連載
posted:2019.6.24 from:香川県小豆郡土庄町 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
海と山の美しい自然に恵まれた、瀬戸内海で2番目に大きな島、小豆島。
この島での暮らしを選び、家族とともに移住した三村ひかりが綴る、日々の出来事、地域やアートのこと。
writer profile
Hikari Mimura
三村ひかり
みむら・ひかり●愛知県生まれ。2012年瀬戸内海の小豆島へ家族で移住。島の中でもコアな場所、地元の結束力が強く、昔ながらの伝統が残り続けている「肥土山(ひとやま)」という里山の集落で暮らす。移住後に夫と共同で「HOMEMAKERS」を立ちあげ、畑で野菜や果樹を育てながら、築120年の農村民家(自宅)を改装したカフェを週2日営業中。
http://homemakers.jp/
もうすぐ7月。「虫送り」の季節です。
虫送りは、火手(ほて)とよばれるたいまつに火を灯し、
田んぼのあぜ道をみんなで歩いて虫よけと豊作を祈願する行事。
映画『八日目の蝉』にも出てくるのですが、
小豆島といえばこれでしょ、と言ってもいいくらい美しくて神秘的な光景です。
江戸時代から続くと言われている小豆島の虫送りは、
いまは肥土山(ひとやま)地区と中山地区で行われています。
毎年、肥土山の虫送りは「半夏生(はんげしょう)」の日(7月2日頃)、
中山の虫送りは7月の第1土曜日に行われます。
今年(2019年)は、7月2日(火)に肥土山虫送り、
7月6日(土)に中山虫送りが行われます。
タイミングがあえば、ぜひ小豆島を訪れて見てほしい行事です。
その虫送りの舞台となる中山の棚田に先日行ってきました。
4月末から5月頭にかけて田んぼに植えられた稲がだいぶ大きくなっていて、
夏に向けて緑がどんどん濃くなっていきます。
本当に美しいところだなぁと思います。
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ただ毎年写真を撮っていて感じることは、
少しずつ耕作されない田んぼが増えていること。
カメラのファインダーをのぞきながらどんな構図にしようか考えるのですが、
どうしても荒れた田んぼが入ってしまう。
きれいな棚田の風景を撮ることが難しくなってきています。
うちも農業をしているのでわかるのですが、こんな斜面で、
1枚1枚がとても小さな田んぼで、お米を育てるのは本当に大変なことです。
軽トラを田んぼのすぐ横まで寄せられないので、
道具や機械、収穫したお米などを歩いて運ばなければいけません。
斜面に沿ってつくられた田んぼはいびつな形をしていて、
田植えや稲刈りなど手作業が多くなります。
平地の広い田んぼで育てるお米に比べたら何倍も手間と労力がかかります。
そのわりに収穫できる量はとても少ない。
こういう場所で農業をして生計をたてていくには、
よっぽどの工夫と頑張りがなければ成り立たないと思います。
あー、この耕作されなくなっていく田んぼをなんとかしたい! と思うのですが、
いまの私にはそんな余裕がないです。
自分たちの畑を手入れし、日々の仕事をまわしていくことで精一杯で、
ほかの地域のことまでがんばれない、というのが実情。
これは中山の棚田だけじゃなくて、島中のいたるところで起こっていること。
柑橘を栽培する人も減っているし、友人がここ数年ずっと撮影していた、
島に2軒しかない金時人参の種を採る農家の方も今年で辞めてしまうそう。
いままで当たり前にあった風景が少しずつなくなっていってしまう。
本当にさみしいことです。
中山で田んぼの手入れをしていたおじちゃんが話してくれました。
「あと5〜10年もしたら、いまの半分くらいしか田んぼが残らないだろうなぁ」と。
里山の風景は、そこで暮らす人々の営みによってできあがる。
田んぼや畑をする人、素麺をつくる人、家を直す人、
そんな人たちが減っていけば、風景も荒れていってしまいます。
やっぱり人なんだなとあらためて最近思います。
ともに暮らす、ともに働く仲間がいなければ、風景を守れない。
農業をしていて時々思うことは、ただ野菜を育ててるだけじゃなくて、
風景をつくってるんだなぁ、そんな風景がある暮らしをつくってるんだなぁと。
虫送りという伝統行事も、そんな美しい里山の風景のひとつ。
途絶えてしまわないように、私たちはここで暮らし続けよう。
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