連載
posted:2017.9.27 from:北海道上川郡愛別町 genre:旅行 / 食・グルメ
PR 北海道観光振興機構
〈 この連載・企画は… 〉
“北海道の屋根”と言われ、日本最大の〈大雪山国立公園〉を有する大雪山。
深く美しい大自然のなかで、コテージや温泉宿に滞在しながら、北の暮らしを旅します。
photographer profile
Asako Yoshikawa
吉川麻子
フォトグラファー。北海道苫小牧市生まれ。札幌市在住。2006年からのスタジオ勤務を経て2011年より独立し、フリーランスとなる。主にポートレイト、衣食住、それらに関わる風景など幅広く撮影。おいしいものといい音楽があると笑顔になります。
気のいい犬1匹と現在二人暮らし。
writer profile
Akiko Yamamoto
山本曜子
ライター、北海道小樽生まれ、札幌在住。北海道発、日々を旅するように楽しむことをテーマにした小冊子『旅粒』発行人のひとり。旅先で見かける、その土地の何気ない暮らしの風景が好き。
旅粒
http://www.tabitsubu.com/
大雪山系の石狩岳に源流をもつ石狩川上流のまち愛別は、旭川から車で40分の距離。
豊かで美しい水を生かした農業がさかんで、きのことお米の名産地として知られています。
このまちのメインストリートに佇むのが、
土地の恵みに趣向を凝らした蕎麦と会席料理が楽しめる〈粋人館〉(すいじんかん)。
由緒ある歴史的建造物をリノベーションした母屋と合わせて、
大雪山をめぐる旅の途中に立ち寄りたい、隠れ家的な名店です。
京都の絵師、浦地 思久理さんが描いた鮮やかな鳳凰に迎えられ、階段を上った2階がメインフロア。お年寄りや足の不自由な方は1階のカウンター席へどうぞ。
広々とした2階。八角形のテーブルが置かれたスペースは半個室にもなる。家具はすべて飛騨から取り寄せたもの。
黒1色の外観からは想像もつかない2階の客席は、
上質で落ち着いた和の趣がすみずみまで感じられます。
内装や設計を手がけたのは、京都を拠点に、全国で活躍するデザイナーの永田正彦さん。
木のぬくもりとともに、障子に当たる光が心地よく、くつろぎます。
直線の欄間と交差する円形の天井に牡丹や獅子の絵画がのぞく精巧なつくり。
空間はもちろん、京都出身の料理長が腕をふるうお料理もじっくりと味わいたいところ。
カジュアルに楽しむなら、ランチタイムの訪問がおすすめ。
旬の素材を織り込んだリーズナブルな「本日の日替わり定食」のほか、
会席料理仕立ての贅沢なプレート「粋人館御膳」、
そしてこだわりの十割蕎麦メニューからお好みをチョイス。なかでも一番人気は、
社長であり蕎麦農家の矢部福二郎さんが無農薬で丹精込めて育てる
愛別産の蕎麦〈キタワセ〉に名物のきのこの天ぷらを添えた「茸天ぷらそば」です。
鰹だしが薫る、やわらかな甘みの京風蕎麦つゆに十割蕎麦がぴったりとマッチ。
毎日、地元農家さんから届く朝採りの
マイタケ、えのき、なめこの天ぷらはサクサクかつ風味豊かでジューシー。
あえて塩ではなく、特製の蕎麦つゆにつけて味わうのが粋人館流です。
「愛別の蕎麦そのもののおいしさを味わってほしい」
という思いが込められた十割蕎麦は、注文を受けるごとに、
蕎麦粉と水分を合わせる水回しの作業を手で行い、
シンプルな機械で麺に仕上げてつくりたてを提供しています。
程よい歯ごたえとみずみずしさをぜひ味わってみて。
矢部社長曰く「愛別は水の質がいいので、おいしい蕎麦ができるんです」とのこと。
もちもちに炊かれた甘みのあるゆめぴりか玄米をしっとり包み込んだ〈開運 稲荷寿司〉(120円)。つくり手の方々とは家族ぐるみのお付き合いをしているそう。
蕎麦はもちろん、お米にもこだわりが光ります。
蕎麦とも相性のいい稲荷寿司や定食の玄米ご飯に使われているのは、
希少かつ絶品の無農薬ゆめぴりか玄米。
愛別の米農家〈成田農園〉5代目の成田真市さんが生産を手がけています。
また、蕎麦や玄米稲荷を乗せたお皿、蕎麦湯用のしっくりと手になじむ片口は、
旭川にアトリエとギャラリー〈ウラヤマクラシテル〉を構える
人気の陶芸家、工藤和彦さんの作品です。
食材から器まで、愛別や近郊のまちの魅力あふれるつくり手の存在を知り、
安心してお料理をいただけるのもうれしいところ。
古伊万里や九谷焼など、飾られた骨董品が美しい佇まい。
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粋人館の歩みは、本館とつながった歴史的建造物の母屋から始まりました。
かつて明治時代に愛別に入植し、
雑貨商から身を立てて味噌麹製造業で財をなした上西弥助氏が
1922年、広大な日本庭園や茶室とともに贅を尽くして建てたのが、
母屋に当たる〈旧上西邸〉です。2010年、3代目当主の逝去にともない、
矢部社長は縁あってこの建物を譲り受けました。
母屋の玄関。鉄製の扉は火事対策の堅牢な蔵。母屋でお茶会を始めたのをきっかけに骨董で手に入れたお茶屋さんの看板がいい味わい。
庭園を眺める1階の座敷。窓枠の透かし彫りなど細かい造作にも職人技が光っています。
母屋のリノベーションをはじめ、本館のお店づくりの指揮をとったのは、
銀座や祇園、金沢など全国に6つのお店を構える、矢部社長のご子息、矢部慎太郎さんです。
骨董品や和の文化の造詣も深い慎太郎さんは、
現代では再現できない匠の技術やすばらしい素材がちりばめられた
旧上西邸の母屋部分を残し、最大限に生かしました。
母屋も、本館を手がけた永田さんとタッグを組み、当時すでにかなり傷んでいた建物を、
まちの繁栄の歴史を伝える場として再び蘇らせます。
商談場所として特別にあつらえられた天井の高い洋室。慎太郎さんがフランスで買い付けた重厚感のある調度品にも注目。テーブルの小皿は、九谷の若き陶芸家に依頼したオリジナルの作品。販売もしています。
2階和室部分。初代が郷里の滋賀から呼び寄せた大工や庭師が、当時の粋を結集させた建物。船底天井をつくった際、入植のときに建てた小屋の古い柱(茶色い部分)が出てきたのだそう。
母屋の2階への階段を上っていくと、
目の覚めるような鮮やかなベンガラの壁の和室が広がります。
美しく再生された和室の大きな窓からは広い庭園を一望できます。
現在はこの2階を活用して、月に1度、お茶会が開かれているそう。
母屋部分の食事での利用は夜の会席コース(5000円〜)のみの予約制。
また、見学希望者には随時案内してくれるので、気軽にスタッフに声をかけてみて。
現代では出会えない貴重な建物をじっくりと探訪してみましょう。
両面透し彫りの欄間はため息が出るほどの精密さ。富山の築150年の旧家から出て、骨董屋さんに保管してもらっていたものを活用。
神楽坂に骨董のギャラリーを持つ慎太郎さん。集められた器が1階の廊下に飾られています。古伊万里や淡路島の珉平焼きなど、質・量ともに圧巻の内容。
笑顔がすてきな矢部福二郎社長。昼間は農業、夕方からは粋人館に立つ多忙のなか、疲れの見えない若々しさの秘訣は「くよくよしないことですね」。
自らも蕎麦打ちが趣味で、多くの人に蕎麦をふるまってきたという矢部社長。
この土地を手に入れたとき、慎太郎さんとともに
「歴史的な建物を生かしながら、自家製の蕎麦と、
愛別の誇るきのことお米を使った和のお店をつくろう」
と自然な流れで思い立ったそう。
蕎麦農家としての顔のほかに、
愛別町の町長を務めた経験を持つ多才な社長の活躍はとどまることを知らず、
現在は粋人館隣の建物も購入し、次なる展開を模索していることを教えてくれました。
小さなまちに力強い灯りを放つ粋人館。夜の会席料理コースも、特別な夜に合わせてぜひ利用してみたい。
石狩川の育む大地の恵みを贅沢に味わいながら、貴重なまちの歴史に出会える粋人館。
おいしさはもちろん、さまざまなつくり手の思いに触れられる、
訪れてみてほしい愛別の新たな名所です。
information
粋人館
住所:北海道上川郡愛別町本町174
TEL:01658-6-5077
営業時間:11:30〜14:00、17:00〜21:00
定休日:水曜日
駐車場:あり
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