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料理家・冷水希三子の旅コラム
「沖縄の離島で塩のルーツを知り、
ヤギカレーをつくり上げた」

旅からひとつかみ
vol.006

posted:2020.3.10   from:沖縄県宮古郡  genre:食・グルメ / 活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  さまざまなクリエイターがローカルを旅したときの「ある断片」を綴ってもらうリレー連載。
自由に、縛られることなく旅をしているクリエイターが持っている旅の視点は、どんなものなのでしょうか?
独特の角度で見つめているかもしれないし、ちいさなものにギュッとフォーカスしているかもしれません。
そんなローカル旅のカタチもあるのです。

writer profile

Kimiko Hiyamizu

冷水希三子

料理家。旬の食材を使い、シンプルでおいしい料理を目指しています。著書に、『さっと煮サラダ』(グラフィック社)、 『ハーブのサラダ』(アノニマ・スタジオ)など。http://kimiko-hiyamizu.com/

さまざまなクリエイターによる旅のリレーコラム連載。
第6回は、料理家の冷水希三子さんが沖縄の離島に通ったお話。
いくつかの離島の特産品から着想して、おみやげものや料理を生み出す活動のなかで
たくさんの人、海、食材との出会いがありました。
特に粟国の塩と多良間のヤギ汁が印象的だったようです。

おみやげものとヤギカレーの開発

あまり沖縄に縁がなかった私でしたが、
5年ほど前にお声がけをいただき沖縄の離島に通うプロジェクトがありました。
沖縄にある有人島47島のうち、比較的観光客や観光資源の多くない島を盛り立てて、
雇用も増やしていこうというもの。

方法としては直接的ではないのかもしれませんが、
まずはその島の特産品を使っておみやげものを開発することで、
島の人々のお仕事を増やすこと。
さらにそれらを通して、島のことを知らなかった人たちにも知ってもらいたいという、
小さいながらも地道な活動です。

その島とは、
多良間(たらま)、粟国(あぐに)、渡名喜(となき)、南大東、北大東の5島です。
とはいえ、私は粟国の塩を日々使っているので粟国と、
なんだか天気予報に出てくる南大東を聞いたことがあるくらいでした。

ミッションは、島の特産品を活用した商品を開発すること。
レシピを考えてからそれぞれの島に乗り込み、島のおばあや食品をつくっている方たちに、
つくり方や保存瓶の使い方などを説明して回りました。

最初は「若い、(若くはないですが(笑))、知らない人が来て何をするのやら~」と
人見知りされている状態でしたが、少しずつ心を開いてくださり、
今でもそのレシピでつくってくださっている方々もいて、なんだかうれしいです。

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沖縄といっても島ごとにかなり雰囲気が違うので、それぞれさまざまなことに感動しました。
特に粟国に行けたのは私にとっては、とてもありがたい体験でした。
それはなぜかというと、いつも調味塩として使っている
粟国の塩〉の工場に見学に行けたからです。
何にもないきれいな海に囲まれたサトウキビ畑の真ん中にポツリとその工場はあります。

背の高い吹き抜けの工場は、
天井から無数の竹が逆さまに吊り下げられていて、とても神秘的で美しい光景。
その竹に海水を当て、無数にある笹の葉に海水が当たり、
細かな水しぶきになって下に落ちていきます。
これを何度も繰り返すことで、自然を利用して海水の塩分濃度を上げています。
その塩分濃度が上がった海水を、釜で煮詰めてできたのが〈粟国の塩〉です。

そんな自分が使っている塩の生まれを知ることができて、
使うたびになんとなくその景色を思い出すと、感謝と幸せな気持ちが芽生えます。

南大東島はプロペラ機でしか行けないような島。
夜には今までに見たことのないような無数の星が所狭しと夜空を埋め尽くしていました。
夜空って本当は真っ暗じゃなくて、こんなに星が瞬いて感動的なものなんだな~と、
地面に寝転びながら地球を感じていました。

多良間島のヤギ肉を使ったたらまピンダカレー。

多良間島のヤギ肉を使ったたらまピンダカレー。

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多良間島にはかなりお世話になり、最初のおみやげづくりプロジェクトの後に、
それぞれの特産品を生かしたカレーをつくりに通いました。
多良間の特産品のヤギをベースにカレーをつくるのですが、
多良間の人々は「多良間のヤギが一番おいしい!」と自慢していて、“島愛”に溢れていました。

見渡す限りの自然のなかに、かわいいヤギたちが散歩しているのです。
かわいいな~と思った矢先に、工場で絞めたヤギを使ってカレーをつくっている自分に、
「さっきまでかわいいと思っていたのに~」と驚きました。
しかし、「これも自然なこと」、と感謝を忘れずにつくりました。
沖縄には、ヒハツモドキや長命草という独特な香りの植物もあり、
スパイスとして使うことでさらに離島らしさも出ました。

通っているうちに、島の方にお家の晩ごはんに招かれて食卓をご一緒し、
ご自慢のヤギ汁をいただきました。
それまで食べたことがなかったし、
臭いという噂を聞いていたので恐る恐る口に運んでみましたが、これが意外といける感じ。
ヤギ自体は独特の香りはあるものの臭いわけではなく、
味つけも甘みのある味噌仕立てでスルスルと胃に収まりました。
そして、やはり土地柄からか、おかわりを勧めてくださるので、3杯も食べてしまい……、
その夜はヤギの滋養強壮の効果で目がギラギラ、
体もほててって一睡もできなかったです(笑)。

幾度となく通わせていただきましたが、
いつも弾丸で行って帰るを繰り返していたので、
最後の1回しかきれいな海に入れませんでした。
しかし、その1回が忘れられません。
あまりにもきれいな海で、海の上と中の区別がつかないくらい澄んでいて、
まるで魚が空を飛んでいるようでした。

多良間はダイビングされる方々の間では、最後に行き着く聖地らしいです。
最初は仕事でしたが、さまざまな経験をすることができて、
とても楽しく、貴重な思い出になりました。 

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