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地域のつながりを育む、
小豆島「肥土山農村歌舞伎」

小豆島日記
vol.270

posted:2021.5.10   from:香川県小豆郡土庄町  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  海と山の美しい自然に恵まれた、瀬戸内海で2番目に大きな島、小豆島。
この島での暮らしを選び、家族とともに移住した三村ひかりが綴る、日々の出来事、地域やアートのこと。

writer profile

Hikari Mimura

三村ひかり

みむら・ひかり●愛知県生まれ。2012年瀬戸内海の小豆島へ家族で移住。島の中でもコアな場所、地元の結束力が強く、昔ながらの伝統が残り続けている「肥土山(ひとやま)」という里山の集落で暮らす。移住後に夫と共同で「HOMEMAKERS」を立ちあげ、畑で野菜や果樹を育てながら、築120年の農村民家(自宅)を改装したカフェを週2日営業中。
https://homemakers.jp/

2年連続中止。地域にとっての農村歌舞伎

5月のゴールデンウィークが終わりました。
昨年に続き、まさか今年の連休まで、
コロナ禍による自粛の日々になるとは思ってもいませんでした。

1年で一番気持ちのいい季節! と言えるくらい5月初旬の小豆島は最高のシーズン。
毎年GWの連休にはたくさんの観光客の方々が島を訪れます。
島のジェラート屋さんでは長い行列ができ、路線バスのバス停では
人がたくさん待っていて、有名な観光スポットへ向かう道路は渋滞していたり。
気候もいいし、賑やかだし、小豆島全体がとっても楽しそう。
というのが、いつものGW。

5月の小豆島。戸形崎には毎年鯉のぼりが海の上を泳ぎます。

5月の小豆島。戸形崎には毎年鯉のぼりが海の上を泳ぎます。

毎年小さな真っ赤な実をつける庭のサクランボ。これも5月の風景。

毎年小さな真っ赤な実をつける庭のサクランボ。これも5月の風景。

今年の小豆島の様子はというと、
「例年よりは静か、でも昨年よりは賑やか」という感じでした。
それがいいのか悪いのかは悩ましいですが、飲食店は満席の状態だったり、
列ができたりしていて、やっぱり連休なんだなぁと。

さて、私たちはどう過ごしていただかというと、カフェを数日営業して、
畑仕事、出荷作業と普段と同じように働いていました。

いつもの連休と決定的に違うのが、毎年5月3日に開催される地元の伝統行事
「肥土山(ひとやま)農村歌舞伎」が、昨年に続き今年も中止だったこと。
さすがに2年連続中止となると、いままでそこに当たり前のようにあった
大きなものがなくなってしまって、もの足りないような寂しいような、
そんな気持ちになります。

肥土山農村歌舞伎舞台がある肥土山離宮八幡宮からの景色。新緑のもみじと山々が美しい。

肥土山農村歌舞伎舞台がある肥土山離宮八幡宮からの景色。新緑のもみじと山々が美しい。

肥土山農村歌舞伎が中止になったことで、
よく言えば時間に余裕ができていつもできないことができたのですが、
この行事がなくなることで失われてしまうことって、
けっこう大きいんじゃないかと漠然と感じています。

正直言って、農村歌舞伎当日を迎えるための準備や練習は本当に大変です。
スケジュールを管理し、全体の調整をする人、
夜に稽古場に集まって演目の練習をする人、
大道具や小道具などのメンテナンスや準備をする人、
集まりのたびに参加者の食事やお茶の準備をする人など。

たくさんの人が関わり、みなさん仕事が休みの日や
仕事を終わらせた夜の時間を使って準備を進めていきます。
ひとつのことを成し遂げるために、役割を分担し、それぞれががんばる。
とても大変だけれども、大変だからこそ、同じ思いを持ち、
同じ時間を過ごすことで育まれる連帯感は強い。いまの肥土山という集落があるのは、
この農村歌舞伎が続いているからといっても過言じゃないような気がします。

参加者や来賓の方々のお弁当づくりは当日の朝3時頃から地元のお母さんたちが行います。数の確認や発注などもすべて。大変な仕事。

参加者や来賓の方々のお弁当づくりは当日の朝3時頃から地元のお母さんたちが行います。数の確認や発注などもすべて。大変な仕事。

役者の人たちは当日まで稽古場で何度も練習します。役者以外にも裏方にはたくさんの人たちがいます。

役者の人たちは当日まで稽古場で何度も練習します。役者以外にも裏方にはたくさんの人たちがいます。

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農村歌舞伎がなくなって失われたもの

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私たちが小豆島の肥土山という地区に移住してきてもうすぐ9年。
移住した翌年に開催された農村歌舞伎に、
当時5歳だったいろは(娘)が初めて参加しました。

それからほぼ毎年のようにいろはは子ども歌舞伎の演目に役者として出演。
小学生時代の彼女は農村歌舞伎とともに成長してきました。
きっと地域のみなさんが彼女の成長を見てきてくれたと思います。
私自身、歌舞伎の練習を共にするなかで、
地元の子どもたちの成長を楽しみにしてきました。

初めて農村歌舞伎の舞台に立った5歳の頃のいろは。歌舞伎の演目と演目の間に舞いを踊りました。

初めて農村歌舞伎の舞台に立った5歳の頃のいろは。歌舞伎の演目と演目の間に舞いを踊りました。

いまでも忘れない小学1年生のときに演じた『どんどろ大師』という演目のお鶴役。母のそばにいたいと願う子役で、見ていてぐっときました。

いまでも忘れない小学1年生のときに演じた『どんどろ大師』という演目のお鶴役。母のそばにいたいと願う子役で、見ていてぐっときました。

子ども歌舞伎の練習風景。みんな真剣。

子ども歌舞伎の練習風景。みんな真剣。

農村歌舞伎を通して、育まれていく地域の人たちのつながり、子どもたちとのつながり。
それがこの2年なくなってしまった。知らない間に子どもたちは大きくなってしまい、
地域の人たちとも話す機会が減ってしまった。
それがきっと失ってはいけない大切なものなんじゃないかな。

本番前に台本を確認する姿。

本番前に台本を確認する姿。

2019年、これがいろはにとって子ども歌舞伎最後の演目となりました。しゅっとした男役がかっこよかった。

2019年、これがいろはにとって子ども歌舞伎最後の演目となりました。しゅっとした男役がかっこよかった。

子ども歌舞伎に出演するのは小学生まで。
中学生になったいろはは、もう子どもとしてあの歌舞伎舞台に立つことはありません。
そう考えるとなんだか寂しい。
たくちゃん(夫)も何回か役者として出演しましたが、
これからどういうかたちで関わっていくのか。

2年前の農村歌舞伎が終わったときに、
「きっといまのこの大変な時間は、もう少し先になって振り返ったとき、
私たちの人生の中で充実していて楽しかった時間だと感じるんだろうなと」。
すでにその気持ちです。

雨の日もある。それでも最後の演目まで見てくださる方々。

雨の日もある。それでも最後の演目まで見てくださる方々。

大嵐の年もある。急きょ桟敷に仮設の屋根が設置されました。

大嵐の年もある。急きょ桟敷に仮設の屋根が設置されました。

集落の人口が減っていくなかで、今後は農村歌舞伎の運営方法自体、
少しずつ変わっていくと思います。
そもそも江戸時代に始まり、いままでの300年以上という長い歴史のなかで、
そのかたちは変わっていっているだろうし、きっとこの2年間のように
開催できなかった年もあったんだろうなと想像する。

今後どんなふうに変わっていくのかはまだわからないけれど、
来年は新緑の美しい景色のなかで肥土山農村歌舞伎が開催されることを楽しみに、
私たち自身も微力ながら何か役に立てればと!

毎年5月3日は小豆島「肥土山農村歌舞伎」の日。
小豆島肥土山で暮らす私たちにとって、大切な地域の伝統行事です。

いろはが小学4年生のときに描いた歌舞伎舞台の絵。来年はこの風景が見られますように。

いろはが小学4年生のときに描いた歌舞伎舞台の絵。来年はこの風景が見られますように。

information

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HOMEMAKERS 

住所:香川県小豆郡土庄町肥土山甲466-1

営業時間:土曜のみ 11:00~17:00(L.O. 16:00)

https://homemakers.jp/

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