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NO ARCHITECTS vol.6:
小さな編集作業がまちをつくる

リノベのススメ
vol.024

posted:2014.4.1   from:大阪府大阪市此花区  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

editor's profile

HIROSHI NISHIYAMA

西山広志

1983年大阪生まれ。建築家。NO ARCHITECTSを共同主宰。神戸芸術工科大学デザイン教育センター非常勤講師。神戸芸術工科大学大学院芸術工学専攻 (鈴木明研究室) 修了後、2009年 奥平桂子と共に活動を開始。2011年事務所を此花区に移すと同時に〈NO ARCHITECTS〉設立。建築をベースに、設計やデザイン、インスタレーション、ワークショップ、まちづくりなど、活動は多岐にわたる。

NO ARCHITECTS vol.6
まちにとってかけがえのないスペースに。

僕らが活動の拠点としているのは、大阪市此花区は梅香という地域。
いまでも、昭和の下町情緒あふれる商店や路地などのまち並みが残っています。
かつては臨海工業地帯やそこで働く工員さんたちの住居や町工場が軒を連ね、
まちは賑わっていましたが、
高度成長期を経て、産業構造の転換や少子高齢化が進み、
現在は、空き家や空き地が目立つように。

しかしここ数年、アトリエやギャラリー、カフェやショップ、
住居や事務所など、空き家や工場跡などを活用し、
アーティストや音楽家、写真家・デザイナー・建築家・詩人・料理人など、
創造的な活動を志す若者が集まるエリアとして注目を集めつつあります。

交通の便もよく、最寄りの西九条駅は、
JR環状線に乗ると大阪駅まで3駅、阪神なんば線だとなんば駅まで4駅です。
あと、JRゆめ咲き線に乗ると「USJ」まで2駅です。

まちじゅうに個性的な家前植物が、道にはみだすようにたくさん並んでいて、季節ごとに彩りをみせています。

僕らは此花区の出身ではないけれど、
いまはこのまちが好きで、住むところも事務所もこのはなに構えています。
そもそも僕がこの場所を初めて訪れたのは、
2009年の「見っけ!このはな」というイベントでした。
その後も、此花メヂアという共同アトリエで毎月開催されていた
「メヂアの日」という寄合いイベントに参加させてもらう中で、
そこに集まる人の魅力に惹かれていきました。

此花メヂア。連なった5棟の建物が増改築を繰り返し、複雑に入り組んだ元メリヤス工場を改装し共同アトリエとして利用されました。耐震性などの問題で、今年2月に惜しまれつつも解体されてしまいました。(写真提供:此花アーツファーム)

2011年1月、まずは事務所を構えることに(vol.5参照)。
これがこのまちでの初めての仕事かもしれません。
空間自体は、使われ方に応じて間取りを変えられるように、
壁を建てずに高さの違う本棚をつくって間地切りをしています。
ここから、このはなに住む人と少しずつつながりを深めていきます。
まだまだ、事務所をシェアしてくださる方募集中です。

NO ARCHITECTS の事務所スペース。最近、ファイルBOXと模型を収納するための棚を窓枠の上につくりました。

2011年の夏頃には、元たばこ屋さんだった木造家屋をリノベーション。
モトタバコヤと呼ばれるスペースです(vol.4参照)。
どういう場所にすべきかなど、使い方やプログラムから一緒に考えました。
人のつながりが感じられるこのまちでは、
昔から今まで流れてきた時間や培われた人の生活の痕跡を、
まちの風景として捉え尊重する。
その上で、新しいものや新しい人の流れをデザインすることが、
とても大事なポイントだと思っています。
モトタバコヤでは、現在、管理人のPOS大川さんを中心に、
イベントの企画や、地域との連携を積極的に行っています。

モトタバコヤ。シェアショップに店を出す色彩研究所のあおみかんさんがつくった、モトタバコヤマンというキャラクターの立て看板が目印になりつつあります。

事務所をこのはなに移し、モトタバコヤの現場を経て、
このはなの日常の風景に、魅力を感じていきました。
そして、僕らはついに住まいもこのまちに移すことにしました。
立地が大きな丁字路に面していることから「大辻の家」と呼んでいます(vol.1参照)。

気に入ったとは言え、少し手入れが必要な物件でした。
もとの状態をポジティブに読み取って最大限利用し、
最小限の手入れで豊かさを手に入れること。
最初から完成形を求めずに、実際に住んで生活するなかで必要性を感じたら、
少しずつ、つくっていくこと。
そんなことを考えながら、いまでもリノベーション継続中です。

大辻の家。2階のリビングルームです。そろそろベランダから梅香東公園の満開の桜と提灯が見えるはず。

そして、このまちの人からもリノベーションを相談されるようになりました。
vol.2で紹介した「OTONARI」、vol.3で紹介した「the three konohana」。

OTONARIは、まちの案内所兼寄合のスペースです。
新しく生まれつつあるコミュニティと、
もともと地域に根付いたコミュニティとをつなぐための共有スペース。
個人的な利益だけではなく、
このまちにとってどこになにが必要かを考えられています。

OTONARI。辺口さんがまちの案内をしてくれます。日々おいしいお店の情報が更新されています。現在、場を維持していくための方法を模索中とのことです。

the three konohanaは、現代美術のギャラリースペースです。
既存の奥の和室や建物正面のすりガラスなどを生かすことで、
まちの雰囲気や地域性を含んだホワイトキューブを提案しています。
ちなみに、今秋に開催予定のNO ARCHITECTS展は、9/5〜10/19です。

the three konohana。Konohana’s Eye #1 伊吹拓展「“ただなか”にいること」2013年3月15日~5月5日(撮影:長谷川朋也)

リノベについて考えていること

リノベーションは、壁を白く塗ったり、床をフローリングに変えたり、
わかりやすい見た目の操作だけではなくて、
その場所の特性を読み取り、
最大限生かしながら価値を高めることだと思っています。
なんでもかんでも手を加えないといけないわけではありません。
何もしなくてもいい場合もあります。
照明計画だけでもいいかもしれないし、
掃除するだけでも、その場所の価値が高まり、
まちにとってかけがえのないスペースに変貌するかもしれないのです。

僕らの仕事も、ひとつひとつの物件に対する施しは
それほど大きくはないですが、小さな編集作業を重ねていくことで、
まち全体の雰囲気をつくっていけると考えています。
そのためには、事務所でパソコンに向かってばかりではなく、
ネコのようにまちを駆け回って、
ときには鳥のようにまちを見渡したりしながら、日々活動しています。

地元で営まれている素敵なお店もたくさんあります。ぜひ、ニュー下町ガイドマップを片手に散策してみてください。このマップはこのはなの日実行委員を中心に制作されました。イラストとデザインは、モトタバコヤの古本コタツムリ店長の中島彩さん。

これまで僕らが関わらせてもらった5件のスペースはすべて、
歩いて5分以内のところにあります。
小さなエリアに近い距離感で存在はしますが、
ひとつのコンセプトや方向性を持って活動しているわけではありません。

それぞれが独自のスタイルで日々運営されています。
ただ、年一回のまちなかイベントや、
近況を話し合う寄合いを月一回開催したりするなかで、
ゆるやかなコミュニティとなっているのを感じます。
そのコミュニティがより豊かに密に広がっていくような、
空間づくりのお手伝いが、今後も続けていければ幸いです。

今は、僕らが住む家の裏にあるアパートの一室を、
デザイナーの黒瀬空見さん(ツクリバナシ)の服づくりのアトリエ兼、
シェフでパティシエの遠藤倫数さん(Café the End.)のオープンキッチンに、
リノベーションが進んでいます。
また追って報告します。

もともと建築の勉強していた遠藤シェフ自ら解体作業を。あっと言う間にスケルトンに。乞うご期待。

information


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NO ARCHITECTS

住所 大阪市此花区梅香1-15-20
http://nyamaokud.exblog.jp/
https://www.facebook.com/NOARCHITECTS.jp

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