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MAD City vol.8:
古びた一軒家から生まれた
真っ白な壁が囲むアトリエ空間

リノベのススメ
vol.029

posted:2014.5.17  from:千葉県松戸市  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer's profile

MAD City

マッドシティ

千葉県・松戸駅周辺エリアにて、まちづくりプロジェクト「MADCityプロジェクト」を推進中。クリエイターなどを誘致する不動産サービス事業「MAD City不動産」、新旧住民のコミュニティを創出するまちづくり事業に取り組み、創造的なエリアづくりを目指しています。

MAD City vol.8
古くてボロい残りもの物件にだって、「福」がある?

誰も借り手がいなくて、空き家のまま放置されているようなボロボロ木造の一軒家。
みなさんのまわりにも、そんなおうちがあるんじゃないでしょうか?

普通の不動産屋さんならば「ここは普通には貸せないな」「値段がつけられないな」
と思うような物件も、実はMAD City不動産で扱っています。
なぜこれらの物件を扱うのか。それには理由があるんです。

まず、ひとつ目のメリットは
これらの物件は、単純に「借り手が少ないのでそもそも賃料が安い」という点。

また、もうひとつは改造が自由なケースが多い点。
木造建築は長年人が住んでいないと傷んでしまうため、
ボロボロの物件は、多くはそのまますぐに住めるような状態ではなく、
入居の際には内装工事が必要になります。

業者に工事を頼めば数百万円ぐらいかかってしまいますが、
DIYができる人にとっては、材料費のみで自分の使い勝手が良いように、
自由にいくらでも改造ができるわけです。

さらに、木造物件はコンクリートや鉄筋の住宅と違って、
壁や床、天井などもいじりやすいため、
自分でリノベがしやすいという利点もあるんです。

なんだかちょっと褒めすぎてしまっているようですが、
人によってはこれが理想的な物件になることもある、ということです。

まさにこんな物件を探し求めていたのが、
兄弟そろってペインターというアーティストの菅 隆紀さんと雄嗣さん。
ふたりが当初探していたのは
「とにかく安くて、アトリエとしても住居としても使える物件」でした。

お兄さんの隆紀さんは油絵を主体としたアーティスト。http://sugar-w.com/
弟の雄嗣さんも現在東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻に在籍する油絵画家。

とにかく壁が広くて、大きな作業音を出しても近隣の方から怒られず、
しかも、住居としても利用可能な物件。
でも、いざ探してみると、この条件に合う物件は、どれも賃料が高かったり、
お風呂などの生活スペースがなかったりと
住居として使うのは難しい物件ばかりだったそうです。

そして、2012年の年末。
物件探しに明け暮れるふたりが出会ったのが、
MAD City不動産の築年数40年以上の木造建築「それもできます」でした。

「それもできます」はMAD City不動産の命名ですが、
その名の通り、「なにをしてもOK」という物件。
改造・DIYはもちろんのこと、住居としての利用だけではなく、
カフェやアトリエなどの店舗としての利用も相談可能。
しかも、庭付きの2階建て。
それでいて、家賃は一軒丸々借りきって4万円台と、
管兄弟のニーズにばっちり合った物件だったのです。

「それもできます」のDIY前の室内。広さはあるものの、ボロボロの木造の壁と腐りかけた畳張りの室内で、すぐに住むのはちょっとむずかしそうな様子でした。

「この物件を最初見たときに、『一見ボロボロだけど、
自分たちでリノベすればまだまだ使える!』と思ったんです。
そこで、即入居を決めました」と語る菅兄弟。

壁はボロボロ。畳の床は腐りかけ。
普通の人ではちょっと躊躇してしまうような大変な中古物件ではありますが、
そのポテンシャルを一度の内見で見抜いた菅兄弟。
これまでにもスーパーの居抜き物件に手を加えて
アトリエとして利用していたことがあったというだけあって、
ふたりにとってリノベはお手のものだったそうです。

そして、この物件をDIYするときにふたりが心がけた一番のポイントは
「とにかく作品を飾れる広い壁をつくる」ということでした。

「僕らペインターにとって、広い壁のあるアトリエスペースって、
実はすごく重要なんです」と語る菅兄弟。
作品を客観的に見るためには、家具も壁紙もない白い壁に自分の作品を飾って、
何度も眺める機会を持つことが重要。
視界に邪魔が入らない場所に作品を置いて、作品を客観的に眺め、また再考する。
この作業を繰り返すことで、自分の作品に対するポテンシャルを探ることができるのだとか。

「でも、普通の住居だとなかなか数メートルもある大型の作品を飾れるだけの
広い壁がないので、この物件を改造するときは
『とにかく広くて白い壁をたくさんつくろう』と心がけました」

まずは広い壁とスペースを確保するべく、押入れも壁もすべて取り払って巨大なワンルームに!
屋根を支える大事な柱や壁以外の箇所は、ほぼ全部取り払ったそうです。
そして、従来のボロボロだった壁には、真っ白に塗ったベニヤ板を張り巡らせて、
念願だったホワイトキューブのような真っ白なアトリエスペースをつくりました。
「木造で老朽化していたからこそ、作業も楽でしたね」と語る菅兄弟。

DIY前の居間。

押入れや壁を取り払い、ベニヤを貼り付け真っ白に塗り直すことで、巨大なアトリエスペースに! 奥行きがあるので、壁をシアターとして利用して、映画を大画面で観たりしているとか。

また、腐りかけてボロボロになっていた畳も全部剥がして、
骨組みをつくり、その上からベニヤ板を敷き詰めて床も補強。

床も全部張り替えてます! 作業時にペンキが飛び散るので、現在はベニヤ板の上からシートを敷いて利用しています。

これらの作業はすべてを兄弟ふたりで行って、かかった期間は約1か月間。

費用は板やペンキなどの資材とゴミの廃棄代以外はほとんどかかりませんでした。
DIYのよいところは、自分たちの思う通りに部屋を変えられるし、
失敗してもすぐにつくり直せる。
また、壊れてきたらそこからまた補強できるところですね」

改造前(上)と後(下)のキッチンスペース。

作品づくりに使用するペンキ類はもともとあった靴箱を再利用して置き場を確保!

改装で余った木材を使って、本棚もDIYしています。たった4枚の木材でできていますが、ハードカバーを数十冊置いても壊れません。

隆紀さんが「sugar-w」という名前でペイントした靴の作品制作もこのアトリエで。できた靴がずらりと並びます。

DIYした白い壁には、数メートルある大型のものから小さなものまで、
十数点の作品がところ狭しと展示されています。

残り物には福がある」という格言にもありますが
今回、菅兄弟の物件の活用ぶりを見ていたら、
そのポテンシャルさえ見抜ければ、
どんなに古い物件もリノベとアイデア次第で
いくらでも生まれ変われるんだと思わずにはいられません(しかも格安!)。
ポテンシャルの高い物件はきっと日本中にたくさんあるのに、
本当にもったいないです!

1階の間取り図がこちら。赤枠部分が、白い壁が全面つながるワンルーム。2部屋をつなげただけでは飽きたらず、押し入れを取り払ってさらにもう1部屋つなげるという荒業!

さらに、当初は「物件重視」で松戸付近にアトリエを構えることになったふたりですが、
松戸近辺に住むことで、次第に松戸の地理的メリットにも気づくようになったのだとか。

「松戸は常磐線沿線で芸大の取手キャンパスにアクセスしやすいし、
東京や表参道にも電車1本で行ける。
また、成田にも近いので、海外からのアーティストが立ち寄ったりすることもあるため、
アーティストにとっては地理的にかなり便利な場所なんです。
だから、松戸近辺に定住したりアトリエを構えたりするアーティストは結構多いんですよ」

なお、兄の隆紀さんが今年度からオーストラリアでアーティスト活動を開始するため、
今後しばらくは弟の雄嗣さんだけでこの物件を使用する予定とのこと。

「この物件のようにスペースが広くて、汚してもOKなアトリエを借りようと思ったら、
なかなか見つからないし、あってもかなりお金がかかってしまいます。
芸大仲間のアーティストでもこの立地、この価格、この条件ならば、
アトリエスペースとして利用したいという人はいるはずなので、
兄がいなくなった後はこの家を共同アトリエとして複数人で利用するつもりです」
と雄嗣さん。

また、雄嗣さんはアトリエ自体の利用だけではなく、
今後は、自分たちと同じように松戸を拠点として集まるアーティストたちと一緒に、
まちとつながるようなアートイベントや展示会などもどんどん行って、
まちをアートで活性化させていきたいとも考えているそうです。
こういうあたりも、MAD Cityで取り組んできたことと関連しているので、
これから一緒に何ができるか夢が膨らみます。

菅兄弟のように、地方都市に眠る宝の山を掘り起こす人たちが
つながっていける仲間の輪を広げたいし、つくっていきたい。
MAD Cityでは、そういう人々が集まるエリアを目指して日々奮闘中です。

information


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MAD City(株式会社まちづクリエイティブ)

住所 千葉県松戸市本町6-8
電話 047-710-5861
http://madcity.jp/

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