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不動産サービス〈よいチョイス〉
賃貸 or 分譲が選べる、
住まいの新たな選択肢

リノベのススメ
vol.222

posted:2021.5.21  from:石川県金沢市  genre:アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer profile

Nao Nagai

永井菜緒

ながい・なお●株式会社SWAY DESIGN代表取締役。1985年石川県生まれ。住宅・オフィス・店舗のリノベーションを手がける傍ら、設計者の視点から物件の価値や課題を整理し、不動産の有効活用を提案する不動産事業を運営。解体コンサルティングサービス「賛否、解体」、中古物件買取再販サービス「よいチョイス」の事業を展開。

SWAY DESIGN vol.8

石川県を拠点に、住宅・オフィス・店舗のリノベーション、不動産事業などを展開する、
〈SWAY DESIGN〉永井菜緒さんの連載です。

いよいよ最終回となりました。
今回はSWAY DESIGNが自ら不動産を買い取り、賃貸を行う物件をご紹介。
受託事業がメインの設計事務所が、自社サービスとして
不動産事業に取り組み始めた経緯、さらにはふたつの物件を通じて、
住まいの新たな選択肢について考えていきます。

設計事務所による不動産事業〈よいチョイス〉

これまで店舗や住宅の設計を行うなかで
「設計事務所」という枠組みでは要望に応えることができず、
その受け皿としていくつかの自社サービスが生まれてきました。

今回はそのうちのひとつ、〈よいチョイス〉というサービスのお話。
自社で不動産を購入したり、他オーナーの仕入れを手伝い、
企画から設計・施工、そして販売 or 賃貸を一貫して対応するサービスです。

初期Webサイトに掲げたコンセプト。事業の変化に伴い改正中。

初期Webサイトに掲げたコンセプト。事業の変化に伴い改正中。

サービス開始のきっかけは、ある違和感からでした。

理想の住まいを実現するには家を購入するケースが多く、
つまりは長期所有が前提となってしまう。
設計者はその仕組みが施主にとって最善なのかを問うことなく、
予算やローン返済の月額から建築予算を決め、
その中で行う設計を“最適解”としているのではないか。

設計事務所の強みといえば、ハウスメーカーと違い、
個別対応で施主にとってベストな選択肢を提案できるといいます。
しかし、それはあくまで狭小住宅や変形敷地に対応できる、といった
“建築そのもののつくり方”に対するもの。
住まいづくりの仕組みに関わるものではありません。

自社不動産事業の第1弾、金沢市本多町にある物件。構造はほとんどそのままに、内装の模様替えを行った。

自社不動産事業の第1弾、金沢市本多町にある物件。構造はほとんどそのままに、内装の模様替えを行った。

同じ建築周辺の領域でも、建築予算を算出するファイナンシャルプランナー、
宅地開発する不動産会社、コスパが良い工業製品化した分譲住宅の販売会社など、
専門性が異なるサービスはいくつもあります。

その中で、設計を主体とする自分たちはどの領域まで取り組むべきか。
よいチョイスでは、注力すべき箇所、ルーティン化できる作業などを考え、

・設計については、個別対応の案件よりも作業時間を抑えて、

より良いものをローコストで提案する。

・設計以外では、自らが建物のオーナーとなり、所有の仕方の新しい可能性を示す。

という発想にたどり着き、実践へと移っていきました。

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購入と賃貸、どちらがお得?

Page 2

賃貸 or 売買、生活スタイルに応じて所有の仕方を選べる仕組み

第1弾は、金沢市本多町の木造2階建て住宅。
自社で購入し、水回りを中心に改修工事して、
賃貸 or 売買が選べる仕組みを企画しました。

改修前。

改修前。

工事中。費用対効果の高い改修を行うため、残すところ、壊すところは入念に検討を行う。

工事中。費用対効果の高い改修を行うため、残すところ、壊すところは入念に検討を行う。

改装後のダイニングキッチン。コストのかかる配管工事費用を抑えるため、水回り位置は既存と合わせる。

改装後のダイニングキッチン。コストのかかる配管工事費用を抑えるため、水回り位置は既存と合わせる。

金額については、約10年以上住む場合、
購入時の初期費用や売買時の手数料を含めても、
購入して住宅ローンを組んだほうが割安に。
賃貸の場合、10年以下だと月額の賃料は高くなり、所有権も得られませんが、
総支払額は賃貸のほうがお得という金額に設定しました。

その場所に住み続けるのか否か、それぞれのライフスタイルが違う以上、
住まいづくりに「普通は~」とか「一般的には~」といった答えは存在しません。
個別性を考慮したうえで、賃貸 or 売買というお金の支払い方も提案できることが、
このサービスのポイントです。

オフィスで使うOA機器は、税務的側面などから、
購入するか借りるか(リースにするか)を事業者側が選択するのが一般的で、
それと似た仕組みとなります。

リビングの入り口。建具は造作。場所によって既製品と使い分けする。

リビングの入り口。建具は造作。場所によって既製品と使い分けする。

また、はじめから賃貸用につくられたマンションや戸建ては、
建物オーナーやつくり手の都合で建てられており、販売は想定されていません。

一方で、よいチョイスでは、以下のような状況でも対応可能です。

・しばらく賃貸で住んだ結果、やっぱり購入したい。

・購入したけれど状況が変わったので、手放したい(賃貸したい)。

賃貸の場合は自社で管理も行うことで、
借主さんからこれまでいただいた賃料と償却した分を相殺して売却したり、
自社で買い戻したりと、将来的にはそんな展開も考えています。

この物件は現在賃貸中ですが、市場のニーズを抽出するための
継続的な実験場として考えており、空きが出た際の貸し方は再検討する予定です。

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なぜ半分だけリノベ…?

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半分だけ仕上げて販売。ニーズに合わせて残りの半分を特注する仕組み

第2弾は、金沢市の中古分譲マンションです。

第1弾は「どのように所有するか、その選択肢の提案」でしたが、
第2弾は「つくり方の選択肢の提案」です。

物件案内用の特設Webサイト。既存の不動産募集サイトでは伝えきれない特徴を記載。

物件案内用の特設Webサイト。既存の不動産募集サイトでは伝えきれない特徴を記載。

リビング・ダイニングのビフォー。

リビング・ダイニングのビフォー。

中古の分譲マンションのうち、コストのかかる水回り部分だけを改修して、
あとは購入者の希望に応じて施工するセミオーダーの住宅をつくりました。

お風呂やトイレなど、日常生活における必要最低限な水回りは
こちらで先に設定しますが、部屋の広さ、分け方、動線計画は
人によって多種多様なので、カスタムの余地を残すというわけです。

水回りのみを仕上げて、残りは下地工事まで。スペースのイメージをしやすいように床に平面図を書く。

水回りのみを仕上げて、残りは下地工事まで。スペースのイメージをしやすいように床に平面図を書く。

このように間取りが自由に変更できる。

このように間取りが自由に変更できる。

同じ人であっても、家族構成の変化や年齢を重ねることで
必要なスペースは変化していきます。
そこで現時点のライフスタイルに沿ってつくれるよう、
また状況の変化にも対応できるよう大きなワンルームにし、
要望に応じて1LDK、2LDKにも間仕切り可能な計画を行いました。

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サービス開始、その課題は…?

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このサービスをどのように知ってもらうか

このようにふたつの「商品としての建築」をつくりましたが、
実際にやってみてつまずいたのが
「住まい手への届け方」と「ニーズの抽出」であり、現在も模索しています。

情報発信において、金額や面積、駅からの距離などのスペックを軸に販売するならば、
大手不動産ポータルサイトへの掲載でよいのですが、
そもそもサイトを訪れる方のニーズと異なるため意図が伝わりません。

さらに、顧客との接点をつくり、しっかり対話しなければ
顧客の潜在的なニーズを引き出すことはできず、サービスの改善もできないので、
内見案内を自社で行うことは譲れません。

配置の自由度が高いワンルームに仕上げた。

配置の自由度が高いワンルームに仕上げた。

また、サービス立ち上げ時は
「自社で購入して、設計~施工までを行うこと」にこだわっていたのですが、
そうすると資金調達の都合などで同時進行できる物件数が限られてしまいます。
供給できる建物が少なければ、顧客にとっての選択肢を狭めることになり、
当初の目的からはかけ離れてしまいます。

現在は他社が所有する物件でも、よい提案ができるならば
積極的に請け負っていこうと戦略を転換しているところです。

店舗やオフィスの展開も目指して

このような経緯で、当初から徐々に変化してきたこのサービス。
今後の展開としては、住まいだけにとどまらず、
店舗やオフィスなどの提供も考えています。

・腕は良いし顧客もいるが、コロナ禍で新規創業融資が出にくい独立希望者に向けて、

→期間を設定してこちらで建物を購入、工事や設備投資して、建物も設備もリースする。

→事業主は最低限の初期費用で事業開始、実践に伴って収支バランスを検討し、

事業方針を改善。

→事業主がベストなタイミングで移転や拡張、もしくは現店舗を購入。

また、

・所有物件にコスト投下の余裕がないオーナーに向けて、

→こちらが借り上げて、工事費用の投資をする。

→賃貸に出し(サブリース)、賃料から工事費を回収する。

誰が投資するか、誰が使うか、どのように回収するかの仕組みを考え、
実行するサービスを構築したいと考えています。

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新社名〈YAW〉の意味は…?

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社名変更。設計事務所の枠組みを取り外す

もとは一級建築士事務所〈SWAY DESIGN〉としてスタートしましたが、
建てること自体は手段であり、何のためにつくるのか? を問い、
その先の目的を達成するには、建てないことや壊すことも提案してきました。

ただ、複数の事業を展開するなかで、
SWAY DESIGNという設計事務所の中のいちサービス、と位置づけられ、
私たちがやりたいことと見られ方にズレを感じることも。

そこで来春には、下記のサービスを統合する上位概念として、社名を変更します。

・これまでどおりのつくることを専門とした一級建築士事務所〈SWAY DESIGN〉。

・不動産のさまざまなつくり方を思考・実践し、購入までできる〈よいチョイス〉。

解体を行う〈解体のサンピ〉

設計前の調査や過去の事例から新たな可能性を提案する〈既知と未知〉

つくるも、壊すも、物件を購入するも、すべて同じ重さで捉えたいという考えです。

新社名は〈YAW〉。現社名〈SWAY DESIGN〉の意味、SUSTAINABLE “WAY”を反転させたもの。さらには、“WAY=手段”の対となる“思想”を包括する器として。また、模索しながら走る蛇行動の意味も兼ねる。

新社名は〈YAW〉。現社名〈SWAY DESIGN〉の意味、SUSTAINABLE “WAY”を反転させたもの。さらには、“WAY=手段”の対となる“思想”を包括する器として。また、模索しながら走る蛇行動の意味も兼ねる。

設計事務所の軸は持ちながら、設計事務所という器では
応えきれなかった課題にどう挑むか。

→まずは案件ベースで、必要な範囲へ領域を広げてみる。

→その中で、汎用性が高くパターン化できるものを抽出する。

→集まった依頼からニーズを抽出して洗練させる。

→流れができれば事業化し、深掘りしていく。

動けば動いただけ、次の課題が見えてきて、走りながらの模索はまだまだ続きそうです。

建築とどう向き合っていくか

これで最終回となりました。

予期せぬことが起きたり、変化が激しいこの時代。
もしもリノベーションや物件活用を考えている人が
「一生に一度のことだから、判断を間違えたくない……」と足踏みしているとしたら、
きっと大丈夫。将来、問題が起きたとしても、設計事務所は
「そこから何ができるか」を一緒に考えて軌道修正してくれるはず。
悩みや課題が新たな展開の起点となります。

これから土地や建物を買うという場合、自分の要望が明確でなくても問題なし。
その段階で設計事務所に相談することで、自分のビジョンが深掘りできたり、
新たな発想と出合うことで可能性を広げられるかもしれません。

建築を考えるって、うまくいけばとても楽しいこと。
だけどお金も時間もかかるので、考えること自体がしんどくなることも。

それでも振り返ったとき、「やってよかったね」
「あのときの検討があったからいまがある」と思える。
そんな状況を一緒につくっていきたいと思います。

これまで読んでいただき、ありがとうございました。

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