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〈山里カフェ Mui〉
猟師である女性オーナーが
自ら猟をするジビエカフェ

PEOPLE
vol.059

posted:2019.9.27  from:愛知県豊田市  genre:暮らしと移住 / 食・グルメ

〈 この連載・企画は… 〉  ローカルにはさまざまな人がいます。地域でユニークな活動をしている人。
地元の人気者。新しい働きかたや暮らしかたを編み出した人。そんな人々に会いにいきます。

writer profile

Masahiro Sugiyama

杉山正博

すぎやま まさひろ●編集者・ライター。金沢の出版社、東京にある雑誌『自休自足』の編集部を経て、2009年独立。2016年秋から、地元・愛知にUターン。著書に『ふだんの金沢に出会う旅へ』、『レトロカーと。』(ともに主婦の友社)などがある。名古屋は、何かと魅力がないと言われがちですが、海も山も意外と近く、素敵な人も多い。名古屋を含め東海地区の魅力を、発信していけたらと模索中!https://12sugiyama.hatenablog.com/

credit

撮影:Publista(パブリスタ)

年間100頭以上を狩猟し、自ら解体してカフェで提供

木の陰で息をひそめる、その女性が見つめる先には獣道が続く。

「勢子(せこ)と呼ばれる別働隊と猟犬が、追い込んでくる獲物をこうやって待ち伏せて、
通りかかった瞬間に銃で撃つんです」と教えてくれた。

いわゆる「巻き狩り」という伝統的な狩猟法で、
愛知県豊田市の山間部にある足助(あすけ)地区では、
多いときで10数人のハンターが集まり、この猟を行っている。
捕獲した山の恵みは、参加者全員で山分けするのが、昔からの習わしだ。

清水潤子さんは、猟師歴5年目。散弾銃が使える第一種銃猟免許に加えて、
わな猟、網猟免許も持ち、巻き狩りだけでなく単独でも猟を行い、
年間100頭以上の鳥獣を狩猟。
自ら解体、調理を行い、豊田市内の足助地区で営む〈山里カフェMui〉で、
ジビエ料理のランチとして提供している。

この秋から猟に出ることを目指し、現在訓練中の猟犬・ベリー(メス・4か月)と一緒に山へ。

この秋から猟に出ることを目指し、現在訓練中の猟犬・ベリー(メス・4か月)と一緒に山へ。

「イノシシ 捕る 資格」と、検索したのが始まり

「実は、結婚直後に、末期がんと診断されて。
私は新潟県長岡市の田舎育ちなので、
主人が『自然豊かなところで過ごせば、少しでも良くなるのでは』と考え、
間伐体験や米づくり体験など、いろいろな場所へ連れて行ってくれたんです」

最初は、横になって見学しているだけだったが、徐々に病状が回復。

「本当に、奇跡的に良くなったんです! 当時を知る人からは、
久しぶりに会うと『しぶといな~(笑)』ってからかわれます」

この足助地区を訪れたのも、米づくり体験がきっかけだった。
参加するたびに、地元農家の人たちからは、
イノシシによる農業被害について話を聞いていた。
昼食に登場するのも、イノシシ料理が中心。
そんなある日の昼休みに、目の前をイノシシが走り抜けた。

「それを見た農家の方が、『誰かとってくれ!』って口走ったんです。
しかしそこにいたのは、地域外からの参加者ばかり。
私たちのような“よそ者”にまで頼まなければならないほど、深刻な問題なんだと痛感して。
スマホで、『イノシシ 捕る 資格』と検索したら、狩猟免許のことが出てきて、
すぐに主人と、もうひとりの参加者と3人で申し込んだんです」

木の陰などで待ち伏せ、猟犬に追われ獲物が逃げてきたら、銃を構える。

木の陰などで待ち伏せ、猟犬に追われ獲物が逃げてきたら、銃を構える。

こうして、わな猟の免許を取得したのは2014年。
そのことを足助の農家の人たちに伝えると、
すぐに「今、罠にイノシシがかかっているけど来ないか?」という誘いの電話が。
1時間ほど車を走らせ、山の中に到着すると、大きなイノシシがかかっていた。

「最後に、ヤリを喉に突き刺してしとめるのですが、
ワイヤーが切れてこっちに突進してくるんじゃないかという恐怖心と、
返り血を浴びたときの罪悪感は、今でも忘れられません。
大切な命をいただいているのだからこそ、『無駄にしてはいけない』と強く思うのです」

駆除されたイノシシやシカの約9割が、埋設されている

猟友会に参加し、狩猟の現場に出るようになり、あらためて感じた問題がふたつある。
ひとつは、いわゆる鳥獣による農作物被害の深刻さだ。
豊田市では、イノシシやシカなどによる鳥獣被害が、
年間約1.2億円(豊田市産業部農政課「平成29年豊田市鳥獣被害状況調査結果」)に及び、
農家の人たちを悩ませている。

一方で、そういった有害鳥獣として駆除されたイノシシやシカは、
全国平均で約9割も、利用されることなく埋設されている。
ハクビシンやアライグマなどの小動物にいたっては、ほとんどが廃棄されているという。

緑色の大きな屋根の古民家が山里カフェMui。

緑色の大きな屋根の古民家が山里カフェMui。

「有害鳥獣といえど、命の重みに違いはありません。
せめて、最後までおいしく食べてあげたいと、
ちょうど募集中だった『三河の山里起業実践者』という制度に、
ジビエ料理を出すカフェのプランを提出したんです」

「三河の山里起業実践者」とは、愛知県の三河山間地域で起業に挑戦する人を支援し、
移住・定住を促進する県の事業。
清水さんのプランは見事採用となり、
当時暮らしていた愛知県刈谷市から足助地区への移住を決意。
すでに足助で購入してあった築150年の古民家を改装してジビエカフェを開く夢が、
現実のものとして動き出した。

猟師の先輩にもらった、20年前のシカの剥製。角が左右に広がっているのは、山がきれいに手入れされていた証。現在のシカは、角が上に真っ直ぐ伸びているそう。

猟師の先輩にもらった、20年前のシカの剥製。角が左右に広がっているのは、山がきれいに手入れされていた証。現在のシカは、角が上に真っ直ぐ伸びているそう。

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あらゆるジビエの食べ歩きをした!

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気軽に味わえ、家庭でも真似できるメニューを

日本では、狩猟鳥獣として、鳥類28種類、獣類20種類が選定されている。
清水さんはジビエカフェを開くにあたり、
まずは自分で、あらゆる狩猟鳥獣をとって味わってみることに。
カフェを改装しながら、さまざまな狩猟鳥獣を試してきた(現在までに34種類)。

そうやって、カフェのメニューを考えるなかで、何よりも大切にしたのは「気軽さ」だ。

「農業被害や狩猟の現状を知ってもらうためにも、まずは食べてもらうのが一番!
そこで、高価なフレンチなどではなく、
“カフェのランチ感覚”で味わえるメニューをコンセプトに考えました」

右手前から、イノシシのカムジャタン、シカのグラタン、シカの南蛮漬けが盛られた、月替りの「ジビエプレート」(1300円・税込)。

右手前から、イノシシのカムジャタン、シカのグラタン、シカの南蛮漬けが盛られた、月替りの「ジビエプレート」(1300円・税込)。

もうひとつ、重視したのは、「自宅でも真似して、つくれること」。
シカやイノシシのハンバーグをはじめ、
グラタン、カツなど、カフェでおいしいと感じてもらえたら、
その料理を家庭でもつくってもらいたい。
それが、ジビエ肉の消費拡大につながると考え、
清水さんはカフェやホームページなどを通じて、
おいしい食べ方を伝えることにも力を入れている。

自家製ジャムを生地に練り込んで焼く「季節のパウンドケーキ」(400円・税込)。写真は、夏みかんのパウンドケーキ。

自家製ジャムを生地に練り込んで焼く「季節のパウンドケーキ」(400円・税込)。写真は、夏みかんのパウンドケーキ。

人気メニューのひとつ「鹿カレー」(1000円・税込)。こちらも月ごとに、「鹿ビビンバ丼」や「イノシシスタミナ丼」など、メニューが替わる。

人気メニューのひとつ「鹿カレー」(1000円・税込)。こちらも月ごとに、「鹿ビビンバ丼」や「イノシシスタミナ丼」など、メニューが替わる。

実は、清水さん自身も、地元の人たちから多くのジビエ料理を教わった。
なかでも、Muiから車で数分の距離にある加工施設〈猪鹿工房 山恵(やまけい)〉で働く
みなさんには、助けられたという。

「みなさん、あたたかい方ばかりで。
『鹿肉は、南蛮漬けにすれば1週間は大丈夫だぞ!』などと、
何でも惜しみなく教えてくれて、本当にありがたいです」

山恵の事務所で、店長の鈴木良秋さんと。敷地内には、ジビエ肉や加工品を販売する直売所もある。

山恵の事務所で、店長の鈴木良秋さんと。敷地内には、ジビエ肉や加工品を販売する直売所もある。

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ペット用ジビエ商品とは?

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クラウドファンディングを活用し、自前の解体施設を

2017年12月に、山里カフェMuiをオープンしてからも、
清水さんは新たな挑戦を続けてきた。
最初に取り組んだのは、自前の解体処理施設を、カフェの隣に設けることだ。

Muiの近くには、山恵があるといっても、すべての個体を受け入れられるわけではない。
なかでも、アライグマやハクビシンなどの小動物は、
歩留まりが悪く(解体処理を行っても、とれる肉が少なく)、
うまく流通させる仕組みができていなかった。

とれた獲物は、すぐに自前の解体施設で加工する。

とれた獲物は、すぐに自前の解体施設で加工する。

店舗横に、解体処理施設ができれば、こうした小動物もより多く活用することができる。
しかも、捕獲後、なるべく素早く解体することで、肉に臭みがつくことも防げ、
よりおいしく食材を生かすことができる。

清水さんは、クラウドファンディングを活用し、資金の3分の1を集め、
2018年秋に、解体処理施設を設置。
今では、シカからアライグマ、ハクビシンなどの小動物まで、
自分でとった動物は自ら解体を行い、名古屋をはじめ、
県内外のレストランや居酒屋に出荷している。

出荷のために、真空パックしたハトの肉にラベルを貼る。

出荷のために、真空パックしたハトの肉にラベルを貼る。

新たにペット向けの商品も開発。加工は、豊田市の障がい者総合支援センター〈けやきワークス〉のみなさんが手がけている。

新たにペット向けの商品も開発。加工は、豊田市の障がい者総合支援センター〈けやきワークス〉のみなさんが手がけている。

伝えること、育てること

カフェをオープンして以降、地元の小学校や高校の環境授業で、
駆除した動物たちの有効利用について話したり、
県内外からさまざまな講演の依頼を受けたりと、人と直接会って伝える機会が増えてきた。

また、カフェでも、「親子狩猟体験」やジビエ肉を使った「ピザづくり体験」など、
さまざまなイベントを開催。
実際に食べること、体験することを通じて、伝えることを大切にしている。

それと同時に、今後、力を入れていきたいと考えているのが、「育てること」だ。
猟師の現場に入り、もうひとつ実感した問題が、狩猟者の高齢化だ。

「今、巻き狩りで重要な『勢子』の役割を務めているのは、78歳のベテラン猟師。
この方が引退してしまったら、足助地区では巻き狩りができなくなってしまう。
その下の世代も、60代後半の人ばかり。次の世代を育てていく重要性を痛感しています」

薬きょうを並べた看板が、店内に。

薬きょうを並べた看板が、店内に。

そこで、昨年11月に、狩猟の魅力をさまざまな角度から発信するイベント
「狩猟の魅力まるかじりFES IN TOYOTA」を開催したところ、
県内外から200人以上が参加してくれた。
この取り組みがきっかけとなり、清水さんは仲間のハンターたちと、
NPO法人〈愛猟(あいりょう)〉を設立。狩猟者の育成に、力を入れていこうとしている。

「鳥獣による農業被害を減らしたい」、「いただいた命を無駄にしたくない」という
根本にある思いは、変わることはない。
これからも猟師として、ジビエカフェの店主として、
思いを共有する人たちの輪を少しでも広げていきたいと、清水さんは願っている。

information

map

山里カフェMui

住所:愛知県豊田市北小田町伯母平26

電話:090-5037-5199(圏外の場合、つながらないことがあります)

営業時間:11:00~16:00(ランチ~14:00)

※ランチは完全予約制。当日予約は行っておりません。

※冬季(12月25日~3月15日)は休業

定休日:不定休

https://www.mui3cafe.com/

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