連載
posted:2021.11.2 from:京都府京都市 genre:食・グルメ
supported by アクアレーベル
〈 この連載・企画は… 〉
ローカルにはさまざまな人がいます。地域でユニークな活動をしている人。
地元の人気者。新しい働きかたや暮らしかたを編み出した人。そんな人々に会いにいきます。
credit
撮影:合田昌弘
滋賀県彦根市で〈ハッピー太郎醸造所〉を営む、ハッピー太郎こと池島幸太郎さん。
前回は、主宰するワークショップで滋賀県の伝統発酵食・鮒ずしのつくり方をレポート、
その文化的背景などを語る様子をお伝えした。
本編ではいよいよ、池島さんが生業とする麹そのものについて探っていく。
最初に訪ねたのは、池島さんがアドバイザーを務める〈梅小路醗酵所〉。
ここは、大阪の酒屋〈酒高蔵〉が運営する麹をテーマとした施設で、
ガラス張りの麹室(こうじむろ)を備え、本格的な麹づくりに取り組んでいる。
その麹づくりを主に担当するのはスタッフの竹内美和さんだ。
つくった麹をどう商品に落とし込んでいくのか、レシピを考え、
実際にランチをつくるのも竹内さんの仕事。
つまり、麹まわりのあれこれが竹内さんの守備範囲というわけだ。
「麹づくりで教えることはもうほとんどありませんね」と目を細める池島さん。
ふたりで話している様子は、まるで師匠と弟子のようだ。
竹内さんが前日に仕込んでおいた麹を見せてもらうと、
米の一粒一粒がふっくらとし、発光しているかのように白い。
そのつくり方は、まず米を蒸し上げ、
少し冷ましたあとに種麹(たねこうじ。種菌、もやしともいう)をまいて付着させ、
48時間ほど保温をして菌糸を増やすというもの。
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梅小路醗酵所で仕込む麹は、黄麹と黒麹の2種類。
黄麹は甘みが強く、甘酒や味噌などオールマイティ、
とくに京都では白味噌づくりに使われる。
一方、黒麹は酸味のあるできあがりが特徴で焼酎の仕込みなどに使われることが多いが、
これで甘酒をつくると思いがけないおいしさがあるという。
試飲させてもらったところ、酸味があってフルーティ。
甘酒特有のもったり感がなく、味わったことのないおいしさだった。
これからその黒麹を仕込むという竹内さんに、麹室を見学させてもらう。
蒸し米を抱えると麹室の平台にさっと広げ、手慣れた様子で米をほぐしていく。
そこへ、缶に入れた種麹を手際よくふりかけ、体全体を使って全体になじませる。
もともと日本酒好きで、酒店や飲食店を手がける会社に就職した竹内さんだが、
思いがけず麹づくりを担当することになったことについては、
「毎日、発見ばかりです。麹がしっかりしていないと
お酒もおいしくできないことがわかりましたし、麹を使うとお肉が柔らかくなったり、
フォカッチャの生地がふっくらと焼き上がったりと、いろんな使い道を探るのも楽しい。
いまは蒸し米に粘りの少ないササニシキを使っているのですが、
いつかは京都の酒米である〈祝米(いわいまい)〉を使って
麹づくりをしてみたいなと思っています」
麹づくりは、温度管理など環境が整っていれば、
米を蒸す、種麹をまく、育てるというシンプルな作業であり、
またその材料こそシンプルの極致であると知る。
なにしろ、米と種麹――それだけが原料なのだから。
米などの穀物と種麹でつくられた麹が、
大豆、塩と一緒に発酵して味噌となり、醤油となり、
米と水で発酵して日本酒となり、
芋や麦と一緒に発酵して焼酎となる。
では、その根幹にある「種麹」とはいったいどんなものなのだろうか。
profile
池島幸太郎(ハッピー太郎)
大阪生まれ、滋賀育ち。〈ハッピー太郎醸造所〉店主。京都大学を卒業後杜氏を志し、いつかは酒米をつくりたいという思いから島根県の農業法人に勤め、その後、島根県の〈日本海酒造〉、滋賀県の〈冨田酒造〉、〈岡村本家〉で蔵人として12年修業後に独立し、ハッピー太郎醸造所を立ち上げる。蔵元で培った技術で醸したオリジナルの麹を中心に、味噌、鮒ずしなどを提供し、話題に。SNSやブログで地元・滋賀県の発酵文化を発信中。2021年12月に長浜市に開業予定の発酵を中心とした文化施設〈湖(うみ)のスコーレ〉にハッピー太郎醸造所として入居し、これまでの麹・発酵事業に加えてどぶろく醸造の免許取得に挑戦する。
http://umi-no-schole.jp/
(新型コロナウイルスの影響により開業時期が変更となる場合あり)
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