知らされた。
高台からまち並みを見下ろしていると、喉の奥がギュッと詰まった。
被害に遭われた方々があの日から今日までをどんな想いで過ごしていたか、
私は本当の意味で知ることはできない。
だからこそ、考え続けなければいけない。
想像することから決して逃げてはいけないと強く心に留めた。

午後は船に乗り、海へ出た。
絵に描いたような快晴で、向かい風がとても気持ちよかった。
とれたてのウニを船の上で食す。命の味がして、生きている、と感じる。
水、山、風。自然を全身で浴びる。
早起きしてセットした髪はボサボサになったが、そんなことはどうでもよくなっていた。

船から海を見る

カゴにとったウニ

その後、南三陸町でとれた海産物の販売を行っている
〈たみこの海パック〉のたみこさんにお話を伺う。
たみこさんは漁業による復興活動をされていて、南三陸町のこと、
普段のお仕事のことなどをフリップを用いて丁寧に説明してくださった。
たみこさんの育てられた海産物は新鮮で、とてもおいしかった。

民子さんに話をきく3人

たみこさん。

たみこさん。

次のページ
3人の距離感はどうなった?

Page 3

2日目は亘理町へ移動し、
伝統文化の伝承と発信を行っている〈WATALIS〉の引地さんにお話を伺う。
WATALISは震災後に亘理町の女性たちで立ち上げた会社で、
古い着物地をリメイクし、再び世に送り出すブランドである。
いらなくなったモノをすぐに捨てるのではなく、形を変えて蘇らせる。
そうしたモノを大切に扱う気持ちは、
やがて周囲の人々を大切にする気持ちにもつながってくるのだろう。

WATALISにて。

WATALISにて。

続いて塩釜へ移動し、〈矢部園茶舗〉の矢部さんにお話を伺う。
矢部さんは塩釜本町でお茶屋を営む矢部園の3代目で、
震災後、全国の有志の賛助のもと、
〈株式会社東北クリエイト〉という災害支援のための会社を設立された。
先代から受け取ったバトンを後世につないでいく。
そのために今、何をすべきか考えて行動したいと思った。

矢部園茶舗にて。

矢部園茶舗にて。

あっという間に2日間は過ぎ、たみこさん、引地さん、矢部さんという
素敵な方々との出会いによってもたらされた充実感を覚えながら、帰路につく。

実はこの旅行前、私たち3人の間には、ほんの少しだけ距離感が生まれていた。
いつから? なぜ? その距離感ができたのかはわからない。
ただ中学を卒業してからは、それぞれ別々の道を歩み始め、
昔のような頻度で会うことは難しくなっていった。

きなりは高校〜大学を海外で過ごし、かめありは大学院へと進学した。
きなりが日本に帰国した頃、私はちょうど撮影が立て込んでいて、
ふたりがごはんや遊びに誘ってくれても、
なかなか顔を出すことができずにいた。

そんなこんなですれ違い、会えない日々が数年続いた。
それでも久々に会うと昔と変わらず笑い合えていたし、
私たちの絆はそんなことで壊れるものではないと、信じ込もうとしていた。
けれど、小さな歪みはやがて大きな歪みへと膨れ上がり、
私たちは次第にほんの少しだけ気まずくなっていた。

3人の後ろ姿

帰りの新幹線では、ずっと大爆笑していた。
何について話していたのかはまったく思い出せないが、とにかくひたすら笑っていた。
この旅行で、きなりとかめありとの距離感が再びギュッと縮まった気がして、
ものすごくうれしかった。

きなりは来年からマルタ島に移住する。
かめありは数年以内にはフランスに移住を検討しているらしい。
またしばらく会えない日々が続くのか、と落ち込む。
……いや、違う。会えないなら、会いに行けばいいのだ。
ふたりに会うためなら、世界中どこへだって私は旅に出る。

新幹線車内にて3人の様子

profile

Hana Matsumoto 
松本花奈

1998年1月24日生まれ、大阪府出身。慶應義塾大学総合政策学部を卒業。2015年に初長編映画『真夏の夢』が、史上最年少の16歳でゆうばり国際ファンタスティック映画祭フォアキャスト部門に正式出品。翌年、同映画祭で映画『脱脱脱脱17』がオフシアター・コンペティション部門の審査員特別賞・観客賞を受賞。2021年に映画『明け方の若者たち』を監督し話題に。

近年では映画『今夜、世界からこの恋が消えても』で月川翔と共同脚本、MBS「君となら恋をしてみても」やAmazonプライムビデオ「【推しの子】」などを監督。

Feature  特集記事&おすすめ記事