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キャンピングカーでラクラク!
長崎・移住先探しの旅 その3:
移住者は“タンポポ”!?
波佐見町・岡田浩典さんの
移住体験話を聞く

ローカルの暮らしと移住
vol.010

posted:2016.3.23   from:長崎県波佐見町  genre:暮らしと移住 / 旅行

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〈 この連載・企画は… 〉  ローカルで暮らすことや移住することを選択し、独自のライフスタイルを切り開いている人がいます。
地域で暮らすことで見えてくる、日本のローカルのおもしろさと上質な生活について。

photo&text

Tetsuka Tsurusaki

津留崎徹花

つるさき・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。『コロカル』のほか『anan』など女性誌を中心に活躍。週末は自然豊かな暮らしを求めて、郊外の古民家を探訪中。『コロカル』では「美味しいアルバム」を連載中。
https://colocal.jp/category/topics/food-japan/tasty/

credit

supported by 長崎県

家族との移住を本気で考えて、日本全国あちこちを旅するフォトグラファーのテツカ。
そんなテツカがキャンピングカーで平戸市・波佐見町・雲仙市を4歳の娘と巡ってきました。
長崎って移住先としてどうだろう? という彼女なりの目線をお楽しみください。
長崎滞在2日目。波佐見町に到着。
そこで出会った〈モンネ・ルギ・ムック〉の岡田浩典さんも移住者。
波佐見町のことを「おもしろいまちだな〜って」と話すその理由とは?

【その1:キャンピングカーを借りてみる】はこちら

【その2:平戸市のレムコーさんに聞く人づき合いのヒント】はこちら

【その3:移住者は“タンポポ”!? 波佐見町・岡田浩典さんの移住体験話を聞く】

【その4:波佐見で感じた“もの力”と“ひと力” 陶芸家 長瀬 渉さん】はこちら

【その5:奥津家の3拠点生活】はこちら

移住したその先のことを考えてみる。
新たな暮らしや生き方への期待がふくらみ、
今の生活から早くスライドしたいと気持ちがはやる。
その一方で、ふと湧いてくる不安。本当にうまくやっていけるのか。
不安の中身は大きく分けるとふたつ。
まず、仕事が軌道に乗って収入を得られるかどうか。
そして、地域の人とうまくやっていけるのかということ。
おそらく、後者がうまくいかないと、前者もうまく回らないのだと思う。
だとすると、どうしたら地元の方とうまくおつき合いできるのだろうか。

先日平戸市でお会いしたレムコーさんは、
こんなことを話してくれた。

・人を判断しないこと

・すぐにシャットアウトしないこと

・自分だけ突っ走らないこと

そして、長崎旅・2日目の波佐見町でも、
移住者の方からたくさんのヒントをいただくことができた。
お話をうかがったのは、地元の方と移住者との
潤滑油のような存在と言うべきおふたり。
陶芸家の長瀬 渉さんと、
〈モンネ・ルギ・ムック〉というカフェを営む岡田浩典さん。
移住してからこれまで、おふたりは何を感じ、
どんなことを心がけてきたのだろうか。

今回は、400年の伝統が息づく焼き物のまち、東彼杵郡波佐見町を
キャンピングカーで巡ります。

鴻ノ巣展望所から見下ろした波佐見盆地。写真提供:波佐見町

まずは、波佐見町役場のワンストップ窓口(各市町村の移住相談専用窓口)を訪ねた。
私の移住相談を担当してくださったのは、企画財政課の朝長哲也さん。
はじめに、波佐見町についてお話をうかがった。

波佐見は焼き物のまちで、
町内の就業人口の約3割が、窯業に関係した仕事についているのだそう。
「波佐見以外でも、佐世保市まで出ればほかにも仕事はあります。
佐世保までは車で30分ほどなので、
ベットタウンとして波佐見に移住してくる方も多いですよ」

仕事が見つけやすいというのは、とても心強い。
「移住して飲食業を始める方が増えているのですが、
陶器市での集客がやはり大きいようですね。
毎年ゴールデンウィークに開催される波佐見陶器まつりには、
30万人が訪れるんですよ」
ということは、ゲストハウスをやりたい我が家にとっても、好条件ではないか。

波佐見は長崎県で唯一、海に面していないまち。
西に佐世保市、北には有田焼で有名な有田町。
そして、東側は温泉地として名高い佐賀県の武雄市と嬉野市に隣接している。
海に行きたければ西へちょいと走り、温泉につかりたければ東へ向かう。
そんな暮らし、いいに決まっている。

さらに、高速道路を使えば長崎空港まで1時間弱、
福岡空港にも1時間半で行けるというのも魅力のひとつ。
東京との二拠点生活を考えている人にとっても、
アクセスしやすい場所と言えそうだ。

鬼木棚田と彼岸花。写真提供:波佐見町

朝長さんから見て、波佐見の魅力ってどんなところにありますか?
「まちにも人にも活気があるところですかね。
最近になって、20代や30代の若い人たちが
家業を継ぐために戻ってきたりしているんです。おもしろいですよ〜、みんな」
それも、地方ではなかなか聞かない話。

「みんな“ムック”で集まったりしてますよ。
そこで交流することで、新たなつながりが生まれているようです」
“ムック”というのは、今回取材させていただく岡田浩典さんが営むカフェ、
〈モンネ・ルギ・ムック〉の通称。
「みんなが集まれる場所でもあり、情報発信基地でもありますね、あの店は。
お昼時ですし、そろそろ行きましょうか」
ということで、ランチを兼ねてムックへ行くこととなった。

朝長哲也さん。みんなから“テッチャン”の呼び名で親しまれ、頼りにされている。

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とある陶芸家との出会いが岡田さんの人生を大きく変えることに

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ムックがあるのは江戸時代から続いていた製陶所の跡地の西の原という地区で、
十数年前には廃墟同然となっていた。
そこで一軒のカフェを立ち上げたのが、店主である岡田浩典さん。
岡田さんは、東京のカフェレストランでギャルソンとして働いたのち、
「生きる場所を変えてみたい」と退職。
海外に渡る前に日本を旅してみようと、全国の民芸の産地をまわっていた。

そのとき波佐見で知り合ったのが、陶芸家の長瀬 渉さん。
長瀬さんとの出会いが、その後の岡田さんの人生を大きく変えることとなった。
長瀬さんからかかってきた一本の電話。
「すごい物件があるんだけど、見に来ないか?」
そうして案内されたのが、現・ムックの建物だった。
「なんてかっこいい場所なんだろうって、一瞬にして心を掴まれました。
人が集まるおもしろい場所になるかもしれないというイメージが湧いたんですよね」
そうして、数か月後には仲間とともに波佐見へと移住。
長瀬さんやまちの人たちの協力を得ながら建物を改修し始め、
2006年に〈モンネ・ルギ・ムック〉を開業した。

旧福幸製陶所の事務所だったムックの建物。1926年頃に建てられたもの。

娘はムックが気に入ったようで、終止リラックス。

〈小エビとあさりと野菜のスープごはん〉918円。

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タンクトップ&短パンで初訪問

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初めて波佐見を訪れたときの印象を、岡田さんはこう語る。
「おもしろいまちだな〜って」
とうのは?
「僕、タンクトップと短パン姿でバイクに乗ってきたんです。
怪しいじゃないですか。
そんな自分に対して、町長とか社長(ムックの大家さんである、
西海陶器の児玉社長)とか、すごくよくしてくれて。
ごはんをいっぱい食べさせてくれたりとか」

たしかに、よくわからないタンクトップ姿の男性が現れたら、
ちょっと躊躇するかもしれないですね。
「そのあと知り合った人たちも、すごく居心地がよくて。
わきまえながらも相手の気持ちを察するという、
日本人特有の文化ってありますよね。
それを、じいちゃんばあちゃんだけでなく、若い子たちからも感じたんですよね」

東京で暮らしているとき、等身大でいられない窮屈さを感じていたという。
「誰かに紹介されるときも、肩書きのついた呼ばれ方で。
それって必要なのかな? ってずっと思っていました。
ここで暮らしていると、“おかちゃん”って呼ばれるんですよ、
ムックのおかちゃんじゃなくて」
そう言いながら、ほほをゆるませる。

岡田さんのパートナーで、一緒に店を営む鬼塚宏美さんのつくるケーキは絶品だ。チョコレートケーキ540円。珈琲とセットで942円。

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移住者って…タンポポ?

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ムックができて、今年で10年になる。
さまざまな経験を乗り越えてきた岡田さんだからこそ感じる、
人づき合いで心がけていることがあるという。

「一番大事なのは、その土地の人が
いままで大切にしてきている気持ちを理解することだと思います。
そのうえで、どの角度からどんなかたちで入って行って、
そこに佇むかということが大切ですよね」
なるほど、ひっそりと佇むという感覚なんですね。

「どこに移住するとしても、“失礼します”って、
よそのお宅におじゃまするような気持ちで入らないと。
自分たちがそこに住むことによって、
その土地の何かを変えてしまうわけですからね。
それがプラスの方向だとしても、いやだって思う地元の人もいると思います」
“自分たちが入ることによって、その土地が変わる”
今まで、そうした角度から移住を見たことがなかった。

「移住者っていうのは、タンポポなんですよね。
もともとここで根を張った地元の人たちと、どっかから飛んできた移住者と、
どうしたってそこの違いはあると思います。
いま80歳くらいで、若いときに東京から嫁いできたおばあちゃんがいるんですけど、
そのおばあちゃんでも、“東京から来た方だから”と
いまだに地域の方々が気を使ってくれるそうなんです」

なるほど。
その話を聞いたら、なんだかすっと肩の力が抜ける、仕方ないんだ。
「過剰な期待をしてしまうから、がっかりするんですよね。
こちらは期待をせずに、相手が感じたことを受け入れる。
そうしていくうちにお互いのいいところが見えてきて、
その関係が深くなっていくんだと思います」
波佐見の魅力は、とにかく人にあると岡田さんは話す。
「波佐見の人は、波佐見のことをすごく大事にしているんですよね。
それでいて、外の人も受け入れてくれる部分があるんですよね。
波佐見の財産は人だと思います」

2階には、ハンモックや楽器などがあり、子どもも大人も楽しめるスペースになっている。

スタッフ全員が笑顔で働いていて、とても居心地がよい。“みほちゃん”こと、杉原美穂さん。

12時の開店とともに、店内はあっという間にお客さんで埋め尽くされた。
ムックでのんびり過ごしていると、ここがただのカフェではないことに気づく。
スタッフもお客さんも飾り気がなく、どこか風通しがいい。
「人が集まったり、つながったり、そうして発展していく。
そんな場所になればいいな、と思っています」
岡田さんの旅は、まだまだ続いている。

次回は、波佐見町の後編。
陶芸家・長瀬 渉さんのインタビューをお届けします。お楽しみに。

〈波佐見町・後編〉へ

information

長崎県企画振興部地域づくり推進課「キャンピングカーによるラクラク移住先探し」

TEL:095-895-2241

E-mail:iju@pref.nagasaki.lg.jp

ホームページ:http://nagasaki-iju.jp/support/camper

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http://nagasaki-iju.jp/support/club

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