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山ノ家 vol.9:
山ノ家はこれで完成?

リノベのススメ
vol.034

posted:2014.6.23  from:新潟県十日町市  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer's profile

Toshikazu Goto

後藤寿和

ごとう・としかず●東京生まれ。株式会社ギフト・ラボ代表。2005年に池田史子とともに同社を設立し、東京・恵比寿にて空間や家具のデザインや、広い意味での「場づくり、状況づくり」の企画などをおこなうかたわら、ギャラリー・ショップ「gift_lab」を運営。2012年には縁あって新潟・十日町松代に「山ノ家カフェ&ドミトリー」をオープン。現在恵比寿と松代でのダブルローカルライフを実践中。
http://www.giftlab.jp

山ノ家 vol.9
半日のおやすみ、トリエンナーレ、アーティストインレジデンス

ドミトリーがオープンすると、
「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」の開催年ということもあって、
宿泊希望の連絡は早いうちから入ってきていた。
カフェの営業に加え、ドミトリーの営業も始まると
堰を切ったように朝から夜までずっと、スタッフは対応に追われる毎日となった。
運営スタッフの一部は、朝担当と夜担当にそれぞれ分かれて
シフトを組むなどしてなんとかこなしていた。
一日のスタートは、宿泊者のための朝ご飯の準備から始まって、
ランチの仕込み、そしてカフェの通常営業、
合間に、ドミトリーのベッドメイク、夕食を希望する方への夕食準備の対応。
夜はお酒を飲む人も多く、際限なく続いてしまうと次の朝にも影響が出てしまうので
23時を消灯、門限とさせていただいていた。
その後にも片付け、一日の集計や、食材の発注、その他業務は続く。
芸術祭が終わるまでは、休みなしで駆け抜けるつもりだったので、
本当に息つく暇も無い日々。

リノベーションが一応カタチになってからは、
僕もカフェのスタッフとして動いていたり、
毎日来るお客のために、ドミトリーのベッドのシーツを片付けたり、
掃除を手伝ったりと、運営のサポートにまわった。

立ち上げのために現地に滞在してくれたインターンやスタッフには、
シフトの中で週に一度は休日をもうけるようにしていた。
参加してくれたことへのささやかなお礼として、
芸術祭の参加パスポートを皆に渡していた。
これを手に、めいめいプランをたてて、
この時期に展示中の作品を鑑賞する旅に出かけていた。
なかには、ヒッチハイクでまわってきたという強者もいた。
ずっと休みなしで動いていた僕と池田も、半日だけお休みをもらうことにした。
隣町、十日町のキナーレという施設周辺なら、
作品もいくつか集中しているし、さっと見に行って戻って来れる。

十日町にあるキナーレにて。クリスチャン・ボルタンスキーのものすごい作品や、同施設に新たに開館した里山現代美術館を見ることができた。

空き家だった山ノ家を最初に見に来てから約1年。
その間、この土地に展開されたさまざまアートな作品を、ほとんどと享受できていなかった。
こういうかたちで関わるようになって享受していたのは、
まちのことや、人との縁や、めまぐるしい自然の変化だったから。

そんなわけで、久しぶりに旅行者に近い感覚で
ここにあるもうひとつの財産として、
アートが育まれている状況というものに触れる機会を得た。
しばらく滞在しているこの土地のすぐ近くで、
素晴らしいエネルギーをもった作品群があったり、
イベントが行われたりしている状況。
そこには以前見た時とは全く別の、
新鮮なのに親しみがあるような、不思議な感慨が自分のなかに生まれていた。

また山ノ家でも、芸術祭の終わりが近づいた9月初旬の1週間、
アーティストが滞在し、製作と展示を行うことになった。
芸術祭のプログラムではないが、
オープン直前のときに滞在してくれたsawakoさん(vol.5参照)からの紹介で、
ふたりのアーティストが
山ノ家でレジデンスで滞在して展示をやってみたいというのだ。

実は僕らとしても、2階にギャラリースペースを設けたばかり。
と言っても、もともとただの廊下だった部分を行き止まりにしたような、
とてもコンパクトなスペースなのだが。
ここに何かコンテンツを入れたいとちょうど考えていたところだったので
喜んで受け入れることにした。

階段を上がるとすぐに見えてくるこの場所は、もともと部屋の外側にあった回廊の一部だったところで、わざと行き止まりにしてできる不思議なスキマ空間をギャラリーにしたいと目論んでいた。

立ち上げの黎明期において(実際は今でもそうなのだが)、
こういった手つかずのゾーンにスッと入り込むようなタイミングで
お話が持ち込まれることは本当にうれしいこと。
ふたりのアーティストはとても楽しそうにこの地で過ごしながら、
実に上手に2階のスペースを利用して、
音のインスタレーションの空間作品を展開していた。

滞在製作してくれたのは、ベルリンで活動を始めたという日本人のサウンド/ビシュアルアートユニットのpenquo (hisae mizutani,kyoka) のふたり。芸術祭に来たお客や、ドミトリー宿泊の方などが、ここで製作された展示空間を体験した。

まだこのアーティストインレジデンスの仕組みは手探り状態ではあるが、
少しずつ試行錯誤を繰り返しながらも実行し、かたちづくっていけたらと思う。

滞在製作が終わり、展示として始めた初日には、期せずして通り雨の後に虹が。

山ノ家はこれで完成?

工事としてはひとまず終わり、山ノ家はなんとかオープンして、
この土地での日常が動き始めている。
では、これで完成なのだろうか。
東京で芽生えた「開かれた場」をつくりたいという想いが、
縁あってこの土地と結びつき、カフェとドミトリーのある場所をつくった。
ここで何かの問題を解決するために、といった大それた動機ではない。
それどころか気づけば地元の人たちに雪おろしを指導してもらったり、
野菜をいただいたりと、助けてもらうことの方が多いのではないかとさえ思えた。
こういった土地では、ほどよく干渉したくなるようなスキがあるくらいのほうが
関係性を持ちやすいのではないか、
そんなことをさまざまな体験を通してリアルに感じるようになった。

地元の人、移住してきた方たち、芸術祭を軸とした活動をされている方たち、
外から訪れてくれる来訪者、アーティストなど、さまざまな立場、
立ち位置の人たちにとってできうる限りよい刺激となるような存在でありながら、
関わる人々の数だけ視点が生まれる、そのような場所になったら面白い。
当初イメージしていたことだけにとどまらない面白さがこの建物に生まれつつある。
それはリノベーションする前から決定付けられたものではない。
この土地に滞在し、この場所をつくる中で気づいたこと。
空間として、機能として、全てが完成しきっていなくてもよい、
そんな考え方ができるのも、リノベーションだからこそありえる可能性のひとつかもしれない。

気づけば夢中で、ここまで駆け抜けてきてしまった。
豊かな自然や風土、そして10年を超えて育まれてきた大地の芸術祭もある。
そういったことに魅かれてこの地に飛び込んだが、
よき人々に出会うことができ、支えられて
山ノ家が動き出せたことは振り返ってとてもラッキーだった。
いまはまだ、この昔ながらの街道筋の商店街に、
風変わりな事情で気立ての良い移民のお店が一軒できたという感じ。

長い月日をかけてリノベーションをしながら、
東京とまつだいを行ったり来たり、生活を繰り返していくうちに、
ほとんど知らなかった里山のよさをたくさん知っただけでなく、
戻った時に新鮮な視点で東京を見ることができるようになった。
そして、東京と里山、どちらのほうがよいか悪いということではなく
どちらにもよいところがあり、
そこを積極的に拾っていくほうが面白いのではないか。
そう思えるようになったことは自分にとっては大きな変化であり、発見だった。
それは、いつでも戻れる場所をもうひとつ持ったことによる、
安心のようなものから生まれてきたのかもしれない。
僕らが持てたこのような変化は、きっと他の人でももつことができるだろう。

そんな思いを持つ人たちで、この周辺で新たな営みが
2つ、3つと増やしていくことができたりしたら、
また見えてくる風景が少しずる変わっていくかもしれないなと考えている。
気づいたら変わっている、くらいの自然発生的な感じがいいと思う。
それは、まちを変えるというよりは、
いまあるまちにもうひとつ別のレイヤーが加わるという感じで。

大地の芸術祭が終わると、
おそらく地域をおとずれる外からの人が少なくなるだろう。
祭りが終わって、日常が始まる。
でも、ここからが本番だと思っている。試行錯誤はあるだろう。
インターンのシフトも終わり、この先、海外留学に旅立ったメグミさんが
冬に戻ってくるまで、ミナコさんと池田が主に東京とまつだいを行ったり来たりしながら、
山ノ家を運営していくことになる。
また、今まで東京で培ったつながりや、これからこの土地でつながる人々との交流の中で
生まれてくるイベントを企画していけたらと思っている。
都市と里山を行ったり来たりしながら、そのなかで生まれてくる、
どちらのものともつかないような文化をここで紡いでいけたらと思う。
これからまだまだ試してみたいことはたくさんある。

この地域には、中山間地ならではの地形のなかにできた美しい棚田が散見される。
この棚田の美しい景観があるのは、
そこで田んぼをつくり、耕作を続ける農家さんの日々の営みがあるからこそ。
同じように、これから山ノ家の日常の営みを積み重ねていくことが、
新しい風景をかたちづくるきっかけとなることを願って、
いまそのスタート地点に立ったところだ。

information

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YAMANOIE
山ノ家

住所 新潟県十日町市松代3467-5
電話 025-595-6770
http://yama-no-ie.jp
https://www.facebook.com/pages/Yamanoie-CafeDormitory/386488544752048

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