連載
〈 この連載・企画は… 〉
海と山の美しい自然に恵まれた、瀬戸内海で2番目に大きな島、小豆島。
この島での暮らしを選び、家族とともに移住した三村ひかりが綴る、日々の出来事、地域やアートのこと。
writer profile
Hikari Mimura
三村ひかり
みむら・ひかり●愛知県生まれ。2012年瀬戸内海の小豆島へ家族で移住。島の中でもコアな場所、地元の結束力が強く、昔ながらの伝統が残り続けている「肥土山(ひとやま)」という里山の集落で暮らす。移住後に夫と共同で「HOMEMAKERS」を立ちあげ、畑で野菜や果樹を育てながら、築120年の農村民家(自宅)を改装したカフェを週2日営業中。
https://homemakers.jp/
5月3日、新緑が美しいこの日に毎年開催されてきた
小豆島の伝統行事『肥土山(ひとやま)農村歌舞伎』。
その歴史は300年以上、江戸時代から続いています。
2018年の肥土山農村歌舞伎。舞台前の桟敷にはたくさんのお客さんが歌舞伎を楽しみながらお弁当を食べたりビールを飲んだり。
そもそも農村歌舞伎ってなんでしょう?
江戸時代中期、小豆島の人たちの楽しみのひとつが歌舞伎を観ることでした。
今の私たちが映画やドラマ、音楽を楽しむのと同じですね。
当時、島の人たちは一生に一度、お伊勢参りをするのが夢で、
その道中、上方(今の大阪あたり)に立ち寄って、
歌舞伎などの芸能を観るのが楽しみだったそうです。
島に帰っても、その楽しかった歌舞伎のことが忘れられず、
上方の歌舞伎役者を島に呼んで歌舞伎を楽しんでいたそう。
現代でいうと、ミュージシャンを島に呼んで
ライブしてもらっているみたいですね(笑)。
そのうち観るだけじゃなくて、自分たちでも歌舞伎を演ずるようになりました。
毎回、遠方から歌舞伎役者を招くのは大変だったでしょうからね。
江戸時代の農村で暮らす人たちが演じた歌舞伎、
それが『農村歌舞伎』の始まりです。
歌舞伎を演ずるのは地元の人たち。化粧や衣装、舞台の準備などもすべて地元の人たちの手でつくりあげます。
その当時、肥土山集落では、農業用の水不足を解消するために、
集落から3キロメートル離れた山の上に大きなため池の工事を行っていました。
それはそれは大変な工事だったと思います。
工事開始から3年、1686年に「蛙子池(かえるごいけ)」として完成し、
その水が〈肥土山離宮八幡神社〉の横に流れてきたのを喜び、
境内に仮小屋を建てて盛大に歌舞伎を開催したそう。
その後、毎年開催されるようになったのが、現在も続く『肥土山農村歌舞伎』です。
〈肥土山離宮八幡神社〉の境内に歌舞伎舞台があります。
歌舞伎舞台の周囲は美しい田園。蛙子池の水を使っています。
ちなみに最盛期の明治・大正時代には、小豆島全体で歌舞伎舞台が30以上、
役者が約600人もいたといわれています。
現在は、肥土山農村歌舞伎舞台と中山農村歌舞伎舞台のふたつが残るのみ。
そのふたつの舞台では、今も農村歌舞伎が毎年開催されています。
私たちは、その残っている舞台のひとつ、
肥土山農村歌舞伎舞台がある肥土山という集落で暮らしていて、農業をしています。
300年前とスタイルは大きく違えど、今も蛙子池から流れてきている水を使って
農業をしていて、私たちも農村歌舞伎の役者として参加したり、
裏方仕事を手伝ったりしています。
歴史は続いているんだなぁ。
2019年、いろは(娘)が小学6年生の時、子ども歌舞伎の役者として(写真左)。
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ちょっと話はそれますが、最近うちの家族は大河ドラマにはまっていて、
鎌倉時代のお話を楽しんでいます。
鎌倉といえばいい国つくろう鎌倉幕府くらいしか知らなかったし、
小学生のときに勉強した歴史上の人物として、源頼朝や
北条家の人々の名前を知っているくらい。
でもドラマを観ていると、当たり前ですがひとりひとり感情があって、
今の私たちと同じように働いて、ごはんを食べて、笑ったり泣いたりしながら
暮らしているんですよね(当然ドラマなのでフィクションの部分もあると思いますが)。
歴史というのは、遠い昔の知らない場所で起こったことじゃなくて、
自分が暮らしている場所でもいろいろなドラマがあって、それが今につながっている。
肥土山農村歌舞伎が始まった300年前も、あー忙しい忙しいと言いながら
田植えをして、歌舞伎の練習をして、終わったらお疲れさまー! とお酒を飲んで。
当時も今と変わらずこの季節は新緑がとても美しかったんだろうなぁと
思い浮かべるとなんだか感慨深い。
5月は田植えシーズン。島のあちこちの田んぼにいっせいに水が張られ、苗が植えられていきます。
そんな歴史のなかで、去年と一昨年は新型コロナウイルスの影響で
歌舞伎が中止となってしまいました。
長い歴史のなかで、飢饉が起こったり、地震が起こったり、戦争が起こったり、
いろいろな年があったと思いますが、ウイルスによる感染で
歌舞伎が中止になることがあるなんて。
そんな状況のなかでも続いてきた農村歌舞伎、
あらためて、続けていくのはすごいことだなと思います。
今年は、5月3日に3年ぶりに肥土山農村歌舞伎が開催されました。
大々的には披露されませんでしたが、一部の演目に限って、
地元の人たちだけで行われました。
今年は「三番叟(さんばそう」というひとつの演目だけ披露されました。久しぶりに観られてうれしい。
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3年ぶりに歌舞伎が披露された舞台の屋根は、
去年の冬に葺き替えられた美しい茅葺き屋根。
ピシッと整った茅葺き屋根が新緑に映えます。
この茅葺き屋根ひとつとっても伝えたいことがたくさんあります。
去年の冬に何度か屋根工事中の様子を見に行きましたが、茅を組み、
整えていく様子はとても美しかった。
2021年12月、紅葉する山に囲まれて、屋根の葺き替え工事。
茅葺き職人さんたちが目で確認しながら茅を整えていきます。
茅葺き屋根の厚みがすごい。
屋根の上から下ろした古い茅は、私たちの畑に持ち帰り、
細かく粉砕して土の中にすき込みました。
無駄になるものはほとんどなく、地域の中で循環しているんです。
これもきっと昔から続いてることなんですよね。
屋根からおろした古い茅はゴミにしません! 軽トラックに山盛り積んで畑へ。
茅を細かく粉砕して畑の土にすき込みます。今この畑ではレタスが育っています。
来年は、多くの人とともにこの肥土山農村歌舞伎舞台で歌舞伎を観ながら、
この場所で続いてきた歴史を思い、
歌舞伎舞台のある農村の美しい光景を堪能できたらいいなと思います。
肥土山農村歌舞伎は、毎年5月3日です。どうぞお楽しみに。
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