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河合 誠さん

PEOPLE
vol.007

posted:2012.8.22  from:岡山県加賀郡吉備中央町  genre:ものづくり / 活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  ローカルにはさまざまな人がいます。地域でユニークな活動をしている人。
地元の人気者。新しい働きかたや暮らしかたを編み出した人。そんな人々に会いにいきます。

editor's profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影:Suzu(fresco)

山の中から発信されるバッグづくりとコミュニティ。

岡山の市街地から車で約30分。山道をくねくね上っていくと、napが現れる。
napはシュペリオール・レイバーというバッグブランドを中心に、
メンズ・レディスも扱うアパレルメーカーだ。
ここは本社であり工場。すべての機能が集約されている。
もともと本社は岡山市内にあった。
岡山はアパレル産業で有名だが、それでもやはりファッションの中心地は東京。
岡山市内でも不便はあっただろうが、もっと不便ともいえる山の中に、今年3月に引っ越した。

「海外のブランドってよく環境の良さそうな雰囲気のいい
アトリエを持ってるじゃないですか。
海外を相手にするときに、日本の田舎の雰囲気を大切にしながらものづくりをしないと、
同じ土俵に立てない気がしたんですよね。
それなら日本には里山文化というものがあるので、
懐かしい風景を織り交ぜて、それらを生かしてみようと。
ゆくゆくは、小さな会社であっても、
世界的な位置づけを持つ会社を目指していきたいと思い決断しました」
と語るのは、社長の河合誠さん。

懐かしさを残しながら、洋風にリノベーションされた校舎。校舎の前には校庭もある

この場所はまちから購入した小学校の廃校跡で、校舎を改築している。
それ以外にも、敷地内に2棟建てて、社長夫妻の自宅もつくった。

「初めてこの場所を見せてもらったときに、
“開拓魂”と書かれた紙が黒板にバンッと貼ってあったんです」

このあたりは戦後の開拓村で、
開拓者の子どもたちが通う小学校として昭和22年に開校。
一番最初に1軒だけ入植したのが、現在の住民会長の父親だ。
そのような背景にも共感し、自分たちもフロンティアスピリッツを
持ち続けていこうという心意気でこの場所を購入することにした。

「校舎は壊しても構わなかったけど、壊すと二度と古いものはつくれないし、
1991年まで使われていた学校ということは、今の30代以上のひとたちは通っていたんですよね。
それなら残しておくほうがいい」と、
校舎は雰囲気を残しながらリノベーションして利用することにした。

この地区に住んでいるのは現在、河合さん世帯を含め19世帯。
半径1kmにはひとが住んでいない。
「昨日も、朝、大声出してみたけど……(笑)」 もちろん反応ナシ。
そんな刺激が少ないと思われるような場所でクリエイティビティはどのように生まれるのか。

「例えば、何かものをつくるのに、
道具と材料があってやり方を教われば誰でもできると思うけど、
それでは工夫は生まれません。ここにくると、大工仕事とか電気工事とか、
ちょこちょこは業者には頼めないので、自分たちでやるようになります。
階段、石垣……、いろいろなものをつくりました。
僕個人的には、石にはまっていますね。ひとつひとつかたちが異なるものを組んで、
どうやったらきれいになるか、丈夫になるか工夫します。
こういう道具があればいいなと思えば、自分でつくってみる。
そのような創意工夫を、どのようにものづくりに落とし込めるか。
そういう姿勢を持って、都会暮らしのものづくりからは変わっていかなくてはなりません」

刺激は、ひとから与えられるだけではないということ。自ら生み出せる。

「アパレルの常識でものをつくっていたら、なんとなく違うだけで、
大きくは変わらない。違う仕事のいいところを、
どんどん自分の仕事に落とし込まないといけません」

これから色を塗るバッグにマスキング中。大胆な色使いがシュペリオール・レイバーの特徴でもある。

小さな財布に金具の取り付け作業。手仕事へのこだわりが強い。

旧校舎の内部は、バッグの組立を行っている工房。15人程度のスタッフが働いている。

各地の地域性を打ち出したnap village構想。

napは、nap villageという村構想を描いている。
アパレルメーカーとしてだけでなく、
飲食店やセレクトショップがあり、きれいな小川やガーデンがあり、あひる小屋も建設中。

「今はスタッフの平均が20代ですが、
これから数年後、会社としてアパレル以外の受け皿を考えておかなければなりません。
そういうときに、この場所はすごく可能性を感じる場所です。
行政と近いし、住民にももっと貢献できるような仕事があるんじゃないかと模索中です」

小学校にレザークラフトを教えにいったり、
吉備中央町からの要望でイノシシの革を使った商品開発をしたり。
まちとの関係はより密接になる。
そういったなかで生まれる新しいアイデアは、どんどん採用していきたい。

「よく、儲からないからダメ、といわれがちですが、
みんなで考えればできる方法はきっとあるはず。
いきなりNOとはいわずに、真剣に考える会社にしたいです」

この場所だからこそできるものづくりがある。
東京でなくても、まだまだ地域にはポテンシャルがあるはずだ。

「地方である程度成功すると、東京にショップを出したくなりますよね。
でも僕たちみたいなレベルだと、
恵比寿とか中目黒のはずれあたりにせいぜい15坪くらい。
そこで直接売っても大きな意味があるかどうかは疑問です。
それよりも、うちは何をすべきか考えた結果、工場をつくったんです。
岡山では業界が縮小して工場がドンドン倒産している時期だったので、
いろいろなひとに反対されました。
でも、新規参入するひとがいないので、逆にミシン屋さんは大喜びだし、
糸屋さん、生地屋さんも大歓迎でしたよ」

工場をつくったということは、ものづくりの方向に向いたということ。
シュペリオール・レイバーが今ファッション誌を賑わしている理由は、
デザイン性もさることながら、その姿勢によるところも大きいはずだ。

「世界観という言葉がありますね。でもそれはあくまで“観”にすぎない。
それよりも僕がここでつくりたかったのは“世界”。
たとえ片づけができてなくてゴチャゴチャしていても、
それが実際の僕たちの世界であって、ここに来てもらえばすべてがわかる」
世界観ではなくてリアルな世界。そこには強さがある。

このnap villageは地域性を強く打ち出している。
その象徴ともいえるのがショップ『& thingsハチガハナ』。
このショップはレストラン&セレクトショップで、自社の商品は置かない。
これを各地に展開する構想を抱いている。
そこで忘れたくないのがもちろん地域色。

地元の食材をつかった料理を提供。フランスの田舎料理風にジビエ料理なども。

「ハチガハナというのは、ここのピンポイントの地名なんです。
今後、このショップ形態で他の地域に出店して、その土地のいいもの、
おいしい食材を探して、それを打ち出すようなショップを展開したいです。
もちろんその場所の地名を店名に付けて」

単純にフランチャイズするのではなく、コンセプトのみを展開する。
そうすれば地域の特色を持った「& things ○○○」が増えていくだろう。
ファッション業界にも、東京発信ではない、
地域発信の小さなコミュニティが湧き上がる時代がくるかもしれない。

細部にも、ちょっとした気の利いたデザインがアパレルらしい。

information


map

& thingsハチガハナ(nap village内)

住所 岡山県加賀郡吉備中央町上田東字ハチガハナ2395-5
電話 0867-34-1133
営業時間 10:00 〜 18:00 土日祝のみ営業
http://www.nap-dog.com/
http://www.andthings-hachigahana.com/

profile

MAKOTO KAWAI
河合 誠

1966年にM.leatherを創業。古着の買い付けで世界を回り、レザー商品なども扱う。1999年、ペット用品店をオープン。オリジナルのレザーグッズなどを展開する。2006年に有限会社nap設立、2007 S/Sシーズンよりバッグを中心にしたブランド「THE SUPERIOR LABOR」をスタート。2010 S/Sよりレディスブランド「La rosa de la fabrica」を手がける。

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