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ビルススタジオ vol.08:
カフェ食堂が、シェアハウスの
2階にオープン

リノベのススメ
vol.032

posted:2014.6.10   from:栃木県宇都宮市  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer's profile

Taisei Shioda

塩田大成

しおだ・たいせい●栃木県宇都宮市生まれ。株式会社ビルススタジオ代表取締役。建築設計そして不動産のみならず、界隈のデザインを含め、「場所づくり」を生業とするが、実はただの物件好きで貧乏性のお節介さん。
http://www.met.cm/

ビルススタジオ vol.08
もうひとつの共用リビング

vol.3とvol.4で紹介したシェアハウス「KAMAGAWA LIVING」に併設する飲食店テナント
カフェのようなバーのようなお店「u-go(ユーゴ)」がオープンしました。

ここはもともとビジネス+カプセルホテルとして使われていた建物。
2階にあったフロントの脇には10坪ほどの小さな喫茶室がありました。
ホテル営業時はここでお客さんたちがそれぞれの朝食をとっていたのでしょう。
しかし、私たちが初めて見たときの室内の印象からは、
お客さん同士や店員さんとの会話など、
察するに「ほぼ無かった」ことがうかがい知れます。

改装前の様子。家具がないこともありますが、殺風景な空気が漂っていました……。

こちらも改装前。ホテルのフロントが目の前。

ここがシェアハウスに変貌するにあたり、
フロントだったところにはオートロックが鎮座することになりました。
その脇にあるこのテナントスペースは
住民が使う、もうひとつの共用リビングのように、
機能していくといいなと思いました。
住民同士の距離感を大切にするこのシェアハウス。
既に、50帖ほどある共用リビングがあります。
ここで、ある程度自由度の高い距離感の取り方はできるものの、
全く別の空間で過ごしたいときもあるかと。
さらには遊びに来た友人を気軽に案内できるダイニングとしても
重宝されるスペースが生まれればいいなと考えていました。

シェアハウスとしての工事も半分ほど進んだある日、
出店希望者として安生大樹さんがやってきました。
安生さんは宇都宮市内の大学を卒業後、さまざまなカルチャーそして人を知りたい、
出会いたいとの想いから都内のカフェ、バーやクラブを6年間渡り歩きました。
その後宇都宮に戻り、独立開業を目指して飲食店の店長を務めていました。

聞けばこのテナントに興味を持った理由は、まず界隈。
この釜川エリアには個性豊かな個人店が立ち並び、
こだわりのあるお客さん層が出歩いているエリア。
さらには近年、この界隈の新旧の店主たちが連携し、
「KAMAGAWA DEPARTMENT」「カマガワヨルサンポ」「かまがわ川床花見」
などのイベントが開催され、新たな客層の集客にも積極的なエリアであります。

そこに新たにシェアハウスができることにより
この釜川界隈を使い倒すであろう住民たちが面白そうだというのです。
安生さんはその時点ではもちろん、誰がここに住むかも知りません。
それでも「きっと面白い」という確信を持ち、出店することを決めてくれました。

工事中の風景。

そして安生さんの改装がスタート。費用を抑えるべく、できるだけ自主施工。
基本のカウンタースタイルは残し、床と天井の仕上げ材をはぎ取り、
コンクリート剥き出しのラフな仕上がりになりました。
荒れてしまっていた壁には自分で木板を張ったり、色を塗ったり。
賃貸契約から開店までには、3か月を要しました。
安生さんは、自分の仕事の合間に施工というだけでも少ない改装時間なのに、
入居が始まったシェアハウスから、
ちょいちょい通い始める住民が現れると、
ついつい話し込んでしまい進みが遅くなる……というということもあったようです。

シェアハウスの入口から脇を見ると、お店。

お店がオープンすると、
住民たちにはいい感じに使ってもらっているとのこと。
夕ご飯だけ食べに来たり、寝る前の一杯だけを飲みに来たり。
「同じ屋根の下」をいいことに、そのまま寝る格好で飲みにくる方も……!

住民全員集合の会もここで開かれたりします。
そういう場合に共用のリビングだと準備や片づけがなにかと煩わしい。
結局住民の中で気が回る誰かがその役を請負うことになります。
それは請負う側もそうでない側も気を使ってしまいます。
そんな時に外に出ずにおいしい料理とお酒のある会を開けるのは
非常にありがたいだろうな、と思います。

また、誰かがカウンターで飲んでいると、他の住民が帰ってくるのが見えます。
軽くアイコンタクトし、一度部屋に戻り、そこに参加したり。
もちろんそんな気分じゃなければそのまま部屋で過ごすもよし。
そんな選べる関係性がこのシェアハウスでは育まれています。
住民割引もあるらしいです(いいなぁ)。

大のパスタ好きな方のために常時用意しています。

住民が友人と飲みにいくときもここは便利。
もはや飲みに行く、という感覚ではないとは思いますが。
ホームの寛ぎが間違いなく得られます。
タクシーや代行を使う必要もなく、スゴく楽。
おいしくて、場所も便利であれば友人も抵抗なくこのお店で納得してくれます。
難点は、先に帰り難い、ということくらいでしょうか。

また、上に住むオーナーさんもしばしばここで食事をしたり飲んだり、
通常では知り合えないような友人知人と遊んでいたりします。
そんな人と気軽に会って話せる機会があるのも魅力だと思います。

ほかに、シェアハウスの住民やその関係者だけではなく、
近隣のお店の人や地域の人たちも利用してくれています。
私が思っていたよりもとてもいいポジションを確立しているようです。

カウンターの風景。安生さんがひとりで切り盛りしています。

私がロンドン留学中に非常に良いな、と感じていたのは、
まちなかのアパートやマンションの1階に必ずあるカフェやパブ、レストラン。
上に住む住民同士や近所の人が日常使いで自然にここに集まり、
界隈のコミュニティを密接にしてゆく機能となっていました。
町内会や商店会などでわざわざ集まらなくても、
同じ建物内や界隈内にどんな人が住んでいるかが勝手にわかる。
近所の軽い問題点や転入者がどんな人かも噂レベルで情報交換できる。
まち並みの美しさ、人通りの多さではなく、
住人たちが自然と集まって来るお店の雰囲気が
「この界隈に住みたいな」と思う一番の理由になりました。

これはロンドンに限ったことではなく、日本でも同じのようで、
リクルート調査のアンケートにて
アパート・マンションに住む人が、その住まいに愛着を持っているかどうかを聞いたところ、
「その愛着度と隣近所に挨拶以上の関係にある知人友人の人数は比例関係にある」
という結果がでています。

住宅街、オフィス街、商業地、というように用途で界隈を形成するのではなく、
特に地方都市ではもっともっと複雑に、ひとつの身体のように
界隈にさまざまな機能を同居させ、絡めていくと
人と人とのぬくもりもすこやかに保てる生活が手に入れられるんだな、と
この釜川界隈とシェアハウスとu-goを見ていると実感できます。

みな、シェアハウスの住民です。なんか仲いいなぁ。

information


map

ビルススタジオ

住所 栃木県宇都宮市西2-2-24
電話 028-636-5136

information


map

u-go
ユーゴ

住所 栃木県宇都宮市中央5-1-8カマガワリビング2F
電話 028-614-3304
営業時間 14:00-26:00 不定休

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