連載
posted:2018.11.23 from:富山県射水市 genre:アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
writer profile
Mei Nishida
西田芽以
にしだ・めい●1991 年奈良県大和高田市生まれ。富山大学芸術文化学部及び同大学院で木工・デザインを学ぶ。大学院で子ども用家具の研究・開発をする傍ら、まちづくりに興味をもち、グリーンノートレーベル株式会社にバイトとして出入りする。2016年、大学院修了とともに同社へ入社。古民家やそこに眠る道具たちが持つ、まちの文化や記憶を生かしたものづくり・しくみづくりができるよう、修業中。
はじめまして。〈グリーンノートレーベル株式会社〉の西田芽以と申します。
今回は2016年夏から約1年をかけて私が担当した、DIYで小さなお店をつくるお話です。
私が富山県に来たのは9年前。
地元の奈良県から大学入学を機に富山へ移住して、
それから6年間、家具などのモノづくりについて学びました。
モノについて考えるうちにモノの先にあるコトづくりに興味がわき、
つくり手や使い手の生活、その集合体である“まち”に直接関わる仕事をしたいと思い、
この会社に入りました。
現在は〈カフェuchikawa六角堂〉の営業スタッフや
地域での暮らしの様子を伝えるWeb記事作成などを担当しています。
私がこの会社へ入ったのは、カフェuchikawa六角堂がオープンして
3年目のタイミングでした。地域でのお店の認知も浸透し、
週末のランチタイムは予約なしでは入店が難しいほど、
たくさんの人々が訪れる場所となっていました。
店内の賑やかな雰囲気の一方で、せっかく来ていただいたのに
入店できなかったお客様が順番を待ちきれずに帰ってしまう問題がありました。
近所の人は「いつも忙しそうやから……」と
来店を遠慮してしまうこともあったようです。
また、決して広くはないキッチン空間は、すでにオーバーフロー状態のため、
料理の供給が追いつきません。
そのため、閉店してから大量の仕込み作業が始まる始末。
スタッフの帰宅時間が遅くなるという問題もありました。
そうした現状を横目で見ながらも、入社1年目の私は
日々の仕事をこなすことで手も頭も一杯一杯でした。
仕事にも少しずつ慣れてきた6月のある日のこと。
毎朝行なっているミーティングの最中、社長の明石が突然、
「六角堂の向かいの空き家をお店にしようか」と言い出しました。
向かいの空き家とは、道を挟んで向かい側にある空き家をお借りして
店内に入りきらない備品や在庫を保管していた場所です。
ここは2階建ての木造住宅で、以前はオーナーさんの奥さんが
ピアノ教室をされていたようです。1階部分をお借りしていますが、
実際に倉庫として使っているのは入り口近くのひと部屋だけ、という状態でした。
「六角堂のサブキッチンをつくろうと思うけど、せっかくだからお店にしたいよね」
「空き家の裏口側だけ改装してさ、このぐらいの広さならDIYでできそうだよね」
「予算は100万円ね」
「全部任せるから、よろしく!」
思いついたように構想を広げていく明石の話に対して、
私は「はぁ」と気の抜けた返事しかできませんでした。
大学時代の経験から大工道具はそこそこ使えるものの、建築に関してはズブの素人。
お店をつくるのがどれだけ大変なのか、何から始めたらいいのか、
右も左も分からないなか、言われるがままにお店づくりが始まりました。
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お店にするのは、空き家の裏口側にある8畳ほどのガレージと6畳ほどのキッチンです。
ここをどんなお店にしようか、参考となりそうな画像を
Webや本で集めながら理想の空間を考えるところから始めました。
キッチンは床板をはがして掃除がしやすい土間にして、
仕込み作業がはかどるように業務用ガスコンロを入れよう。
気分良く作業できるように、壁は木の質感で、
できればかわいらしいタイルを貼りたいな。
uchikawa六角堂の入店待ちの人が内川を楽しく散策できるように、
ガレージ側の壁は白く塗って周辺の地図を描こう。
廃材を利用して棚をたくさんつくって、内川のお土産になるようなグッズを販売しよう。
近所の人にも来てもらえるように、お菓子やパンも売りたいな。
図面の書き方はわからないので、イラストでイメージを自由に膨らませて、
時々、本当につくれるのかどうか冷静に考える。
これを繰り返してお店の完成像をかためていきました。
未経験のお店づくり。予算管理も初めての体験です。
予算100万円で収めるために、厨房機器は質の良さそうな中古品を探し、
照明や蛇口など安く手に入る部品は自分で仕入れて
業者さんに取りつけてもらうことにしました。
DIYでつくる大工作業部分の予算を捻出するために、
材料の板1枚、ペンキひと缶など、
細かい品目をひとつひとつ予想して見積もりを出しました。
また、予算の一部をクラウドファンディングで集めることにしました。
約2か月の募集期間で集められそうな金額を考え、ゴール金額を30万円に設定しました。
利用したクラウドファンディングは「All or Nothing」という資金調達方式で、
ゴール金額を少しでも達成できなければ支援金を受け取ることができません。
どうにか30万円を集めなければと必死になり、
Webを通して全国の人から支援金を募ると同時に、
出会う知人・友人には直接説明して、手渡しで支援金を預かりました。
結果的にゴール金額は達成できました。
うれしいことに、支援してくださった方の内訳をみると、
95%以上が直接お会いしたことのある人で、
サイトを通して支援してくださった人も内川にゆかりのある人ばかりでした。
一定金額以上の支援金をくださった人のお名前は、店内の壁にペイントしています。
いまでも時々お名前を見て、ひとりひとりのお顔を頭に浮かべては、
「この地域でやってよかった……」と思い返しています。
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クラウドファンディングを終えて、
「DIYでお店をつくり始めよう!」とのり出したものの、
どうやって進めたらいいのか見当もつかず、途方に暮れていました。
作業内容を洗い出してみると、床板や壁板をはがして貼り直し、
配管をして、コンクリート土間をうって……。
初めての経験ばかりでうまくいくか不安でした。
不安をかき消すため、また作業効率を上げるために、DIYワークショップを開催して
一緒に作業してくれる人を募集することにしました。
ワークショップといっても楽にできる作業は少なく、基本はハードな肉体労働です。
埃まみれになり、けがの危険性もあります。
お店が完成するまでの長い道のりの間、私も参加者も
モチベーションが続くよう“楽しく続ける”を合言葉にしました。
ゆるい雰囲気を目指して、子どもも参加OK、
作業後はみんなでおやつを食べようと決めました。
初めてのDIYワークショップは解体作業でした。
バールや金槌を使って壁板と床板をはがし、
床下の基礎を撤去するという、ハードなワークショップ。
告知の方法はFacebookのイベントページですが、
ひとりも参加者がいない最悪の事態が頭をよぎりました。
そして当日。集まった参加者の面々に驚きました。
「職業は自衛官です」
「解体が趣味です」
「リノベした町家の管理人をしています」
といった頼もしいオジさん・お兄さんを中心としたみなさんが来てくれました。
なぜ参加してくれたのか聞くと、
「やたらと敷居の低い雰囲気のイベントページだったから」
「女子だけど大工仕事をやってみたかったから」
「単純におもしろそうだったから」
という答えが返ってきました。
「床and壁はぐり大会」というゆるいイベント名にしたのが功を奏したのでしょうか。
ほかにも近所のお姉さんや、小学1年生の男の子とお母さんなど、
総勢8名ほどで解体作業を行い、頼もしいお兄さん方の活躍もあって、
壁や床板が次々に剥がされていきました。
1時間に1度の休憩時間は、小学1年生の男の子が大活躍。
折り紙工作をみんなにプレゼントしてくれ、疲れた大人たちを癒してくれました。
解体作業は3時間ほどで完了。けが人もなく無事に終了しました。
小さな空間で道具さえ揃えれば、素人だけでもここまで作業ができるんだ!
と、これから続くお店づくりに希望が持てた1日でした。
2回目のワークショップは「ドマドマ大作戦」。
キッチンの床を土間にする作業です。
玄関先まで業者さんに持ってきてもらった生コンクリートを、
人海戦術で室内に運び入れて平らにならしました。
前回から引き続き参加くださった人や、
解体作業の様子をFacebookで見て興味を持った人など、
力強いオジさんからかわいらしい女の子まで、
今回も幅広い世代が参加してくれました。
この日初めて生コンクリートを見た! という人も多く、
参加者のみなさんは、初めての体験に目を輝かせていました。
新しい体験というのは何歳になってもワクワクするものです。
前回同様、初めて出会った参加者同士のはずなのに、
作業開始から30分も経たないうちに、見事な連携をみせ、
スムーズに作業が進んでいきました。
“協力して何かをつくる”というのは、言葉以上に相手のことを知るための
コミュニケーション法なのかもしれません。
生コンクリートを全部流したあと、仕上げのならしは職人さんにお任せしました。
素人仕事である程度はできるものの、クオリティは職人さんには敵いません。
土間が無事にできあがった翌週からは
「壁板ハリハリ」
「モノおくとこづくり」
「イロイロ塗装」などを開催し、
全8回のワークショップを通して、少しずつ完成に近づいていきました。
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週末はワークショップ、平日はワークショップの準備や
山のようにある細かい作業をひとりで黙々と進める、
というスケジュールで動いていました。
ひとりで作業しているときは、終わりの見えない作業量と
相談相手がいない不安で泣きそうになりながら取り組んでいました。
そんなときは「次のワークショップはどんな人が来てくれるかな」
「作業後のおやつは何にしようかな」と考えていました。
ワークショップを開いて大勢で楽しく作業することが、精神的な支えとなっていました。
おやつには流しそうめんやたこ焼き、
お弁当を持って内川沿いでプチ遠足をしたこともありました。
おやつタイムをやめて、根詰めて作業を進めれば、
もっと早くお店を完成させることもできたと思います。
ですが、ワークショップの醍醐味は参加者にとってうれしい経験となること、
その日集まった人々と楽しく交流することだと思います。
実際にワークショップを開催するなかでその考えに自信を持ち、
“楽しく続ける”のスタンスは最後まで変えることなく続けました。
ワークショップに参加した人々とは、
Facebook上で「内川DIY部」というグループでつながり、
いまでも他物件の作業のお手伝いをお願いしています。
ちなみにこの「内川DIY部」、私の知らないうちに参加者のみなさんで命名、
グループページが立ち上がっていました。頼もしい皆様に支えられています。
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毎日お店に通って作業するなかで、お向かいのお父さんは
「まだできんがか」と何度も見に来てくださり、
お母さんには「今日も頑張っとるね」と声をかけてもらうのが日課となりました。
時々遊びに来る隣家の小学生の女の子は、
気づけば電動ドリルを操れる立派なDIY女子となりました。
こうして約1年をかけて、小さなお店はできあがりました。
お店の名前は〈小さなキッチン&雑貨 Lupe〉。
内川沿いの何気ない日常に潜む“特別”を、
小さなものを虫眼鏡で探すようにやさしく見つけてほしい。
そのお手伝いとなるお店になれば、という願いを込めました。
入ってすぐの元ガレージ空間には、空き家の荷物整理のときにいただいた
ガラスのショーケースを置きました。
その中にはクロワッサンやワッフルなど、5種類ほどのパンが並びます。
解体で出た古材を使った棚には、内川沿いの景色を描いたレターセットや
マスキングテープ、近所の方がつくっているアクセサリーを置きました。
そして、棚の隙間を縫うようにたくさんの植物を飾りました。
水色をお店のテーマカラーにして、棚の脚や配電盤など、塗れる箇所はすべて水色に、
お店の目印となるように入口の扉と同色にしました。
オープン直後に来たお客様には
「和と洋がうまく混ざった空間ね」と言ってもらいました。
そのまま使っている古材の質感と新しいきれいな白や水色の塗装、
たくさんの植物をバランスよく融合させることができました。
カウンター越しに見えるキッチンの壁の一部も、テーマカラーの水色に塗りました。
キッチンは菓子製造許可を取得し、クッキーやシフォンケーキをつくっています。
2018年秋、オープンして1年半が経ちました。
朝には焼きたてパンのおいしい香りが外まで漂ってきます。
常連のご近所さんは来店すると少し長い立ち話をして、
帰りにおやつのパンを買って帰る。そんな光景も見慣れてきて、
Lupeの存在も内川の日常の一部になってきたかなと感じます。
最近では新しく冷蔵ショーケースを置いて、六角堂のサンドイッチの販売も始めました。
天気の良い日には川沿いのベンチでランチをしながら、
内川のゆったりとした時間の流れを感じてほしいと思います。
information
小さなキッチン&雑貨 Lupe
住所:富山県射水市八幡町1-21-3
TEL:0766-30-2924(uchikawa六角堂)
営業時間:11:00〜17:30
定休日:月・木・金曜、第1火曜
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