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移住から半年かかった空き家探し

森のまち智頭町子育て日記
vol.009

posted:2015.12.3   from:鳥取県八頭郡智頭町  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  鳥取県南東部に位置する八頭郡智頭町。
森林に囲まれたこの小さなまちに、家族4人で移り住んだ一家がいます。
このまちで、どんな風に子どもたちが育っていくのか。普通の母親の目線から、その日常を綴ります。

writer profile

Aya Tanaka

田中亜矢

たなか・あや●横浜市生まれ。2013年東京から広島・尾道へ、2015年鳥取・智頭町へ家族で移住。ふたりの子ども(3歳違いの姉弟)を育てながら、マイペースに音楽活動も続けている。シンガーソングライターとしてこれまで2枚のソロアルバムをリリース、またバンド〈図書館〉でも、2015年7月に2枚目のアルバムをリリース。
http://ayatanaka.exblog.jp/

期限ギリギリ、ようやく見つかった物件

11月末、智頭に本格的な冬が訪れた。
今シーズン初めての降雪。
「きょうねぇ、ゆきふったよ! でもぜーんぜんつもらなかった」
智頭に来てから、雪遊びできる冬を心待ちにしていた娘は、
ちょっと物足りなそうに、でもうれしそうに言った。
わたしはといえば、大した雪にならなかったことに安堵。
というのも、わが家はまだ冬用のタイヤを購入しておらず
雪の予報にビクビクしていたからだ。
職場では、雪道の運転について、周りの方々がいろんなアドバイスをくれた。
「車にはスコップと、窓の雪を落とす道具を常備しておいたほうがいい」
「橋の下と上は凍結しやすいから気をつけて」などなど……。
雪の多い地方に暮らしたことのない私たちは、いまから冬本番に向けてドキドキである。

そんな寒さが訪れるなか、わが家は半年間住んでいた「移住おためし住宅」から、
定住する空き家へと引っ越しをした。
智頭に来てから探し続けていた空き家が、ようやく見つかったのだ。

空き家探しは、思っていたよりも大変だった。
高齢化の進む田舎町、空き家自体はそこらじゅうにあるのだが、
仏壇があるから、とか、年に1回帰ってくるから、などの理由で
貸したがらない方が多い。また、貸してもいいよ、という物件も、
お風呂が壊れている、床や畳がダメになっている、設備が不十分……など
お金をかけて修繕しないとすぐには住めない場合が多い。
わが家は、智頭町の空き家バンクと、知り合いからの紹介と、
両方からあたっていたけれど、なかなか現実的に住める物件に出会うことができず、
おためし住宅の利用期限(半年)が迫るなか、焦りは深まる一方だった。

そして本当のギリギリになって、
同じ集落で新たに空き家登録をしてくださった方がおり、
そのお家を貸していただけることになったのである。

借りることになった空き家。縁側から見える小さな庭。

かつては山林を売買する事務所スペースだった入口の土間。ここで何かおもしろいことができそうだね、と夫婦で妄想。

片づけ前、まだ置物などがたくさん置かれていた。

わが家の場合はなんとかなったけれど、
空き家が見つからないために移住を断念するケースも多いと聞く。
森のようちえんに入園するために移住を希望する家族も毎年たくさんいるそうだけど、
やはり空き家探しが壁になって、実際に移住して来られるのはごく一部だそうだ。

そんな状況を改善しようと、森のようちえん・まるたんぼう代表の西村早栄子さんは、
移住者のためのシェアハウス(古民家)購入を考え、
クラウドファンディング(ネットを通じた支援金集め)も始めた。
これはぜひ実現してほしい取り組み。
空き家が見つかるかどうかはタイミング次第というところがあるので、
シェアハウスに住みながら、ゆっくり探すことができたらすごくいいと思う。

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築50年以上の部屋にはレトロなものも

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そんなこんなでわが家が定住する空き家への引っ越しは、
まず片づけと掃除から始まった。
築50年以上の家の中には、古い家具や置物、さまざまな生活用品が残っている。
長いこと人が住んでいないために、埃や汚れもかなりのもの。
さらに、確認したらボイラーがついていなかったり、
外壁にはびこった蔦の根っこが家の中まで入り込んで
そこから水が入って壁が腐っていたり、床が抜けているところがあったり。
それらは、大家さんと話し合いながら、修繕していただけるところはお願いするなど、
ひとつずつ進めていく。

部屋に残されていた味わい深い家具。

照明もレトロですてきなデザイン。

なんと、私の生まれた年のカレンダーが壁にかかっていた。

こんな風に、空き家を借りるのは、普通の賃貸物件と違って
いろんな手間がかかるけれど、苦労以上の魅力もあると思う。
賃料の安さはもちろんのこと、いまの家にはない造りや、時を経た味わい深さ、
眠っていた場所が息を吹き返していく喜び、自分で手を加えられるおもしろさ。
また、大家さんや役場と連絡を重ねたり、
同じように空き家を借りている友人・知人から、
こんな場合はどうする? 修繕方法は? などアドバイスをもらったり、
とにかくたくさんのコミュニケーションが必要だ。
そんなところも、おもしろさのひとつだと思う。

手強い埃を掃除して、ようやく荷物が運び込める状態に。

古い家らしい急な階段。

地下室への入口。地下には井戸のポンプが。

いろんな人と関わりながら、暮らしをつくっていくこと。
時間はかかるけれど、一歩ずつ。わが家の新しい生活が、また始まった。

2階の窓から智頭の山々を望む。

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