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写真家・石田真澄の旅コラム
「河口湖&忍野八海へ。
旅は自分の選択を客観視できる」

旅からひとつかみ
vol.024

posted:2022.5.13   from:山梨県富士河口湖町、忍野村  genre:旅行

〈 この連載・企画は… 〉  さまざまなクリエイターがローカルを旅したときの「ある断片」を綴ってもらうリレー連載。
自由に、縛られることなく旅をしているクリエイターが持っている旅の視点は、どんなものなのでしょうか?
独特の角度で見つめているかもしれないし、ちいさなものにギュッとフォーカスしているかもしれません。
そんなローカル旅のカタチもあるのです。

text

石田真澄

さまざまなクリエイターによる旅のリレーコラム連載。
第24回は、写真家の石田真澄さんです。
友人と河口湖と忍野八海を訪れた旅を綴ります。
石田さんが人と旅をするときに行う選択と共有、
それはどんなものでしょうか?

予定を立てない河口湖の旅

旅はたくさんの選択が積み重なった時間だと思う。
どこへいく? いついく? から始まり、
どこに泊まる? 朝食つける? 何食べる? 何見る? とか。
相手の選択を聞き、自分の選択を伝え、どちらかを選ぶということの連続。
旅は好きでもこの流れが苦手だったりする。
自分の思い通りにならないからということではなく、どちらかを選べないから。

このどちらでもいいは、全く意思がないというより、
今あなたとならどちらでも楽しめるから、どちらでもいい、となってしまう。
結果的にうまくいかない選択をしたとしても大して気にしない。
これとは反対に、ひとりで選択するときはこだわりがあったり、
失敗しないようにと優柔不断になってしまう。

成人したあとくらいから旅に行くことが増え、
だれかと選択の共有をするようになり自分のことがわかってきた。

部屋に露天風呂がついている旅館に行こう、と決め河口湖に行ったことがある。
電車内で予定を決めようと思い、
何も予定は立てず新宿駅で発車前の車内で集合し河口湖へ向かった。
だいたいこういうときは車内で何も予定を立てず喋っていたら目的地に着いてしまう。
散歩やドライブもそうだが、誰かと横並びで喋る時間が本当に好きだ。

河口湖に到着すると、食べたいものをひとしきりコンビニで買って
湖のそばで座って食べた。唐揚げとサラダ巻きとサンドイッチとか。

天気がいい日は建物の中に入るのが勿体無い。
キラキラしている水面をカモが泳いでいるのを見て、
河口湖に住むカモになりたいなあと話をした。
あの光の粒のなかで泳いで暮らしていたいと思った。

満足するまで湖の光を見てから、ロープウェイに乗って
富士山がきれいに見える高台まで行く。
フォトスポットで観光客の方から写真を頼まれスマホで撮影した。
スマホを返すと、撮りましょうか? と言ってくれた。
こういうときに断れなくて撮ってもらう写真くらいしか
旅先で友人と写真を撮ったりしないので、あとから見返すと良かったりする。

早めに旅館に入り、陽が落ちるまで窓の外の富士山を眺め、
夕飯を食べ、また夜になって外へ出た。
切れた梅酒を買いに遠くのコンビニまで散歩をしていると、
昼間は車で一杯だった広い駐車場が空き地になっていたので、
寝転がりたい衝動にかられコンクリートに寝転がった。
だだっ広い場所に行くとどうしても寝転がりたくなる。
大きな会議室とか、芝生とか。

真っ黒な空を見ながら喋っていたら車のライトに照らされ、慌てて逃げて帰った。
夜の帰り道や夜の公園のような暗闇で喋る時間も好きなので、
人と対面で顔を見て喋ることが苦手なんだなとつくづく思う。

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「登れそうな塀は登りたい」

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急遽、忍野八海へ行くことに決めた。が、しかし……

翌日も行く場所を決めていなかったので、
友人が調べてくれた忍野八海に行くことにした。
バスを乗り継ぎ、目的地のバス停で降りると忍野八海からは程遠い場所だった。
歩けない距離ではなかったので、天気もいいし歩いて向かうことにした。
たまたま降り立った場所だったが、
知らないまちの小さな森林の中の道や広い車道横を歩くのは旅の醍醐味だと思う。

車道の横に登れそうな低い塀があったので、
友人に荷物を手渡し塀の上を歩きながら進んだ。
ちょっと高いところから景色を見渡すことが好きなので、登れそうな塀は登りたい。

都内でバスに乗ることが好きなのもこれと一緒で、
いつもの道を少し高いところから見るとなんだか気持ちが変わって楽しい。

急に人だかりが見える、と思ったところで忍野八海に到着した。
忍野八海には富士山の伏流水に水源をもつ湧水池が複数ある。

ゆらゆらと揺れる水草や、太陽光に光る水面、深く青黒く続いている池の底など、
水の動きをずっと眺めていると気持ちが遠くに離れて行く感覚になる。
炎を見ているときの感覚に近く、
リラックスするというより、いてもたってもいられなくなってしまう。
その光に触りたいとか、水の中に入りたいとか、光の粒を掬いたいとか、
そのような衝動にかられる。
気持ちが離れて落ち着かなくなる。

触れる水は触り、撮りたい光はひたすらに写真におさめて
忍野八海を後にした。

いつもと違う場所で寝て起きて、初めて見る景色に囲まれ、
だれかと一緒に選択を共有していると、“自分”がわかってくる気がする。
いつもの生活リズムだとひとつひとつの動作を何気無しに考え選択しているが、
旅の最中は自分の選択を客観視できるようになる。

旅は自分と向き合う時間、自分を見つめ直す時間、ともいうが
私にとっては自分がわかる時間だと思っている。
自分はこの選択をするのか、と冷静になれるのだ。
自分を愛するとか自分を大切にするとか、
そのような感覚をいまいち掴めたことはないが、
自分をわかりたい、理解したいと思う気持ちが強い。
どのように人と違うかを知りたくなる。
旅に行くたびに自分のなかの発見ができるのだ。

profile

石田真澄

写真家。1998年生まれ。雑誌や広告などで活動。2017年5月、自身初の個展『GINGER ALE』を開催。2018年2月、初作品集『light years -光年-』をTISSUE PAPERSより刊行。2019年8月、2冊目の作品集『everything will flow』」を同社より刊行。
2022年4月、2年をかけ女優・夏帆を追った写真『おとととい』(SDP)を刊行。2022年5月には、二十歳になった女優・八木莉可子、初めての写真集『pitter-patter』(青幻舎)を刊行予定。

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