連載
posted:2015.12.17 from:鳥取県八頭郡智頭町 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
鳥取県南東部に位置する八頭郡智頭町。
森林に囲まれたこの小さなまちに、家族4人で移り住んだ一家がいます。
このまちで、どんな風に子どもたちが育っていくのか。普通の母親の目線から、その日常を綴ります。
writer profile
Aya Tanaka
田中亜矢
たなか・あや●横浜市生まれ。2013年東京から広島・尾道へ、2015年鳥取・智頭町へ家族で移住。ふたりの子ども(3歳違いの姉弟)を育てながら、マイペースに音楽活動も続けている。シンガーソングライターとしてこれまで2枚のソロアルバムをリリース、またバンド〈図書館〉でも、2015年7月に2枚目のアルバムをリリース。
http://ayatanaka.exblog.jp/
「明日12月1日より、移住おためし住宅に住んでいた立石さんが
◯◯さん宅に引っ越され、定住されます。
1日も早く慣れていただけるよう、皆さまご協力ください」
空き家への引っ越しの日。
家に設置された集落放送のスピーカーから、こんな案内が流れてきた。
「立石さん」とはわが家のことである。
わお、と驚く夫とわたしと娘。
このスピーカーは各戸にあり、集落のいろんな情報が流れてくる。
いよいよ、移住おためし中の「お客さま」から
集落の一員になるのだなぁ、と実感した瞬間だった。
おためし住宅と、定住先の空き家は同じ集落のなかにあり、ほんの数百メートルの距離。
これまで地域の行事などを通じて知り合った方々も
わたしたちがここに定住することを喜んでくださり、それがとても心強いことだった。
距離が近いので業者には頼まずに荷物を運ぶことにしたが、
引っ越しの前週には、目の前の家の方がワンボックスカーを出して
冷蔵庫と洗濯機を運ぶのを手伝ってくださった。
さらに引っ越し当日には、集落の頼もしい男性陣4人が、
軽トラを2台出して、すばらしい手際のよさで荷物を運んでくださった。
わが家の荷物は結構たくさんあったので、家族だけではとても運びきれなかったと思う。
まさに地域の方々の助けがあって、乗り越えることができた引っ越しだった。
12月中旬には、集落のさらに小さな単位 “班” の
忘年会(兼わが家の歓迎会)が開催された。
会場の公民館で昼過ぎから準備をするので、時間があれば来てね、
とのことで、子どもを連れて準備から参加した。
和やかにおしゃべりをしながら、お鍋の材料を切ったり、器の準備をしたり。
その合間に、お酒やお茶を飲みつつ
ストーブで蟹を焼いて食べたり……のゆるく楽しい雰囲気。
子どもも、近所のお友だちと楽しそうに遊んで過ごしていた。
皆さん本当にいい方ばかりで、いわゆる“よそ者”の私たちにも
分け隔てなく、自然に接してくださる。
移住者に壁をつくらず歓迎してくださる地域にご縁ができたことは
なによりもうれしいことだと思う。
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忘年会の会場には、「立石さん歓迎会」と大きな文字で書かれていて
これまたびっくり。山盛りのご馳走をいただきながら、
ご近所の方々とゆっくり交流ができて、楽しい時間だった。
娘も息子も大はしゃぎで、お友だちと遊んだり、
いろんな大人に遊んでもらったり、抱っこしてもらったりしていた。
移住には、自然環境などの物理的な要素ももちろん大事だけれど
やはりどんな人とご縁ができるかというのがすごく重要だと思う。
まだまだ不安なことはたくさんあるけれど、
人に恵まれていることは、ほんとうに心強い。
人に恵まれている、といえば、忘年会の日は、朝から友人のSさんが家に来てくれて、
古い畳が敷いてある部屋の床の張り替えをしてくれた。
Sさんは、智頭に移住して古民家を購入し、
もはやプロの域に達しているようなDIYの技術で
床や壁、家具などすべて自力でリノベーションしている強者だ。
ダイニングとして使いたい部屋なので、板張りにしたいけどどうしたらいい?
と相談したところ、安くていいスギの床材を紹介してくれ、
相談から半月も経たないうちに材料を購入して張り替え作業をしに来てくれた。
その行動力と、仕上がりの完成度の高さに感服。
床の張り替えのみならず、古すぎて使えないけど外すことのできなかった空調機器に
床と同じ素材で素敵なカバーをつくってくれた。
スギの床はとても温かくて、心地よい。
明るくすっきりした雰囲気になったダイニングで、
まだまだ片付けが山積み……の疲れがやわらぐ。
いろんな人の助けを借りて、少しずつ、新しい暮らしが前に進んでいる。
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