連載
posted:2014.5.23 from:新潟県十日町市 genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
writer's profile
Toshikazu Goto
後藤寿和
ごとう・としかず●東京生まれ。株式会社ギフト・ラボ代表。2005年に池田史子とともに同社を設立し、東京・恵比寿にて空間や家具のデザインや、広い意味での「場づくり、状況づくり」の企画などをおこなうかたわら、ギャラリー・ショップ「gift_lab」を運営。2012年には縁あって新潟・十日町松代に「山ノ家カフェ&ドミトリー」をオープン。現在恵比寿と松代でのダブルローカルライフを実践中。
http://www.giftlab.jp
カフェには連日いろいろな人が訪れ、あっという間に過ぎていく時間。
そして2階のドミトリーのための工事も大詰め、のはずなのだが、
なかなか終わりが見えない……?
それもそのはず、手を入れる部分はカフェのときよりもはるかに多い。
床貼りや塗装など、わかりやすく進んで見える工程もほぼ終えて、
納まりの細かい部分が多くなり、調整が重なってくるとさらに進みが遅く感じる。
加えて1階のカフェを営業させながらの作業は、やはり少しやりづらい。
仮囲いをいつまでもつけているわけにもいかない。
このままでは、完成がどんどん遅れる可能性も……。
大工さんからの進言もあり、考えた末に運営チームとも相談して
8月の後半は週末のみカフェを営業、平日はクローズにして、
その間は工事のみに集中することにした。
そんなさなか、8月の最後の週末には、
山ノ家のあるほくほく通りで昔から行われているお祭りがあった。
(知ったのが直前過ぎて、盆踊りのとき〈vol.7参照〉のように出店をする余裕はなかった)
「しちんち祭り」と呼ばれ、
目の前のほくほく通りを2日間に渡って、手づくりも含めた
さまざまな神輿がにぎやかに通り過ぎていく。
楽しげな中にもなんとも言えず、季節の変わり目が近づいているような、
そんな名残り惜しそうな気分を醸し出しているように思えた。
地元の人によれば、このお祭りは
やはりこのまちの夏の終わりを告げる風物詩のようだ。
8月の後半の平日をクローズにしてでも(芸術祭は開いているのにも関わらず)
工事を優先しようと考えた決断には、
もちろんドミトリーを早くオープンできるようにしたい
というのもあったのだが、もうひとつ理由があった。
実は、8月いっぱいに作業を終わらせることを
あらかじめ目標にしていたこともあって、
そのタイミングを最後にこの現場から離れなければならない人が何人かいた。
7月からずっとこのリノベーションにつきあってくれたアキオくんと、
インターンで約1か月滞在し続けていたジュンくん。
さらに、立ち上げやインターンの取りまとめなど、
さまざま奮闘してくれたgift_スタッフのメグミさんも、
9月からの3か月、海外に語学留学にでることになっていた(戻ってきたら、
また一緒にgift_の一員として復帰してもらうことももちろん約束の上で)。
彼らに、少しでも最終形に近い山ノ家を目にしてもらいたかったのだ。
結局彼らがいる間には完成できなかったのだが。
それまでにも、インターンとして入ってくれていた人たちが
1週間から2週間ほど来ては帰っていく、ということを繰り返し、
何人もの協力のもとにこの山ノ家はつくりあげられてきた。
引き続き芸術祭が終わる9月後半まで、
インターンさんたちは入れ替わり来てくれるシフトになっている。
さまざまな経緯、興味で応募してきてくれた彼ら・彼女らへの感謝は、
いくら述べてもつきない。
ずっと滞在して寝食を共にした人たちが現場を離れていくなか、
まだその後も滞在してくれている人たちと最後の仕上げ。
最後まで完遂することがミッションの工務店の大工さんももちろんいる。
実は、山ノ家でつかわれているインテリアのなかには
もともとこの家に残っていた
いろいろなものを利用してできている什器や家具がある。
例えば、カフェオープン時にはなかったベンチソファー席。
この家の放置されていた茶箱を利用することをある時に思いついた。
茶箱を利用すると、座高が高くなってしまうことが懸念されたが、
小さな子にとってはテーブルが近くなり食べやすく、
ベンチだと親との距離も近くなるようで、
小さな子を持つ親には好評となった。
それから、桐たんす。
調湿に優れ、持ちがよく本当に美しい伝統的な家具だが、
独特な時代感が漂ってしまう家具なのでどう扱うか最初はちょっと考えあぐねた。
池田の「引き出しを取り外して棚として使ったらよいのでは」
という思いつきをやってみることにした。
そこに置くものを美しく並べることで、
見違えるような感じになり、これがとてもよかった。
そして、店舗の什器で使用していたと思われる鉄のフレームがあったので、
これを物販用の棚として再利用したり。
他にも、ここにもとあったものを新たなかたちで再利用することができたことは、
とてもラッキーだった。
それらをどう使うかは、僕らにとっては一番の楽しみでもあり、
この空間にとっても幸せなことなんだと思う。
この場所の雰囲気をつくりだすのにとても重要な役割を果たしている。
例えば近所の人がカフェに来てもなじめる雰囲気があるとしたら、
これらもとあった家具たちのおかげだと思う。
そんな1階の空間づくりとは異なり、
2階のドミトリーは、逆の考え方によって構成されている。
宿泊するのは、カフェに比べれば少なからずこの土地以外の人。
外から来る人を想定し、モダンな気分となる要素を取り入れたかった。
既存の屋根裏の梁などを露わにしながらも、
この家のもとあった古くからの部分を引き出すのとは
対照的な雰囲気のインテリアを取り入れる。
その象徴となるのは2段ベッド。
ハシゴを木造などにはせずに、
金物(ステンレス)にしようと考え、
金工をやっている知人に製作を依頼することにした。
ベッドは、個別に区切れるカーテンレールをなるべく自然に使えるよう考えたり、
携帯や小物や手元灯りを置けるような細い台になるスペースをつくったり、
寄りかかれるような大きなクッションを置けるようにしたりと、
少しでも快適に使えるようにと工夫した。
その上、マットレスの底の通気性を考えたら
スノコ状にスキマを空けて張るべきだったりと、
造作としては結構な複雑さとなり大工さんと納まりについて
侃々諤々(かんかんがくがく)とやりあいながら、最終的にまとめ、ようやくの完成となった。
これで、ドミトリーもかたちが整い、およそ全体の要素が揃った。
そうしてなんとか、9月に入ってドミトリーを無事オープンさせることができた。
最初に泊まったお客さんは、
スタッフの知人だったこともありとても和やかな夜となった。
ドミトリーを利用するお客を迎えることは、とても新鮮で不思議な感覚だった。
個人的には「客」を迎える、というよりは、
「新しい友人」を迎えているような心持ちで、
できることなら全ての人と話をしたいくらいだった。
これは現在でもそうで、どちらかというと家をシェアしているような感覚なのだ。
(もちろん、プライバシーはきちんと尊重した上で)
次の日の朝、宿泊客を見送ったあとに、
シーツなどを片付けにいったところで嬉しいサプライズを発見。
季節はすでに、夏から秋に向かっていた。
大地の芸術祭の終わりも見えてきたころにようやく、
山ノ家の全体の新しい日常が始まりだした。
つづく
information
YAMANOIE
山ノ家
住所 新潟県十日町市松代3467-5
電話 025-595-6770
http://yama-no-ie.jp
https://www.facebook.com/pages/Yamanoie-CafeDormitory/386488544752048
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