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函館市〈街角NEWCULTURE〉
地域の人がチャレンジできる、
複合ポップアップ施設ができるまで

リノベのススメ
vol.254

posted:2023.1.12   from:北海道函館市  genre:アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

profile

Masayuki Togashi

富樫雅行

とがし・まさゆき●1980年愛媛県新居浜市生まれ。2011年古民家リノベを記録したブログ『拝啓 常盤坂の家を買いました。』を開設。〈港の庵〉〈日和坂の家〉〈大三坂ビルヂング〉で函館市都市景観賞。仲間と〈箱バル不動産〉を立ち上げ「函館移住計画」を開催し、まちやど〈SMALL TOWN HOSTEL HAKODATE〉を開業。〈カルチャーセンター臥牛館〉を引き継ぎ、文化複合施設として再生。まちの古民家を再生する町工場〈RE:MACHI&CO〉を開設。さらに向かいの古建築も引き継ぎ、複合施設〈街角NEWCULTURE〉として再生中。地域のリノベを請け負う建築家。http://togashimasayuki.info

credit

編集:中島彩

富樫雅行建築設計事務所 vol.10

函館市で設計事務所を営みながら、建築施工や不動産賃貸、
ポップアップスペースやシェアキッチンの運営など、
幅広い手法で地域に関わる〈富樫雅行建築設計事務所〉の富樫雅行さんによる連載です。

最終回は、複合ポップアップ施設〈街角NEWCULTURE〉の後編です。
舞台は築90年を超える旧商店の店舗(旧昆布館)と
焼き肉店(キングオブキングス、以下オブキン)がくっついた建物。
前編では、基礎的な工事からポップアップストアについてお伝えしました。
後編では、チャレンジショップやオフィス、喫茶やバーなどが集まる
複合施設の完成に向けて、少しずつ歩んでいくプロセスをお届けします。

〈カルチャーセンター臥牛館〉を手放す決断

インターン生の企画から生まれた、4日間にわたるポップアップストアは
大成功に終わりました。その4日間を踏襲(とうしゅう)するかたちで、
建物の一部にはいろんな人がチャレンジできるポップアップストア用のスペースを常設し、
建物名も〈街角NEWCULTURE〉と命名しました。

旧昆布館は街角NEWCULTUREと名前をあらため、11月までの間、無料のポップアップを始めた。9月に開催したマルシェでのコンサートの様子。

旧昆布館は街角NEWCULTUREと名前をあらため、11月までの間、無料のポップアップを始めた。9月に開催したマルシェでのコンサートの様子。

テナント入居後、2階エントランスに扉を新設。正面と左側の2か所に設置した。

テナント入居後、2階エントランスに扉を新設。正面と左側の2か所に設置した。

そんな2021年9月末のある日、臥牛館1階で〈学童クラブ ひのてん〉を営む
〈ヒトココチ〉代表の曽我直人さんから相談を受けました。
家賃がかさむので、いっそ1軒家を買って移転しようか検討しているというお話でした。

大家にとっては悲劇の瞬間です。
通常であれば、家賃を安くするか、新たな入居者を募集するでしょう。
ところが赤字の段階でさらなる値引きは死活問題であり、
なにより地域にとって子どもたちの元気な声はかけがえのない財産であり、失いたくない。

カルチャーセンター臥牛館。左側が〈ひのてん〉の入り口。

カルチャーセンター臥牛館。左側が〈ひのてん〉の入り口。

振り返ると、僕が地元の老舗エネルギー会社〈池見石油店〉の社長さんから
「臥牛館を買わないか」と言われたとき、
「ひのてんさんがビルを買えば、家賃がかからなくなるうえ、
家賃収入で上手く回していけるので、まずは相談してみてください」と
頼んだことを思い出しました。

まだ臥牛館の投資分を回収しきる前で、かなり厳しい判断ではありましたが、
このまちには子どもの存在が必要だと思い、あらためて聞いてみました。
「ほかで探すのであれば、このビルを買いませんか?」と。
曽我さんもこのビルに愛着があり、前向きに検討してくれることになりました。

池見さんも利益をかえりみず僕にこのビルを譲渡したように、
僕も譲歩しお互いを信頼しながら、不動産屋さんを挟まずに売買することで、
11月にビルの譲渡が決まりました。

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ついに常設店舗が完成!

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新店舗が少しずつオープン

一方で街角NEWCULTUREの工事は着々と進んでいました。
コツコツとリノベをしていた2階には、ついに1店舗目となる
喫茶とバーとビリヤードの店〈ライオンのサム〉がクリスマスにオープンし、
まちに新たに明かりを灯してくれました。

年が明け2022年2月には臥牛館を無事に引き渡し、5月には臥牛館から
旧昆布館の2階に富樫雅行建築設計事務所を移転することになりました。

喫茶とバーとビリヤードの店〈ライオンのサム〉。左が店主の髙橋逹さん。スリークッション1台とポケット3台があり、奥が喫茶とバーになっている。チキンカレーがオススメです。

喫茶とバーとビリヤードの店〈ライオンのサム〉。左が店主の髙橋逹さん。スリークッション1台とポケット3台があり、奥が喫茶とバーになっている。チキンカレーがオススメです。

ライオンのサムの喫茶とバーのスペース。カウンターではいつもレコードのいい音色が聞ける。

ライオンのサムの喫茶とバーのスペース。カウンターではいつもレコードのいい音色が聞ける。

旧昆布館の2階に移転した富樫雅行建築設計事務所。

旧昆布館の2階に移転した富樫雅行建築設計事務所。

7月には昆布館の1階にハーブティーの店〈’A’ala Herbal Apothecary〉が
オープンしました。札幌からUターンした人による出店です。
まるで調剤薬局のように、ハワイのオーガニックハーブのなかから
体調に合ったものをセレクトしてくれます。
店内では、アロマとハーブのスクール〈PUA LIMU〉もオープンしました。

壁面にある瓶からハーブを調合する。オーガニックハーブでつくった焼き菓子なども絶品。

壁面にある瓶からハーブを調合する。オーガニックハーブでつくった焼き菓子なども絶品。

まちの人がチャレンジできる、ポップアップ用スペース

続いて、オブキンの2階の一部に地域のポップアップスペース〈街角POPUP〉をオープン。
自社で運営するスペースで、地域の人が気軽にポップアップストアを開けるように
常設することにしました。

これまでには、コーヒー屋やマルシェ、フリーマーケット、ギャラリー、
スタジオ、ワークショップなどの利用があります。
2時間からでも、月単位利用でもOKです。
ここから新しいカルチャーが生まれることを期待しています。

ポップアップスペース〈街角POPUP〉。アンティーク家具や什器があり、A型看板なども無償で貸し出している。

ポップアップスペース〈街角POPUP〉。アンティーク家具や什器があり、A型看板なども無償で貸し出している。

同じく7月には、2年目となる複合ポップアップストア
『街角NEWCULTURE2022』を開催。
今回は、街角NEWCULTUREの建物全体を会場にして開催したところ、
昨年よりも多くの人が来てくれました。

街角NEWCULTURE2022のフライヤー。

街角NEWCULTURE2022のフライヤー。

まちかど広場にて、音楽ユニット〈em...〉の街角ライブの様子。

まちかど広場にて、音楽ユニット〈em…〉の街角ライブの様子。

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未来へ向けた新たな種蒔き

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シェアキッチンのオープン

10月には、自社で運営するシェアキッチン〈街角キッチン〉をオープンさせました。
そして、近所にある〈RE:MACHI&CO〉(以下マチコ)に併設していた
〈街角クレープ〉がここに移転し、毎週水曜日から日曜日までオープンすることになりました。
時間をかけてサクッとした生地を焼き上げるのが特徴で、
売り切れる日が多かった移転前と同様に、連日お客さんが訪れています。
12月からは、街角NEWCULTURE2022でも出店してくれた
自然カフェ〈JICON〉さんが毎週月曜日にオープンすることになりました。

また、街角クレープの移転にともない、マチコもこの建物に移転することに。
まちの古材を循環する目的で生まれたマチコ。
2023年春には、古材や建具の販売スペースもオープンする予定です。

〈街角キッチン〉。西部地区で解体された古民家の窓や家具やレンガなどを再利用してスタッフとDIYでつくった。

〈街角キッチン〉。西部地区で解体された古民家の窓や家具やレンガなどを再利用してスタッフとDIYでつくった。

RE:MACHI&COの店舗スペース。まずは小物の販売を始めた。

RE:MACHI&COの店舗スペース。まずは小物の販売を始めた。

12月からは共用部のロビーで〈十字街文庫〉を始めました。
それぞれの自宅で眠っている本から得られた知識や経験を
地域で引き継いでいく文庫スペースで、「こんな人に読んでほしい」と
一言ポップに添えて、新たな1ページを書き足し共有していきます。
ブンコ(文を通したコミュニケーション)から新しい文化の芽が出てくることを期待して、
小さく始めた種蒔きです。

十字街文庫のスペース。廃棄されそうだった薪ストーブを〈ファイヤピット〉の大石守さんからご提供いただいた。炎の揺らぎを見ながら読書ができる空間です。

十字街文庫のスペース。廃棄されそうだった薪ストーブを〈ファイヤピット〉の大石守さんからご提供いただいた。炎の揺らぎを見ながら読書ができる空間です。

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子どもたちの原風景となる場づくり

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段階的に未来の風景をつくっていく

旧昆布館とオブキンの建物は、地域の人の思いと歴史を受け継ぎ、
まちの風景を大きく左右する存在でした。
大きな建物であり、その活用は簡単なものではありませんでしたが、
小さなアクションの積み重ねによって新たな場、
街角NEWCULTUREを生み出すことができたと思っています。

ポイントとしては、事業リスクを減らすために、
少しずつ工事を進めて段階的にオープンしていったこと。
その過程でイベント(4日間限定の街角NEWCULTURE)も開催していくことで、
具体的な未来の風景をつくり、地域のみなさんに
この場所の活用イメージを持っていただくことができたと思います。
その後もチャレンジショップとして場所を開いたことが、
ビジョンを共有できる新しいテナントさんの誘致にもつながっていきました。
イベントに出店した方が、近隣で店舗を開いてくれたこともうれしい展開でした。

街角NEWCULTUREには、さらに飲食向けテナントや、シェアするアトリエ、
DIYスペースなどが増える予定です。
トライアンドエラーを繰り返しながら、少しずつ成長を続けていきたいと思っています。

街角NEWCULTURE2022の出店者や参加者のみなさんと。

街角NEWCULTURE2022の出店者や参加者のみなさんと。

まちの人が挑戦できる場づくり

函館の西部地区は、函館山と三方を海に囲まれ、そのすぐ裾野にまちが栄えています。
自然とまちがギュッと凝縮され、四季折々の景観が本当にすばらしいと日々感じています。

函館といえば、夜景や金森赤れんが倉庫などの観光がメインと思われがちですが、
それは一面にすぎません。このまちには魅力的な人がたくさんいて、
それぞれ個性を生かしながらやりたいことを生業として暮らしています。
それがこのまちの大きな魅力であり、そうした先人のみなさんの背中を
僕自身も追いかけてきました。

地域の人に支えられ独立して今年で10年を迎えました。
次の10年もこのまちの景観を守りながら、子どもたちにまちの魅力を引き継いでいきたい。
みんなが挑戦できる場、集える場をつくっていくこと、
それが今の自分にできることだと思い、挑戦を続けます。

information

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街角NEWCULTURE

住所:北海道函館市末広町12−8

Web:街角NEWCULTURE

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