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クロード・ガニオンさん

PEOPLE
vol.015

posted:2013.1.12   from:沖縄県  genre:ものづくり

〈 この連載・企画は… 〉  ローカルにはさまざまな人がいます。地域でユニークな活動をしている人。
地元の人気者。新しい働きかたや暮らしかたを編み出した人。そんな人々に会いにいきます。

writer's profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影:Masaya Tanaka(クロードさんの写真)

カナダ人から見た日本のローカル、沖縄の文化。

沖縄にひとり旅にきた主人公ピエール。
そこでさまざまなひとたちと出会いながら、自分の人生を見つめ直し、
これから訪れる老いを思う。
そんな映画『カラカラ』の象徴となっているのが、
カラカラという沖縄の泡盛を入れる酒器。
昔は焼いたときに陶器の破片が入り、
器が空になるとカラカラと音が鳴ったことから、カラカラ。
つまりカラカラは、空虚なものの象徴といえる。

「最初からこのタイトルにするつもりではなかったけど、
意味合いが面白いと思っていました。
映画は公開される国によってタイトルが変わることが多いけど、
これなら同じタイトルのままいけるというアイデアが決め手となって」
と語るのは、クロード・ガニオン監督。
沖縄に3年ほど前から住み、
「観光映画ではなく、僕の好きな沖縄を撮りたかった」という意欲作だ。

下が丸みを帯びた形をしているのが特徴。沖縄特有の素朴な味わい。(C)2012 KARAKARA PARTNERS & ZUNO FILMS

東京ではなく地方の沖縄で、何に惹かれたのか。
沖縄のなかでもさらに地方の“何もない”場所を舞台として、
主人公のピエールは旅をする。
「ピエールは、リゾートには行かないひと。
ゴルフもやらないし、大きなホテルには行かない。
このひとだったらどこに行くかなという目線で場所を探しました」
例えば伊是名島。
みんな何もないというが、監督からみると「伊是名島の海は特別」なのだ。
外国人観光客が来ると、みんな那覇ばかり、国際通りばかり。
「信じられない! ほかにも面白い場所がたくさんあるのに。
僕は歩いていたら、毎日ステキなところをみつけられる」という。

南国の夏の着物として軽くてさらりとした芭蕉布。1972年、沖縄の日本返還と同時に県の無形文化財に認定され、2年後には、国の重要無形文化財にも認定された。(C)2012 KARAKARA PARTNERS & ZUNO FILMS

もうひとつ好きなところは「沖縄のおばあ」だという。
おばあを代表として、沖縄は長寿の土地。
いくつになってもずっと仕事をし続けていることもその秘訣としてあげられる。
『カラカラ』にも元気なおばあがたくさん登場する。

「普通は歳を取るのが怖い。でも沖縄に行くとそんな気持ちがなくなります」
その象徴として描かれているのが、
人間国宝でもある芭蕉布づくり職人の平良敏子さんだ。
「敏子さんに出会って、すごくびっくりしました。
最初は映画に出演してもらうつもりではなかったけど、
シナリオを書いているうちに、やはり出演をお願いしてみようと。
沖縄では、高齢になっても仕事をしていることが大切で、
それを表現したかった。
もちろん芭蕉布の美しさも見せたかったけど、
90歳をこえる敏子さん始め、
おばあちゃんたちが社会のなかに居場所があること。
そこに非常に興味がありました。
しかも朝から晩まで立ちっ放しで働いています。
世界中のみんなに、歳を取っても人生をやめない沖縄の“おばあ”たちを見せたい」

このシーンだけ、ドキュメンタリーのように撮られている。
平良敏子さんに出演を快諾してもらっても
「どのようにみせればいいか不安でした」という悩みが監督にあった。
そこでドキュメンタリーの手法。
そもそもガニオン監督は、
プロの俳優と素人をミックスして演出することが多い。
「特別に何も頼みませんでした。毎日の作業をそのまましてもらっただけ。
プロと素人が一緒にやると面白いものが出てくるんですね」
そういう“生”の演出があると、確かに心に引っかかりができる。
偶然を必然に。
そんな監督の演出手法は、スタッフには面倒をかけるけど、
観る側にザラッとした質感を残すことができる。

ピエールが人間国宝の平良敏子さんの芭蕉布工房を訪れるシーン。ドキュメンタリーのような撮影手法で、平良敏子さん本人に登場してもらった。(C)2012 KARAKARA PARTNERS & ZUNO FILMS

おもしろいものをみつける旅の達人。

監督は沖縄のみならず、日本全国、47都道府県を旅している。
そこでも、高速道路ではなく、積極的に脇道にそれていくようだ。
「日本には、ものすごくステキなところがたくさん残っていますね。
特に小さな村が好き。
一見、何もないようだけど、
ちゃんと見たらすごくいいものがたくさんあります。
ぼくは、絶対におもしろいものを見つけられます。
小さなお寺とか神社とか、建物とか、ちょっとした山の上とか。
あとはおじいちゃんとか子ども。いいところは、どこにでもたくさんある」
監督は旅上手なのだ。
すでに見る場所が整っているところに行くのではなく、
視点を変えれば、見どころはそれぞれの人次第。

「この前、2週間ハンガリーに行ったけど、まったくノープラン。
430kmかけて、車を運転したけど、いいシナリオが浮かんだし、
探していたイメージ通りの犬が見つかりました(笑)。
でも、プランニングすると不思議と見つからないもの」
最初から探すつもりなんてない。でも、だからこそ見つかる。
そんな視点で地方を旅してみれば、
日本国内でも、いろいろと楽しいものが見つかりそうだ。

ピエール役のガブリエル・アルカンと、純子役の工藤夕貴。(C)2012 KARAKARA PARTNERS & ZUNO FILMS

ガニオン監督は、毎日、家の近くの通称「三角公園」にいくという。
そこで毎朝、気功をする。
周囲のひとたちはみんな知り合いなので、毎朝挨拶する。
「沖縄にはコミュニティライフが残っている」という。
毎日のように会い、一緒に何かを作業する。
日本人より、日本人の地方の力を知っている
クロード・ガニオン監督が描いた日本、そして地方である沖縄。
そんな視点で観ても面白い作品だ。

表情が豊かなクロード・ガニオン監督。インタビューは通訳なしでOKなくらい日本語が達者だ。

information

カラカラ

監督・脚本 クロード・ガニオン
出演 ガブリエル・アルカン、工藤夕貴 ほか
配給 ククルビジョン、ビターズ・エンド
1月19日(土)より新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー
http://www.bitters.co.jp/karakara/

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