〈 この連載・企画は… 〉
ローカルにはさまざまな人がいます。地域でユニークな活動をしている人。
地元の人気者。新しい働きかたや暮らしかたを編み出した人。そんな人々に会いにいきます。
editor's profile
Yu Ebihara
海老原 悠
えびはら・ゆう●エディター/ライター。埼玉県出身。海なし県で生まれ育ったせいか、海を見るとテンションがあがる。「ださいたま」と言われると深く深く傷つくくせに、埼玉を自虐的に語ることが多いのは、埼玉への愛ゆえなのです。
credit
撮影:加藤 淳
東京・六本木のビルに囲まれた農園付きのレストラン
「農業実験レストラン 六本木農園」をプロデュースした古田秘馬さん。
ニューヨークでコンサルティングの会社を経営していた古田さんが、
東京に戻ってきたのが2002年。
仕事や友人の紹介などを通して、全国各地に足を運ぶうちに、
地域の豊かな食事情に古田さんの心が揺さぶられたことが、
「六本木農園」オープンのきっかけとなった。
「食に興味があったのは昔からなんですけど、
それに加えて食べ物の“物”としてのストーリーに惹かれたり、
食べる雰囲気、食べる仲間含めて、
食っていろいろなものとくっつきやすい“細胞”なんだなぁと気づきました」
その“細胞”を生かすレストランの構想は、この頃に立ち上がる。
「生産者の方々と話しているときに、
“生産者が生産までのこだわりやストーリーを語る場や、
生産者同士や生産者と消費者がくっつきやすい場所ってないよね”という話に。
じゃあ生産者に出会える“ライブハウス”をつくるのはどうだろうと考え、
六本木農園をオープンしました」
ライブハウスは本来新しい才能や、自分好みのミュージシャンに出会う場。
その食の生産者版があってもいいんじゃないかと古田さんは思ったのだと言う。
現在「六本木農園」では、
レストランで出している料理の生産者に来て語ってもらう「農家ライブ」を
週に2回ほどのペースで行っている。
「最近の農家さんは、iPadなどでプレゼンをしたり、
席をまわりながらプレゼンをしたりとアイデアの限りを尽くしてくれるし、
プレゼンがとても上手。
やっぱりこだわりを持ってつくる農家さんは、そのこだわりを話したいと思うし、
食べる方もどうせ食べるなら、なんでこれがおいしいのか、
どうやってつくられているのか知って食べたほうがより話が広がって、
おいしさも違うと思うんですよね」
話を聞いて味わって。
生産者の方を目の前にしてそのひとを想って食べるという機会は
普段なかなかないことに参加者は気づかされるそうだ。
「生産者と消費者をつなげましょうと言うのは簡単ですが、
実際は各地域にいる生産者と都心に集中する消費者という構図ができてしまっています。
その構図を変えてみせたい」と語る古田さん。
「食のライブハウス」は六本木だけではなく、全国各地で展開している。
「地産地消から地産継承へ」というキャッチコピーを掲げた
「にっぽんトラベルレストラン」は、
生産者たちに直接会いに行って、話を聞いて、料理人が調理して食す、
一日限りの出張レストランだ。
「集落で代々伝わっている製法などを地域で受け継ぐひとがおらず、
次の代に伝わっていない、ということが増えてきました。
地域で大切にされているものを“継承”していかないと、
“地消”もされなくなってしまいますよね」
参加者は、“継承”すべき生産者の現場を見、料理人が調理する様子を見、
そして舌で味わい語り合う。何とも贅沢なレストラン。
富山では、ホタルイカで有名な漁港に行き、漁師さんとともにホタルイカ漁に同行。
穫ったホタルイカをその場で炭火で焼いて食べた。
さらに、冬の新潟では、雪のテーブルをつくってそこで食べたのだという。
生産者も、料理人も、お客さんもイマジネーションが広がる体験となった。
東京・丸の内で開講している、丸の内朝大学の「地域プロデューサーコース」は、
数多くある講座のなかでも人気の講座で、40名が朝7時15分からの講義に参加する。
丸の内朝大学の企画を構想し、
実際に「地域プロデューサーコース」の講師として自らも教鞭をとる古田さん。
そもそもこの「地域プロデューサー」の定義について
古田さんはどう考えているのか?
「ガバメントソリューションという行政の理論と、
マーケットソリューションという企業の理論、
そして、それだけでは成り立たないと気づいた3.11以降起きた、
ボランティアやNPOなどのコミュニティソリューション。
それぞれのレイヤーってそれぞれでつながっているだけで、
横軸を縦につなぐひとがいない。
行政でもない、企業人でもない、ボランティアのみをやっているひとでもない、
全てを縦につなげられるひとが“地域プロデューサー”です。
結果的に行政出身のひともいれば、民間企業に属するひともいるけど、
活動的にいろいろなものをつなげているひと、というのが特徴です」
この丸の内朝大学の「地域プロデューサーコース」に集まる“学生”は、
20代半ばから50代までで、職業もバックグラウンドもさまざま。
いずれは、自分の地域に戻って地域振興のための活動をしたいと思っているけれど
きっかけがなかったり、地域に戻ってなにができるのかというイメージができない
という悩みを抱えた学生たちが、ヒントときっかけを求め古田さんのもとに集う。
「地域プロデューサコース」の一番の醍醐味は、
古田さんと学生全員で参加するフィールドワーク。
地域にまず一緒に入ること、地域の風土を感じることを古田さんは学生に求める。
例えば、ある産業が廃れているのだけど、どうしたらマーケットに受け入れられるのか?
という地域の悩みを解決すべく、学生の中でチームをつくり、現地に行く。
行政や企業の担当者も一緒になって考え、古田さんはヒントを与える。
「コンテンツではなく、コンセプトを打ち出しましょう。
例えば、出雲大社になぜひとが集まるのかを考えてみて。
縁結びの神さまというコンセプトがあるわけで、
合コンなどのコンテンツがあるわけではない(笑)。
コンテンツ化の例だと、農業体験などが最近多いけれど、
単なる農業体験だったら、別にその地域でなくてもできること。
それでは、ひとは呼び込めません。
コンテンツ化するのではなく、地域をコンセプト化する。
そしてそのコンセプトに共鳴してもらわなくてはならないですよね」
こうしてカリキュラムを終えた学生は、
地域に戻るひともいれば、東京と地域をつなぐような役目に徹しているひともいる。
古田さんのもとで学んだ卒業生が活躍する姿を見られるのも
そう遠い日の話ではなさそうだ。
東京生まれ東京育ちの古田さんにとって「故郷」は憧れのようなものだと言う。
「地域に足を運ぶときって、観光客か地元民というステータスしかないですよね。
観光客か観光客じゃないかという言い方や、
行く側と迎える側という言い方では言葉に縛られすぎる気がします。
違うステータスをつくりたいですね」
profile
HIMA FURUTA
古田秘馬
プロジェクト・デザイナー。東京都生まれ。慶應義塾大学中退。山梨県・八ヶ岳南麓「日本一の朝プロジェクト」、東京・丸の内「丸の内朝大学」、日本中の素敵なソーシャルプロジェクトを紹介する「いいね!JAPANソーシャルアワード」などの数多くの地域プロデュース・企業ブランディングなどを手がける。2009年、農業実験レストラン「六本木農園」を開店。2011年、生産者とお客様をつなぐ現代版三河屋「つまめる食材屋七里ヶ浜商店」を開業。日本中の美味しいものを探して1年の半分は旅をしている。株式会社umari代表。
http://asadaigaku.jp/
http://www.roppongi-nouen.jp/
information
六本木農園
住所 東京都港区六本木6-6-15 TEL 03-3405-0684
営業時間
月 18:00 ~ 23:30(LO 22:30)
火~金 12:00 ~15:00 / 18:00 ~ 23:30(LO 22:30)
土~日 12:00 ~ 15:00 / 18:00 ~ 23:00(LO 22:00)
http://roppongi-nouen.jp/
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