連載
posted:2012.1.11 from:北海道虻田郡ニセコ町 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
ローカルで暮らすことや移住することを選択し、独自のライフスタイルを切り開いている人がいます。
地域で暮らすことで見えてくる、日本のローカルのおもしろさと上質な生活について。
writer profile
Satoko Nakano
仲野聡子
なかの・さとこ●ライター。鳥取県生まれ。東京在住。「日常」を構成する人・コト・モノに興味を持ち、それにまつわるインタビューを主に生業としている。
credit
撮影:渡邊有紀
オーストラリア出身・北海道ニセコ在住のショウヤさんが、日本へわたったのは17年前。
元々日本には興味があった。しかし首都東京ではなく、北海道を訪れたのには理由がある。
「オーストラリアの学校で勉強するより、その国に行った方が言葉を覚えられる。
その点、東京のような大きな街だと英語が話せる人が多いかもしれない、と思ったんです」
加えて彼は、山や雪といった自然を愛していた。ある日図書館で本を読んでいたら
目を疑うほどに美しい自然風景の写真を見たという。それが、北海道だった。
「来日して半年ほど、自転車で道内を回りました。自然の匂いや水の音を感じながらね。
僕の生まれはイギリスだけど、イギリスとニセコはなんとなく雰囲気が似ているんです」
周辺環境に惹かれた彼は、2年前、ニセコに大きな自宅を建設。
洋風建築の中には日本画や書などが飾られ、茶室までが用意されていた。
「今、庭に蔵を移築しようと考えています。茶室の窓から見えるような位置にね」
洋と和を上手に融合させたスタイリッシュな建築には、彼独自のセンスが溢れている。
オーストラリアではフォトグラファー、そして
来日してからはクラブやラジオのDJ、イベントのMCなどをしていたというショウヤさん。
そのうちに知り合いが増え、元々やっていた写真の仕事が舞い込み始めたという。
やがて、パーツだけではなくデザイン全体にも興味を持っていた彼は会社を設立し
プランニングから、グラフィックやweb制作まで、
一貫して行なうという仕事を生業にするようになった。
「それだけでなく、建築やインテリアも好きだった。でも最初は仕事がなかったから、
自分で作品をつくってしまおう、と。そうしてできたのが『J-SEKKA』なんです」
「J-SEKKA」は、ホテル・ダイニング・アクティビティを提供する複合施設。
洋の中に「わび・さび」を取り入れた斬新な建築デザインと、
北海道の味覚が楽しめるカフェやラウンジバーなどが
地元の人だけでなく、雪山に訪れる外国人にも大人気だ。
「僕は専門家じゃないからこそ、自由にアイデアを出せる。それが面白いですね」
次々と発想をかたちにし続けるショウヤさんの、次の目標は「旅館」。
自宅の2万坪の敷地を使い、2012年の夏頃から着工する予定だ。
「中庭を建物で囲うようにして、縁側をつくたい。だから土地もかなり広めに購入しました。
竹林も最初は鬱蒼としていたけど、かなりの量、僕が機械で刈ったんです(笑)」
羊蹄山の美しい姿が望めるこの敷地には美しい池もあり、水がこんこんと沸いている。
そんなロケーションへのこだわりも、自身が「自然好き」だから。
羊蹄山を始めとする山にもよく登り、夏はトレッキングをし、冬は雪山へ行く。
またニセコのテニスクラブに入っており、地元の人たちとの交流も盛んだ。
「僕は、ニセコが大好きなんです。
旅館ができたら、日本人にも、外国人にも泊まりに来てもらいたい。
冬は、雪山に来る外国人のお客さんが多くなるかもしれませんね。
そういう方たちはコンドミニアムに泊まることが多いけど、
やっぱり純和風な旅館に泊まって温泉を楽しみたい方も多いはずです」
外国人ならではの発想が活きた、洋と和が調和する新しいタイプの旅館になるだろう。
このような型破りな活動は、そうそう容易にできることではない。
彼のバイタリティーとエネルギーは、どこから来るのだろうか。
「やりたいことを実現するために、なるべく具体的にイメージするようにしています。
“ホントにそんなことできるの? 大丈夫?”と思われることもあるかもしれないけど、
自分の体や頭を信じていれば、周りの人にも少なからずその影響を及ぼすことができる。
そうすればたくさんの人が知恵を貸してくれて、どんどん形になるんです」
周囲を巻き込んでニセコに新しい風を吹き込むショウヤさん。今後の展開が楽しみだ。
Profile
Shouya Grigg
ショウヤ・グリッグ
イギリス・ヨークシャー出身。13歳よりオーストラリアに移り、17年前に来日。ニセコに住み始める。クラブやラジオDJなどを経て、デザインカンパニーを設立。フォトグラファーやグラフィック・ウェブデザイナーとして活躍しながら、空間もデザインし始める。ホテル・ダイニング・アクティビティを提供する「J-SEKKA」オーナー。
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