colocal コロカル マガジンハウス Local Network Magazine

連載の一覧 記事の検索・都道府県ごとの一覧
記事のカテゴリー

連載

川端健夫さん 美愛さん

ローカルの暮らしと移住
vol.002

posted:2012.4.20  from:滋賀県甲賀市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  ローカルで暮らすことや移住することを選択し、独自のライフスタイルを切り開いている人がいます。
地域で暮らすことで見えてくる、日本のローカルのおもしろさと上質な生活について。

editor's profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影:田中雅也

木造校舎を改装して、工房とカフェ、住まいをつくる。

細くて急な道を少し登っていくと、
空間がひらけ、そこに味のある建物が現れる。
ギャラリー、カフェ、パティスリー、木工工房、
そしてこれらを運営している川端夫妻の自宅という複合施設だ。
一目見ただけで、歴史がつまっていそうな風貌は、なんだか貫録がある。

「この建物は築90年くらいです。聞くところによると、
もともと蚕小屋で、養蚕業の工場のなかのひとつの施設だったようです。
その後、農業学校としても使われたので、今も学校の趣は残されていますよね」
と語るのは、現在、木工業を営んでいる川端健夫さん。

もともとの意匠を最大限に活かして、モダンさを少しプラス。

夫妻は関西出身だが、東京で、健夫さんは木工の修業、
奥さんの美愛さんはパティシエの修業をしていた。
そしてふたりは独立の時期を迎え、店舗や工房となる場所を探し始める。

「パティスリーのお店ができて、木工ができて、
住めるようなところを探していたんですが、そんな場所はなかなかなくて。
以前に、この近くで働いていたことがあったので、
その頃の知り合いに相談してみたんです。そのツテでこちらを見つけました」

丘の上に建ち、眺めこそ最高の立地だが、
広すぎるし、当時はボロボロだったという。

「窓ガラスもほとんど割れていたし、お化け屋敷みたいだった(笑)。
これを住めるように直すなんて想像できませんでしたよ。
でも、その当時から将来的にはいろいろな人が集まれるように
ギャラリーも含めた施設にしたいね、って話していたので、
ちょっと早いけどがんばってみようと」

横に長いさまが校舎のような雰囲気。ひさしの金具が不思議とデコラティブだ。

とはいえ、これだけの広さ。自分たちだけで改修するには手に余る。

「最初は自分たちでやろうと思ったけど、とにかくボロボロ。
僕たちが入る前はニット工場だったらしくて、
電気配線がいたるところにあったんです。
そんなのもう生きてないだろうと思ってペンチで切ろうとしたら、
ボンッと飛ばされて(笑)。そんな状態からのスタートでした。
それで知り合いをたくさん呼んで、その友達や家族で
大工経験や電気設備系の仕事をしている人たちに助けてもらって、
なんとか住めるようになるまでこぎ着けました」

質素だが、深みのある空間はこうしてできあがった。
もともとあったものが活かされているからこそ、ぬくもりを感じられるのだろう。

「新しいものはほとんどないですね。
構造上、外光を取り入れやすいように仕切りを外したり、
むしろ間引く作業をしました。最低限のことしかしていないんですけど、
いま思えば、そのほうが創造力を膨らませられるようなものになって、
良かったと思います。そういう意味では、建物に恵まれたというかね。
僕たちはほとんど何もしていないですよ。建物がもともと持っていた力です」

木造で築90年。さまざまな会社や業者が入れ替わりながらも生きてきた建物は、
知らず知らずに力を蓄えてきたのだろう。

建物にはいると最初にお出迎えしてくれるのはこのギャラリースペース。

自分たちが住んでいる“ココ”から、文化を発信する。

東京にいたふたりは、物件を探すとき、都会ではない場所を求めていたという。
関西でも、奈良や滋賀で探した。
自分たちの仕事をするうえで、東京では得られないものをそこに感じていたからだ。

「自然に近いところでやりたいという思いはふたりのなかにありました。
都会だと、自分をブロックしている、防御壁をつくっている気がするんです。
でもここではそんなことせずに、いつも感覚全開。
いろいろなことを感じ取れる精神状態での暮らしは気持ちがいい。
僕たちみたいに、ものづくりをして生活している人間にとっては住みやすいです。
もし滋賀じゃなかったら、ぜんぜん違うものをつくっていたかもしれませんね」

木製スプーンに手作業で紙やすりをかける川端健夫さんの工房スタッフ。ただいま修業中。

そうしてこの場所でものづくりにはげむふたり。健夫さんがつくるのは、
カフェで提供されるスプーンやプレートから、テーブルやイスまで。
そして各地の展覧会で発表する木工なども制作している。
取材時は、「木の台所道具展」に出展するまな板を丁寧に磨いていた。

お菓子をつくるその手に、ついつい見入ってしまうオープンキッチン。店内に甘い香りが漂う。

奥さんの美愛さんが担当しているパティスリーでは、
マドレーヌやフィナンシェなどの焼き菓子が並ぶ。
もちろん併設のカフェでいただくことも可能だ。
奥に見えるオープンキッチンでは、つくっている様子を見ることができる。
その反対側は、南向きで自然光がたっぷり。
丘の上から田園風景を眺めながら、
のんびりと過ごすことができて、とても居心地がいい。
そうした時間を過ごすためか、
週末になると、大阪、京都、名古屋からもお客さんが訪れる。

広がる景色についついぼーっとしてしまうカフェスペース。日差しもあたたかい。

「最近、スイーツランチを始めました。
最後にデザートをおいしくいただいてもらうためのコースです。
食事は野菜だけを使った料理になります。
ほとんどは地元産の野菜です。デザートにも、
そのときの料理で使った野菜をジャムにアレンジしたりしています」
と美愛さんのこだわりと地元への愛が料理につまっている。

旧称「宮村」であったこの地の子どもたちをイメージしたシュークリーム「miyacco」。

このように、ふたりは地元に根ざした活動を大切にしている。
設立当初から夢見ていた「文化の発電所にしたい」という思いがあるからだ。
ギャラリーも併設し、
健夫さんが活動のなかで知り合った人たちを中心に展示をしてもらっている。
建物、食べ物、土地など、暮らしのなかから生まれるものが、
彼らが考える“文化”であり、自分たちの身近なものから発信すること。
決して都会ではなくても可能な気がした。

焼き菓子やケーキのほか、旬の果物を使った10数種類のコンフィチュールが人気。

information

map

gallery-mamma mia
patisserie MiA
木工 川端健夫

住所 滋賀県甲賀市甲南町野川835 TEL 0748-86-1552
営業時間 11:00〜17:00 cafe12:00〜17:00(L.O16:30) 月曜・火曜休
http://mammamia-project.jp

Tags  この記事のタグ

Recommend