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田中俊三さん 阿弓さん

ローカルの暮らしと移住
vol.003

posted:2012.8.28  from:鹿児島県熊毛郡屋久島町  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  ローカルで暮らすことや移住することを選択し、独自のライフスタイルを切り開いている人がいます。
地域で暮らすことで見えてくる、日本のローカルのおもしろさと上質な生活について。

writer's profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

自然に負荷をかけない暮らし、ということ。

屋久島は移住者が多い島だ。
田中さん夫妻も、4年前に屋久島へ移住した一組。
もともとは神奈川県葉山町や東京都国立市など都心の郊外に住んでいた。
まずは移住地を探しながら旅をしようと車にベッドを取り付けるなどの改造を施し、
いざ北海道から南へ向けて出発しようというときに、なんと阿弓さんの妊娠が発覚!
日本列島縦断の旅は断念し、屋久島へ居を移すことにした。

「五島列島や鹿児島の南部など、他にも候補地はいくつかありました。
だからすごく積極的な理由で屋久島に決めたわけではありませんが、
新婚旅行も屋久島でしたし、縁もあると思ってここにしました」(俊三さん)

俊三さんは葉山に住んでいた頃、
子どもたちを対象にシュノーケリングやカヤックなどを通して
自然を体験してもらう「インタープリター」という仕事をしていた。
そのときの体験を生かし、屋久島に移り住んだ現在は、ガイド業を営んでいる。
ガイドの仕事はオフィスがなくても、
予約などのやりとりはメールや電話で完結させることができるし、
当日はお客さんを宿や空港、港などへ直接、迎えに行くことが多い。
事務仕事は自宅で行い、職場は屋久島の自然の中へ、という日々を送っている。

自宅は、もともと日本の一般的な家構え。
縁側が大きく、通り抜ける風は気持ちいい。
借家ではあるが、理解のある大家さんのおかげで、壁をつくったり抜いたり、
薪ストーブ排気用の穴をあけたり、自分たちの手で自由に改装している。
その自宅の一部を大幅に建て増しして、昨年10月にオープンしたのが、
阿弓さんが手がける「おひさんの畑」というパン屋さん。

手前は自宅スペース、奥にパン屋さん「おひさんの畑」。大通りから入り、舗装されてない道を行く、静かな環境に建っている。

大きな窓からたっぷりの日差しが降り注ぐ。夏はすだれをうまく使って風通し良い空間に。

新たな木材などを使わずに、リサイクル、リユースした木材を使って
建てたいと思い、自分たちの手でつくり上げた。
その分ぬくもりのある、こぢんまりとしたかわいい店舗だ。

「知り合いの家で解体するという話があれば、
夫が行って解体させてもらって、その廃材をいただいて建てました。
4軒くらい解体させてもらいました(笑)」(阿弓さん)

「骨組みをつくるのは、少し大変でしたが、
失敗しながら4か月くらいかけて楽しく建てました。
一棟建てたのは初めてでしたが、ちゃんと建てられるんだと思いましたね。
もちろん仕事として他人の家を建てるのは無理ですが、
自分たちが住むものならいけます」(俊三さん)

内装担当は阿弓さん。壁に使った漆喰はもらいもの、
棚に使った木材も製材所から出る廃材をもらったもの。
コストはほとんどかかってない。
「あとは丸ノコとインパクト(電動ドライバー)があればなんとかなります」
となんともたくましい。

「おひさんの畑」のパンは、阿弓さんが自ら酵母を育てている。
屋久島には小麦農家が2軒しかなく量が足りないので、小麦は熊本産。
自分の庭でも少しだけ小麦を育てていて、
ゆくゆくは小麦もすべて自家製にしていきたいそうだ。
具材に使う野菜は自家製のものと屋久島産を使用。
バターは鹿児島産、チーズは広島と、できるだけ屋久島産、
無ければ極力近くから取り寄せたいという。

店内には10種類程度のパンが販売されている。夕方には売り切れ続出。

「新じゃがの味噌マヨネーズ」は180円。

現状、週3日オープン。今できる範囲で、ベストのやり方と量を考えると、自然とそうなる。

「畑で野菜をつくったり、子どもとの時間を大切にしながらだと、
ひとりで毎日大量につくるのは難しい。それに大量生産しようと思うと、
材料や商品の質が落ちてしまいます。でも、安心安全な材料を使いながらも、
お土産品のような特別なものではなく、
体が喜ぶ自然なものを日常のなかで地元の方に食べてもらいたいので、
極力値段は抑えています」(阿弓さん)

みずからの畑では、かぼちゃ、トマト、枝豆、アスパラガスなど、
常時20種類程度育てている。それらはパンの具材としても使われている。

「季節ごとにできるものは違うから、いろいろな品目をつくっておかないと
食べるものがなくなってしまうんですよね。
ハンダマはいつでもできるので、常に食卓に上っています」(阿弓さん)

畑には紫の葉が特徴的なハンダマが育っていた。屋久島ではメジャーな野菜だ。

ハンダマとは、京都などでは水前寺菜とも呼ばれる葉野菜。
冬でも枯れないし、肥料を与えなくても、耕さなくても勝手に育つ。
これからは大豆、小豆など穀物を育てていきたいと、農業に意欲的だ。

「自給率は年々アップしています。食卓のお米以外、
すべて自分たちの畑で採れたものっていうときもありますね。
今までは自給用と、パンに少し入れるくらいと思っていたんですが、
これからは出荷できるように比重を増やそうと思っています。
そのために土地の購入も検討しています」(俊三さん)

ほかにも鶏舎があり、今は小さなひよこがピヨピヨ鳴いている。
敵が多く、蛇やたぬき、イタチなどから命を守らなければならない。
成長してニワトリになると、土をひっかき、つつき、フンをする。
つまり勝手に耕してくれて、肥料まで与えてくれる。
これはチキントラクターと呼ばれ、パーマカルチャーに根ざした考えだ。

岐阜のもみじという品種のひよこ。大きく育って卵を産んでくれることを期待。

このように、ひとつの敷地内にいろいろなものを抱え、
パーマカルチャーの考え方を取り入れた暮らしを目指している。

「家もある程度、自作できるし、食べ物もつくれる。
これからは自然に負荷をかけない持続可能な生活をしていきたいんです。
この場所で実現できるかはわかりませんが、
今はその予行練習のようなものですね」(俊三さん)

窓際に飾ってあった大きなドリームキャッチャーが存在感あり。

竹でできた原始的な洗濯物干し台。家に似合っているから不思議だ。

information

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和蔵&おひさんの畑

住所 鹿児島県熊毛郡屋久島町安房2480-120
TEL&FAX 0997-46-4021
営業時間 [和蔵]8:00〜20:00
[おひさんの畑]月・水・金曜日の11:00〜17:00
http://wazo.jp/
http://ohisan.wazo.jp/

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