連載
posted:2014.7.14 from:栃木県宇都宮市 genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
writer's profile
Taisei Shioda
塩田大成
しおだ・たいせい●栃木県宇都宮市生まれ。株式会社ビルススタジオ代表取締役。建築設計そして不動産のみならず、界隈のデザインを含め、「場所づくり」を生業とするが、実はただの物件好きで貧乏性のお節介さん。
http://www.met.cm/
さて、これまでは当社が関わったリノベーション事例を紹介してきましたが
今回は当社のいち部門である
「MET不動産部」について。
当社を立ち上げる前、私は
建築家さんの主宰するアトリエ系設計事務所、
何100人もいる組織系設計事務所、
さらには地方の設計事務所と渡り歩いてきました。
独立するにあたり、あたりまえのように設計事務所としてスタートしようとしました。
設計事務所の仕事は通常、敷地や建物(改装の場合)、
予算や使い道があらかじめ決まったところから始まります。
もちろんその中で自分なりの答えを見つけ出すことが仕事だし、その楽しみもあります。
しかし、これまで渡り歩いた中で共通して疑問に思っていたことがあります。
「果たしてその敷地がふさわしいのか?」
「その建物で理想の環境が手に入るのか?」
「工事などにかける予算はそれが妥当なのか?」
「この立地にその用途は必要あるのか?」
「その施設の認知のされ方はそれでいいのか?」
などなど、設計事務所では、期待される、
そしてできる業務の範囲が限られてしまっていることから
生まれる疑問が積み重なっていました。
せっかく独立するならこれらが決まる前からプロジェクトに関わりたい。
もっともっと広範囲にそして深くお客さんに、その場所づくりに関係したい。
そのほうが絶対楽しく仕事ができる。
そのためにどうすればいいのか。
1、敷地や建物を探す際に求められる立場・・・不動産
2、予算作成や調達に関わる立場・・・コンサルタント、金融機関
3、その場所の使い道を考えることから関わる立場・・・プロデュース、企画主体
こうみると、3はとにかく経験。そしてお客さんとの信頼関係。
2は加えて金融機関との関係づくり。
しかし1については資格はもちろん、
お客さんが「さて、物件を探そう」と思い立った際に
まず思い起こしてもらえる不動産屋にならないといけない。
しかも自分が楽しく続けられることでそれをしたい。
それでMET不動産部を始めました。
簡単に紹介すると、ここで掲載している物件たちの選考基準はふたつ。
・ひとつでも図抜けた特徴を持っていること。
・当社のだれかが強烈にその物件を好きであること。
これだけです。
例えばこんな物件がありました。
※ほんとは全部の物件について何時間でも話せる程の思い入れがあるんですが……。
1、庭(家付き)(入居済)
宇都宮市の中心部にほど近い住宅街に佇む、庭をメインとした物件です。
庭の広さはもちろん、とにかく「庭とのつながり」が考えられたつくりになっています。
広々とした広縁からの圧倒的な景色はもちろん、
広間、奥の間。障子を開けたり閉めたたりと
庭との絶妙な距離感、そして入り込む光をコントロール。
気持ちよくって内見の度に数時間……いくらでも居られる場所です。
2、大谷ポテンシャル(入居済)
宇都宮市は言わずとしれた大谷石の産地。
栃木県内には大谷石組積造の蔵が数多くありますので
県民にとっては当たり前の存在です。
しかしこれは家として造られたもの。蔵のような閉塞感はありません。
しかも川沿いのこのロケーション。
素材感。開放感。そして未開の大谷地域。こりゃあ堪りません。
3、富士エリア前ピンポイント(入居済)
自衛隊基地に面した物件。
そう、窓を開ければ大好きな航空機を存分に眺められる家です。こりゃすごい。
もちろん騒音はついてきますが……。
4、天保名主のお館(入居済)
竣工はなんと天保2年! この地域の名主の家でした。
敷地内には母屋、離れ、蔵、長屋門などなど。もう何も言うことはできません。
そして家賃は月3万!
これは持ち主さんの気持ち。
補修費用も持ちつつ、この建物を、地域を受け継いでくれる方のみのご提供です。
5、裏庭へようこそ
建物自体は古めかしい店舗住居。しかし中に入り勝手口を出ると、
そこには43坪もの裏庭が広がっていました。
こんだけあればガーデンでも畑で秘密のパーティー会場にでも?!
大家さんにとっては死に地。
でも入居者にとってはここがメインといっても良い物件です。
ともかく「裏庭」という淫靡な響きにぐっときます。
6、うなぎ置場(入居済)
特徴があれば、土地も取り扱います。
ここは間口5メートルそして奥行き35メートルのとってもバランス悪い敷地。
しかも前面道路幅が最小2メートルあるかないか。
主にそのせいで、市場的には人気のない物件となっていました。
おかげで価格もだだ下がり。
しかしこの土地のバランスは設計をやる人間にとっては好奇心をかき立てられます。
ここでしかできない建物が、ここでしかできない生活スタイルができるんじゃないか。
その想いを共有できる人がたったひとり現れれば、それで充分。
そして安い土地価格。浮いた分でsmartなぞ買えば道路幅問題は解決しちゃいます。
7、もみじの集積(シリーズ)
このシリーズは物件そのものの特徴ではなく、界隈のちからで紹介しているもの。
この連載でも取りあげた界隈「もみじ通り」の物件たちです。
面白い人たちが店を出し、住み、働き始めている、
そういう“動きある界隈”に入居してみませんか? というもの。
実際にこれまで入居された方々はピンポイントにこの物件! という決め方ではなく、
もみじ通りのなかでいくつか見て、規模価格の比較的見合う物件に落ち着く、
という人が多いです。
まわりの既に入居しているお店が好きで、そこに居る人が好きで決めてくれている。
このまちで生活したい、という想いが決め手になるという、
今では珍しい物件の探し方かもしれません。
でも当シリーズに限らず、MET不動産部では界隈の使い倒し方、
その物件とその界隈を含めたライフスタイルを重視しています。
当たり前のことのハズです。
——やはり止まらなくなるので、この辺にしておきます。
2007年から始めたMET不動産部。
いい物件を見つけた時しか更新されないものの、細々と続けています。
これまでに紹介した事例を含め、
幸いたくさんの入居者たちや面白がってくれる人たちにも恵まれています。
初めて会った人でも「あの物件のココが好きで……」みたいに言ってくれると
「あのバンドのこの曲のこの部分が好き」「あの娘のここが好き」
という話のように盛り上がったりします。まぁ、フェチに近い気がします。
人見知りな自分にとって、出会いから共通の話題があることはとても助かりますし、
そうして出会い、話した人とは不思議と信頼感が生まれています。
なんなんですかね、これ。
好きな物件。
知らない人に使われて、その後関係が持てなくなってしまうのはとても嫌なんです。
じゃあ当社で取扱い、入居付けをしてしまおう。
「共通の好き」を持つ入居者と友だちなってしまおう。
そしてその後も関係を持てるようにしてしまおう。
ともかく、「共通の好き」を持つ人と出会うことはとても楽しい。
それをなんとか仕事にしていることで、
自分がこのまちに居る理由をつくっているのかもしれません。
P.S.
そんな株式会社ビルススタジオ、現在「設計スタッフ募集中」です。
興味ある方は連絡ください。
information
ビルススタジオ
住所 栃木県宇都宮市西2-2-24
電話 028-636-5136
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