連載
posted:2014.4.14 from:千葉県松戸市 genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
editor's profile
MAD City
マッドシティ
千葉県・松戸駅周辺エリアにて、まちづくりプロジェクト「MADCityプロジェクト」を推進中。クリエイターなどを誘致する不動産サービス事業「MAD City不動産」、新旧住民のコミュニティを創出するまちづくり事業に取り組み、創造的なエリアづくりを目指しています。
MAD Cityでは、まちの中で使われていなかった物件を
地域のオーナーさまから借り上げては、改装可能などの条件を加えて、
アトリエや工房、住居、イベントスペースなどとして入居者に提供しています。
入居者は、各自のセンスと技術で、物件に手を加えていきますが、
そんなDIY作業を助けてくれるのが、
MAD Cityの入居者たる多くのアーティストやクリエイターです。
今回は、そんなアーティストのひとり・森 純平さんを紹介します。
彼はMAD Cityが運営する「旧・原田米店」でアトリエを借りる入居者です。
森さんは東京藝術大学の建築科を卒業した、今年30歳の若き建築家。
アーティストとしても、舞台美術や展覧会、コンサートなど幅広い作品を手がけています。
森さんがMAD Cityに関わり始めてくれたのは、4年ぐらい前から。
MAD Cityのスタッフが、たまたま森さんの大学の同級生だったことから、
2010年の「松戸アートラインプロジェクト」という
地域アートプロジェクト(現「暮らしの芸術都市」)に協力してくれたのがきっかけでした。
もともと東京・北千住や横浜・黄金町などのまちづくりにも携わっていた森さんは、
既存の建物をどう生かすかという視点を常に持っています。
そして、彼はとっても「掃除」がうまいんです。
もちろんこれは、別にお客さんの家の掃除をするわけではありません。
「とりあえず、一部屋だけリノベをしてみたい」
「やり方はわからないけど、DIYしたい」
「でも、なにをしていいかわからない」
という人が結構います。実際、リノベ初心者の人の場合、
仮に自分が「こういうDIYしたい!」という明確な意志を持っていても、
やりたいことが多すぎて予算オーバーになってしまったり、
いざやってみると後に「あれ、本当にこれがやりたかったんだっけ?」
「本当にこれで使いやすいんだろうか」などと疑問を持つことが多いのです。
そんなお客さんにヒアリングして、相手がモヤモヤと抱いているイメージから、
余計なものをどんどん削り落としていく。
そして「その人が本当にその物件を通じて求めているもの」を浮き彫りにしていき、
お客さんと一緒に建物をDIYしていくんです。
お客さんにとって必要ないと判断したものは、
森さんはカウンセリングの最中にバッサバッサとそぎ落としていきます。
だから、森さんが手がけるリノベは、
お客さんが当初考えていたものとはまったく違うかたちになることも多々あります。
たとえば、当初は部屋に壁をつくって間仕切りする予定だった家も、
結局つくり付けの家具を置くだけにして、
家具を移動させるだけで簡単に部屋の広さを変えられるようにしたり。
部屋の狭さに悩んでいる人には、床を張り替えたり、
壁を抜いてみるだけで、ぐっと部屋を広く見せたり。
住まい手にとって必要でないことは、仮に頼まれても絶対にやらない。
「その人が本当に必要としている住まい」
「10年後、30年後でもその人にとって暮らしやすい部屋」を
本質的に追求していこうとする森さんの作業を、
僕らが「掃除」と呼ぶようになったんです。
通常のマンションだと「基本の間取りにはあまり手を加えられない」
と思ってしまいがちなんですが、
森さんはいまある設計が相手のニーズにそぐわなければ、
天井も抜くし、壁も壊す。柱も切るし、床もバンバン張り替える。
その思い切りのよさ、かなり豪快です。
MAD Cityにもいろんなクリエイターさんが関わってくれていますが、
間取りなどの既にある条件を、ここまで躊躇なく気にしないのは、
おそらく森さんくらいでしょう。
でも、裏を返せばそれは、多少の無理をしてでも
最大限「使う人のニーズ」を考えてくれている証拠なんです。
ちなみに、MAD Cityの現在の事務所の改装を手がけてくれたのも森さんです。
ただ、僕らが現在の事務所を決めたとき、
「今後MAD Cityがなにをしていくのか」「僕らにどんな場所が必要なのか」は
まだ、試行錯誤の状態でした。
不動産屋でもあるけれども、コミュニティとしての活用ができる場でもあってほしい。
そんな場所をどうつくったらいいか、簡単に答えが出そうにない。
モヤモヤとずっと考え続けているなか、タイムリミットはどんどん迫ってくる。
そして、数回にも渡るヒアリングの末、
そんな僕らの想いを汲み取って森さんがつくってくれたのが、
真っ白なキャンバスのような壁がある、とてもシンプルなオフィスでした。
「まだまだ、MAD Cityにはいろんな可能性があるから。
最初はあまりお金をかけず、後々加工しやすいもののほうが
使いやすいんじゃないかと思って。これだけシンプルなら、
いくらでも後から手を加えていけるから」(森さん)。
そんなわけでMAD Cityの事務所は森さんに相談しながら、
オープンしたあとも、ちょっとずつ変わっています。
日々のアイデアで、新しい機能を付け加えていくといった感じですが、
そうやっていじり続けるのがDIYの本質だなと思います。
それを助けてくれているのが森さんというわけです。
森さんは現在、MAD Cityが管理する「旧・原田米店」内にアトリエを構え、
使いながら、いろいろと改修中です。
旧・原田米店は、全体の敷地が400坪近い、広い日本家屋群を
アーティストたちがシェアアトリエとしている建物ですが、
まだまだ改修の余地があります。
ここから森さんは、僕らと一緒にいろんなプロジェクトに関わってくれています。
得意の森さんの“掃除”は、建物と入居者だけでなく
裏庭をどう活用しようかというアイデアなど、
まちと人とのつながりにも射程が広がっています。
「地域のなかで人の流れを生み出す場をつくり、
建築がまちへと作用するような動きを見たい」
と考える森さんは、この旧・原田米店を
「家を増築して、もっとアトリエスペースを広くしてみんなが使えるように」
「広い庭に東屋をつくって地域住民が使える憩いの場に」など、
いろいろな構想を準備しているようです。
「MAD Cityは古くからの松戸市地元民とは結びつきはあるけれども、
マンションに住んでいるような
新しくこの土地に来た人たちとの接点があまりないんですよね。
旧・原田米店が、もっといろんな人が共有で使える場になってくれたらいいなぁ」
と森さん。
さまざまなネットワークをつなぎながら、
都会のような田舎のような、松戸での暮らしを楽しむMAD CityのDIY。
僕らはもっとDIYが日常的になって、
分譲マンションのお部屋がどれも超個性的になってしまう、
そんな状況が生まれたりしてほしいなと思います。
部屋をリノベしたいけどどうしよう……といった依頼者が気軽に相談できる、
森さんのような建築家がどんなことを仕掛けてくれるのか。
これからが楽しみです。
旧・原田米店で森さんがいじっているスペースのリニューアルは
もみじが色づき始める10月頃の予定とのこと。
さてさて、どんな空間に変身しているのでしょうか。
気になる人はぜひ見に来てください。
information
MAD City(株式会社まちづクリエイティブ)
住所 千葉県松戸市本町6-8
電話 047-710-5861
http://madcity.jp/
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